幕間の物語 ハルファス1【混浴したくて 前編】
「ふぃー……極楽だなぁ」
カポーン、と小気味の良い音が聞こえてくるような、立派な造りの浴場。
流石に一国の城のお風呂というだけあって、俺が元いた世界の銭湯なんか目じゃないくらいの豪華な装いである。
大理石のタイルに、金の装飾(Gちゃんが加入してから、より一層激しさを増している)というのは少し落ち着かなさも感じるが、ほんの少しだけ自分が特別な存在になれたようで……悪い気分ではない。
「やっぱり、お風呂は心の洗濯だなぁ」
ちゃぷんと、お湯の中で足を伸ばし……俺は浴槽のへりに寄りかかる。
少し熱めの湯で体の芯まで温まっていくこの感覚は、日本人ならば誰しもが気持ち良いと思えるものだろう。
「後はこの場所に、美少女でもいてくれれば最高なんだけど」
一緒に湯船に入り、背中を流してくれる女の子。
バスタオルを胸元まで巻いていて、股下辺りはギリギリで太ももがガッツリ見えていると素晴らしい。更に髪の毛を結んだりして、うなじが顕になっていればもはやそれは芸術だといえよう。
「でも、それを楽しめる日は、当分先になりそうだな」
「主殿!! 今、何か不埒な事をおっしゃいませんでしたか!?」
俺が入浴している浴場と、城の廊下を繋ぐ脱衣所にて待ち構える……番人、アンマリー。
ユーディリア城内の風紀を乱す事は許さないと、俺と魔神少女達の混浴を禁止したのは彼女の仕業である。
もしその禁止令さえ無ければ、俺と一緒にお風呂に入りたいと思ってくれている子もいる筈なのに――
「主殿、いけません。貴方様はユーディリアの王として……むっ!? この気配は!?」
「むふぁっ!?」
「フルカスッ! また性懲りもなく来たか! 主殿の入浴は邪魔させんぞ!」
「むふぅー!! ミコト様のお背中を流したいだけですよー!!」
「問答無用!! 主殿の入浴を邪魔する者は粛清する!!」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!! ミコト様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
とかなんとか思っている間にも、扉の奥でルカが撃退されてしまったらしい。
ルカは初日の頃から、俺とお風呂に入りたいって言っていたからな。
これでもう十数回目の、潜入失敗という事になる。
「あやややややー? アンドロマリウス氏、こんな場所でお会いするとは奇遇ですね。手前めはこれより、なんとなくお風呂に入りたいので、そこを通して頂くわけにはいかないでしょうか?」
だったら、アンマリーがいない時に入浴すればいいと思うかもしれないが。
生憎だが俺は、決して女の子に嘘を吐かないという信念を胸に抱いている。
「断る。今は主殿が入浴中だ」
「そこをなんとか! お願いしますよ、アンドロマリウス氏!! 手前めとアンドロマリウス氏はお名前も似てい……ぐへぁっ!?」
だからもし、アンマリーが俺にそういう事をしたかと訊ねてきた時点で、俺は正直に話さざるを得ない状態となり、彼女を深く傷つける事になってしまう。
真のハーレムを目指していく以上、そんな事態だけはなんとしてお避けなければならない。
「貴様の能力は警戒している。何を言おうとしても、その前に切り伏せるのみ!」
「あひぃっ!? ここは戦術的撤退をしなければなりませんね!」
いつの間にか、ドレアもやられたようだ。
むしろあいつの場合、お仕置きが目当てのような気もするが。
「ご安心ください、主殿!! 主殿の入浴を覗こうとする不埒者は、私が全て排除してみせますので!!」
「あ、うん。ありがとうね」
「いえ、滅相もございません!! 礼を言われる程の事では……!!」
扉越しに、ひと仕事終えた感を訴えてくるアンマリー。
その気持ちはとても嬉しいんだけど、嬉しいのだけれど……うん。
「……アンマリーを攻略しない限り、賑やかなお風呂は遠いか」
いずれは72柱の魔神全員と一緒にお風呂に入る事が夢だが、現状ではまだ1柱の女の子とも一緒に入れていないからな。
「せめて、一度だけでいいから。女の子に、背中を流して貰いたい……」
ポツリと、欲望に満ちた一言が漏れる。
しかしそんな言葉が、誰の耳にも届く筈もなく。
俺は一人寂しく、ユラユラと揺れるお湯の波紋を見つめて――気付いた。
「んっ!?」
ごぽんっ、ごぽごぽごぽごぽっ。
お湯の中から、水面へと上がってくる空気の泡。
俺の名誉の為にあらかじめ言っておくが、断じて俺はオナラをしてはいない。
だとすれば、この空気の正体は……まさか!?
「中に、いるのか……!?」
俺がその事実に気付いた瞬間。
ザパァンッと、お湯の中から――彼女は姿を現した。
「ぷはぁっ!! きゅ、きゅふふふふっ……!!」
お湯に濡れた桃色の髪を、白い肌に張り付かせて……大事な部分こそ隠してはいるものの、完全に全裸な状態で姿を見せた美少女。
「油断しましたねぇ、アンドロマリウスさぁん。ダーリンが入浴してから入れなくなるならぁ、最初からお湯の中に隠れていればいいんですよぉ?」
紫色の綺麗な瞳の奥にハートマークを浮かべながら、ニコニコと微笑む彼女。
俺が契約している魔神達の中でも、最も直接的な愛情表現とスキンシップで迫ってくる……魔神ハルファス。通称、ハルるん。
たわわに実った巨乳と、むちむち過ぎるぷりっぷりのお尻を持つ、破壊力抜群の身体を前にして俺は――
「きゅふーっ! ダーリン! やぁっとぉ……二人きりになれましたねぇ?」
「……ちょっと待ってね。鼻血を止めるから」
とりあえずは鼻を押さえながら、湯船に鼻血が落ちないように堪えていた。
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