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49話 君のあだ名は


「ああ。俺も疲れたし、帰るのは一夜を明かしてから……って、ちょっと待ってくれ。そう言えば、カプリコルムの瘴気はどうなったんだ?」


 帰路に着くのを明日に先延ばししようとしたところで、ふと気が付く。

 カプリコルムを毒の湿地帯へと変えていたのが姿を変えたアスタロトであったのなら、彼女が元に戻った今、その毒の瘴気も和らいでいるのではないだろうか。


「はぁ……はぁ、そ、その件なら、実際に、ご覧になった方が早そうですわね」


 俺の投じた疑問に答えてくれたのは、契約の快感から立ち直ったベリトだった。

 未だに唇の端がヒクついている姿を見るに、余韻はまだ残っているようだが。


「大丈夫か、ベリト。まだ無理はしない方が……」


「問題ありませんわ。ワタクシの魔神装具、金変扇アウルムファンの真価。改めて、アナタ達にお見せ致しましてよ!」


 物質を金に変えて操る力を持つ扇子を右手の中に出現させて、それを軽く扇いでみせるベリト。すると、俺達が立つ屋敷全体が唸りを立てて振動を始め――


「おわっ!? 床が動いて……金に変わった!?」


 俺達が立っている普通の床が、一瞬にして黄金へと姿を変えていく。

 そうして一面が黄金と化した床は、ベリトの力によって操られ、まるで舞台で使われるせりのように……ゆっくりと上昇を始めた。


「お、おお? お次はなんだ!?」


 そんな床の動きに連動するかのように、パカッと開かれた天井を通り抜けて進んで行ったその先には――目を見張るような圧巻の光景が広がっていた。


「へぇ……これはすげぇな!」


 空に浮かぶ、真円から少し欠けた月明かりによって照らされているのは、どこまでも果てしなく続いている広大な草原。

 あの禍々しい雰囲気を放っていた紫色の瘴気は見る影もなくなり、優しい夜風に揺れる緑豊かな草木の姿がそこら中に溢れているのだ。

 そのあまりにも清々しい爽やかさに、俺はすかさず感嘆の声を漏らした。


「むふぁー!? なんとも、びっくり仰天ですね!」


「むぅん! これしきの事で驚いてしまうとは、吾もまだまだ未熟だ!」 


 他の子達もこの変化は予想外のものであったらしく、驚きに満ちた感想を漏らしながら、目の前の光景に目を丸くしている。


「でも、どうしてこんなにも急に変わったのかしら。いくら瘴気の発生源が無くなったからって、元は湿地帯だったカプリコルムが草原に変わるなんて」


「あやややや、そう言われるとおかしいですね。ただの湿地帯に戻るならまだしも、これだけ緑が溢れる大地に変貌するとは、いくらなんでもおかしいですよ」


「外に連れ出したワタクシが言うのもなんですけれど、全くもって同感ですわ」


 どうやらこの変化はベリトにも理解が及ばないものであったようで、自信満々なドヤ顔もいつしか、不可解そうな思案顔へと変わっていた。


「……答えは簡単。あの瘴気を生み出していた、アスタロトの力が、正常に働いた事によって……カプリコルムは、緑に包まれていている」


 しかしここでいきなり口を挟んできたのは、意外にもヴァサゴであった。

 彼女はその足元で、未だに安らかに眠っているアスタロトをそっと抱き抱えるようにして持ち上げながら……なおも、その解説を続ける。


「アスタロトを蝕み、その体を腐敗させていたのは……彼女自身の持つ、能力」


「え? アスタロトの能力って確か、豊穣を司る能力じゃなかったか?」


「そうです。でも、彼女の力は、いわゆる暴走状態に、されていました。そのせいで、彼女の力がマイナスに働き……大地や、体の腐敗化を招いて、しまった」


 暴走状態……植物に栄養剤とかを与えすぎると逆に腐って枯れてしまうって話は聞いた事があるけど、それと似た状況がアスタロトの身に起きていたのか?


「むうん、なるほど。それならば、勇士との契約で元の姿に戻れた事にも納得だ」


「何者かによるアスタロト氏への能力干渉が、ミコト氏の契約によって上書きされた……と。あややっ、それでアスタロト氏は手前め達に、ソロモン氏の生まれ変わりが現れるまで匿って欲しいとおっしゃったわけですか」


「むふぅー!! つーまーり!! ミコト様のお陰って事ですね!! ねっ!!」


 ヴァサゴの解説で話の筋が繋がり、合点が行ったように頷き合うルカ達。

 しかし、そんな彼女達の嬉々とした態度とは裏腹に、段々と表情を険しく曇らせていく少女達も存在していた。


「アスタロトの力を、暴走状態に……ね」


「それほどの力を持つとなれば、やはり犯人は支配者クラスの魔神に違いありませんわ。しかも恐らくは、慈悲も容赦も無い……最低最悪の魔神でしてよ」


 ソロモンの魔神72柱の中で、最高位とされる支配者クラス。

 そんな存在を敵に回す可能性を改めて認識したせいか、フェニスとベリトの声には、どことなく絶望の色が含まれている。

 未だに支配者クラスの魔神がどれほど強大な存在なのかを知らない俺には、彼女達の胸で燻る恐怖を理解する事はできない。しかし、それでも……だ。


「そう、深刻になるなよ。今はただ、アスタロトを助け出せた事と、俺のハーレムが着々と完成されつつある事を喜び合おうぜ」


 俺の思い描く理想のハーレムには、常にとびっきりの笑顔が溢れていて欲しい。

 だからこそ、俺はどんな時だって彼女達を不安にさせないように、馬鹿みたいに楽しげに、底抜けに明るく振舞わないとな。


「……それもそうかしらね。能天気なアンタを見ていたら、なんだか心配するだけ馬鹿らしくなってきちゃったわ」


「同感ですわ。それに、先の事を案ずるよりも、目の前のアスタロトをどのように愛でるべきかを思案した方が有意義というものでしてよ!」


 そんな俺の思いが通じたのか、フェニスとベリトは毒気を抜かれたように、強張っていた表情を緩めて笑みを浮かべる。

 そうそう、やっぱり可愛い美少女には笑顔が一番だ。


「ベリトは本当にアスタロトが大好きだな。なんだか、少し妬けちまうよ」


「あら、嬉しい事を言ってくださいますのね。ですが今世のソロモン――ミコト、アナタがワタクシの名を普通に呼ぶ事は……気に食わないですわ」


 アスタロトにゾッコンなベリトに対して拗ねた言葉をぶつけると、意外にもベリトからも拗ねた言葉が返ってきた


「ああ、ゴメン! ベリトって結構呼びやすい名前だから、逆にあだ名を付けるのが難しくてさ! すぐに良いあだ名を考えるよ!」


 扇で口元を覆い隠していても分かる程に頬を膨らませるベリトを見て、俺は慌てて頭をフル回転させる。

 なんとしても、彼女に気に入って貰えるあだ名を考え出さねばならない。


「えぇーっと、ベリー、ベリリン、ベリっち、ベリベリ……」


「言っておくが、儂以外にベリを使ったあだ名を用いる事は断じて許さぬぞ」


「うわぁ……そういう事、言っちゃうのかよ」


 口に馴染むあだ名を模索する最中、頭上のベリアルが妬みを感じさせる呟きを漏らしてくる。そりゃあ、ベリアルからすればベリを他の子に使われる事は嫌なんだろうけど、ベリトだってベリを使う権利はあるわけだし……


「……じゃあ、見た目から決めるか」


 切羽詰まった俺はひとまず、ベリトの外見的特徴からあだ名を考える事にした。

 そわそわとしながら命名の時を待つベリトの頭には、ぴょこぴょこと蠢く長い触角のようなアホ毛が二本。

 そして、その圧倒的な毛量で楕円形に広がる二房の黒い後ろ髪は……失礼だとは分かっていても、やはり、あの昆虫を思い浮かべずにはいられない。


「G……いや、でもこれは」


「G!? ミコト!! アナタ今、Gとおっしゃいましたの!?」


 あっ、マズイ。つい口が滑って、絶対にベリトを表現すべきではない言葉を言ってしまった。ベリトも目を見開いて顔を真っ赤にしているし、これは怒られ――


「GOLDのG!! まさしく、このワタクシにピッタリの言葉ですわ!!」


「……んっ?」


「AURUM(黄金)のAも捨てがたいですけれど、それは既にワタクシのアウルムファンに使用済み。となればやはり、GOLDのGが最高にバッチリですの」


 間一髪。ベリトが勘違いをしてくれたお陰で、俺が責められる事は無かった。

 女の子に断じて嘘を吐かない事が心情の俺としては、かなりグレーなラインではあるのだが、本人が気に入っているのならばこのままでも構わないだろう。


いつもご覧頂いたり、ブクマ登録をしてくださっている方は本当にありがとうございます。

ブクマやポイント評価が増える度に狂喜乱舞しております!

アホ毛ぴこぴこ系美少女がお好きな方は是非、ブクマやポイント評価をお願いします!

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