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56話 切り札は頭上に?


「チッ! あの単細胞の馬鹿共、考えもなしに突っ込んで……!!」


「そうね、フェニックス。何度も言うけど、そういった命懸けの行動は不死であるアナタが取るべき行動だわ」


 悪態を吐くフェニスに、ねちっこい嫌味の言葉を浴びせるバエル。

 ユーディリア城でマルファスから聞いた話では、フェニスの離反を気にしていないとの事だったが……案外、根に持っているのだろうか。


「ふんっ。アタシはこの馬鹿を守らないといけなかったら、そうしただけの話よ」


「おう。何も言わずに、俺を抱き抱えてくれたの……すげぇ、嬉しかったぞ」


「……口でお礼を言われたって、なんとも思わないわよ」


 遠回しな言い方でご褒美をねだってくるフェニスは、いそいそと自分の頭を撫でて……風で乱れた髪を正していた。こんなにも可愛い姿を見せられたとなれば、後で思いっきり可愛がらなければなるまい。


「うーっ。ミコト様に褒めて頂けるなんて、羨ましい限りですね」


「ヴァサゴは既に、可愛がって貰う……約束、交わしているので」


 悔しげに服の袖を噛むアスタロトと、グッと親指を立ててドヤるヴァサゴ。

今まさに命の危機に瀕している状態とは思えない、実に呑気な会話だ。


「ふふふ……アナタ達はどこまでも妾を虚仮にするのね。もしかして、未だに自分達が無事でいられるなんて、ありえない妄想を抱いているのかしら」

 

 無論、そんな彼女達の態度はバエルの怒りに油を注ぐ事となる。

 音を立てながら崩れていくGちゃんの黄金屋敷を背にして立つ、バエルの纏うオーラは先程よりも遥かに強烈で……尋常ではない凄みがあった。


「ねぇ、ミコト。アタシを憑依すれば、アンタだけでも守れるんだけど――」


「ああ、分かっている。でもそれじゃあ、駄目なんだ……」


 フェニスを魔神憑依して不死の力を宿せば、バエルに勝てないまでも、この場を生き残る事はできるかもしれない。

 しかしそれで助かるのは、あくまでも俺一人。

 俺の大切な女の子達も無事にこの場を生還するには、バエルの紋章の位置を見つけ出して契約するくらいしか方法が無さそうだ。 


「ですが、アナタ様。私と契約なさっても、バエルにはとても敵いませんよ。見ての通り、私は全くもって戦いに向いていないのです。可憐で美しく、愛でられる事しか能のない、愛され系魔神なものでして」


「色々と自覚しているのは話が早くて助かるけど、ちょっと困ったなぁ」


 真顔のまま、かなりズレた発言を行うアスタロトには萌えるけど、戦力として頼れないというカミングアウトは実に手痛い。ヴァサゴとはまだ契約を交わしていないし、やはりここはフェニスを憑依するべきだろうか。


「あら? 作戦タイムは、もう終わりなの? まぁ、何をしようとも、この危機を覆す方法なんて存在しないと思うけど……」


 完全に追い詰められている俺達を煽りながら、不敵な笑みを浮かべていたバエルだったが……いきなり俺に視線を移すと、何かを思い出したようにその目を細める。


「……ああ、ごめんなさい。ソロモン様にはまだ、その切り札があるのよね?」


「切り札……?」


 突然、全く心当たりの無い事を言い出したバエルに、俺は困惑するしかない。

 切り札も何も、こちらは既に八方塞がりに近い状態だ。それなのに、絶対的優位に立っているバエルが、一体何を警戒しているのだろうか?


「ふふっ。妾を油断させて、隙を突こうとしているのかしら? 生憎だけど、他の魔神の目はともかく――妾の目は誤魔化せないわよ」


「……マスター。まさか本当に、切り札を?」


「流石はアナタ様ですね! 私はアナタの事を、最初から信じておりました!」


「あ、いや! それが、だなぁ……」


 バエルの言葉を間に受けて、期待に満ちた視線を向けられても困る。

 だって俺は本当に、切り札なんて持っていないわけで――


「…………………あっ」


「ん? フェニス、何の話か分かったのか?」


 どうしていいか分からずに心底困り果てていると、俺の後ろでフェニスが何かに気付いた様子を見せた。

 少し振り返ってみれば、フェニスの目線は俺……ではなく、その頭上に――


「……え? まさか、切り札って……?」


 まさか、それだけは無いだろうと、その存在を思い出した今でも思う。

 だけどもしも、彼女がバエルに届きうる程の力を秘めているとすれば。

 この最悪な状況を覆す事も、夢ではないのかもしれない。


「やれやれ。儂の出番は、なるべく後に取っておきたかったんじゃがのぅ」


 ぴょいんっと、俺の頭の上から飛び降りつつ……不満の声を漏らすぬいぐるみ。

 俺をこのユーディリアへと導いた張本人にして、魔神とは思えないファンシーな見た目をしたこのぬいぐるみが……まさか。


「久しいのぅバエル。こうして顔を合わせるのは千年ぶりじゃな」


「ええ。ようやく、妾と同格の魔神と出会えて嬉しいわ……ベリアル」


 バエルと同じ魔神の最高位、支配者クラスであったなんて。

 俺は大きな衝撃を受けつつも、ぬいぐるみ姿のベリアルが見せる、その頼もしくも可愛らしい後ろ姿に……ただただ、懐かしい安堵感を覚えるのであった。


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