幕間の物語 キマリス1【秘密の情事(筋)】
真夜中のユーディリア城。
警邏の夜勤担当者以外は、その殆どが自室で眠りに就いている時間帯。
そんな中、俺は誰にも気付かれないように、こっそりと部屋を抜け出し……とある魔神少女の部屋を目指していた。
「キミィの奴、怒っていないといいけど……」
目的の部屋の前に到着した俺は、その部屋の主であるキミィの事を思い浮かべる。
頭に生えた牛のような立派な角がトレードマークの彼女だが、その真の魅力を引き出しているのは――やはり、あの素晴らしい腹筋だろう。
そして俺は、そんな彼女の芸術的なシックスパックを、ほとんど毎晩のように渡って触っているわけなんだが……
「……昨日はお説教のせいで、少ししか触れなかったからなぁ」
キミィが警邏に出ている日以外は、恒例となっている腹筋へのタッチ行為。
昨晩はアンマリーの説教で捕まっていた為に、僅かなトイレ休憩の間に数秒程度しか触れる事ができなかった。
その際、キミィがとても寂しそうにしていたのが、俺の心に今も残っている。
だから今夜はじっくりと、キミィの気が済むまで付き合ってあげるつもりだ。
「おーい、キミィ。いるかー?」
コンコンッとノックを鳴らし、俺はキミィの名前を呼ぶ。
すると次の瞬間には勢いよく扉が開いて、中からキミィが顔を覗かせてきた。
「むっ……勇士! 来てくれたか!」
「ああ、遅くなってごめん。入ってもいいか?」
「むぅんっ!! 無論だ!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
もう何度も足を運んだ、キミィの自室。
他の子達とは違って、本当に必要最低限の物しか置いていないキミィの部屋にはベッドと棚くらいしかなく……机はおろか、椅子すらも存在していない。
その為、俺達はいつもベッドの上に腰を下ろす事になる。
「あれ、キミィ。少し、汗をかいてる?」
「むん、勇士を待っている間、ずっと鍛錬をしていたからな。もうあの時のように、敵を前にして遅れを取るわけには……!!」
そう言って、悔しそうに唇を噛むキミィ。
彼女が言っているのは、以前バエルにしてやられた時の事だろう。
支配者クラスの圧倒的な力の前にして、キミィだけではなく……俺達全員が手も足も出なかった。
「キミィは凄いな。そんな風にストイックに、自分を鍛えられるなんて」
「…………」
「キミィ?」
思わず、心の底から溢れ出た称賛の言葉だったが……それを受けたキミィの顔色は優れない。
しかもなんだか、何か痛い所を突かれたような反応にも思える。
「勇士よ、それは違う。吾が己を鍛えているのは、戦闘での活躍以外に……吾の取り柄が無いからだ」
「え?」
「吾はフルカスみたいに明るくもなければ、アンドレアルフスのように口が達者でもない。アスタロト程の美貌も、持ち合わせてはいない」
体を震わせながら、一つ一つの例えを絞り出すようにして口にするキミィ。
普段の自信に満ち溢れていた姿とは打って変わって、深刻な悩みに膝を抱えそうなか弱い少女の姿が……そこにあった。
「だから吾は、強さが欲しい。誰が相手であろうとも、勇士と共に戦えるだけの強さが。そうすれば、吾はもっと勇士の傍にいられる」
きっとキミィは、自分なり凄く悩んで、そんな結論を出したのだろう。
その努力とひたむきさは、とても素晴らしい物だと俺は思う。
でも、だからといって……俺がそれを肯定するわけにはいかない。
「……あのな、キミィ。お前、何か勘違いしてないか?」
「むっ? 勘違い、だと?」
「ああ。お前はキミィであって、ルカでもなければドレアでもない。ルカだってお前じゃないし、ドレアもお前じゃない」
「……む、むぅん? どういう、事だ?」
俺が何を言いたいのか分からない、と言った表情で首を傾げるキミィ。
全く。こんなすげぇ可愛い表情と仕草をしておいて、戦闘以外に取り柄が無いだなんてよく言えたもんだよ。
「ルカにはルカの良い所があるし、ドレアだってそうだ。じゃあさ、お前にもお前だけの良い所があるだろって話だよ」
「だからそれが、戦闘の……」
「違うよ。お前の良い所は、そんなもんだけじゃない」
俺は視線を逸らそうとするキミィの両肩を掴み、こちらへ体を向けさせる。
先程まで運動をしていて、少し汗ばんでいるキミィの褐色の肌は、燭台の火によってテカテカと照らされ……凄まじいまでの色気を放っていた。
心なしか、羞恥から顔を赤くしているキミィの表情も、頬が上気しているみたいで、とってもえっちです。
「前にも言ったろ? お前の体は、筋肉は芸術品だって。お前がこれまでひたむきに鍛えてきたその肉体が取り柄じゃなくて、なんだって言うんだ?」
「……この体が、取り柄?」
「ああ。それに、俺は運動をしている時のお前の表情が好きだ」
「っ!?」
「それに、こうして面と向かっている時に、照れて赤くなっているお前の顔も好きだし……俺が腹筋に触れている時、嬉しそうにしてくれるお前が好きだ」
「ゆ、勇士っ……その、えっと、あの、だな……」
もはやキミィは照れすぎて熟れたトマト状態だったが、俺は気にせず右の手をキミィの鍛え抜かれた腹筋へと軽く触れさせた。
「なぁ、キミィ。お前は魔神として俺の役に立とうと頑張ってくれいるけど、その前に一人の女の子だって事を忘れないで欲しい」
「勇士、吾は……」
「そんでもって、俺が築く最高のハーレムの一員でもある。だから俺はこれからも精一杯、お前を戦闘以外でも評価するし、こうしてイチャついていくぞ」
ピクピクと脈動する腹直筋の力強い弾力と、キミィの暖かな人肌の温度が俺の手の平から確かに伝わってくる。
それと同時に、彼女が俺の言葉に対して、どんな想いを抱いてくれたかも。
「……むぅん。勇士には敵わないな」
そして、キミィは逞しい両腕を広げて……俺を抱擁する。
ガッチリとホールドされた腕の感触は、契約の制約もあってか全然痛みはなく、むしろ、心地よい感触に包まれているくらいだ。
「勇士よ。これからも吾は、勇士の前では一人の女で居続けよう」
「おう。そうしてくれると俺も嬉しい」
住人の多くが寝静まった、深夜のユーディリア城の一室で。
俺は今夜も、キミィの鍛え抜かれた体の感触を堪能する。
上腕筋も、広背筋も、大腿筋も、腹直筋も。
彼女の体を構成するどの筋肉も、すばらしいものばかりだが。
「む、むぅん……では、勇士よ。そろそろ、もっと本格的に……」
今の俺が、最も素晴らしいと感じている彼女の筋肉は――
「吾のお腹を、触ってくれないか?」
「ああ、喜んで」
最近コロコロと目まぐるしく、可愛らしい表情を見せてくれるようになった。
彼女の表情筋、なのかもしれない。
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※2019/9/22
本編、各話のタイトルを変更致しました。
それに伴い、プロローグ部分に当たる0話も全文変更済みです。




