35
フワリと軽くなった体重に、幼児の襟首を掴んでいた男は方眉を怪訝そうに上げた。
2m50cmの高さに唐突に持ち上げられ景色がふらついたが、幼児は朦朧とする頭で「空を飛んでるみたい」だと微かに笑う。同じ様に笑う目の前の相手は、ぎっしりと敷き詰められた鋭く尖る牙を見せつける様にカチカチッと打ち鳴らした。
「子供の肉は久しぶりなんだよなぁ。ヨダレが止まらないぜぇ、おい」
獰猛な光りを称える瞳が細い胴回りを舐めるように眺め、二股に別れた長い舌が歓喜に震えるように戦慄く。細すぎて食べる部分が少ない事を不足に思いながらも、病原菌の多そうな犬を食べるよりは大分マシだと喉を鳴らした。
食べ物の草を求めて訪れた幼子と、青白く照らす満月に誘われ原っぱまで遠出してきた一体の獣人。全長3Mを超える巨躯は暗さで色合いはよく見えないが、くっきりとした縞模様の毛並みで覆われている。
突き出た鼻に凹んだ鋭い目。胴体だけではなく顔部分にも人間要素がほぼ見当たらない為、『獣人』と言っても見た目は完全に二足歩行する獣だ。
出会ったら最後、鮫の様にぎっしりと並んだ牙に肉を裂かれ、大きな腹部に収まるだろう。
「くっはぁ、ようよう人間のガキィ!これから俺に喰われる気分はどうだ?首の肉を裂いて温かい血で乾きを潤し、骨までしゃぶり尽くしてやっからなぁ。精々いい声で泣き叫んでくれよぉ」
「・・・ぅ」
「それにしても軽いな、これ中身入ってんのかぁ?綿みたいに持ってる感覚ねぇぞ」
手に伝わるはずの幼児の重みがまるで感じられず、顔の前で物のように揺さぶると、伏せられていた小さな頭がゆっくりと上げられ黒い瞳と目が合った。底の無い真っ黒な瞳にギクリと一瞬たじろぐ。
光の見えない黒々とした大きな瞳に吸い込まれる感覚を味わい、我に返って頭を振った。まるで闇に誘われるかのようだ。
「ママ?」
ひび割れた小さな唇から発せられた呻き以外の音に、男は幼児を見下ろす。
「今、なんて言ったぁ?」
「・・・っ、マ、ママ」
「くっは、ママが恋しいのか!だが残念、ママにはもう会えないぜぇ。あーいや、いずれ会えるかもなぁ・・・俺の腹の中でだがな!」
大きく口を開き見せつける様に何度も噛む動作を繰り返す男は、怖がる獲物の様子を楽しむ意地の悪い捕食者だった。丸太以上に太い足と2Mの長い腕の破壊力は凄まじいが、攻撃をせずとも彼の姿を見ただけで獲物は戦意を喪失する。
狂ったように逃げ惑う者。
魂が抜けたように気絶する者。
助かりたい一心で命乞いを繰り返す者。
「化物!」と罵倒してきた方が楽しいんだがなぁ、こいつはママを呼ぶだけか?
目と鼻の先まで近づけ観察するように目を眇めた男は、「ママ、ママ」と繰り返す幼児の瞳に徐々に光が灯っていくのに気がついた。
ガシッ
「んがっ!?」
「ママッ」
輝く笑顔を向け伸ばした幼児の手が男の開いていた口に掛り、歯の上に小さな掌が乗る。
咄嗟に口を閉じかけ寸前の所で思い留まるが、鋭い牙に若干掠ったのか甘い血の匂いが備考を擽った。しかし、美味しそうな血を堪能するのを忘れ、男は目の前の生き物を瞬きをせずに凝視し続ける。
何も映していなかった黒い瞳は真っ直ぐに此方をとらえ、状況に即わない花が咲くような笑みを顔いっぱいに広げているのだ。
嬉しそうにもう片方の手で毛むくじゃらの頬に触り、細い指で離すまいと牙の部分を掴む幼児。
柔らかい手からは血が流れ、口に堪った液体を動揺しながらゴクリと飲み込む。
「ママッ、お・・・おか、ぇりママ!」
「ぅぐっ!・・・ぁあ!?」
痛みを感じていないのか構わずに擦り寄ろうとする小さき存在に、男は戸惑い思いっきり腕を伸ばし遠ざけた。
2mの腕は一気に2人に距離をとらせ安堵したものの、尚も近づこうとする幼児はパタパタと腕を動かす。
「ママー」
「ママじゃねぇ!俺はどう見てもお前のママじゃねぇだろうがっ、目ぇおかしいのか!?」
恐怖で母親を呼んでいたのではなく、殺そうとしている男を自分の母親だと勘違いしている幼き子供。
怯えさせようとしていた相手に満面の笑顔を向けられ、予想外の事態に暫く固まった後、「予定が狂ったが食い物には違いねぇ」そう言って細い首に空いていた手を翳した。
細く小さな首。
ほんの少し力を入れればポキリと折れ、嬉しそうに呼ぶ声も楽しそうな笑みも消えるだろう。
少し力を入れればいい、それだけだ。
たったそれだけなんだ。
「ママ、あい、たかった」
「やめろっ・・・」
ほぼ皮と骨の感触が手に伝わり、ろくにご飯を食べていない事がわかる。
一人で危険区域を彷徨い歩いてる事や母親を求めている姿から、親は既に死んでいるか捨てられたのだろう。
「でもそんな事俺には関係ねぇ。俺はこいつを食べるんだ!食べなきゃ生きていけねぇんだよこの世界はっ」
「・・・・・・ん」
弱々しくこぼれた息に手元を見遣ると、首にかけられた男の大きな掌に咳込みながらも、笑みを浮かべて必死にその手に擦り寄っている幼児の姿があった。息苦しいにも関わらず澄んだ瞳で見つめてくる小さき存在に、力を入れようとする右手が震える。
消えそうな程脆い命なのに、どうしてこれほど熱く目が離せないのか。説明の出来ない力強さと生命力を幼児に感じ、男は惑う。
・・・どうしよう。――いや、どうするもこうするも俺はこいつを殺して食べるんだろ、何考えてんだよっ!いつもそうして人間を殺めてきたじゃねぇか。
不意に逸らせない漆黒の瞳が揺らめき、大粒の雫が男の手を濡らした。
痩せこけた頬に一筋の涙が伝う様子を、硬直したまま静かに眺める事しか男には出来ない。
「だぃすき、――ママ」
その水の熱さに、男は理解した。
母親も認識出来ない程追い込まれた状況で、こいつはきちんと事態を捉えている。
今、この瞬間、自分が殺されかけているという現実を。
こんなに嬉しそうに求める母親にこれから殺されるのだと、本能的に察しているんだ。
「お前・・・」
綺麗に流れる涙に恐怖の色は無い。
あるのは最後に母親に会えた喜びと、最愛の者の手に掛かって逝ける幸福感。
恐らく懸命に生きてきたであろうガリガリの身体は骨張り、もはや限界寸前だ。
腹を空かせた野犬に喰われなくとも、頭のイカレタ暴漢になぶり殺しの目に合わなくても、きっと数日持たずに小さな命の灯火は潰えるに違いない。
そのことを自身でも感じとっているからこそ、切望する母親の手にかかって死ぬ事を望んでいるのか。
「――俺は、親に殺されかけた事がある」
雲に隠れた月を探すように視線を夜空へ彷徨わせ出した男は、長い沈黙の後首から手を放し幼児を抱き直した。
ポツリポツリと零す言葉は闇夜に溶ける。
それは先程までの威圧的で乱暴な物言いではなく、自分に言い聞かせるかのような消え入りそうな呟きだった。
「親って言っても育ての親で、俺と違って人間だったけど、信頼して全てを預けてた・・・でも裏切られて、売られそうになって、抵抗したら邪魔だからって殺そうとしてきやがった」
「・・・」
動かない表情に既に耳が聞こえていないのではと考えたが、構わず独り言の様に話しを続ける。
「こんな見た目だから気味悪がって皆近付いて来ねぇから、俺にとってあの人は世界の全てだったんだ。いらないなら死んでやろうかとも思ったけど・・・大好きな人に「化物」って言われた瞬間、悲しくて、苦しくて、わけがわからなくなって―― 気づいたら目の前で倒れて動かなくなってた」
静かな声音で語りかけてくる男を朦朧とした目で見つめ、幼児はそっと身体を支える太い指を優しく握る。
男の方は何故こんな話をしているのか自分でもわからなかったが、口からは止まる事なく言葉が流れ出た。
「親なんて身勝手なものだし、子供だって薄情な存在だ。きっとお前の本当の親だって、子供が死んでも何とも思わない。お荷物がいなくなったって清々するはずだ。そうに決まってるっ」
「・・・ママ」
「ママじゃねぇっつってんだろ!俺は、子供を殺すようなっ、あいつみたいにはならねぇ!俺は・・・慕ってくる相手を裏切ったり、自分の子供を道具みたいに扱ったりしないっ」
吐き出す様な叫び声には悲痛さが混じり、掴まれていた手が離され幼児が投げ出された。軽い身体がコロコロと地面を転がり、やがて動かなくなる。
「お前が野垂れ死んだらその死体を回収して食ってやらぁ!さっさとどっかに行けっ」
踵を返した男は10M進んだ所で徐に振り向き、「野犬には、気ぃつけろよ」と付け加えて立ち去ろうとする。
「まってぇー」
「!?」
背後から呼び止める高い声音に野原を這う幼児の姿を見つけ、目を見張った。
懸命に全身を使い、ほふく前進しながら向かってくる小さき影。せっかく見逃したにも関わらず近付こうとする幼子に戸惑い、「俺は母親じゃねぇ!」と何度目かの怒鳴り声をあげる。
昔の記憶を掘り起こされもう関わりたくないにもかかわらず、輝いた瞳を向けてくる純真無垢な子供。
「あのね、ママちがう、のわかった」
「あぁ?じゃあ何で」
「もし、かしてっ・・・ジェノの、パパ?」
「・・・っ! ――はぁああ!?」
眩しいくらいの笑顔で手を伸ばしてくる幼児の言葉に、空が割れんばかりの男の叫びが木霊し、草木がフワリと揺れる。
星が満天に広がるとある夜。
少女と飢えた獣が小さな出会いを果たし、消えゆく命が一つ取り留められた。
魔法レッスン開始から二日目。
昼食を食べ終えたジェノが昨日訪れた場所に赴くと、灰色のもの寂しい岩地から急激に温かな春風が通り抜ける平原に切り替わっている地点があった。坂の途中から四角く平らに伸びた大地は見ようによっては宙に浮いており、外と区切られた一線から気温も風の向きも陽の辺り具合も違う。
ポカポカとした陽だまりを味わいつつ晴れ渡る空を見上げるが、本物なのか偽物なのかの区別がつかない。
五感を惑わす幻覚なのかと最初は考えたが、どうにもジェノにはこれが嘘の自然とは思えない。勿論何らかの幻術を用いてるのは確かだが、それだけではないだろう。
「現実の原っぱだと思うんですよねぇ、これ。原理はわかりませんがあの白い塔も本物な気がします」
感触も若々しい草に付いた土の匂いも、湿り気を含んだ石も、花に吸い寄せられてくる虫も偽物には感じない。根拠の無いただの感だがジェノは自分の直感を信じ、いくつかの仮定を立ててみた。
「中と外との境目に魔力を感じましたが、それ以外からは感知出来ない。僕の感覚を操作しているのでなければ、此処は普通の原っぱということ。本当に何の変哲のない草原だった場合、この場に全く違う大地が存在する事になります」
目の前で浮き上がる少女を眺め、「ほぅ」と相槌を打つ老婆は楽しげに目を細める。
「気温・天候・季節、これだけ見ると時空を弄っているのではと考えましたが、そんな御伽噺みたいな事実際にあるのかどうか・・・それよりも現在存在している別の場所、と仮定した方が納得出来ます。別大陸では今春の所がありますし」
時空の操作となると過去や未来に干渉する大事件の為、可能性を考慮しつつも低いと判断してジェノは外した。そんな事が可能だった場合、世界の理を狂わす珍事だろう。魔法は自身の想像を遥かに凌駕するものだから絶対にないとは言えないが、『時空』を弄るというのは簡単には信じられない事柄だ。
『どの程度の時間浮いたままでいられるのか』という限界を知る為の時間を計っている途中、余裕のあるうちにとジェノは会話を試みて、マーベラスの反応を伺った。屋敷で練習していた際には30分程しか浮かんでいた記憶がないが、本気で集中すれば最低でも1時間は超えるだろうと予想している。
「ヒッヒッヒッお主の思う通り、こやつは幻覚ではないのう。実際に此処は存在する」
「では・・・これは転移魔法の類ですか?」
「ほほぅ、なかなか利発な子じゃな。幻覚だと決めつけなかった時点での思考の柔軟さに加え、お主は物事を多方面から捉える事の出来る素晴らしい見識を備えておるようじゃ」
高貴な魔女であるマーベラスに褒められたジェノは嬉しさを噛み締めるようにニヤける口元を抑え、「転移魔法はオババ様が研究してました」と答えた。
一箇所に上手く留まれずフヨフヨと横に流れてしまう身体を腰を捻るようにして操り、なんとか地上から2Mの位置で高度を保つ。
昔から魔法に対し情熱を費やしていたモーズリスト家最年長のオババ様は、地下で何やらゴソゴソと試しては「失敗じゃー!もうやってられんっ、酒もってこい酒ぇ!」とヤケになって叫ぶ事がしばしばあった。
高度な魔力を含む魔道具や魔石を掛け合わせて行われていた研究は危ないからと覗かせてもらえず、ジェノは遠くから爆発の音を聞いていただけだったが、『転移』『洗脳解除』『吸収』等の言葉をよく使用人達が発していた時期がある。
「転移魔法は主に人や物を対象とするがこれは場所、つまり空間を動かす」
「空間転移という事でしょうか。これ程の規模を全く別の土地に出現させられるものなのですか?」
「一辺が約2百Mの立方体。大きさを自在に変える事は出来ないし、一度発動させると一ヶ月は消えずその間一切の魔法が使用不可になるというおまけがつくが、一定の場所に留まる場合かなり役立つ能力じゃ」
遥か遠い場所の空間を喩え空中であったとしても出現させられる『空間転移魔法』
医術団のスタッフの一人の能力だと説明され、そんな魔法も存在するのかとジェノは驚く。
単に『魔法』と言ってもそれは千差万別。火を出したり浮いたりする単純なものだけでなく、こういった条件の付いた様々な種類があるという。
『魔法は不可思議な魅力的に溢れたものじゃ。全てを知るのは不可能じゃが、だからこそ人間は知識を求め足掻くんじゃよ。ジェノちゃんや、楽しみながら学んでおいで』
別れの前夜、オババ様に掛けられた言葉を思い返し、納得するように小さく頷いた。
今いる空間は、元々あった別大陸の原っぱでは地面がポッカリと薄く削り取られ、茶色い地面が剥き出しになって見える状態らしい。
動物等がその地に足を踏み入れるとこちらに現れ見ることが出来るが、限られた立方体の範囲を超えると元の土地へと消えていく。
説明を受け実際に兎が出たり消えたりしているのを見たが、イマイチ原理が解らず首を捻った。山側から入ったジェノと向こうの住人の兎は中にいる間は戯れられるが、外に出た瞬間別の場所に居る存在になるのだ。
薬や本等の無機物は持ち出す事が可能だが、虫や動物等は出てこられない。基本生命が宿るものは空間を越えられないそうで、植物なんかは時間をおけば平気だが摘みたてだと難しい。
白い塔は拠点の一つで、その土地に残ったスタッフと完全に意思疎通が取れる凄く便利な能力。他に幻覚を仕える者もいるそうで、部外者が近付いて来ても見えないようにカモフラージュも怠っていない。
初め何もない坂に急に現れたと思ったのはその為だったのだ。
「そろそろ1時間20分、持久力もあるのう。使い道も多種多様じゃし、魔力量も予想より遥かに多そうだ」
「魔力はまだまだ余裕ありますが、上がりすぎない様に支えるのに神経使って疲れます。飛び回ってる方が楽なんですが」
「ふーむふむ、楽を選ぶより完全に掌握してみせてほしいものじゃ。お主の魔法・・・慣れれば日常生活でも戦闘でも飛び抜けて使い勝手の良い万能な能力になるぞえ」
「え?」
「さてさて、昨日出した課題はやってきたかえ?」
見上げてくる笑みに頷き10M程後ろに置いた鞄に目を留めると、ジェノは中から赤い背表紙のノートをフワリと浮かした。指先をくいくいっと動かし、座っているマーベラスの手元へと運ぶ。スィーと流れるように動くノートは安定した様子でピタリと止まり、それ以外の鞄の中身は一切動いたりしていない。
モーズリスト家の屋敷でも小物を動かす練習を定期的にしていた為、大体思うように移動させる事が出来る様になっているのだ。
マーベラスの言う通り日常生活でも役立つ事が多く、ジェノはどんどん自分の魔法が好きになっていった。
『重力』という事を考えると、無機物を浮かすだけではなく横に移動させられる原理がよくわからないが、「まぁいいか」と一言で片付ける。
どうせ不思議で謎なものなのだ、深く考えていたらド壷にはまる。動かせる範囲、使用時間、限界出力をちゃんと調べて判っていれば問題はない。
渡した赤いノートを捲るマーベラスを見下ろし宙に浮いたまま体育座りしたジェノは、スタッフが運んできたカップを器用に手繰り寄せて紅茶に口を寄せた。
『初めて魔法が発動したのがいつか、それがどんな状況だったかをしかと認識しておるか?』
勉強会がスタートした昨日の帰り際、唐突に老婆から質問を受けた。
ジェノは考えるよりも先に肝試しの時だと即答したが、マーベラスは大きく首を振り細長い人差し指でジェノの胸を指す。
『人間の記憶は拙い。印象に残らんものは尽く忘れていく都合のいい生き物じゃ。魔力は感情が高ぶると出やすいが、寝ている時など無防備な状態でも知らぬ間に発動したりする。ゆっくりでいいから人生を辿っていきな』
『僕の人生、ですか?』
『目を逸らしてきた己の過去と向き合ってみるといい。特にお主は・・・いや、ノートをあげるから思い出を書き込んでみな。これは明日までの課題とする』
その後お土産のレモンクッキーとノートを貰って初日の勉強会は終わった。
小屋へ戻って真っ赤な皮で出来た背表紙を開いてみるが、線がなく無地のノートは所々に黒ずんだシミがあり書きづらかった。
気にせず肝試しよりも前の記憶を辿ろうとペンを走らせてみるが、どう考えてもジェノにはジャングルで遭難した時が初めてだとしか思えない。
何故こんな課題を出されたのだろうか。最初に発動した時期が今後何か重要になってくるのか?
不思議に思いながら徐々に遡っていくたび、ジェノは自身の記憶力に愕然とする。
スラスラ思い出せるエピソードや人物も勿論あるが、曖昧で不確かな情報があまりにも多い。カルシェンツとの出来事は昨日の事のように思い出せるが、遡るごとにペンのスピードが落ちていった。
こんなに人って忘れるものなのか?僕の記憶力がないだけ?
いや・・・13年しか生きていないんだから、半分位の年月は幼くて覚えてないのは当然、か。
ジェノの額には汗が浮かびペンを握る手に徐々に力が入っていく。5~7歳辺りが変に靄が掛かったように曖昧で、なかなか進まず唸り声が漏れた。
ようやくスラム時代に入った所でスラスラと書けるようになり、忘れていたパパとの出来事もいくつか思い出す事が出来た。
「そういえば・・・」
手元の分厚いノートに『4歳時に発動』と書き込んだところで、その日の課題を終える。
「さてさて、自身の記憶としっかり向き合えたかえ?」
「はい。3年前の肝試しの時に初めて発動したと思ってたんですが、よくよく思い返してみたら幼少期に無意識に使っていた気がします」
「ほぅ」
「肩に乗せてると体重が軽くなったり重くなったりするってたまに言われてたんです。すっかり忘れてましたけど、多分あれはそういう事だったんだろうなぁ」
マーベラスにノートを掻い摘みながら説明していき、お砂糖たっぷりの紅茶を啜る。
「ふむ、虎の獣人とは珍しい。それに殺されずに一年間暮らしていたとは驚きだねぇ。つくづくお主は奇怪な体験をする質のようだ」
「大きくてモフモフしてて、常に賑やかな人でした。ママが「豪邸に行く」って迎えに来て離れちゃいましたが、僕はあのままずっと一緒にいたかった」
生きる事に必死だった時代、最も幸せだった頃の記憶を呼び起こし、少女は笑みを浮かべる。
拾われて、暮らして、涙ながらに別れて。
今頃どうしているのだろうか、元気にしてるといいなぁ。
あれからもう8年になる。
薄れゆく記憶の中でもとりわけ美化されている1年間の暮らしは、ジェノにとって大事な思い出であり、心の支えだった。
スラムでは辛い経験が多かった為、常に温もりが感じられた『パパ』との生活は楽しかった記憶しかない。
一緒に過ごして一年が経った頃、獣人はふらりとスラム街に出向く回数が増え、難しい表情を浮かべる事が多くなった。その後一年半振りに現れた母親の「迎えに来たよ」という言葉に幼いジェノは戸惑い、遠くから隠れてこちらを見つめる獣人に視線で縋る。
しかし強く腕を掴まれ、幼子の抵抗も虚しく引きずられるように遠ざかって行った。
それ以降父親替わりだった虎の獣人には一度も会っていない。ろくな別れの挨拶もせぬまま離れ離れになってしまったのだ。
彼女と彼との間で話し合いがあったのかは判らないが、一度子供から離れ育児放棄した母親と過ごす事となる。
それから半年が経ったある日。
餓死寸前の息苦しいスラムの生活から一変、広大な庭と見たことのない豪華な屋敷に連れて行かれ、ジェノの人生はこれまでとは想像もつかない変化を遂げた。
本当の父親の存在。
母親の死。
メロスとの出会い。
怒涛の様に押し寄せた出来事は気がついたら全て終わっており、優しい使用人達に慰められながら徐々に新しい生活に順応していった。
そういえば元から屋敷にいたメイドや執事は、メロスが当主なったと同時に全員出て行ったんだよな。
入れ替わるように旅仲間だったファスト、マリーテア、神林、オババ様が出入りするようになったのだと聞いた。
実の父親には本妻がいたはずなのだが一体どこへ行ったのだろうか。それにママは何で死んだんだ?
子供には知らされていない大人の事情が気にはなりつつも、今迄この話題を切り出すことが出来なかった。
聞いてはいけない。
その当時の事を思い出そうとすると、不自然な寒気が襲い過呼吸気味になってしまう。曖昧な記憶の中で取り分け暗い印象の日々。
ジェノは頭を切り替えようと左右に強く振り、深く息をついた。
「そういえばお主、今日の課外授業の準備はちゃんとしているのかえ?此処に来てからちょくちょく観察していたんじゃが、あまり人間関係上手く築けない方じゃろう」
「・・・課外授業?」
唐突な質問に思考を現実に戻し、首を傾げる。
「夕方から4人一組で行われるやつじゃ」
そういえばそんなのがあった気がするなぁ。
マーベラスのセリフにぼーとしながらペン回しをしていたジェノは、4人という言葉にハッとして息を飲んだ。
「子供は強制参加なんじゃが、組む相手は決まっておるのか?」
ニヤついた笑みで問われ、背中に嫌な汗が伝う。
『俺は貴族の者を一人捕まえておくから、ボランティア側は任せたぞ』
『うん。わかった!』
最近の記憶を辿り、その話題を思い起こした。
一昨日の夜に小屋に訪れたロッツと交わした一つの約束。
次の日に汚水をぶっ掛けられ、思わぬ形で『魔法勉強会』がスタートした為にポーンと頭から抜けてしまった案件。
「うっげぇ、忘れてた!」
「おやおや、大変じゃなぁ。ヒッヒッヒッ」
フワフワと浮かびながら右往左往しだす少女を眺め老婆は笑い、「そろそろ二時間じゃし、もうええじゃろ」と勉強会を好意で中断してくれる。
慌てて鞄を手繰り寄せ謝罪とお礼を繰り返したジェノは、走った方が速いと二時間振りに大地に降り立ち、急いでボランティアメンバーの居る場所へと駆け出した。
課外授業開始時刻は午後5時。現在は2時過ぎである。
「やっばぁ、マジでやばい!」
岩地を猫の様に俊敏に駆け抜け人の居る宿泊場を目指す。ジェノは様々な思考を巡らしながら、状況は絶望的だと項垂れた。
今日から二週間行われる課外授業は15歳までの子供達が4人一組となり、指示された薬を自分たちで採取・調合・投与する実践的なものである。
ボランティアを合わせて26人の子供がいるため、4では割り切れない。つまり4人のグループと、3人のグループが出来る事になる。計算上3人のグループは最低二つ以上になり、このままでも授業は滞りなくスタートするだろう。
しかし講師陣の説明とロッツの話を聞く限り、人数の差はかなり不利になる。
『課題の薬の種類にもよるが、希少な植物は手に入れるのが難しかったり、大量に必要な場合に時間が足りない事態に陥る可能性がある。手早く調合に入り、どのグループよりも先に完璧に治療薬を完成させ一位を目指したい』
行動指定されている範囲が予想以上に広く、二週間という長めの期間が設けられている為、人数の差は後々大きな問題となってくるだろう。
ジェノとしては「調合や治療の過程を楽しめればいいかな」という程度なのだが、ロッツの意気込みを聞いた手前本気で取り組まなければいけない気がする。
ボランティアの子を誘う約束をすっかり忘れていた自分に内心で舌打ちし、必死で子供達のいそうな教室を覗いた。だが教室では貴族の生徒達が授業を受けている真っ最中で、お目当てのボランティアの子は見当たらない。
どう考えてもすでにグループが出来上がっている可能性が高く、今から声を掛けても無駄足に終わるだろう。
このままじゃロッツに合わせる顔がない。
高い授業料を払って山奥にまで学びに来ているもう一人の貴族の子にも申し訳がたたず、希望を捨てずに坂を下りボランティア側の宿に向かった。
どうしようどうしよう、本気で謝れば僕に罪悪感を感じているロッツは許してくれる気がするけど、約束を破るなんて自分が許せない。
「時間ギリギリまであがいてみよう。もしかしたらまだ決まってない子がいるかもしれないし!」
二棟の宿泊場を囲う様に並んだ茶色い石レンガの塀に、寄りかかりながらお喋りしている少年と青年の群れが見えた。ジェノとしては女子よりも声をかけやすいのでこれ幸いと近付き、現在のグループ状況とあまっている人物の情報の聞き込みをする。
「今からはもう見つからないんじゃないか?昨日の夕方にはグループ固まってたぞ」
「3人でも問題なく参加できるし、平気じゃん」
「君ボランティアの子?俺三日前にきたばかりなんだけど超可愛いね!仲良くしてくれるなら俺そっちに移ってもいいかも」
「おいふざけるなよ。お前が抜けたらうちのグループ2人になるじゃねーか、絶対認めないからな!」
「だって男しかいないむさ苦しいグループなんて楽しみが何にもないじゃん。俺は可愛くてピュアな彼女が欲しい!」
揉めだした男子2人は無視して他の青年と話した結果、やはり全て決まってしまっているようで良い情報は得られなかった。
しょんぼりと落ち込み目を伏せるジェノに何故か周りの男子達は焦ったようにワタワタし、元気づけるように励ましてくれる。
なんだろう・・・廃病院に来てから女子はキツく当たってくるけど、男子は優しく接してくれる気がする。いつもは逆で男の子には敬遠されがちなのにな、変なの。
ゴッデスがチョイスした普段は着ない女の子らしい衣類を身に付け、肩よりも少し伸びた髪を下ろしている為、今のジェノは完全に女子として周りに認識されていた。
人目を引く容姿をしているジェノは閉鎖的な環境で自然と注目を浴び、男の子の間では良い意味で話題に上がる事もある。
外見に無頓着の本人だけが全く気付いていないが、ロッツとの噂とは関係なく可憐なジェノを気にしている子も少なからずいるのだ。
「あのさ、女子グループであんまり仲良くないところとかあるから、説得したら一人移ってくれるかもしれないよ。ごめんね全然役に立てなくて、僕が入れたら良かったんだけど・・・」
「ううん、凄く助かったよ。その子達の所に行ってみるね、本当にありがとう!」
「う、うんっ。困ったことあったら何でも聞いてよ、力になるからさ!」
年上と見られる青年にニッコリと笑いかけると、頬を赤らめて上ずった声が返ってくる。
強力的な男子達と別れ、仲良くないと噂の女子グループの元へ早速向かった。
冷たい態度をとられる可能性大だが、逃げるわけにはいかない。なんとしても一人スカウトして引き抜かねばならないのだ。
表には見当たらなかった為、裏手に回り込み調理場の勝手口を覗き込む。火の元がある大釜の近くは温かくよく人集りができていたのでその周辺を探したが、お目当ての女の子達はいなかった。
そもそも『仲良くないグループ』だけじゃ見ただけで判らないんじゃないか?今一緒に行動してない可能性あるし、バラバラに居たら擦れ違っていても気が付かない。
キョロキョロと見渡しながら走って移動し、30分程経過したが見つからずに焦りが増していく。
授業が終わったのか廃病院から生徒達が出てくるのが見え、避けるように横道に逸れたジェノは一旦落ち着く為に深呼吸を繰り返した。
どうしよう、このままじゃマジで――・・・ん?
「どうしてあたしが責められないといけないの?なーんにもしてないのにさ!」
「ふざけてんじゃないわよっ、あんたが彼を誘ったんでしょ!」
「えぇ~ よく分かんないな。あたしはただ薪が重いって言っただけだよ?勝手にその人が持ってくれてお話しただけじゃん。惚れられたのはあたしの責任じゃないよね、ね!」
後ろに設けられていた白い柵を覗き込むと、チロチロと流れる細い小川の奥に3人の人影が見え、ジェノは咄嗟に身を屈めて聞き耳を立てる。
「彼の事昔から好きだったって私言ったよね!何で手を出すの!?」
「友達の好きな人誘惑するなんて最低だし普通じゃないよね、どういうつもり?」
「えぇー別に誘惑なんてしてないよ!向こうが近づいてきただけだもん。ほらあたし可愛いじゃん?」
「はぁ!?」
見覚えのある声に目を凝らし観察すると、この前ジェノの後をつけてきて足を挫いた短髪のあの少女と、三つ編みのヒロイン宣言してきた少女の姿が見える。
短髪の子が追い詰められる様に川辺に立たされ、三つ編みの子と髪を二つ結びにした子が責め立てていた。
どうやら短髪の子が二つ結びの少女の想い人と接触している内に、告白されたらしい。完全な修羅場に見ているだけでハラハラしてくる。
ギスギスした空気に飲まれずに短髪の少女は軽い調子で返すと、「んー?」と顎に人差し指を当てニッコリと笑った。
「何にもしなくったって花に群がる蜜蜂の様に皆吸い寄せられちゃうんだよ、仕方ないよね!これは可愛い子の宿命ってやつだし、貴女達には一生わからないかな?アハハッ」
「いい加減にしなさいよっ、ちょっとは謝ったらどなの!?」
「謝る・・・ああっ、可愛すぎてごめんなさいって事かな。そうだよね、可愛い過ぎるのも罪だもんね。なんか、ごめんね?でも貴女達が平凡な顔に生まれたのはあたしのせいじゃないしなー、僻みとかよくないと思うよ?」
「なっ・・・!」
耳に届く会話に隠れながらジェノは唖然と口を開けた。
凄いこと言うなぁ、あの子。どんだけ自分の容姿に自信があるんだ?他人に対してここまで言い切れるとは余程のナルシストなのか、相手を小馬鹿にしたい為の演技なのか・・・
うーん、これは前者かな。
「この間貴族様の施設の周り彷徨いて色目使ってたの知ってるんだからね。ちょっと恥ずかしくないわけ?あんたみたいのとグループなんて組むんじゃなかった」
「猫被って貴族に取り入ってるココアちゃんに言われたくないな。あたしはそんな小細工しなくても自力で運命の相手捕まえられるから恥ずかしくなんかないよ。容姿に恵まれて本当に良かったぁー」
「このナルシスト女っ!」
確かにナッツ型の瞳と小動物の様な雰囲気は可愛らしいし、黙っていればスタイルの良さも合わさって美人系にも見える。今迄家族や周りに可愛いと言われ続け、自信が膨らんでいったのかもしれない。だが・・・
んー、カルシェンツやレミアーヌちゃんを知っていると嫌でも『美』の基準は高くなるんだよなぁ。
カルシェンツを常日頃近場で見ていたジェノは綺麗な顔に慣れすぎている為、少女の言う「あたし可愛い!」宣言に微かに首を捻った。
陶器の様に白い肌に人形と見間違える完璧な顔面と比べるのは可哀想だが、どうしても「そこまで言うほどか?」と思ってしまう。
いや、普通に見たらバランス良いし顔ちっちゃいし整っているんだけどね。カルシェンツと比べちゃ駄目だよな、うん。あいつとレミアーヌちゃんは観賞用タイプ。この子は身近なマドンナタイプというわけだ。
3人の仲はドンドン悪化して見えたが、ジェノは逆に運が良いと音を立てない様に膝を叩き、スカウトのタイミングを見計らう。
今出て行って乱入・・・は面倒臭い事になるから却下。別れた後で短髪の子に声を掛けてグループを移ってもらう算段をつけた方がいいかな。これだけギスギスしてたら誘いを受けてくれるだろう。でもこれ以上発展したら仲裁に入った方がいいか?
どうしたものか――
「ジェノ?こんな所で何やってんだ」
「げっ」
すぐ後ろから掛けられた声に肩を跳ねて振り返ると、モデル並に長い足を此方を伺う様に折り曲げるロッツが居た。
「げって何だよ」
授業が終わり出てきた彼は、草むらでしゃがみ込むジェノに気付いて近付いてきたのだろう。
「どうしたんだ、お腹でも痛いのか?」
「ちょっ、ま・・・と、とにかく隠れて下さいっ」
「隠れ?って、おい!」
腕を取り隣に引きずり込むと、怪訝そうな青年の口元に指を持っていき「しぃー」と言って静かにさせる。少女達には気付かれなかったようで胸を撫で下ろしたが、ジェノの鼓動はドキドキと早鐘を打った。
「何やっているんだ」
「ス、スパイ活動?」
「・・・ほんとに何やってんだよ」
見つかるといけないのでロッツの腕を掴みながらそっとその場を離れ、茂みの奥のベンチに腰掛けて一息つく。
ロッツの前でスカウトするわけにもいかないし仕方ないだろう。声を掛ける対象は把握したし短髪の彼女とは面識もあるから問題は少ない。
「あ、ムカデ。ちょっと待って」
立ったままのロッツに気付きベンチの空いたスペースを見遣ると、そこには二匹のムカデが蠢いていた。ちょいちょいっと木の棒で草むらに放り投げ座れる場所を確保したが、ロッツは動こうとせずにジェノをじっと見つめてくる。
「つくづく周りにいないタイプの女子だ」
「そう?でもまぁ、女子への考え方が偏らなくなって良かったじゃん」
「そうだな。面白い」
喉を鳴らして笑う青年は出会った頃より数段大人びて見え、少女を少し不安な気持ちにさせた。
男って急に成長するんだよなぁ。
きっと仲のいい親友である王子様も、離れている間にグングン成長しているに違いない。
外見だけならいいけど、考え方や中身が変化するのは嫌だしちょっと怖い。
「今は興味なくても今後はわからないし・・・」
「ジェノ?」
小さな呟きは聞き取れなかったようで、聞き返してきたロッツの手をジェノは縋るように取った。
「ロッツは婚約者っている?」
「は?」
「居たらどんな存在なのかな、やっぱり大切な存在だよね」
「いや」
「将来ずっと一緒にいる相手なんだし友達なんかとは雲泥の差があるものだよね?きっと友情なんかよりもそっちを優先するし蔑ろになっていくよね」
「ジェノ・・・えっと、どうした?」
俯きキュッと手を握ったジェノに戸惑いながらロッツは隣に腰を下ろす。急に落ち込みだした少女になんと声をかけていいのか数秒逡巡した後、青年は軽く握られたままの手を柔らかく握り返した。
「俺に婚約者はいない」
「そうなの?」
「女は苦手というより嫌いだったからな。だが・・・」
切られた言葉にロッツを仰ぎ見ると、目が合った彼はふっと目尻を下げ爽やかに微笑む。
「いや、何でもない。そろそろ戻ろう」
「・・・うん」
優しく手を引かれエスコートされる様に小屋まで送ってもらったジェノは、幾分か気分も持ち直しお礼を言ってロッツと別れた。
扉を開けるとおやつを作っていたゴッデスが「おかえりっすー」とニヤニヤと笑う。
「手を繋ぐ程仲良くなったんすかぁ~?エンジェル氏号泣するっすよ」
そういえば無意識で手を握っていたと思い返し、頬が朱色に染まる。ジェノにとっては深い意味はないが、知ったら確実に発狂するだろう友の姿を思い浮かべ、「絶対に言うなよ!」と強引な口止めをする。
ゴッデスから奪ったおやつを食べて火照った頬を冷まし、ジェノは再び外へと飛び出していった。
やることは色々あるのだ、のんびりとはしていられない。速く、一刻も早くスカウトしなくては!
課外授業まで後2時間。
「そういえばロッツってあんだけモテるのに婚約者いないのか・・・女嫌いも大変なんだなぁ」
先程の言葉を思い出して他人事のように同情し頷いたジェノは、坂道を軽やかなステップで駆けていった。
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