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55話 支配者クラスの魔神


「……困るわね。妾って、そういう冗談が大嫌いなのに」


 アスタロトへの制裁を、自らの配下――ヴァサゴに阻まれたバエル。彼女の怒りは相当なものであるようで、その顔からは微笑の仮面が剥がれ落ちていた。


「ヴァサゴ! ああ、アナタの強い心に敬意を表します!」


 そんなバエルと対照的なのが、ヴァサゴに窮地を救われたアスタロトだ。

 ヴァサゴの肩に腕を回し、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。


「いいえ、アスタロト。ヴァサゴは、強くありません」


 バエルの怒りを買い、死神の鎌を首元に当てられているに等しい現状だが、ヴァサゴは毅然とした態度で、抱えていたアスタロトを床の上に下ろして立たせる。

 そして、チラリと横目で俺の顔に視線を流し――


「勇気をくださったのは、マスター」


「……ヴァサゴ。後で思いっきり、可愛がってやるぞ」


 嬉しい事を言ってくれたヴァサゴの頭に手を乗せて、俺は前払いの一撫でをしておく。残りの分は、全てが終わってからのお楽しみとしておこう。


「素晴らしいですわ、ヴァサゴ! 正直、見直しましたわよ」


「ぶいっ」


「むふー! 私も負けじと、ピースピース!! ダブルピースですよ!!」


 Gちゃんに褒められ、得意げにVサインを作るヴァサゴと、それに謎の対抗をしてダプルピースサインを作るルカ。

 のほほんとしたやりとりで癒しを与えてくれるのは嬉しいが、未だに俺達のピンチが継続しているという事は……忘れてはならない。


「フルカス、キマリス、フェニックス、アンドレアルフス、ベリト、アスタロト、ヴァサゴ。流石にこの数が相手だと、妾でもほんの少し手こずりそうね」


 そう口にしたバエルの右手の中に、スッと一本の長杖が現れる。

 頭部に不気味な赤紫色の宝玉が輝くその杖が出現した途端、ただでさえ重苦しかった周囲の空気が、また更に一段と重く……冷たくなっていく。


「ひぇっ!? アレはバエルの魔神装具、フィディフェルラですよ!!」


「あややや! 【信仰心を自在に操る】力を持つ、恐ろしい魔神装具ですね!」


「信仰心を自在にって……なんだかヤバそうじゃないか?」


「いいえ、ご安心なさいミコト。バエルが操れるのは、人間の信仰心のみ。ワタクシ達のような魔神には、その効力は及びませんのよ」


 ドレアの話を聞いて一瞬肝を冷やしたが、Gちゃんの補足を受けてホッとする。

 俺の大事なハーレム少女達が操られでもしたら、大変だったからな。


「だからと言って、油断するのはいかがなものかしらね。ベリト、妾のフィディフェルラの恐ろしさを……忘れたわけではないでしょう?」


 バエルはベリトに忠告めいた言葉を呟いた後、その手に握るフィディフェルラの先――石突きをカァーンッと、ベリトの作り出した黄金の床の上に下ろす。


「妾の力は、妾を信仰する人間の数だけ――強くなるのだから」


 一見すると、それ程の力は込められていないように見えたが、杖が叩いた部分を中心としてビキビキと……大きな亀裂が床全体へと広がっていく。


「ミコト!! 捕まって!!」


「おわっ、わわわっ!?」


 それを見たフェニスは、すかさず俺を後ろから抱き抱えて空へと舞い上がる。

 他の魔神達もそれぞれ、壊れていく黄金のステージ……いや、ベリトの屋敷そのものから逃れようと、高く跳躍していった。


「みんな!! 仲間と離れちゃ駄目だ!!」


 フェニスに抱き抱えられる格好のまま、俺は散り散りとなった魔神少女達へと声を掛ける。ルカとドレアとキミィ、ヴァサゴとアスタロトはそれぞれ近い位置にいるからいいのだが、1柱だけ、仲間の傍を離れ過ぎている子がいた。


「うぃひぃーっ!? よくも!! ゴージャスにしてエレガントなワタクシの屋敷を壊してくれましたわねっ!!」


 砕け散り、空を舞う黄金の破片を足元に集めて……宙に浮かんでいるGちゃん。

 彼女は扇の魔神装具を片手に、バエルへの反撃を行うつもりのようだ。


「やはり最初は、アナタが仲間からはぐれたわね。実力的には、アナタが他の子と組むと面倒だったから――助かるわ」


 足場を失って自由落下していた筈のバエルは、まるで海を泳ぐ魚みたいにユラユラと空中を揺蕩いながら、自分に迫り来るGちゃんを迎え撃とうとしている。


「黄金のナイフで、串刺しにして差し上げますわ!!」


 Gちゃんの能力で瓦礫から作り替えられた無数の黄金のナイフが、全方位からバエルを取り囲む。逃げ場など存在しない、まさに隙の無い攻撃に思えたが――


「まずは1柱目ね」


「なっ……ん……で……です、の?」


 瞬きをする間に、バエルはナイフの包囲網の中から姿を消し……ハッと気付いた頃には、Gちゃんの首を左手で握り、締め上げていた。


「むがぁぁぁぁぁぁっ!! ベリトを離してくださいっ!!」


「バエルよ!! 貴様の好きにはさせんぞっ!!」


 掴み上げられる土壇場でGちゃんが黄金片を操作したのだろう。

 空中での足場を得たルカとキミィが、各々の魔神装具である槍と旗を振り上げながら、素早くバエルへと特攻していく。


「次から次へと、厄介な子達が先陣を切ってくれて助かるわ」


 Gちゃんを掴んでいる腕を狙われたバエルは、その手を離し……ルカ達の連撃をひらひらと回避。残った手でフィディフェルラをルカの槍とキミィの旗の間に滑り込ませると、それらを強い力で弾き……持ち主の元へと跳ね返した。


「わぷっ!?」


「うぬぐぁっ!?」


 戻ってきた長物の柄が顔に当たり、呻き声を漏らすルカとキミィ。

 そうして生じた一瞬の隙を、バエルは見逃したりはしない。


「邪魔よ、消えなさい」


 バエルが左手を翳すと、そこから漆黒の禍々しい光が円輪状に放たれ、空中で姿勢を崩していたルカ達へと襲いかかった。


「「「がっ!?」」」


 唐突な攻撃を避ける事も叶わず、まともに被弾したルカ達はホームランボールのような軌跡を描いて、周囲に広がっている木々の中へと墜落していく。

 それとほぼ同じタイミングで、翼を持つフェニスと、彼女に抱えられている俺以外の女の子達――ドレア、ヴァサゴ、アスタロトが地面へと着地する。

 屋敷が倒壊を始めてからここまで、随分と長い時間が過ぎたように感じたが、実際に流れた時間は恐らく……未だ十秒にも満たないだろう。


「頭数を揃えても、戦闘技術も、膂力も、魔力も、知力も……全然、足りていないのね。ソロモン様も可哀想に」


 僅かに遅れ、重力を感じさせないふんわりとした動きで地面へ降り立つバエル。

その言葉に反論したいのは山々だが、今はルカ達の無事を確認する方が先決だ。


「ドレア!! 飛ばされていったみんなを、探しに行ってくれ!!」


「あやっ!? あやややー!! 了解致しましたー!!」


 残る戦力の中から最も戦闘には向いていないドレアに探索を託した俺は、フェニスに連れられて、ヴァサゴとアスタロトの傍まで高度を下げていった。


「みんな、大した怪我じゃなければいいんだけど……」


 俺の指示を受けたドレアが捜索に向かったとはいえ、バエルの攻撃をモロに受けてしまったルカ達が、戦線復帰する事を期待するわけにはいかない。

 契約で繋がっているお陰か、彼女達に命の危険は無いという事だけは直感的に把握できているので……そこだけは本当に、不幸中の幸いだな。


「へぇ? 一番の役立たずに戦力の回収を任せて、自分達は少しでも時間を稼ごうという作戦ね。弱者が策を弄する姿って……なんて惨めで、哀れなのかしら」


 ただし、俺達の身に迫る危機がますます深刻になっている事に変わりはない。

 そもそも、Gちゃん、ルカ、キミィの攻撃があっという間にいなされた以上、現存する戦力だけでバエルに真っ向勝負を挑む事は自殺行為だ。

 バエルの言うように、どうにかして時間を稼ぎ、何か打開策を見つけないと――


いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。

目標だった100ptを達成致しましたので、次は1000ptを達成できるように頑張ります!!

絶望感満載のボス戦を気合で乗り切る系主人公がお好きな方は是非、ブクマやポイント評価をお願いします!

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