王都の日々 3
「本当なら、昨日のうちに顔を出すつもりだったんだ」
一通り、再会の言葉を交わし合った二人が机につくと、ハルディオが詫びるようにそう言った。
「構わないさ。学校があったのだろう?」
ヴィルハルトはどこまでも優しく、それに応じた。
彼の弟、ハルディオは今、この〈王国〉最高の教育、研究機関である王立大学院に通う学生だった。卒業できれば、将来は国家の重職へ就く未来が約束されているのだが、同時に貴族の子弟であろうとも、求められる知性を満たしていなければ容赦なく放校されてしまう厳しい場所でもある。
「きちんと勉強しなくてはな。王立大学院を卒業できなかったとなれば、バルゲンディート男爵に申し訳が立たん」
カミル・バルゲンディート男爵は、ハルディオの王立大学院進学を援助してくれた人物だ。
次期内務大臣と目される傑物だが後継ぎに恵まれず、そこで孤児院の初等教育で抜群の成績を受けていたハルディオを養子として引き取ってくれたのだった。
そう言えば、昨日、顔を合わせた際に挨拶するのを忘れていたと、ヴィルハルトは後悔した。
「どうかな」
そんな兄に、ハルディオはおどけたように返した。
「正直、僕は兄さんほど優秀な自信はないよ。昔からずっと、兄さんの背中を追いかけていただけだったし、今回でそれははっきりとした。男爵も“しまった。弟ではなく、兄を養子にすべきだったか”なんて言っていたしね」
そう言って、彼は肩を竦めた。もっともその口調には、男爵に対する敬愛が含まれており、養父との仲が決して険悪ではないことを教えている。そして、ヴィルハルトへ向けられる瞳には尊敬が光っていた。
「それこそ、どうだろうか」
弟の視線から逃れるように、顔をあらぬ方向へと巡らせながらヴィルハルトは答えた。
「自慢できるようなものではないからな」
人殺しの才能など。胸の中でそう付け加える。
とっぷりと日が暮れた後もヴィルハルトは酒に手を伸ばそうともせず、弟との会話に没頭した。
「そういえば、学校では何を学んでいるんだ?」
弟について、極めて初歩的なことを知らなかったと、ヴィルハルトが思い出したように尋ねた。
「必修を除けば、専攻しているのは歴史だね」
ハルディオの返事に、彼はそうかと頷いた。
この二人は、自らの生い立ちを知らない。或いは蓄積された史実の中から、弟はそれを見出そうとしているのではないかと考えつつ、彼は口を開いた。
「なにか、面白い発見でもあったか?」
「戦争に役立ちそうな?」
ハルディオは尋ね返した。ヴィルハルトは苦笑して首を振った。
「そんなことを考えるのは軍人の仕事で、歴史学者の考えるようなことではない」
「別に、僕は歴史学者ってほどじゃあ……」
照れくさそうに言ってから、そうだなぁと彼はヴィルハルトからの質問について考え出した。
「……この世界の歴史について、少し思ったことはあるけれど」
「ほう。大きく出たな、この世界の歴史とは」
ヴィルハルトは興味津々といった顔つきになると、机の上に身を乗り出す。
「いや。本当に、ちょっとしたことなんだけど。なんていうかなぁ、違和感というか」
ハルディオはそう前置きをして、話しを始めた。
続きは再来週くらいになるかと・・・




