39話 試練を乗り越えて
「じんじでまじだぁっ……! ミコト様ぁ、ミコト様ぁっ!」
「おいおい、大袈裟過ぎるぞ。このくらいで泣くなよ」
俺はローブの袖で、ルカの顔を濡らしている涙を拭う。
それと同時に、周囲の様子を窺ってみると。
「……ふんっ。戻ってくるのが遅いのよ、このバカ」
どこかホッとしたように、胸をなで下ろしているフェニス。
「本当に、立ち上がった……?」
口をポカンと開き、前髪から覗く片目を丸くしているヴァサゴがそこにいた。
「悪い。なんだか、心配を掛けちゃったみたいだな」
「……」
俺の身に何が起きていたのかを、なんとなく察しつつ、俺は起き上がる。
ずしっと、腹部に重みを感じて見てみれば……そこには赤いぬいぐるみがしがみついていて、無言のまま俺の腹をグリグリと押していた。
「お前も、さっきはありがとうな。お陰で助かったよ」
意識の無い間、俺は強い力でベリアルを抱きしめていたのだろう。
両腕で絞められていた跡が残っているベリアルを、再び俺の頭の上に乗せ直してから……俺は、彼女に対して感謝の言葉を告げる。
「それで、ええっと……お前達は、何をしているんだ?」
ルカ、フェニス、ヴァサゴ、ベリアルの順で目を走らせて。
俺の視線はすぅーっと下の方向……俺の眼下へと向けられていく。
「「……」」
そこには、土下座のような体勢で床に伏せて、頭を垂れる2柱の魔神……ドレアとキミィの姿があった。その表情を窺い知る事こそできないが、彼女達が俺に対して謝罪の意思を示している事は十二分に伝わってくる。
「あややややっ! ミコト氏、これまでの数々の非礼を謝罪します!」
「むぅん! 勇士のお力を疑うなどという愚行! 心の底から詫びよう!」
「……えぇっと?」
謝られるような事に全く覚えが無い俺は、首を傾げるしかない。
そもそも、試練を受ける事を俺は快諾しているわけだしな。
別に彼女達がどんな思惑を抱いていたとしても、謝るような事ではないだろう。
「あややや。実を申しますと、手前め達はある目的を果たす為に、ミコト氏の力を試していたのですよ。【魔神の紋章の位置を見つけられる事】と【強い精神力を持っている事】……この二点をミコト氏が満たす存在であるかどうかを」
俺の疑問に応えるように、頭を伏せたままのドレアが説明を始める。
なるほど。それでドレアは俺にクイズを出して、キミィは魔神装具の力か何かで俺の精神力を試したというわけか。
「ある目的、か。それは教えて貰えないのか?」
「むぅん! 案じずとも、次の階に進めば全ての謎は解けるだろう!」
「そっか。じゃあその件は、上に進んだ時に教えて貰うとするよ」
だからもういい加減に頭を上げてくれ。
そう言葉を続ける俺の目に飛び込んできたのは、キミィが傍らに置いていた魔神装具を手に取り……その切っ先を、自分の腹部へ突き立てようとする姿だった。
「それでは、此度の非礼の責任を取り――これより吾は腹を切らせて頂く!」
「ちょ、ちょっと待った! ストップ! 誰かキミィを止めてくれ!」
「むふー! 暴れちゃ駄目ですよー!」
「たくっ、面倒くさい脳筋女ね!」
俺の叫びを聞いて、すかさずルカとフェニスがキミィを止めにかかる。
それぞれが右腕と左腕を押さえつける事で、引っ張られたキミィは万歳のような姿勢でズルズルと床を引きずられていた。
「むぅーんっ! 離せぇっ! 離してくれ! この腹を切らねば、吾は勇士に対して申し訳が立たんのだ! うおおおおおおおおおおおっ!!」
「ぐぅっ、なんて馬鹿力なんですかぁっ!?」
「暴れるんじゃっ……ないわよっ!」
おお、流石は戦闘に特化しているというキミィ。
ルカとフェニスに押さえられていてもなお、凄まじい抵抗ぶりだ。
うーん。このままじゃ、完全に振りほどかれるのも時間の問題だな。
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