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61話 束の間の平穏が訪れて

 かつて、異世界セフィロートを治めた偉大なる王――ソロモン。

 その生まれ変わりである少年……根来尊が、ベリアルと名乗るぬいぐるみに導かれた事で、再び世界は変革の時を迎えようとしていた。

 

「よーし、オーライオーライ!! ルカ! そのまままっすぐ掘り進めてくれ!」


「はいっ!! ミコト様!! 私のクトゥアスタムにお任せくださいっ!!」


 根来尊が異世界セフィロートを訪れてから、五日後。

 太陽の位置がちょうど頭上を通る時刻のユーディリア近郊では、活気のある大きな声が幾つも飛び交っていた。


「ああ、ありがとう!! おーい、フェニス!! ルートは歪んでないかー?」


「はぁ……なんでこのアタシがこんな事を……」


「フェニスー? どうなんだー?」


「ああもう、うっさい!! 問題無いから何も言わないのよ!!」


 地上では全身土まみれの魔神フルカスが、万物を貫く槍クトゥアスタムを用いて地面を掘削し、上空では炎の翼フランマウィングを広げた魔神フェニックスが、フルカスに正しい道筋をナビゲートしている。


「オッケー!! 区切りのいいところまで進んだら、休憩にしよう!」


 その仲介を果たしつつ、現場監督のような立ち位置にいるのは、一人の少年。

 前世の自分が千年前に着用していた白いローブを身に纏い、首から顎先までを覆い隠すような長いマフラーを巻き付けている彼こそ、ソロモン王の生まれ変わりの少年、根来尊である。


「ミコト様!! 休憩なんていりませんよ!! このまま川の方まで一気に掘り進めて、サクサクと用水路を完成させちゃいますから!!」


「アンタはよくても、アタシが疲れているの!! それに、アンタが急いでいるせいでルートがちょっと歪んでる!! そこはもっと左よ!!」 


「むふーっ!! この仕事を終わらせて、ミコト様に褒めて貰うんです!!」


「あああああっ!! だからそっちじゃないわよ!! このお馬鹿!!」


「……しばらくの間は、ルカとフェニスに任せておくか」


 勢い余って明後日の方向に穴を掘り進めるフルカスと、その暴走を必死に止めようとしているフェニックスの姿を見送った尊は、後方で作業を行う少女達の元へと歩み寄っていく。


「あっちは順調みたいだけど、そっちはどうだ? アスタ」


「こちらも順調ですよ、アナタ様。見てください、立派な稲穂が実っています」


 フルカスが掘り進めてきた用水路(未完成)の横に連なる形で広がっているのは、青々とした稲が実った田んぼである。

 元々は作物の実りなど期待できない土壌だったこの土地に、なぜこれ程の稲が実っているのかと言うと……その秘密は、ここにいる魔神アスタロトにあった。


「私の着ている魔神装具、豊実衣フェルティリティスの力を用いれば、こうして大地に触れるだけで……豊作をもたらす事ができるのですよ」


 そう説明して、アスタロトは実際に地面に手を触れて能力の実演を行う。

 苗はおろか、種籾さえ植えていないというのに、アスタロトが触れた箇所から稲穂がにょきにょきと伸びてくる様は、魔神の持つ力の凄まじさを物語っていた。


「ただ、申し訳ございません。私が病み上がりでなければ、もっと広範囲に豊作をもたらす事ができる筈なのですが……」


「あんまり気にするなって。こうして用水路とかを作っているのも、国民のみんながアスタに頼りきりにならないよう、稲作の基盤を固める為なんだし」


 全ての発端は三日前。尊がカプリコルムから帰還し、ユーディリアに新たな仲間が4名増えた後の事である。

 アスタロトの力を利用し、国民の食料問題を解決しようとした尊だったが、それだけでは根本的な解決には至らないと判断し……国民達が食料の自給自足を行えるようにするべく、国の周囲で農業改革を推し進める事になったのだ。


「じゃあ俺は他の作業を確認しに行くから。アスタも後で休憩を取っておけよ」


「ええ、承知致しました。アナタ様の為にも、頑張ります!」


 ニコニコと笑顔で手を振るアスタロトに見送られ、今度は城下町の方へと駆けて戻っていく尊。

 その道中、用水路工事でフルカスが掘り起こした土を運ぶ作業を進める大勢のユーディリア国民と、その指揮を行っている魔神アンドレアルフスとすれ違う。


「あやややや! 皆様ご覧ください! 手前め達を導いてくださる偉大なる王、ミコト氏のお通りです。さぁさぁ、ご一緒に拝み倒しましょう」


「……いやいや、そういうのはいいってば。ドレア、お前達魔神の力は千人力なんだから、口ばっかりじゃなくて、ちゃんと体を動かしてくれないと困るぞ?」


 老若男女問わず、数十人にも及ぶ国民達を引き連れて、一斉に合唱を行う紳士服姿のアンドレアルフス。尊は一応足を止めてペコリとお辞儀を返したが、先頭に立つアンドレアルフスにだけは渋い顔で注意の言葉を投げかける。


「あやー! 心外ですよ、ミコト氏! このようにミコト氏を拝む事で、手前めのやる気がモリモリと上がり、作業は円滑に進む……あひぃんっ!?」


「……分かったか? それとお前は、夜まで休憩無しだからな」、


「は、はいぃんっ……じあばぜぇでずぅ……」


 口論や議論においては絶対に負けない力を持つアンドレアルフスだが、会話を行う前に物理的に黙らせてしまえば何も怖く無い。

 それをよく分かっている尊は、ペラペラと言い訳を連ねるアンドレアルフスの下腹部に全力のグーパンチを浴びせたのであった。


「……いちちっ、魔神のお腹って硬すぎだろ」


 俗に言う腹パンと呼ばれるものだが、人間である尊が魔神の腹を思いっきり殴ったところでダメージは微々たるものだ。

 更にアンドレアルフスは重度のドMであるので、これくらいの攻撃ならば軽い愛撫のようなものであり、むしろ快楽を生み出すご褒美に過ぎない。

 つまるところ尊は、お仕置きの体裁の下にアンドレアルフスを可愛がってあげただけなのである。休憩無しという、デザートまでおまけして。


「あやぁ……できれば、お尻をぶって頂けると、もっとやる気が出るのですが」


「…………」


「ああっ! ミコト氏!! どちらへ行かれるのですか!? 手前めのお尻を弄んでくださいミコト氏!! ミコト氏ぃぃぃぃっ!!」


 ゴロンと地面に横たわったアンドレアルフスが調子に乗り始めたのを見て、あえてここは放置すべきだと判断した尊。

 後ろから何度も自分の名を呼ぶアンドレアルフスを完全にスルーして、彼は城下町へと戻る道を再び走り出していった。

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