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幕間の物語 フェニックス1【視線の理由 前編】

「昨日から少し、フェニスの様子がおかしいんだ」


「なんじゃと?」


 ルカの激おこぷんぷん決闘未遂騒動から、一夜明けた日の昼過ぎ。俺達の他には誰もいない食堂で、頭の上に乗せているベリアルに一つの相談を持ち掛けた。

 それは、俺がこの世界を訪れてから二番目に契約を交わした魔神少女……フェニスに、不審な点が見られる事であった。


「昨日、ルカの一件があったからさ。俺、ちょっとフェニスに注意したんだよ。あんまりルカをからかうなよって」


「うむ。魔神達の主として、魔神同士の関係を気にするのは良い事じゃ」


「ありがとう。まぁそれで、その時は口を尖らせながら渋々納得してくれたみたいなんだけど……」


 そこまで話して、俺は右手の指を食堂の入口の方へと……そっと向ける。

 それに伴い、俺の頭上のベリアルの視線もそちらへと向けられていく。


「…………じぃーっ」


 半開きの扉から顔を半分だけ覗かせて、こちらを見つめているフェニス。

 本人は気付かれていないつもりなのだろうが、背中から生えた炎の翼が明るいからすぐに気付くんだよなぁ。


「なんじゃ、フェニックスの奴。まるでストーカーのような真似をしおって」


「……ストーカーのような真似、というか。今のフェニスはほとんどストーカーなんだよ。アイツ、昨日からずっと俺の後をああして尾行しているんだ」


 こちらに話しかけてくるわけでもなく、身を隠しながら少しの距離を開けて。

 食事をしている時も、お風呂に入っている時も。

 トイレで用を足そうとした時はさすがに遠慮してくれたけど……就寝前にも、フェニスは何やら言いたげな視線を、俺に浴びせ続けていたのだ。


「ふむ。気になるのなら、自分から話しかければよいじゃろう?」


「それもそうなんだけど。少し、怖くてさ」


「怖い? 美少女と見れば、見境の無いお前がか?」


「ああ。ほら、フェニスって唯一無理やり、紋章を触って屈服させた魔神だろ? だからもしかすると、俺に対して何か思うところがあるんじゃないかって」


 あの時は異世界にやってきたばかりだったし、ルカ達のような一流の美少女達と出会えて舞い上がってしまっていた。

 だからあんな風に、後先考えずに欲望に流されて契約を……


「あれはしょうがないじゃろう。ああしなければ、回復したフェニスに儂達は殺されていたんじゃからな」


「それは分かってるよ。でも、他にも何かやり方があったかもしれない。だから俺は、フェニスに責められても……仕方が無いと思うんだ」


 今回、俺がルカの味方をしてフェニスを怒ったりしたから。

 これまでの不満が爆発し、フェニスは俺との契約を解消したいと訴えるつもりなのかもしれない。

 もし、それを彼女が望むのなら。俺はそれを甘んじて受け止めるつもりだ。


「ふむ、どうかのぅ。儂の女の勘では、そういう類の話では無いと思うが」


 俺が溜息を漏らして落ち込んでいると、ベリアルはそう呟いてからぴょいんっと食堂の床へと飛び降りる。

 そして、そのままとてちてと、半開きの扉の方へと歩いていき……


「儂が直接、フェニックスに訊ねてくるとしよう。ミコトよ、お前はそこで大人しく待っておけ」


「あ、おいっ! ベリアル!?」


 俺の静止も聞かず、フェニスが身を隠す扉の奥へと進んでいったベリアル。

 お前はどうしてこうも、変な方向で気が利くんだ!


「…………じゃが、なぜお前は…………もらうぞ」


「はぁ!? アタシは……で、アイツに………を、またもう一度……と思っただけで、別に………わよ!!


 扉越しであるからか、ベリアルとフェニスの会話は断片的にしか聞こえない。

 しかし声の感じを聞く限り、フェニスがかなり荒ぶっているようだ。


「ならば儂が……に、その事を……でやるとしたら、どうじゃ?」


「うっ!? そういう事なら……アンタに……を、お願いするわ」


「分かった。では、さっさと………いで、儂に預けるんじゃな」


「……うん。くれぐれもアイツには…………いいわね、分かった?」


「約束しよう。しかしお前が……とは、面白いのぅ」


「うるさいわね。いいから…………してきてよ」


「分かった、分かった。全て儂に任せておけ」


 数度、交わされる会話。

 その全容はまるで理解できないが、会話の雰囲気からして上手く話がまとまったように思えるが……どうだろうか。

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