72話 エルフ談義
「エルフと言ったのかベリアル!? 耳がピーンっと尖っていて、サラサラの金髪で、おっとり系あらあらうふふな感じで巨乳の……あのエルフか!?」
「落ち着け馬鹿者が。耳が尖っている以外は、個人差のある特徴じゃ」
「そうですよ、ミコト様。エルフの中には、フェニックスのように慎ましいお胸の子もいると思います!」
「誰が慎ましいお胸よ! アンタ達みたいな脂肪の塊とは、質が違うんだから!」
「あびゅぃー……いだ、いだいでずぅ」
ルカの余計な一言に気分を害したのか、フェニスは俺の膝の上からルカに向かって飛びかかると……そのまま両頬を思いっきり抓り始める。
フェニスの奴、これはもう完全に立ち直ったようだな。
「残念な事に、黒髪や銀髪のエルフもいましてよ。全員金髪でしたら、エルフの集落ごとワタクシのモノにしてさしあげますのに」
「そうなのか。俺のイメージとは、若干違うんだな」
まぁ、今重要なのはエルフの外見の話じゃない。
もっと詳しく話を聞きたいところだが、それはまた後にするとしよう、
「アンタのエルフのイメージは知らないけど、ユーディリアから見て東……ヴァルゴル大森林に隠れ住むエルフ達は、畜産や酪農を得意とするらしいわ」
「ヴァルゴル大森林?」
ルカの頬を未だ抓ったまま、情報を付け加えるように言葉を続ける。
「ええ。天然の迷宮森林とも呼ばれていて、森の民であるエルフ以外は一度迷い込んだが最後……二度と出られなくなると言われている場所よ」
天然の迷宮森林と来たか。
前は魔神すらも足を踏み入れると死んでしまう毒の湿地帯だったから、それと比べれば幾らかマイルドに思えるが……
「いちちち……ミコト様! そのヴァルゴル大森林も、以前のカプリコルム同様にユーディリアを守ってくれているんですよ」
「守ってくれていると言うと、ヴァルゴルの奥に好戦的な国でもあるって事か?」
「むっふー! そうです! 中立を謳うヴァルゴルと違って、その国――レオアードは本当に恐ろしい国なんです! それはもう凶暴そのものですよ!」
赤く腫れた頬を摩りながら、真剣な面持ちで語るルカ。
レオアード、か。ただでさえ厄介なアリエータと揉めている今、これ以上は他に敵を作りたくないものだけど。
「そこについては後で詳しく聞くとして、ヴァルゴルが中立っていうのは?」
「はぁい、あの国は森に引きこもっているだけでぇ、どの国とも争っていないんですよぉ。なんでも、森の中で平穏に暮らす事だけが自分達の望みらしいんですぅ」
「ふーん? それで中立ってわけか」
ハルるんの補足もあって、ヴァルゴルがどういう国なのかは分かってきた。
確かに味方に引き入れられれば大きいけど、ユーディリアの勢力に加えるとなると……彼女達の主義に反する事になってしまうかもしれない。
なにせ俺は、セフィロート中に散らばった魔神達全員と再び契約し、この世界に平和を取り戻す事を目的としているわけで。
その道中、多くの争いや戦いが待ち受けている事は間違いないからな。
「うーむ。問題はヴァルゴルにどの魔神が潜んでおるのかじゃ。強い力を持った魔神ならば、なんとしてでもこちら側に引き入れたいものじゃが」
「あやややや。ミコト氏が直接出向けばどうとでもなるかもしれませんよ? もしかするとヴァルゴルの魔神達も、手前め達と同様に……争いから逃れつつ、主となるべき存在の帰還を待ち続けているのかもしれないですし」
「ぬぅん、そうだな。仮にそうでなくても、勇士の熱い心を示せば問題ない。きっと吾らに力を貸してくれる事だろう!」
「うぇひひひひ、いいですわね。金髪以外のエルフはどうでもいいですけれど、金髪のエルフは漏れなくこのワタクシが可愛がって差し上げましてよ!!」
「まぁ、ベリト。そういう事を言うから、皆さんから嫌われているんですよ?」
「うぇひぃ!? ア、アスタロト!? そ、そんな……」
「同感ですぅ。金であればなんでもいいなんてぇ、とんだビッチ思考ですねぇ。その点この私は、ダーリン一筋!! あぁん!! 愛していますぅ!!」
「むっふぁーっ!! 私もミコト様がだぁいすきですぅー!! ハルファスには負けていられません!!」
「ああもう鬱陶しいわね!! どっちも一々発情するんじゃないわよ!」
ああでもないこうでもないと、ところどころ脱線話も交えながら盛り上がる一同。
俺はそんな美少女達が戯れ合う光景をオカズに、黙々と残りのおにぎりを頬張っていくが……これがまた、最高に美味い。
「アスタロト……その、アナタもワタクシが嫌いなんですの?」
「いえいえ、大きな恩もありますし……嫌いとまでは。ですが、好きかと言われますとそこはやはり……アレですよね」
「ぴぎぃっ!?」
「あやややや。これまた情け容赦の無い冷たいお言葉。女神のような愛くるしい微笑みを浮かべながら、このように無慈悲な言葉責めを行えるなんて……!! アスタロト氏にはSの才能がありますよ!」
「……話し合いについて行けなくなってきたな。仕方ない、吾は食後のトレーニングでも始めるとしよう」
「いい加減にしてくださいねぇ、フルカスさぁん!! ダーリンを一番愛している女はこの私だという事を何度言えば理解するんですかぁ!?」
「むふぁーん!? そっちこそ、ミコト様が一番お気に入りなのが私だという事をいつ理解するんですかぁ!?」
「くっだらない。でもまぁ、アンタ達に一番を譲るのは気に入らないわよね」
「無駄な争いじゃな。ミコトにとってのめいんひろいんはこの儂に決まっておる」
「もぐもぐ……だけど、これじゃあいつまで経っても話が進まないなぁ」
俺を除いても、この場にいるのは個性豊かな8柱の魔神少女達。
一度話し合いや議論に火が付けば、その勢いが鎮まるのには時間がかかる。
まぁ、それはそれで楽しめるので一向に構わないのだが……ここはハーレムの主としてビシッと、みんなをまとめてみるのも悪くないかもしれん。
「たまには決めてやるか。よし、行くぞ!」
俺は親指の先に付いた米粒を舐め取ると、意を決してから立ち上がる。
そして大きく息を吸い込み、みんなに声を掛けようとした――そのタイミング。
「ええい、騒々しい!! 主殿の御前で何を騒いでいるっ!?」
バァーンッと勢いよく、食堂の扉が開け放たれたかと思うと、ビリビリと大気を揺らす程の怒声が俺達全員の身を強張らせる。
この低く凛々しい声。
そして、開かれた扉の先に立つあの姿は……間違いない。
「全く、どいつもこいつも。落ち着きの無い連中だ」
ユーディリアに所属する魔神達の中で最も、規律を重んじるまとめ役。
そして、ユーディリアに所属しているものの……俺の実力を完全には認めておらず、未だに契約を拒んでいる彼女の名は。
「やぁ、お帰りアンマリー。見回りの任務、お疲れ様」
「……はい、主殿! アンドロマリウス、只今帰還致しました!!」
魔神アンドロマリウス。
通称、アンマリーである。
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