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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
三章:はなせないもの
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84話

 あづさとギルヴァスはレッドキャップの少女から聞いた道を走っていた。

 ……『皆が虐められている』。エーリフから聞き出した内容も併せて考えれば、火の四天王の手の誰かがレッドキャップやドワーフ達を攻撃している、ということが考えられた。少女の怯えた様子や傷、そして何より焼け焦げた服の裾が、それを裏付けている。

 ならば、急がなければならない。

 レッドキャップもドワーフも、1人たりとも欠けさせるつもりはない。皆揃って、地の四天王領へ迎え入れたい。

 あづさもギルヴァスもただ黙って、暗い洞窟の中を走り抜けていく。


 ……そして、唐突に洞窟の先が明るくなった。

 外につながっているのか、と錯覚してしまう程の明るさは……しかし、太陽の光によるものではない。

「舐めた口を利いた分の覚悟はできてるのかと思ったが。大した事ねえなあ。なんだよ、つまんねえ」

 軽薄そうな声が漏れ聞こえてくるのをそっと覗けば、そこにはイフリートらしい火でできた人が2体と、鋼鉄の鎧に身を包んだトカゲのような、はたまたアルマジロのような……そんな魔物が1体。喋っているのはそのアルマジロめいたトカゲであるらしい。

 あれは何かしら、とあづさがそっと覗き込んでいると、横からギルヴァスがそっと、「サラマンダーだ。火を吐き出すトカゲだな」と注釈を入れてくれた。

 火を吹くトカゲもといサラマンダーとイフリートは、どうやらその場にいる他の魔物達に向けて火を吹いたり、はたまた殴る蹴るといった暴行を働いているらしい。

 すぐにでも飛び込みたかったあづさだったが、それはギルヴァスに止められる。ある程度、敵の情報を引き出してからでなければ、こちらの身が危うい。

「……ん?そういや、もう1匹、チビが居なかったか?前回は随分泣いてたが、あれはどうした?」

 岩陰からサラマンダーの声を聞いていると、サラマンダーはそんなことを言った。途端、地面に倒れ伏し、或いは座り込んでいたレッドキャップと思しき魔物達は、視線を逸らすなり黙り込むなりしてしまう。

「隠してる、ってわけか?この期に及んでいい度胸じゃねえか」

 サラマンダーがそんなレッドキャップ達を睨み回すと、レッドキャップ達は竦み上がった。

「あの子はまだ小せえんだ。どうか、見逃してはもらえねえか」

 だが、そんな中でも声を発するものがあった。傷つき、火傷を負っているものの堂々として立ち振る舞おうとするその者は、どうやらレッドキャップ達の中でも年長のものであるらしい。

「見逃す?一体今更何をこれ以上見逃せって言うんだ?」

 立ち向かったレッドキャップの長は、あっという間にイフリートに掴みかかられて悲鳴を上げる。火でできた腕に掴まれて、レッドキャップの衣服や肌が焼け焦げていくのが見えた。

「ラガル様から仰せつかった仕事も達成できないまま、もう何日だ!?作れっつった武器はできないまま!材料も揃わないままって状況、分かってるのか!?これ以上何を許してもらおうってんだ!?」

 サラマンダーが声を荒げると、サラマンダーの背から炎が漏れ出す。激情を表すような炎に、レッドキャップ達はますます怯えて縮こまった。

 静まり返ったレッドキャップ達を見渡すと、サラマンダーは、言う。

「……これはもう一度、教えてやる必要があるらしいなあ?」

 すると1体のイフリートもレッドキャップ達に向けて歩き出す。

 レッドキャップ達が悲鳴を上げ、竦みあがる中、サラマンダーはにやりと笑ってイフリートに指示を出す。

「もう限界よね、ギルヴァス。私、行くわよ!」

「ああ俺も行く!」

 もう情報は手に入った。あづさもギルヴァスもこれ以上は粘れない、と判断し、一気に岩陰から飛び出す。

 そして……あづさは何を言うよりも先に、水の魔法をイフリートの一体へと放ったのである。


 イフリートの声なき悲鳴が洞窟の中を揺らす。火でできたイフリートには水がよく効く。それはルカが見せてくれた通りだ。

 更に、ギルヴァスはもう1体のイフリートに向けて拳を振るった。

 ……物理的な攻撃など効かないはずのイフリートは、しかし、ギルヴァスの拳に腹を撃ち抜かれると、何やら苦しそうに身を縮めてしまう。

「お前らは……まさか」

 サラマンダーはあづさとギルヴァスの方を見て絶句する。

 そんなサラマンダーの前に悠々と立って、あづさはにっこりと笑った。

「はじめまして。アヅサ・コウヤ。地の四天王団の参謀をやってる異世界人よ」




「な、なぜここに居る!ここはお前ら部外者が来ていい場所じゃない!」

「あら。居ちゃ悪いの?私、風の四天王団からここの紹介状を貰って来たのよ?まさか私達だけじゃなくて風の四天王団にも文句言うつもり?」

 あづさがそう言えば、サラマンダーは苦い顔で押し黙った。四天王最弱と呼ばれているギルヴァス1人の面子なら、いくらでも潰せばいい。報復する力をつけていたとしても、それほどの脅威ではない。少なくとも、ラガルが立ち向かえば済む話なのだ。

 ……だが、流石に、他の四天王団にまで火種を蒔く勇気は、サラマンダーには無かった。

 風の四天王団と火の四天王団は、ある程度物資や情報のやりとりがある。その取引相手を怒らせるような真似は、できない。

「そうよね。あなた達に面子があるのは分かってるけど、私達にもあるのよ。ついでに、風の四天王団にも、ね」

 あづさが一歩足を踏み出せば、サラマンダーは怖気づいたように一歩、足を引く。

「ついでに面子以外で言えば……そうね。『気に入らないからぶん殴る』っていうのもあるけど。……私達、今の状態で結構、あなた達のこと、『気に入らない』わね」

 あづさの言葉を裏付けるように、ギルヴァスが拳を握りしめつつ後ろに立つ。それを見てサラマンダーは……勝てない、と、悟った。


 火の四天王、ラガル・イルエルヒュールから、このサラマンダーはよくよく聞かされていた。

 ……最近の地の四天王団は、おかしい、と。

 あづさという異世界人の少女が参謀として地の四天王団に入った、ということはサラマンダーも知っている。何せサラマンダーもファラーシア主催のパーティーに呼ばれていたのだから。

 サラマンダーが見たあづさは、可愛らしい顔立ちをした、小柄で細身の、黙って微笑んでいればただの令嬢にしか見えないような少女だった。まさか、それほどの脅威だとは、まるで思えなかったのである。

 ……だというのに、ラガルはあづさを警戒した。

 まるで、あづさという少女がどのような力を持っているのか、始めから分かっていたかのように、あづさを端から警戒していたのだ。

 風の四天王領のパーティーで毒酒が作られた時、あづさの推理と演説は大したものだった。サラマンダーもあれには唸らされたが、ラガルはそこにまた、あづさの危険性の片鱗を見出したらしい。

 風の四天王が卵に返って、四天王代理が風の四天王団をまとめるようになったのもつい最近の出来事だが、それすらも、あづさが何らかの方法で風の四天王団に介入した結果だと踏んでいる。

『降矢あづさは危険だ』。『火の四天王団へ引き込むか、それが叶わないならば殺さねばならない』。

 ラガルはそう、部下達に言っていたのである。


 そのように聞かされていたサラマンダーは、その2人を目の前にし、配下のイフリート2体を倒されて、真っ向から立ち向かう気力を折られた。

 そして同時に、まずは火の四天王ラガル・イルエルヒュールへ連絡せねばならないと考えた。

 降矢あづさが火の四天王領へ攻め込んできた、と。


 サラマンダーがその甲殻に格納していた翼を広げると、あづさもギルヴァスも警戒した。

 だがサラマンダーはそれに構わず、さっさと逃げ出す。洞窟の中は複雑であったが、ここへ数度来ているサラマンダーはその道をおおよそ把握していた。高速で飛行しながらでも道に迷わず外に出ることはできる。

「ちょっと!待ちなさいよ!」

 サラマンダーにあづさが声をかけたが、サラマンダーは振り返ることもせず、配下のイフリート2体をその場に残したまま、あづさとギルヴァスの手の届かないところまで、逃げ延びることにしたのだった。




「……行っちゃったわね」

「そうだなあ。話すらできなかったなあ……」

 あづさとギルヴァスはサラマンダーを見送ると、それから、地に倒れ伏したままのイフリートへと向き直る。

「ねえ。あなた達、置いていかれちゃったみたいだけど。どうするの?」

 イフリート2体はまごつき、困惑らしい表情を浮かべて顔を見合わせている。だが、結論は出せないらしい。

「まあ、連れて帰るのが妥当だろうな」

「ランプが増えるわね。嬉しいわ。私、あのランプのデザイン、気に入ってるの」

「そうか。あれでよければまた作ろう」

 あづさとギルヴァスはもう一発ずつ、イフリート達に水の魔法や拳を叩き込んで弱らせると、彼らは放っておいてレッドキャップ達へと向かう。

「私、回復の魔法が使えるわ!怪我してるなら出てきて!」

 あづさはそう呼びかけながらレッドキャップ達の間を回り、火傷や打撲を負った彼らを癒していった。

 先程、イフリートに掴みかかられて火傷を負っていたレッドキャップの長も、同じようにあづさの治療を受けて回復する。そうしてその場に居たレッドキャップ達が全員傷を癒され終わる頃、レッドキャップ達はあづさ達に対して、少々の緊張と警戒は残るものの、それなりに友好的に話すようになっていたのである。




「お前さん達が入ってきてくれたおかげで、孫娘を庇いきることができた。礼を言う」

 レッドキャップの長は、最初にあづさ達が出会ったレッドキャップの少女を抱きしめながら、そう礼を言った。

「よかったわ。その子が無事で」

 長の孫娘であったらしいその少女は、はにかむような笑顔をのぞかせながらあづさにぺこん、と頭を下げた。その様子を見て、あづさは益々笑みを深める。

「ところで、どうしてあんな風に攻撃されてたのよ。あなた達だって、火の四天王団の一員でしょう?」

 あづさが問うと、長は困ったような顔をしつつ……しかし、孫娘の恩があるからか、存外素直に話し始めた。

「どうにも最近、鉱山の調子が悪い。なのに火の四天王のラガル様は、俺らにもっと鉱石を掘れと言う」


「今から3か月ほど前、ラガル様は突然、大量の宝石をご所望になった。俺らは備蓄も含めて、なんとかそれを納めたんだが……それから少しして、更に鉱石を要求されるようになった」

「今度は宝石じゃなくて?」

 あづさが問うと、長は頷く。

「ああ。なんでも、武器を作るためとかで……しかし、宝石を採った時に少し、鉱山から前借りしちまっていたもんだから、採掘が間に合わない。いくら俺らが頑張っても、鉱山に力が無いならどうしようもねえ。ラガル様も力を加えてはいるようだが、火の力ばかり加わっても、どうにも……」

 説明して、長は項垂れる。長だけではなく、その場にいる全てのレッドキャップ達が皆一様に疲れ果てた様子であった。

「成程な。採れない鉱石を要求され、採れなかったと説明すれば暴力を振るわれる、と。……大変だったなあ」

 ギルヴァスはレッドキャップ達の様子を見て深々とため息を吐く。ラガルに対する怒りもあったが、それ以上に、彼らへの憐憫の思いが強い。

 ……そんな折。

「ところで、私達がここに来た目的なんだけれどね?」

 あづさが進み出て、長の前に紙を一枚、出す。それはネフワからもらった紹介状である。

「これのとおりよ。風の四天王団雷光隊隊長のネフワさんから紹介状を貰って、ここに来たの」

「あ、ああ。あのフカフカした御仁か?……それで、用っていうのは」

 少々戸惑いつつも長がそう問いつつ顔を上げるのを真正面から見つめて……あづさは、笑って言った。

「勧誘に来たのよ。地の四天王団に来ませんか、って!」


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