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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
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69話

「まず、私の両親は健在よ。そこは心配しないでね。ただ、海外出張が多いから会える日の方が少ないし……まあ、私が高校生になった頃からは、それはもう放任気味ね」

 あづさはそう言いつつ、首を傾げているギルヴァスを見て笑った。

「もしかしてこの世界だと、子供は生まれてすぐ両親から離れて一人立ちするのが普通だったりするのかしら?」

「まあ、種族によるが。……中にはそもそも、親というものがない種族もいる。スライムとか」

「まあ、分裂するんだったらそうよね……」

 あづさはスライムをつつきつつ、いいわねえ、と呟いた。

「ただ、親が居る種族に関しては、最低限、子供が1人立ちできるまでは保護するのが普通だな。竜に関しては、空を飛べるようになるまでは最低限、親が育てる。まあその後もしばらくは共同生活をすることが多い。子供が1人で生きていきたくなったら出ていく。そんなもんだなあ。長寿のものが多いから、あまり一か所に固まって過ごすというのも飽きが来る、っていうのはあるか」

 へえ、と相槌を打って、あづさはふと、ギルヴァスもそうなのね、と納得した。彼には、それなりに安定した生活の元で育って、それからはずっと1人で生きてきたような気配がある。それが当たり前の種族なのだろう。暖かな巣で育ち、成長してからは旅路に生きる、というのも、中々楽しそうではある。

「私達の世界だと、まあ、最低限、18歳までは保護者が必要なの。1人立ちするのはその後。更に進学したら、23歳くらいまで親の保護下にあることも珍しくないわ」

「……23年?そもそも君達の寿命はどれくらいだ?」

「大体80年くらいかしら。女性はもう少し長いけれど、100年には届かないわね」

 あづさがそう言うと、ギルヴァスはそうか、と呟き……寂しげな顔をした。

「……短いなあ」

「そう?私に言わせれば、あなた達の寿命が長すぎるのよ。あなたふつうにポンポン100年前の話とかしてくれるけど、私達の感覚だとそれ、歴史書読んでる感覚なんだからね」

「そ、そうだったのか……いや、すまない、俺達は600年か700年程度は生きるものだから……」

「それじゃあ確かに、一か所に留まり続けてなんて、られないわね」

 あづさとギルヴァスは互いに流れる時間の差を感じてそれぞれに慄いた。やはり、種族も生きる世界も違う、ということは、中々な高さの壁を生む。


 あづさは話を元に戻す。

「……でね。そういうわけで、私は私の世界にしては珍しく、両親が居るけれど特に世話されてないし、連絡もまばら、っていうことなのよ。でもその方が気楽でいいわ。お金には困ったことないし。生活も、身の回りのことくらいは自分でできるもの。できるようになった、っていうか」

「そ、そうか」

 ギルヴァスは頷きつつ、そういえばあづさは様々な事を行うのにまるで迷いが無いな、と思い当たった。

 それはあづさがそうやって様々な事を自分1人の力で行って生きてきた証明なのだろうし、そうしなければ生きてこられなかったという証明でもあるのだろう。そう思うと、少し、寂しさのようなものがギルヴァスの胸に過った。

「別に、境遇を憂えたことなんて……ま、無いとは、言えないけど。でも、今は良かったって思ってるわよ。今の私があるのって、そういう両親の下に生まれたからだし。ま、あとは……身軽、だしね」

 あづさがそう言って笑うので、ギルヴァスもそれに応えるように笑う。

「……そうか。そうだな。なら俺も君の境遇の全てに感謝しよう。君がこうしてここに来たのももしかしたら、それら全てが絡みあった結果なのかもしれないから」

「ふふ、あなたって本当に、私が言ってほしい事、言うの上手よね。ありがと」

 あづさはそう言ってくすくす笑いつつ……ふと、表情を陰らせた。

「まあ、全部に感謝されちゃうと、ちょっと、複雑だけど」

 ギルヴァスがあづさの様子を窺うと、あづさはギルヴァスの視線に気づいて表情に笑みを取り戻した。

「だって、人生歩んできたのよ?普通に。あなたにとっては『たった』17年かもしれないけど。でもその17年の中に厭なことの1つや2つはあるものじゃない?」

 何かあったのだな、と、ギルヴァスは察する。だが、そこに踏み込む気はなかった。あづさが自分から話すまでは待つことにする。

「まあそうだろうな。俺も300年程度生きているが、まあ、厭な事はそれなりにあったさ」

「単純計算でいくと、まあ、私の17倍ぐらい厭な事あってもおかしくないわね……」

「……17個もあったかなあ……」

「あなた、何かあっても忘れてそうね……」

 あづさはギルヴァスの言葉に苦笑して、それから話を再開することにしたらしい。

「そうね。じゃあ、続き。……私、夏の終わり頃に転校したの。つまり、1年以上お世話になってたところを出て、別の学校に入ったのよ」




「てんこう」

「所属を変えた、って言うべきかしら?うーん、まあ、別の学校に移籍したの」

 あづさが説明すると、ギルヴァスは、ほう、と唸った。ギルヴァスにとっては珍しい制度だったらしい。

「……で、転校したんだけどね。そのせいでまだ、環境には慣れきってなくって。前の学校は1日に7時間目まであったの。でも今の学校は6時間目までだから、変なかんじだわ。それから、科目もちょっと違うわね。うん……まあ、前の学校で先に履修しちゃった単位もあったから、そこは融通利かせてもらってね」

「りしゅう?たんい?……うーん、駄目だ、分からん。俺に分かるのは君が優秀だということだけだ……」

 あづさはギルヴァスに説明しようか迷ったが、高校の単位制や必修単位、そして選択できる科目、などの存在やあづさの単位修得の経緯を上手く説明できる気がしなかったので諦めた。

「ま、そうなのよ。私、優秀なの。……だから学校側も私の対応、ちょっと困ってるみたい」

 その代わり、ギルヴァスにも分かるように説明する。

「私はいきなり入ってきちゃった優等生だから、まずそこで困ったみたい。それから……こっちの方が困ってると思うけど、保護者と連絡、ほとんどとれないからね。だからその分、私が行方不明になったら困ると思うわ」

 あづさは学校のことを思い出しつつそう言って、ため息を吐いた。ほとんど連絡のつかない両親に宛てて何度も何度も繋がらない電話をかけ続ける担任の教員の姿が目に浮かぶ。かわいそうなことしちゃったわね、とあづさは思ったが、まあ、それくらいの苦労はかけてやってもいいだろう、とも思う。しかし、自分が相手に迷惑をかける、というのは、少々いただけない。

「っていうことで、連絡を入れるとしたら、学校。そういうわけなの」

「成程なあ。つまり君の場合、学校とやらが保護者代わり、ということか」

「まあ、そんなものかもね」

 あづさは苦笑しつつそう答え、それから、両親のことを思い出す。最後に会ったのは何時だったか。母はまだ、季節ごとに一度くらいは帰ってくるが、父が最後に帰ってきたのは去年の年末だったか。つまり1年近く、あづさは父に会っていない。そして母は年末には戻ってこなかったので、父と母はもう、1年以上会っていないはずである。

 放任主義、と言えば聞こえはいいが、見方によっては育児放棄だ。無論あづさとしても育児されている自覚は無いし、必要だとも思っていない。むしろ、両親が居ない方が居心地は良かった。『身軽』というのは、悪くない。特に、あづさのような気質の者には。

「だから、まあ……そうね。ある意味、私、元の世界に会いたい人って、居ないのよ」

 そんな有様だったので、あづさが元の世界に戻らなければならない理由に『会いたい人がいるから』というものは含まれていないのだ。




 話を聞いていたギルヴァスは、疑問に思う。

 あづさは、元の世界に戻りたい理由を持っていないように見えた。会いたい人は居ない、というのならば、では、何だろうか。

 1つには、責任感だろう。あづさはもし自分が消えるとしても、後に残された人々が迷惑を被らないように処理してから消えていこうとする性質のように見える。学校のことを心配しているあたりからも、その性分は見て取れる。

 ……だが、それだけではないだろう。あづさは責任感が強く、他人に世話をかけることを好まないようではあったが……自分が消えて迷惑を被る誰かが居るから、という理由以上に何か、別の理由があるのだろうと思われた。

 そう。1年間この世界に居ることを、あづさは了承している。ならば、最悪1年経ってでも戻る意味があるということだ。

 だがその理由が人ではないとして……ならば、物か、事か。

 ……ふと、ギルヴァスは思い出す。

「あづさ。君は……」

「あら?」

 だが、ギルヴァスが何か言おうとした時、あづさはふと声を上げた。


 あづさは、電子辞書の画面の端……時計機能のデジタル数字を見ていた。

「19時、3分……?」




「どういうこと……?」

 あづさはまじまじと、電子辞書の画面を見つめる。

 電子辞書の画面には、あづさが元の世界に居た最後の日の日付があり、そして、その横に『19時3分』と時刻があった。

「ん?どうかしたか」

 ギルヴァスはあづさの様子に首を傾げていたが……あづさは、じっと黙って考え……そして、言った。

「……志望校調査票、が、無かったのは……提出した、から?」

「え?」

「無くなってたの。私の鞄から、あの日提出するはずだった書類が、1枚だけ。……でも、どう考えてもおかしかったのよ。私はこの城に来てからずっと、鞄は自分の部屋に置いてたし、部屋には鍵がかかってたわ。そのほかの時間で鞄が部屋の外にあったのは、私が城に来る前まで。だから、あなた以外の人は誰も盗めなかったのよ」

「お、俺は盗んでないぞ!?」

「そんなこと分かってるわよ。だってあなたには盗む理由がないもの。大体、そんな紙が私の鞄に入ってたことだって、知らなかったんじゃない?」

 そう。あづさが悩んでいたのは、唯一あづさの鞄から志望校希望調査を盗み出せたのがギルヴァスであり、しかしそれでいて、彼にはそんなものを盗む理由がない、ということだったのだ。

 そして他の何者かが盗もうにも、『そもそもあづさの志望校希望調査が存在している事など知らない』。よって、目的を持ってあづさの持ち物を漁ったとは考えにくい。

 ならば事故で失われたか、とも思ったが、流石にそれも考えにくい。

「でもこれで、なんで無くなったのか分かったわ」

 あづさは呼吸を整えて、言った。

「私、朝、家を出ようとした時から、この世界に来たんだと思ってた。でも、違ったのよ。私の時計が示してた時間も、朝の7時3分じゃなくて、夜の19時3分だったんだわ。だから私はきっと、普通に学校に行って……志望校調査票を、提出したのよ」


「私……記憶がなくなってる。この世界に来る直前から12時間前までの記憶が、無いんだわ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 謎が解けても謎のまま! 続きが気になります!
[良い点] 更新ありがとうございます。 あづさの計算高さと大胆さにハラハラわくわくで読ませて頂いてます。 [気になる点] これを正解した方がいたんですね。 むむ、すごい。 なぜここにたどり着けたのか…
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