幕間の物語 アンドレアルフス1【静かに眠りたい】
「おはようございます。いやはや! 昨晩は災難でしたね、ミコト氏!! 手前めも相当に酷い仕打ちを受けましたが、それはそれ、ドMの手前めにはアンドロマリウス氏の責め苦も快感へと変換可能というもの」
「……おはよう、ドレア」
ハルるんとの混浴騒動から、明けた日の早朝。
アンマリーの説教から奇跡的に一晩で逃れる事に成功した俺は、一刻も早くベッドで眠りたいと……自室に戻ろうとしていたのだが。
部屋まで残り少しというところで、ドレアに捕まってしまったのだ。
「先程、ハルファス氏にもお会いしましたよ。アンドロマリウス氏にボコられずに済んだのは不幸中の幸いですが、自分のせいでミコト氏が説教を受けた事が堪えていたご様子でして」
「ああ、後でフォローしておかないとな。分かったから、そこを……」
ドレアと話す事は楽しいけど、残念ながら今はそれどころではない。
彼女とは一度寝て、起きてからじっくりと話そう。
そう思って、ドレアの横を通り抜けようとするも――
「…………」
「……ドレア?」
まるで通せんぼするように、ドレアが両手を広げて俺の前に立ち塞がる。
しかもその顔には、ニコニコと笑みまで浮かべて。
「通れないんだけど?」
まるで挑発するような態度のドレアに対し、俺は少しだけ語気を強める。
今の俺はいろんな意味で精神的に疲弊しているからな。彼女のイタズラを笑って許せるだけの余裕が無いのだ。
「ええ、通れないようにしているのです」
「……なんで?」
「そうすればミコト氏は、お怒りになるでしょう? 手前めはミコト氏に、叱られたいのですよ!! それはもう、たっぷりと!!」
「ふーん?」
なるほど。
つまりドレアの考えは、こういう事だ。
俺が寝不足で不機嫌そうに歩いていたから、これを機に俺をもっと怒らせて、自分への激しいお仕置きを誘発しようとした……と。
「あやぁーっ!! というわけで、ミコト氏!! 頬へのビンタでも、腹部へのボディブローでも、お尻へのスパンキングでも!! なんでもドンと来いです!!」
「そうだな……」
正直に言えば、俺の持つソロモンの指輪の力を使えば……彼女をこの廊下から退かせる事は簡単だ。
そうでなくても、彼女の思惑通り、湧き上がる激情を彼女の体で発散してしまえば……きっと彼女は満足して、この場を通してくれるだろう。
「じゃあ、ドレア」
「は、はいっ!! さぁ、どんなお仕置きでも!! どんと来てください!!」
「……そこに仰向けで寝転んでくれ」
「寝転ぶぅ!? あやっ!? もしかしてミコト氏、手前めを踏み付けてくださるのですか!? そうなんですよね!?」
瞳を輝かせたドレアは、俺の言う通りに廊下に横たわる。
何か色々ゴチャゴチャと宣っているが、そんな事はどうでもいい。
「俺はな、ドレア。SMというのはお互いに心を通わせてこそ、初めて両方が気持ちよくなれるもんだと思ってる」
「あや? ミコト氏……?」
「残念だけど今の俺は、お前を気遣えるコンディションじゃない。まぁ、魔神のお前にそんなもん要らないのかもしれないけど……それでもやっぱり、こういうのは心から本当に楽しめる時にしたいんだ」
そう話しながら俺は、寝転んでいるドレアの横で膝を折り、同じように廊下の上で横になる。やばいな。もうそろそろ、限界だ。
「……だから今回のお仕置きは、お預けだ。そんでお前さえよければ……俺が起きるまでの間、そのままでいて欲しい」
「あやややや? このままと言いますと……あやぁっ!?」
「俺、布団とかを抱きしめながらじゃないと寝られないんだ……」
俺は横たわっているドレアを、まるで抱き枕のように抱きしめる。
甘ったるい香りと、細身ながらもしっかりと弾力のあるドレアの柔らかな身体の感触を全身で感じながら――俺は、両目を瞑る。
「ま、まさか!? この手前めを抱き枕扱いする気ですか!!」
「…………うん」
「しかもこのような廊下の真ん中で、またこんな所をアンドロマリウス氏に見られでもしたら、一大事ですよ!?」
「…………うん」
「あやぁー、しょうがありませんねぇ。元々、我が儘を押し付けようとしたのは手前めの方でしたし。ミコト氏の具合を測りかねた、手前めが悪いです」
最高の抱き枕を腕に抱いているからか。
限界を迎えていた俺の睡魔は、容赦なく俺の意識を刈り取っていく。
「あやややや、しかしミコト氏。お仕置きをお預けにするのは構いませんが、これはこれで、ただのご褒美になってしまいますよ」
何か、耳元でドレアが囁いている。
だけどもう、彼女が何と言っているかは……分から、ない。
「たまには、こういうのもいいものですねぇ。あやっやっやっ、クセにならなければいいのですが……無理かもしれません」
そうして、俺はドレアを抱いたまま眠りに就いた。
誰かを抱きしめながら眠るなんて、初めての経験だったけど。
その心地よさは、俺が今までに体験した事がない程に……充足感に満ちていて。
「ふわぁ……よく寝たなぁ」
結局、それから俺が目を覚ましたのは、お昼すぎくらいの時間で、
寝ぼけ眼を擦りながら、周囲を確認してみると。
「って、おいおい。こいつは一体……?」
横にいるのは、ドレアの筈なのに。
そこにいたのは、驚くべき事に――
「むにゃむにゃ、むふぅ……ミコトさまぁ……」
「だーりぃん……いっしょにぃ……おねむねむぅ……」
「すぅ……すぅ……あの、ばか。たまには、アタシの事も……」
「うぇひひひ……おうごんがいっぱい、ですわぁ……」
「ふんっ! ふんっ!! ふんっ!! 寝ていても、体は鍛えるぞ!!」
「あら、アナタ様。ようやくお目覚めですか?」
俺を取り囲むようにして、朗らかな顔で眠っているルカ、ハルるん、フェニス、Gちゃん。そして、なぜか腹筋運動をしているキミィと、その傍らで微笑んでいるアスタの姿がそこにはあった。
「みんな、どうして……?」
俺が驚きを隠せずにいると、唐突に後ろからギュッと抱きしめられる。
振り返ってみると、そこには楽しげな顔のドレアがいて。
「あやややや、なぜでしょうね?」
「……犯人はお前か」
「あやー。人聞きが悪いですよ。手前めが通りかかった方々を説得して引き入れなければ、揉め事が起きてミコト氏も睡眠どころでは無かった筈です!」
ああ、そういう事か。
たまたま通りかかった彼女達が、ドレアだけずるいと大騒ぎする姿はなんとなく察しが付く。それをドレアが、自慢の口先でなんとかしてくれたわけだ。
「ありがとうな、ドレア。お陰で、気持ちよく眠れたよ」
「いえいえいえ、構いませんとも!! ミコト氏を気持ちよくさせる事こそが、手前めの使命であり、生き甲斐なのですから!」
そう話すドレアだが、その瞳は何かを訴えるかのように俺の右手を見据えている。
ああ、そうだな。頑張ってくれた子には、ちゃんとご褒美をあげないと。
「そんじゃ、寝起き一発目で……イってみるか?」
「あやぁーっ!! お願いしますっ!!」
バキバキと拳を鳴らし、俺は物干しげな顔のドレアを前に……構える。
「むっ!? 勇士よ、何か始めるのか!?」
「まぁ、私もドキドキしてきました」
そして、キミィとアスタに見守られる中。
俺は思いっきり、人間として可能な限りの力を込めて。
彼女がこちらに向けて、フリフリと突き出してきたお尻を――
「そぉいっ!!」
「あひぃぃぃいーんっ!! ありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
べちこーんと、引っぱたくのであった。
本日は投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
それもこれも全て、ボックスガチャのせいです。でもボックスガチャは良い文明。
いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。
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※2019/9/22
本編、各話のタイトルを変更致しました。
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