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63話 美少女同士の友情って、いいよね


「……魔神の中で一番口が上手いのって、本当はお前なんじゃないのか?」


 ラウムの見事な口先八丁ぶりに感心しつつも、半ば呆れ気味に苦笑する尊。


「あっはははははっ! そんな事はないよ! ボクは人をからかう事が大好きで、そういう系の嘘が得意なだけさ!」


 対するラウムはイタズラの成功を大いに喜び、無邪気な笑みを浮かべていた。

 外見は幼さが残る少女だが、クセの強い魔神達の中では比較的落ち着いている性格……かと思えばやっぱり、外見年齢相応の幼い言動も時折見せる。

 ギャップにギャップを重ねるこのスタイルを、あえて狙って振舞っているのだとしたら。このラウムという少女は、間違いなく魔性の女なのだろう。


「それに、あながち嘘ばかり言ったわけじゃないでしょ? ボク達が仕事をちゃんと頑張れば、新マスター君がいっぱいご褒美をくれる……ってね」


「当たり前だろ。嘘になんか、させてたまるか」


「あはっ、それでこそ新マスター君だ! えらいえらいっ!」


 一秒も迷う事なく即答した尊の態度が、よほど好ましかったのだろう。

 尊と腕を組んだまま、ぴょんぴょんと飛び跳ねるラウム。

 そんな微笑ましい雰囲気の中、尊とラウムの傍に近付いてくる影が一つ。


「がうっ! がうがう、がーう!」


 犬が吠える時のような声をあげ、尊達の前へと姿を現したのは一人の少女。

 ふわふわとした髪質の茶髪セミロング。尊よりも頭一つ大きい長身に、スイカを彷彿させる程の爆乳を搭載したムチムチの体付き。

 そして何よりも特徴的なのが、顔全体を覆い隠すように被られた白い仮面だ。

 勿論彼女も、かつてソロモンに仕えた72柱の魔神――その1柱である。


「おお! お帰り、フロン」


「やぁ、ビフロンス。君も戻ってきたんだね!」


「がうぅっ! ががうがうががーう!」

 

 尊とラウムに名を呼ばれ、元気よく返事を返す魔神ビフロンス。

 声色のトーンで、彼女がとても上機嫌である事は伺えるのだが、発した言葉の性格な意味を理解できるのは……現在、ラウムの他には存在しない。


「ふむふむ、ほうほう」


「ラウム。フロンはなんて言ってるんだ?」


「えっとね。頑張って食料を沢山見つけて来たから、後で食べて欲しいってさ」


「が~う~♪」


 ラウムの通訳に合わせて、ビフロンスは肩に担いでいた白い袋を掲げて見せる。

 サンタクロースのプレゼント袋を思わせる程の巨大な袋の中身は、もぞもぞと忙しなく蠢いている事から、恐らくは活きのいい生き物が入っているのだろう。


「これまた随分と大量だ。頑張ったな、フロン」


「がっががう、ががーう。がうがうがうー」


「カプリコルムの毒が無くなった事で、狩猟範囲がかなり広がったからね。アスタロト達が作っている田畑が完成するまでは、こうやって食料を賄わないと」


 数日前までは、国内の領土に生える僅かな草木や虫類が主な食料だったユーディリアだが、今ではそんな厳しい食糧事情も大分改善されていた。

 それらも全て、アスタロトを救出し、毒の湿地帯と化していたカプリコルムを正常な状態に戻す事ができた成果である。


「ああ、そうだな。田畑の完成にはまだ少し時間がかかるし、フロンのお陰で国民はみんな助かっているよ」


「がうーっ! がっがう、がうがー!」


「えっと……褒めて頂けて光栄です。もっともっと、期待に応えられるように頑張りますね! だってさ」


「がーうーっ!!」


 尊が褒められた事で、更にやる気が湧き上がってきたのか。

 グッとガッツポーズを決めて、再び食料探索に向かおうとするビフロンス。


「ちょっと待った、ビフロンス! せっかく頑張ったのに、褒めて貰うだけじゃ物足りないでしょ? 新マスター君からご褒美を貰わないと」


「ががーう!? がっ、がが……!?」


「うん、ご褒美。なんでも好きな事を頼んじゃいなよ。ここんとこボク達、影が薄かったし、ちょっとくらいの無茶なら叶えてくれる筈さ」


 背を向けたビフロンスを呼び止めて、ラウムは彼女に正当な報酬を受け取るように促す。少しだけラウム本人の不満が漏れた気もするが、ご褒美が貰えると聞いて動揺するビフロンスに、そこを指摘する余裕は無かった。


「ねぇ、新マスター君? いいよね?」


「当たり前だ。なんでも、どーんっと言ってくれ!」


「が、ががー……がう、がうがうがぁ……」


 正式に尊の許可が下りた事で、ビフロンスはボフンッと頭の先から湯気を吹き出し……仮面の頬に手を当てて、恥ずかしそうに身をよじり出した。

 それはもう、胸部の大きな脂肪も、その動きに合わせて揺れる、揺れる。


「……楽園はここにあったのか」


「女のボクでも、アレには目を奪われるよ。枕にしたいよねー」


 顔の前で両手を合わせ、尊とラウムは揃ってビフロンスの胸を拝む。

 

「がーうー? がうがう!」


 まさか自分の胸が拝まれているなんて、露にも思っていないビフロンス。

 彼女は尊達の行動を見て首を傾げつつも、ご褒美に何をお願いするのかを決めたようで……持っていた袋を地面に下ろし、尊の前へと一歩を踏み出した。


「お、決まったのか?」


「がうっ! がーう、がうがう。ががーう!」


 尊の問いに答えるように、ビフロンスは両腕をバッと左右前方に広げる。

 それはまさしく、愛しい相手を抱きしめる前に、その意志を相手に伝える為に存在する伝統的な仕草――所謂、ハグポーズというものだ。


「え? 俺が抱きしめるんじゃなくて、俺を抱きしめたいの?」


「がうっ!! がうがうがうっ!! がーうっ!!」


「おぉ……マジですかぁ」


 これまでに多くの美少女達と親睦を深め、頭を撫でたり抱きつかれたりとイチャコラしてきた尊だが、相手に甘やかされるという経験は乏しかった。

 だからこそ、ビフロンスの申し出はとても嬉しいものであるのだが……そこは未だファーストキスの経験すら無い童貞少年。自分から美少女の爆乳へと飛び込んでいく勇気が出ず、尻込みをしてしまう。


「何を躊躇っているの? ちゃっちゃと抱かれちゃいなよ、新マスター君」


「わ、分かってるって! すぅっ……はぁっ……よし、行くぞ、俺はやるぞ!」


 呼吸を整えた尊は意を決し、ビフロンスの胸の中へと飛び込んでいく。

 ギギギギッと、錆びたロボットのようなぎこちない動きではあったが、迎え入れる側のビフロンスの歩み寄りのお陰で……無事に、着地する事ができた。

 

「がぅー……がうがう~!」


「ほぁ……ほぁっ、ほぁぁぁぁ……」


 閉じられる両腕。必然的に、尊の体はビフロンスの豊満な肉体に密着する。

 ぎゅむぎゅむと強い力で抱擁されるも、柔らかな胸がクッションとなって尊に痛みはなく、むしろビフロンスの甘い香りも手伝って、夢心地なくらいである。

 

「がうがうがーう。がううぅんっ……」


 しかしそれは、抱きしめる側のビフロンスも同じであったらしく、幸せを噛み締めるようにして吠える声には、色っぽい艶やかさが含まれていた。


「がぅ、がぅー、がーうぅーうぅー……!」

 

「うーん……?」


 上機嫌のビフロンスは抱きついた体勢のまま尊の顔に頬ずりを行うが、仮面を付けた状態である為に、尊の頬には硬い感触しか伝わっていない。

 赤いマフラー越しに、ガチガチガチ、ギチギチギチ、と。 

 本来、尊と契約を交わした魔神は彼に危害を加える事ができない制約に縛られる事になるのだが……残念な事に、ラウムとビフロンスは未だに彼と契約を交わしてはいなかった。


「いてっ、いちちちっ……!」


 ラウムは『すぐに契約を交わしても面白くないから』という理由、ビフロンスの方は『ががう! がうがーうがう!!』といった理由で、尊と契約を交わす事を拒んでいたのである。 

 尊の方はそれならそれで、いつか絶対に認めさせてやるだけだと意気込み、彼女達の意思を尊重しているのが現状であった。


「がぁーうぅー! がうがうがーう!」


「良かったね、ビフロンス! 念願叶って!」


「がうっ! がーがーう、がががうががう」


 尊を強く抱きしめ、頬ずりをして、もう満足したのだろう。ビフロンスは尊から離れると、今度は隣で見守っていたラウムと手を取り合って喜び跳ねる。

 そんな微笑ましい光景を、尊は痛む頬を摩りながら見つめていた。


「がーうー。がーががっ、がーうんがー……」


「えっ!? 次はそんな事をしたいの!? 流石にそれは色んな意味でマズイよ!」


「がぅー? がーがーがう?」


「うんっ、そうそう! もっと頑張れば、いつかきっと許してくれる筈さ!」


「……一体、なんの話をしているんだ?」


 自分だけが会話の外に置かれている事に、一抹の寂しさを感じる尊。

 話の断片から、ビフロンスが自分に望んでいる何かがあるという事は理解できたようだが……ラウムの反応から察するに、かなり過激な内容らしい。


「じゃあ、もっとポイントを稼ぎに行かないとね。ボクも付き合うよ!」


「がう!? ががうっ! がうがーう!!」


「あはっ、いいんだよビフロンス。ボク達、親友じゃないか!」


「が、がう……がうんっ!!」


 ガシッと抱き合い、麗しい友情を確かめ合うラウムとビフロンス。

 もはや彼女達の意識からは、近くにいる尊の存在が失われてしまったようだ。


「カプリコルムのゲルトカゲ、毒が消えた今はどうなってるのかなー? あの強い毒特有のピリッとした舌触りが好きだったんだけど」


「ががー? がっがうがう、ががーう」


「へぇ、そんな事になってるんだ? フルカスも罪な女だねー」


 仲良く手を繋ぎながら、ユーディリアの領土外へと向かって去っていくラウム達。そんな楽しげな美少女達の華やかな雰囲気と対照的なのは、道の真ん中で一人だけ

取り残されてしまった――傷心の尊である。


「はぁ……俺もまだまだ、ハーレムの主として未熟だって事か」


 遠ざかっていく美少女達の背中を見つめ、深い溜息を漏らす尊。こんな有様だから未だに彼女達と契約を交わせずにいるのだと、落胆しているようだ。


「いやいや。それなら、これから成長していけばいいんだ」


そんな己の不甲斐を嘆きつつも、尊は気を取り直して前を向く。


「とりあえず今は、俺もやれるだけの事をやるとしますか」


 尊はビフロンスが置いて行った食料入りの袋を担ぐと、その到着を心待ちにしている国民達の元へ届ける為に歩き出す。

 いずれは72柱の魔神達を束ね、史上最高のハーレムを築ける程の男になる事が何よりの目標である尊であるが。

 その胸の内にはしっかりと、一国の王としての風格が育まれつつあった。


いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。

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