83話 サムライソード
大国レオアードの侵攻によって、窮地に立たされているというヴァルゴルを救出する為に、俺達はヴァルゴルの大森林をカイムの道案内に従って進んでいた。
万物の声が聞こえるカイムの能力ならば、迷宮のような森であったも安心して進む事ができる。
だから俺達も安心して、彼女の後に続いていたのだが……
「……え? それ、本当なの?!」
「カイム?」
先頭を歩いていたカイムが、唐突に戸惑ったような声をあげる。
そしてそのまま、俺達の方へと向き直ると――
「た、大変かもっ!! レオアードの獣人兵達が、エルフ達に乱暴しようとしているって!!」
「なんだって!? それは本当か!?」
「うん、森が言ってる。このままだと、エルフ達が殺されちゃうかもって……」
悲しそうに顔を伏せながら、目尻に浮かんだ涙を拭うカイム。
これまで共に暮らしてきた仲間が酷い目に遭わされようとしているのだから、彼女も自分の事のように辛いのだろう。
「うへぇ。エルフ達のヤワな体じゃ、獣人兵達の乱暴は堪えるだろうね」
「がうぅぅぅぅぅぅっ!!」
「ダーリン? いかがなさいますかぁ?」
「勿論、助けに行くに決まってるだろ。カイム、方角はどっちだ?」
今回の作戦はなるべく敵との接触は避けるべきなのだが、誰かの命が掛かっているのならば……もはや方法は選んではいられない。
「すぐ近く……この道をまっすぐ行った先に、エルフ達の牧場があるから。そこに、レオアードの兵士達と、捕まっているエルフ達がいるって」
「オッケー。それじゃあ……ゴエティア!!」
俺は久しぶりに、右手にゴエティアを出現させると……すぐ傍に控える彼女のページを開く。
そういえば、彼女を憑依するのは初めてだな。
「ハルるん。お前の力、貸して貰うぞ」
「はぁいっ!! やっと!! やっとダーリンと一つになれるんですねぇっ!!」
これから憑依されると聞いて、歓喜に満ちた大声を張り上げるハルるん。
彼女の能力は少し特殊だが、以前ルカを憑依した時のように……きっと、なんとか使いこなせると信じたい。
「ハルファス、オープン!! 汝の力を我が物とせよ!!」」
「あぁんっ!! ダーリンと一つにぃぃぃぃぃっ!!」
俺が呪文を唱えた瞬間、ハルファスは光の粒子となって俺の体に吸い込まれる。
それと同時に俺の体から、バチバチバチッと金色の電光が迸るが……特に、体二異常は見られない。
ちゃんと憑依は成功したようだ。
(はぁ、はぁ、はぁんっ、あぁぁん……ダーリンの体の中にぃ、私が入っちゃってますぅ……一緒の体にぃ、私達の魂が溶け合っちゃってますぅ……!!)
「カイム、ラウム、フロン。俺は一足先に、エルフ達を助けに行ってくる!」
頭の中ではハルるんがかなりエキサイトしているが、今はそれに構っている暇は無い。
俺は後ろに控えるみんなに確認を取ると、素早いスタートを切る為に膝を曲げる。
「了解したよ、新マスター君。どうせボク達のスピードじゃ、ハルファスを憑依した新マスター君には追いつけないからね」
「がううっ!! がうががう!!」
「ミコトっち、お願いだから……みんなを、助けてあげて欲しいかも」
「ああ、任せておけ」
俺はそう答えるのと同時に、思いっきり力を込めて地面を蹴る。
魔神の力によって増幅された俺の筋力は、一般的な男子高校生の限界を数十倍は上回る速度を生み出し……弾丸のように森の中を突っ切っていく。
「うむっ!? これは中々に速いな……!」
「ベリアル、振り落とされるなよ!」
「当然じゃ。お前の手綱を握れるのは、この儂を置いて他にはおらん」
俺の頭のベリアルも、しっかりと俺の頭を掴んで振り落とされないようにしがみついている。
その事を確認した俺は、もっとスピードを上げるべく、更なる力を足に込めた。
(あぁぁん、ダーリン!! 走るお姿も格好良いだなんて反則過ぎますぅ!)
「褒めて貰えるのは嬉しいけど、お前の能力の使い方を教えてくれないか?」
(はぁいっ! 私の魔神装具【武給庫テルムチェラ】は、自分が思い描いたありとあらゆる武器を具現化して生み出せる力ですぅ! 頭の中で想像する事で創造した後は、適当な空間から取り出せますよぉ!)
「思い描いて……取り出す、か」
能力そのものは分かっていたけど、改めて聞くと凄まじい能力だ。
後はそれを、俺が使いこなせるかどうか――
「武器を作り出すなら、刀がいいかな」
風を切るようにして森の中を駆け抜けながら……俺は想像する。
日本男児なら、一度は憧れるであろう武器――刀。
時代劇なんかでよく見て、暴れん坊な将軍が振り回している姿を目に焼き付けているあの武器なら――なんとか俺にでも振り回せるかもしれない。
後は、その形状をイメージして……それを脳裏に焼き付けて。
「っ!!」
ガキンッと、脳内で金属音が響く。
それはまるで、刀が鞘に収められた時のような音。
そして、なんとなくだが分かる。
今この瞬間、俺のイメージした刀が――テルムチェラの中に生まれたのだと。
「後はこれを、取り出すだけ……!!」
走りながら、俺は右手を何もない虚空へと突き出す。
すると、俺の右手の肘から先は、空間に開いた裂け目の中へと消えていき――その奥で、指先が何かに触れる。
「これだ!!」
グッと力強く右手を閉じて、刀の柄を握り締めた俺は――そのままソレを空間の裂け目から引き抜いた。
「おお、できた!!」
引き抜かれた腕の先には、俺が思い描いた物通りの日本刀が存在していた。
長さは1メートルくらいで、重さは1キロちょっとくらい。
刃こぼれ一つ無い直刃の日本刀……やべぇ格好良い。
「ほぅ? 珍しい形状の剣じゃな」
「ああ、これは日本刀って呼ばれる剣だよ。凄く硬いんだ」
(わ、私とダーリンの初めての共同作業によって生まれた剣……!! はわわわわわわっ!! 結婚!! これはもうケーキ入刀に使うしか!!)
「日本刀でケーキを切りたくはないなぁ。特に、戦闘に使った後は」
相手が話し合いで済ませてくれるのなら、この刀を振るう必要は無い。
だけど、非常に残念な事に……そう上手くは事が運ばないようだ。
「それに、俺達の共同作業は……これからが本番みたいだぞ」
(……そうですねぇ。折角の良い気分を台無しにしてくれたぁ、あの方達を始末するのが先ですぅ)
一直線に走り続けて、ようやく開けてきた視界。
森の中とは思えないほど、広大な平原が広がるその一角に――彼らはいた。
「ひゃはははははっ!! まずはこのガキからぶっ殺してやるぜ!!」
「っ!!」
拘束されて傷だらけの少女達と、そんな少女達に剣を振り下ろそうとしている鎧姿の獣人達。
どちらが悪い奴なのかなんて、確認するまでもない。
「ざっけんなよっ!!」
涙を流し、震えながら、それでも毅然と……武器を持った相手に立ち向かおうとしているエルフの少女。
そんな気高い少女の想いを、あの連中が暴力に物を言わせて踏みにじろうとしているのなら。
「……ひゃは? な、なんだぁ!?」
「オレ達の剣が……!?」
俺が守る。
どれだけ多くの敵が、刃が。
無垢な彼女達へ、襲いかかろうとも。
「お前達が、レオアードの兵士達か……!」
その全てを、俺がへし折ってみせる。
「な、なんだ!? てめぇは!?」
「通りすがりの美少女の味方だよ!! 覚えておけ!!」
俺は、下品な野郎相手には微塵も容赦しねぇからな。
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