81話 あまえんぼ魔神と優しい魔神
まだ太陽が真上に上りきる、少し前。
涼しさの残る朝の内に、俺達はユーディリアを出発した。
それから、見渡す限りの豊かな緑の平原が続く異世界の土地を歩き続けて……およそ、一時間くらいが経っただろうか。
未だに目的地であるヴァルゴル大森林は見えてこず、いつまでも代わり映えのしない景色に……ほんの僅かに、飽きが出始めてきた頃。
「はひぃ……はひぃ、だっりぃ……キツイ、かもぉ……」
最初に先陣を切っていた筈のカイムは、今や汗だくで足を引きずりながら歩いている状態で……最後尾まで後退してしまっていた。
元々体力は無さそうなタイプに見えたけど、まさかここまでの虚弱気質だとは思わなかったな。
「随分鈍ったね、カイム。いくら中立の国で過ごしていたからってさ」
「ぜぇっ、はひぃっ……ボクちゃんは、頭脳担当だから……仕方ないかも」
汗に濡れた前髪を手櫛で整えつつ、なんとか俺達から離されないように付いてくるカイム。しかしその限界が近い事は、もう目に見えて明らかだ。
ここらで一度、休憩を挟むべきか。
俺がそう、提案しようとしたタイミングだった。
「がうっ!! ががーうがーうがう!」
「はひぃ……はひぃ……え? ビフロンス、まさかボクちゃんを!?」
「がーうっ!! がうががが、がーうー!!」
足を引きずるカイムの前で腰を下ろし、おんぶの体勢を取るフロン。
彼女がなんと言っているのかはラウムにしか通じないが、俺も、カイムも、フロンがどういう意図でその行動を取ったのかは容易に理解できる。
「わぁ、天の助けかもぉ……ありがとー、ビフロンス」
「がうっ!!」
フロンの申し出に甘えて、カイムはその背中に体を預ける。
肉付きの豊かなその体は決して軽くはない筈だが、魔神であるフロンにとっては大した重量ではないのだろう。
フロンはカイムを背中におぶったまま軽々と立ち上がると、グッと右手の親指を立ててサムズアップをしてみせた。
「ああもう。君は本当に優しいね、ビフロンス」
「流石ですねぇ、ビフロンスさん。魔神が全員、アナタのような方ならぁ、ダーリンの側室として認めてあげなくもありませんのにぃ」
「うむ。昔からお前は品行方正……魔神らしからぬ、魔神じゃったな」
「がうぅ~……」
ラウム達からも褒められて、照れ臭そうに体を揺らすフロン。
その動きに合わせて、あの巨大なお胸が右に左に、上に下に……揺れる揺れる。
ああ、たまりません。
「助かるよ、フロン。ありがとな」
「がうっ!!」
俺がお礼を言うと、フロンはカイムを背中におぶった体勢のまま、俺の前にずいっと頭を突き出してくる。
これは多分、ご褒美をおねだりしているのだろう。
「よしよし、偉いぞー」
「がーがーうーうーっ!!
ご要望通りに頭を撫でてあげると、フロンは嬉しそうな声を上げる。
隣では少し悔しそうな顔をしたハルるんがいたけど、今回のナデナデは正当な報酬であるからか、いつものように割って入ろうとはしてこない。
「ミコトっち! ついでにボクちゃんの頭も撫でても、いいかもー!」
「……カイムさぁーん?」
「冗談かも。こんな汗でベトベトの頭には、触らないで欲しいかも」
しかし流石に、カイムに対しての牽制は入れるようだ。
ハルるん、そこんとこは抜け目がないな。
「いつまでくだらん話をしておる。カイムの問題が解決したのなら、遅れを取り戻す為にも先を急ぐぞ」
「おっと、悪い。それじゃあ改めて、出発しよう」
「そうだね。早いとこ、ムルムル達を助け出してあげたいし」
ベリアルの一声もあって、俺達は少しだけ歩く速度を早める。
頭に乗っかっているだけのコイツに急げと言われるのは妙な気分だが、実際急ぐに越した事はないので……まぁいいか。
「がぁう、がうがう、ががーががーう、ががーう」
「はひはひはひっ、楽チン、極楽、大助かりかもー」
頭を撫でられてすっかりご機嫌のフロンと、背負ってもらえた事で一気に顔色の変わったカイム。
体格こそ大きいものの、メリハリのある素晴らしいムチムチボディと、小柄な低身長ながらもブニブニと肉が付いているだらしなボディ。
彼女達の間、どこで差が付いたのかは……言わずもがな。
「……契約を交わしたら、俺が変えてやらないと」
刻一刻と、ヴァルゴル到着の時間が差し迫ってくる中。
これから巻き起こる騒動の過酷さを知る由もなく、俺は呑気にそんな事を考えていた。
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