第12話 禁足地
「──次のタ─ゲットについて説明する。作戦会議室に来い」
陣の召集で俺たちは会議室に集められていた。
壁際には資料が積まれ、重苦しい空気が張り詰めている。
「今回のターゲットは獣型現象体だ。
コードネームは『鸚鵡』。発見されてからまだ浅く、調査中ではあるが......推定で参、高くても弐等級と見られている」
陣の声に、楓が手を挙げた。
「......あれ? 普段なら観測課の調査がもう少し進んでから作戦に入りますよね。今回はもう出るんですか?」
「ああ。なんせ出現場所が“禁足地”だからな」
陣の眼差しが鋭さを増す。
「あの区域は未知の要素が多すぎる。たとえ等級の低い現象体でも、放置すれば何が起こるかわからん」
「なるほど......。ただ、少し不安ですね」
楓が小声で漏らす。
「その通りだ。能力の詳細も不明である以上、くれぐれも注意して収容に臨んでほしい」
その一言で会議室の空気がさらに重くなった。
やがて一人ひとりの手元に資料が配られる。
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─国家現象管理機関_怪異収容局_現象体収容指示書─
記録名:鸚鵡《愚者ノ呼》
案件符:ACB-朱印-獣-021
等級:調査中
目撃場所:禁足地██████付近にて目撃。
禍境範囲:半径13m(推定)
出現条件:調査中。
現象概要:
禁足地██████付近にて出現が確認されていますが、この地区はACB管理区画である為、生体及び現象体の侵入は許可されていません。
従って、本対象は封印を破る、もしくは何らかの方法で突破した現象体である可能性が高いと見られています。
具体的な能力についてはまだ調査中である為、細心の注意の元、対処に臨んでください。
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資料を眺めながら、俺は唾を飲み込んだ。
「......まだ“現象体”かどうかも怪しいってことか」
周囲でも小さなざわめきが広がる。
その中で陣が指示を出した。
「調査段階のため、資料は参考程度に留めろ。現場では経験と判断を優先する。臨機応変に対応せよ」
彼は間を置き、言葉を続ける。
「禁足地での作戦ゆえ、輸送は極秘だ。装備を整えた者から目隠しをして出発待機室へ集合せよ。以上」
──こうして会議は終わり、それぞれが装備の準備に取りかかった。
「目隠し、つけてもらってもいいですか?」
楓に言われ、俺は黒布を手に取る。特殊な紋様が編み込まれていて、ただの布には見えない。
つけ終わると、代わりに楓が俺に目隠しを結んでくれた。思ったよりも優しい手つきだった。
「タマさんにもつけてあげますね」
タマは素直に頭を差し出す。楓がよしよしと撫でてから布を結ぶと、タマは満足げに尻尾を揺らした。
奇妙なことに、目隠しをつけても視界は塞がれない。
歩いて待機室に向かう間も普段通りに見える。きっとACBの技術なのだろう。
全員が揃うと特殊車両に乗り込む。
その瞬間、視界が一気に闇に沈んだ。
──そして、俺は意識を手放した。
───
──
─
「おい、起きろ」
突然の声で目が覚める。
ゆっくりと目隠しを外すと、そこには陣がいた。
「皆もう出ている。お前も早くこい。」
目を擦りながら車両を降りると、外の空気は重く湿っていた。
「出たら楓たちと合流し、指示を受けろ」
そう言い残し、陣は朱印職員の方へ歩き去る。
俺は大きく息を吸い込み、顔を上げた──
「......っ!」
目に飛び込んできた光景に、眠気は一瞬で吹き飛んだ。
───禁足地
鬱蒼とした森の中に、不自然なほど広大な空間が開けていた。
荒れた草原を囲うように無数の杭が打ち込まれ、それぞれに札がぎっしりと貼られている。
曇天の下、ひりつく空気は嵐の前触れのようにざわめいていた。
圧倒的な景色に息を呑みつつ、俺は楓たちの姿を見つけて歩き出す。
「お前さん、おそいぞ!」
タマが尻尾を振りながらこちらを向く。楓の隣で、何やら作業をしていたようだ。
「おはようございます♪初めてにしては早起きな方ですよ」
楓が笑いながらフォロ─してくれた。
作戦内容はこうだ。
観測課が設置する「再現灯」で出現時の環境を復元し、そこから現象体を呼び出す。
俺たちはそれを無力化し、収容する。
「......再現灯って?」
尋ねると楓が答える。
「出現当時の環境を複製して、発生条件を再現する装置です。その結果を元に出現条件を特定します」
なるほど......。
俺は再現灯の中心に意識を集中させ、404を構えた。
やがて灯火が揺れ、空間が震える。
皆が見守る中、突如鳥の影が飛び出した。
「鸚鵡だ!撃て!」
号令と共に一斉に銃声が轟く。
閃光と爆音が世界を包み、視界が真白に塗り潰される。
数秒後───
そこに横たわっていたのは、、、半人、半鳥の異形。
「油断するな!異相封印器を展開、急げ!
その他は封印符の準備!いつでも打てるように構えろ!」
保安課が素早く動く。しかし次の瞬間、鸚鵡が首をもたげた。
────繧ョ繝」繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繝ウ!!!!!!
耳を裂く金切り声。
思わず耳を押さえる。
しかし、その横で、陣が冷静に封印符を打ち込んだ。
光が走り、現象体は異相封印器に吸い込まれて消えていく。
「......収容、完了」
楓が呟いた。
だが胸の奥に、どうしようもない違和感が残った。
呆気なさすぎる。
タマも鋭い目をしていた。
そして、その予感は現実となる。
地面が黒く染まり、振動が走った。
大地が盛り上がり、漆黒の柱がそびえ立つ。
「なんだ......あれ」
現象体...なのか...?
少なくとも、この世のものではないことは本能的に感じることができる。
すると、ここで異変が起き始めた。
──バタッ。
柱の近くにいた職員が倒れる。
それを皮切りに付近の職員達が次々と崩れ落ち始めた。
「お前さん!狐の瞳を!」
タマに急かされ、祝詩を唱える。
ゆらぁ──
「...あれは...霧...?」
柱からは何か黒い瘴気のようなものが溢れ出ている。
「吸い込めば命を持っていかれるぞ」
タマの言葉に体が震える。
今までとは明らかに次元の違う怪異に圧倒される。
すると、そこへ鎮圧課が駆けつけた。
「狼狽えるな。まずは防穢マスクを装着。落ち着いて照準を定めろ。」
朱印職員が冷静に指示をする。
圧倒される保安課に対し、鎮圧課職員は鋭い眼差しで銃口を向ける。
銃身に刻まれた番号は「500」。
「撃て。」
号令とともにレーザーのような光が放たれ、柱に直撃する。
しかし、構造物には傷一つついていない。
「鎮圧課でもダメか...」
──そう思った瞬間、構造物が徐々に崩壊し始めた。
表面には傷一つないものの、内部ではボコボコと破壊音が聞こえる。
流石にこうなっては現象体もなす術がないだろう。
鎮圧課によって圧倒される様を俺たちは傍観していた。
崩れ落ちる構造物の中、中心に違和感を感じる。
黒い...箱?
絶えず射出され続ける光線の中、その箱がゆっくりと開く。
コォォォォォ───
黒い霧と共に少女が姿を現す。
体表には黒い粘性のある物体が這い回っている。
そして徐に付近の鎮圧課職員に対して手をかざした。
───パァンッ!
刹那、人間が一瞬で破裂し、肉塊に変わる。
「な......!」
理解が追いつかない。
少女はゆっくりと歩みを進め、次々と肉塊を増やしていく。
鎮圧課も抵抗するが、少女の手から生成される鉱石によって攻撃は反射させられてしまった。
先ほどまでは冷静だった隊員たちの動きも次第に乱れていく。
「ひとまず退くぞ!」
タマの声で我に帰り、隣で呆気に取られていた楓の手を引いて後退する。
その時、禁足地の入口から黒い集団が現れた。
重装備の人影。その胸に刻まれた印は…
「───黒印職員。」




