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75話 お相手は支配者クラス?

「ヴァルゴルに、レオアードの侵攻軍……だって?」


 あまりにも突飛すぎるカイムの話に、俺は勿論の事……他の魔神少女達もポカンとした表情で口を半開きにし、首を傾げている。

 驚いていないのは事態の深刻さを分からずにいるルカと、既に話を聞き及んでいたと思われるアンマリーくらいなものだ。


「もしかして、ヴァルゴルがレオアードに侵略されちゃったって事なのか?」


「うん、そういう事。既にヴァルゴルはレオアードのクソ獣人共に制圧されちゃって、住人達の大半が捕虜になってる的なー。今頃、ボクちゃんの仲間の魔神達も、全員やられて掴まっちゃっているのかもー」


 軽い口ぶりで話すカイムだが、その内容は実に深刻だ。

 カイムを含む複数の魔神達が敗北し、国を占領されてしまったなんて……!


「ふんっ、信じ難いわね。ヴァルゴルの大森林は空を飛べるアタシでも攻略できない程の迷宮よ。それを、レオアードが攻略したっていうわけ?」


「そんな事、ボクちゃんに言われても困るかも! こっちとしても、昨日突然、アイツ等がいきなり攻め込まれたんだから!」

 

「あやややや。まぁ、そう興奮せずにお話を聞かせてくださいカイム氏。アナタもこの手前めと同じ、弁の立つ魔神としての側面を持つのですからね。アナタのお話を最後まで聞けば、そこの分からず屋も納得するでしょう」


「……はぁ、いいよ。怒って、無駄に体力使うのも馬鹿らしいかもー」


 真っ向から否定に入るフェニスの態度に怒りを顕にするカイムだったが、そこにドレアがナイスフォローを挟む事で落ち着かせる。

 流石は魔神随一の口先を持つドレア。こういう時には本当に心強い。


「カイムよ。どのようにレオアードが侵攻を成功させたのかは後で考えるとして、まずはヴァルゴルに所属していたお前の仲間の魔神について話すのじゃ」


「わぁ……なんだかすっげぇー偉そうな人形がいるし。はひ、はひひひっ、ベリアルにそっくりとか面白いかもー」


「そのベリアルじゃ。今はわけあって、こんな仮の姿じゃがな」


「はひゃー!? 本物のベリアル!? ぶっちゃけ、ボクちゃんよりベリアルの方が変わっちゃってるかもー!」


 毎度恒例となっているベリアルの現在の姿を知って驚く魔神の図を挟みつつ、カイムはその場でしゃがみこんで胡座をかく。

 まぁベリアルの元の姿を知ってしまった今の俺なら、毎回毎回この流れを繰り返す理由はよく分かるのだけど。


「そんな事はどうでもよい。いいから話せ」


「はーい。そんじゃ話すけどさ。ヴァルゴルにいた魔神はムルムル、ボティス、アロケル、バティン……それとボクちゃんを合わせた5柱だよ」


 ベリアルに急かされ、カイムは少しだけ面倒そうに話し始める。しかしそんな彼女の態度とは裏腹に、これまたその内容は深刻かつ、予想を上回るものだった。

 

「むふぁ!? 全員、総裁クラス以上の魔神達じゃないですかぁ!?」


 レオアードの侵攻を許したヴァルゴルには、総勢5柱の魔神がいた。

 それだけでも衝撃の事実であったが、更に付け加えられたルカの説明によって俺の驚きは更に増していく。

 総裁クラス以上の中位魔神達が5柱もいて、敗北を喫した程の戦力。

 もしかするとレオアードには、あのバエルと同クラスの……


「慌てるんじゃないわよ、馬鹿フルカス。今挙げられたのは確かに総裁クラスと公爵クラスだけど、全員戦闘タイプの魔神じゃないわ」


「あやややや、手前めやアスタロト氏のようなタイプでしたら戦闘力はそこまで高くないですから。無論それでも、相当な強さは持っていますが」


「で、ですよね。いくらなんでも、そう易々とあのクラスの魔神が自ら他国に攻め入る事なんてありえませんよね? あのバエルだって、そうでしたし……」


 そんな最悪の想定を否定したいのか、フェニス達は引き攣った笑みを浮かべながら、もっともらしい理屈を口にする。


「いんやー。ヴァルゴルに攻め込んできたのは間違いなく、支配者クラスの魔神だよー。しかもお供にはゴリゴリの武闘派公爵クラスまで連れていてさー」


 しかしカイムは遠慮する事なく淡々と、そんな彼女達の言葉を切って捨てる。

 支配者クラス。強大な力を持つソロモン72柱の魔神の中でも、最高位に位置する彼女達の能力の凄まじさは……俺も既に一度、直接対峙して理解していた。


「ちなみに支配者クラスはバラムで、公爵クラスはエリゴス。その他に数百程度の獣人兵を引き連れて襲撃してきやがった的な感じかもー」


「ふむ、バラムにエリゴスか。これはまた厄介な2柱に攻め込まれたものじゃ」


 カイムがバラムとエリゴスの名を口にした瞬間、俺の頭上のベリアルを除いた全員がビクリと反応したのを見て……俺はその2柱が只者ではない事を察する。 


「ベリアル、その2柱ってそんなに強いのか?」


「そうじゃのう。エリゴスはともかく、バラムは本来の儂より僅かに劣るくらいの強さじゃな。能力抜きなら、バエルよりも強いかもしれん」


 バエルよりも強い。

 能力抜きという前提があるにせよ、この言葉だけで容易に、バラムという魔神の強さがどれほど凄まじいのかを理解できる。

 ルカ、Gちゃん、キミィの連携攻撃をいとも簡単にいなして迎撃した、あのバエルよりも強いのならば……ヴァルゴルの5柱が敗北したのも納得だ。


「というわけで、ボクちゃんだけじゃヴァルゴルの仲間を助けるのは絶対に不可能かも。だからほら、藁にも縋る想いでアンドロマリウスにお願いしようかなって」


 ある程度事情を話し、もう十分だと感じたのか、カイムは再びゴテンとその場に寝そべり……腕枕を作りながら、気持ちよさそうに大きな欠伸をする。


「ふわぁ……っ、そしたらソロモンちゃんの生まれ変わりが戻ってきているって言うし、後は任せても大丈夫かなーって期待しているのかも。ミコトっちがヴァルゴルに行って、アイツ等を追っ払うなりやっつけるなりしてくれればさー」


「じょ、冗談じゃありませぇん!! 私の愛しいダーリンに、そんな危険な真似をさせられるわけが無いじゃないですかぁ!!」


 そんなカイムの言動に対し、真っ先に怒りの声を荒らげたのはハルるん。

 バンッと両手で机を叩き、愛らしい顔には似合わない憤怒の表情を浮かべる彼女は、今にでもカイムに飛びかかっていきそうな気迫を感じさせた。

いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。

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