73話 もったいなーい!
「ベリアル殿! 貴女程の方がいて、なんという体たらくですか!」
「むぅ、悪いのぅ。つい、はしゃぎすぎてしまったか」
フルプレートの鎧に身を包み、持ち前の気丈な振る舞いも相まって堅苦しい印象を周囲に与えるアンマリー。
そんな彼女の魔神としての階位は伯爵クラス。他に侯爵クラスや公爵クラスなどの上位の魔神がいるにも関わらず、俺の頭上のベリアルに次いで彼女が魔神達のまとめ役になっている事からも、彼女のリーダーシップが伺えるというものだ。
「主殿も主殿です。こうして魔神が増えた事は喜ばしい事ですが、くれぐれもユーディリアの秩序と風紀を乱す事の無い振る舞いを願います」
「は、はい。心得たよ、アンマリー」
そんな彼女の矛先がこちらにも向いたので、俺は思わず敬礼のポーズを採る。
するとアンマリーは、俺と視線が合った途端……ポッと頬を赤く染めて俯いた。
「……っ。そ、その呼び方も……本当はどうかと思うのですが!」
「むーふー、照れているじゃないですかー」
「あやややや。ミコト氏の雌犬である手前めには断言できます。今のアンドロマリウス氏の顔は、間違いなく発情した雌の顔ですよ」
「ふふっ、アンドロマリウスは可愛いですね。どこかの誰かさんとは大違いです」
「アスタロト!? それはワタクシの事を言っていますのぉ!?」
「だから!! そうやって騒ぎ立てるのをやめろと言っている!!」
生真面目な性格ゆえ、こうしてからかわれる事も多い彼女だが、アスタの言う通り本当に可愛い子だと思う。
しかしそんな彼女と、俺は未だ契約を交わしていない。
前世であるソロモン王と比べて格段に不甲斐ない俺を、まだ信用しきれていない事が理由らしいので……俺が成長さえすれば、いずれ契約してくれるとは思うが。
「ごほん!! 主殿!! そんな事より、急ぎお話ししたい事がございます!」
「ああ、うん。どうぞどうぞ」
今にも爆発してしまいそうな程に顔を真っ赤にしたアンマリーの剣幕に、俺は少したじろぎながらも頷く。
「他のみんなも、少しの間だけ静かにしてくれ」
これ以上話がこじれないよう、一応念の為に他の子達にも釘を差しておく。
それに対してみんながコクリと頷いたのを確認した俺は、彼女がこの食堂に入室してきてからずっと……気になっていた事について訊ねてみる事にした。
「なぁ、アンマリー。もしかして話って……その、鎖の塊に関係しているのか?」
「はい。流石は主殿、お察しの通りです」
両腕を組んで仁王立ちするアンマリーの腰には、一本の短剣が差されている。
俺が気になったのは、その剣の柄から伸びている鎖の先が……まるで巨大な毛糸玉のように丸々とした物体となり、彼女の足元に転がっている事だ。
最初にそれを見た時は、犬か何かをリードで引き連れているかと思ったが……
「これは私の魔神装具【罪追錠シェルマニチス】です。その能力は端的に言えば【罪人を拘束する】ものだとお考えください」
「うん。ベリアルから簡単な説明は受けているよ。なんでも、相手が罪の意識を自覚していればしている程、その拘束力は増していくとか」
未契約の魔神達の能力も知っておいた方が良いと、ベリアルが修行の合間に聞かせてくれたのだ。流石に魔神全員とまではいかないが、ユーディリアに所属している魔神達全員の能力くらいは既に把握している。
「左様です。そして、主殿にご報告したい事とは勿論……コレです」
そう言うとアンマリーは、足元に転がるデカ鎖玉を軽く足で小突く。
そしてその後、鎖玉と繋がる短剣を腰の鞘から引き抜いたかと思うと、そのまま続けて怪しげな呪文をブツブツと唱え出した。
「~~~~ッ!!」
すると、彼女の足元の鎖玉はビクンッと一度大きく跳ねて……やがて、まるで携帯のバイブレーションのようにブブブブブブッと激しく揺れ始める。
それに伴い、一本、また一本と鎖が緩んでいき、まるで、雛鳥が卵から孵るかのように――彼女は鎖玉の中から姿を現した。
「ぶっべふぁー!! あーっ、じんじゃうかとおもったかもぉー!!」
「わっ!? 女の子!?」
シェルマニチスの拘束から解き放たれ、飛び出してきたのは一人の美少女。
一目見ただけで、ソロモン72柱の魔神の1柱なのだと確信させる美貌……ではあるのだが、あるのだ……が?
「……んー? んんっ?」
なんだろう、この違和感?
シャギーがかったオレンジ色の髪は肩にかかるくらいの長さで切り揃えられていて、綺麗な川のせせらぎを彷彿とさせる水色の瞳は切れ長で美しい形をしている。
しかしそんな美貌を台無しにしているのは、彼女が身に纏っている服装だ。
長い間、鎖玉に捕まっていたせいか……全身汗だくで、肌に張り付いてしまっている彼女の服装は、俺が元いた世界で言うジャージに似ている。
無論、見た目が若い美少女がジャージを着ていたとしても別に問題は無い、無いのだけど……彼女の場合は例外で、とても大きな問題を抱えていた。
「お腹が……出ている?」
ジャージの上着部分とズボン部分の間からはみ出る、ぷにっとしたお腹の贅肉。
よくよく見れば、顔の周りも少しふっくらとしているし、汗で張り付いたジャージで浮かび上がるボディラインはかなり、丸々しい。
「ぜぇー、はぁー……ふぅ、ふぅ……ちくしょー。アンドロマリウス、これはさすがにやりすぎかもぉ……ふひ、ふひぃ……」
今もなお息も絶え絶えで、自分を捕らえていたアンマリーへの恨み言を呟くぽちゃ系少女。
俺は、そんな彼女の痛々しい姿を目の当たりにして――
「この子!! なんて勿体無いんだ!!」
思わず、そんな叫びを口から吐き出してしまっていた。
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