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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
65/161

65話

「……何故、このような」

「だから、言ってるでしょ?あなたに和平を持ち掛けに来たのよ、って」

 オデッティアが苛立ちでも憎しみでもなく困惑を表しているのを見て、あづさは微笑んだ。

「もう少し言わせてもらうと、今の水の四天王団の力って、あなたによるものが大きすぎると判断されたからよ。あなたは優秀だわ。だから、あなたが居なくなった水の四天王団は間違いなく不安定になるでしょうし、そんなところと協力関係になったって、足引っ張られるだけだもの」

 いっそ冷たいまでに理性的な言葉を投げかければ、オデッティアは真剣にあづさの言葉を吟味し……そして、まあ納得がいく、とでもいうかのように頷いた。

「もう少し言っちゃえば、私が価値を見出したのは水の四天王団でもあったけれど、オデッティア・ランジャオという個人でもあったの。どちらか片方としか手を結べないなんて、勿体ないじゃない?」

「そうか、そうか。随分と強欲よな、あづさ」

「ありがとう。誉め言葉として受け取っておくわ」

 あづさが微笑めば、オデッティアも少々皮肉気に、口の片端を持ち上げて笑った。

「……しかし。ならば何故、殴りかかってきた?妾が欲しくば、貢物でも持ってくれば良かっただろう?」

 そして続いたオデッティアの言葉に、ギルヴァスが気まずそうに答えた。

「いや、それは本当にすまなかったが……ああでもしないと、お前にとって俺は『四天王最弱』のままだっただろうからなあ……」

「……あなたにとって、私達が手を組む価値がある相手だって、証明する必要があったのよ」

 あづさもそう言いつつ、オデッティアのじっとりとした視線を受け止めていた。先に手を出してきたのはオデッティアだったというのに、何とも理不尽な視線である。

「どうだ、これで俺達の支援がお前にとっても価値がありそうだと、思ってくれたか?」

 だがギルヴァスがそう改めて問えば……オデッティアは深々とため息を吐いて、気だるげに頭を振った。

「……全く。とんでもない連中だ。実に気に食わん。……だが、妾の負けよな。ならば敗者である以上、受け入れてやろうぞ」

 そしてオデッティアの手が動く。

 深い青のインクが入れられた貝殻の中へ、魚のひれのペン先を浸し、そのペンを優雅に動かす。

 ……そして契約書には、ギルヴァスの名前の隣にオデッティアの名前が書き込まれたのだった。




 疲れたから寝る、と言ってペンを放り出したオデッティアを寝室まで運んでから、あづさとギルヴァスはあづさに割り当てられた客室でようやく休憩をとることができた。

「……夢でも見ているような気分だ。まさか、オデッティアと和平を結べるとは」

 手近な椅子に座るや否や、ギルヴァスはそう言って、深く感嘆のため息を吐き出した。

『四天王最弱』と言われ蔑まれてきた彼が、四天王の1人として、他の四天王と対等に渡り合っている。その事実が、ギルヴァスにとって酷く現実味がない。

「当然でしょ?私が居るんだもの」

 だがあづさはそう言って、ギルヴァスの感慨を笑い飛ばすように笑みを浮かべた。

「それに、まあ。彼女、あなたが思ってるよりは分かりやすい弱点があったもの」

 ぽすん、と音を立てつつベッドの上に腰を下ろし……不思議そうにこちらを見るギルヴァスを見返して、言った。

「彼女、自分の力だけでなんとかしようとしすぎだったのよ」


「1人でできることなんて限られてるわ。交代要員もいないんじゃ休むことだってできないし。それじゃあ負けて当然よね」

 ルカやミラリアの様子を見ていても、オデッティアの支配の強さはよく分かった。

 ではその強い支配が示すものは何か、と言えば……オデッティアの求心力の乏しさ。そして、オデッティアが1人で部下の全てを操っているという事実。

 つまり、オデッティア1人に大きな負担がかかるような、水の四天王団の構造の証明。

 ならば、オデッティア1人を消耗させればいい。それだけで、水の四天王団全体の能力が落ちる。事実、オデッティアをできるだけ休ませないように意識して事を運んだおかげで、水の四天王団相手に勝利を収めることができた。

「そうか。そう言われてみれば確かに……」

「個人として強くても、組織としては脆弱。それが水の四天王団の最大の弱点だった、ってことね」

 あづさの解説に、ギルヴァスは納得がいったように頷き……そしてふと、零した。

「オデッティアは1人で……随分と難しいことをしていたんだな」

 純粋かつ単純な感想に、あづさは少々面食らった。だが、どこか寂し気なギルヴァスの言葉を聞いて、あづさもまた、そう思う。

「そうね。……1人で生きていくのって、すごく難しいことだと思うわ」

 妙に実感の籠もってしまう自分の言葉を嫌に思いつつ、あづさはそう言ってため息を吐く。

「だが君ならなんとかできてしまいそうだなあ」

 そんなあづさを見て何を思ったか、ギルヴァスはそう言って苦笑した。これにはあづさも、苦笑せざるを得ない。

「……そうね。高望みしなければ、1人でだって生きていけるわ、私。そこそこ器用な性質だし。自分で言うのもなんだけど、頭は悪くないつもりよ」

 あづさは1人でも生きられる。誰の手も真には取らず、何なら他人を蹴落として、生きていける。

「でも、それって私が望む生き方じゃないから」

 ……だが、あづさはそれを望まなかった。ただ、それだけのことだ。あづさは望んでいなかった。1人で生きることなど。


「なら、俺は君に存分に高望みしてもらわないとなあ。高望みしなければ1人でも生きていける、ということは、高望みするには他者の力が必要、ということだろう?」

 ギルヴァスは、そう言って笑う。あづさの表情に何かを感じ取ったのかもしれないし、何も考えずにあづさが言ってほしい言葉を探り当てたのかもしれない。

「そうか。なんとなく分かったぞ。君が高望みをするのは見ていて楽しい、と以前言ったが……あれはどうやら、俺が誰かを助けているという実感が嬉しかったみたいだ」

「……そう」

「ああ。そういうわけで今後ともよろしく頼むぞ、参謀殿」

 ギルヴァスの言葉が、嬉しかった。

 あづさはそう感じつつ、しかしそれを悟られないようにため息を吐く。

「あなたって本当に、善人よね」

「そうか?」

「ええ」

 だが、ギルヴァスが『言わない方が良かったことを言ってしまっただろうか』というような顔をしているのを見て……堪えきれず、笑いだした。

「そういうところ、魅力的だと思うわ。とっても!」




 それからあづさとギルヴァスは、それぞれの状況がどうだったかを取り留めもなく話し続けた。

 重要な情報はスライムを通じて知らせ合っていたが、子細な情報はそうもいかない。また、最後にスライムでやり取りをした時以降の情報はほとんど分かっていなかったのである。

 あづさは主に、自分に嵌められた首輪の話をした。ギルヴァスとしてはそのあたりのことが特に気になったらしい。

 その話の中で、あづさが偽物のギルヴァスの頭を踏んだ話をすると、流石にギルヴァスも苦笑していたが。

「……しかし、よく俺が偽物だと分かったなあ」

 そうして一通りの顛末を話した後、ギルヴァスはそんな感想を漏らした。

「ああ、それ?ええとね、カマ掛けたのよ。『本物のギルヴァスは服に隠れるところにちょっと傷があるのよ』ってね」

『踏んだ時の反応がらしくなかった』という情報は伏せつつ、あづさはそう答える。すると、感心しきりだったギルヴァスはふと、目を瞬かせて……頷く。

「……ふむ」

 そしていきなり、服を脱ぎ始めた。

「ちょ、ちょっと!なにしてんのよ!」

「いや、少々見苦しいが、君には見せておこうと思って」

 どういう趣味よ、と罵りかけたあづさだったが、ギルヴァスがシャツを脱いであづさに背を向けた時、そんな言葉はどこかに消え失せてしまった。

「……それ、どうしたの?」

「うん。100年ほど前、俺の部下だった男にやられた傷だ」

 ギルヴァスの背には一筋、深く傷痕があった。




「俺が勇者に『負けた』後、ほとんどの種族が地の四天王団を離れた。……今は魔王城の警備をしているが、リザードマンの一族も、元々は地の四天王団の一員だった」

 あづさは思い出す。魔王城の前の門で、ギルヴァスに明確な敵意を向けてきたリザードマン達の姿を。……あの時から、何かあったのだろうか、と気になってはいたが、まさか、元々は部下だったとは。

「俺が勇者と話して、勇者が去った後。その日の夜、リザードマンの隊長が部屋にやってきてな。今後の話をしていたら、いきなり背後からやられた」

 ギルヴァスの背に残る深い傷痕、その周辺で引き攣れる皮膚。そういったものから、ギルヴァスを傷つけたリザードマンは恐らく、殺す気だったのだろうな、と読み取ることができた。

 紛れもない、裏切りである。背中を見せるほどに心を許していたのだろう相手に突然裏切られて、ギルヴァスは何を思ったのだろう。

「……一番信頼していた部下だった。俺が四天王に就任してすぐからずっと一緒に居た奴でなあ。付き合いも長かったし、気心も知れていて、唯一無二の相手だった。気質の違いはあったが、うまくやれていた、と、思っていた」

 思い出すようにそう言葉を重ねて……それからギルヴァスは、言った。

「だが、俺が人間の国と和平を結ぼうと提案したことは、許せなかったらしい」





「人間の国と、和平を……?どういうこと?」

 あづさはベッドの上に座り直しながら、混乱する。ギルヴァスはそもそも、勇者に『負けた』からこそ、四天王最弱として蔑まれ、魔王軍の中でも冷遇されていた、ということではなかったのか。それが、人間の国と和平、とは。

「ああ。そうだな。もう、隠すようなことでもないだろう」

 ギルヴァスはあづさの隣に腰かけて、話し始めた。

「俺は勇者と戦わなかった。ただ、先代の魔王様と勇者と協力して、魔物の国と人間の国の融和を目指していた」


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