38話 暗闇の中で
暗い。
寒い。
痛い。
俺が世界に生まれ落ちて、最初に感じたものは――そんな感覚だった。
「あ、あぁ……う、うぁ……」
今の俺は、あの日と同じ状況に陥っている。
自分が誰であるのか、なぜここにいるのか。
わけが分からなくて、ただ誰かに救いを求めたくて。
真っ暗な世界で、寒さに震え、痛みに苦しみながら……呻く事しかできない。
これはきっと、まやかしだ。
俺が今いる場所は明るいし、寒くも無くて、俺は怪我一つしていない。
傍には、俺にとって大切な女の子達がいてくれる……筈なのだ。
だけど、もし。
もしも、この瞳を開いた時。
この世界が真っ暗だったら?
凍てつくような寒さが、そこにあったら?
本当は俺の体に、致命傷の怪我があるとしたら?
俺の周りにいるのが、味方ではなく……敵だったとしたら?
次から次へと、俺の脳裏には嫌な予感が浮かんでくる。
ギュッと瞑られた瞳は俺の意思に反し、より固く閉ざされていくばかり。
怖い。
いくら良い方向に考えようとしても。
それを黒く塗り潰すように、悪い考えが溢れ出して止まらない事が。
「――っ! ――――――――!? ――――――――っ!」
その時、俺のすぐ近くで何者かが叫ぶ大声が発せられる。
誰が誰に、なんと言ったのかは分からなかった。だが、今の俺にトドメを刺すには……何者かが叫んだという事実だけで充分であった。
「ひぃっ!? うぁぁあああああああっ!」
胸の中で必死に抑えていた恐怖が、堪えきれずに爆発する。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
この場から逃げ出したい。
でも、逃げる事すらも怖い。
何もしたくない。
何もされたくない。
何も――
誰も俺に近寄らないでくれ。
誰も俺に触らないでくれ。
誰も俺に――
「…………」
そうだ。
何もしなければ、何もされない。
誰も俺に近寄らなれければ、何をされる事も無い。
俺は独りでいればいいんだ。
そうしていれば、俺は傷付く事なく生きていられる。
それこそが、俺の幸せなんだ。
俺は、俺はこのまま――
「お前は本当に、それで良いのか?」
「えっ……?」
外界からの光も、音も、感触も、全てを絶った俺の世界。
暗い暗い、この世界には俺一人しかいない。
それなのに、誰かが……聞き覚えのある少女の声が、俺に語りかけてくる。
「怖いじゃろう? 辛いじゃろう? 苦しいじゃろう? 今のお前にとって、この世界は地獄と同じ。生きる力さえ、湧いてこんのじゃろう?」
瞳は閉じて、視界は真っ暗な筈なのに。
俺の瞼の裏には、とても眩しい……人型の光が映っている。
「じゃが、それでも絶対に折れてはならん。儂が見込んだ男が、この程度の試練で夢を諦めたりするものか。そんな事は許さんぞ」
その光は一歩ずつ俺の元へと近付いてくると、優しく俺を抱きしめた。
温かく、柔らかな感触や、甘い匂いすら感じる光。
なぜだろうか。
さっきまでは、あんなに怖かった他者の存在が、今ではとても愛おしく感じる。
俺はこの光を、彼女の事を――知っている?
「思い出せ、ミコト。お前にとって一番の恐怖は死ぬ事では無い。その心の奥底に眠ってしまった、お前の大切な夢を――解き放つのじゃ」
俺の大切な夢?
俺に、夢なんて、あったっけ?
そんなもの、えっと……ああ、この光、本当に温かいなぁ。
俺は昔から、その……ああ、この光、ムチムチしていて触り心地が抜群だ。
あともう少しで、思い出せそう……ああ、この光に、もっと触れていたい。
「……そうだ、そうだよ。俺はいつだって、そうだったじゃないか」
恐怖に染まり、力が入らなかった体にグングンと熱が入る。
主に俺の股間部に熱い血が滾り、その硬度を増していくようにして。
俺は心の中で、忘れていた大切な夢を……再び形作り始める。
「俺は、可愛い女の子が好きだ」
俺の口をついて出た言葉が、暗い世界に響き渡った瞬間――ビシリと、闇の中に小さなヒビが刻まれる。
「沢山の美少女と、俺はイチャイチャしたい」
一言。
「それから、俺の事を愛してくれる女の子達を世界中の誰よりも幸せにして……」
また一言と発する度に、闇に刻まれたヒビは段々と大きく、拡がり始めていく。
そして、そのヒビ割れから漏れ出す光が……俺の世界を満たした瞬間。
「ずっとずっと! 最高に楽しいハーレム生活を過ごしたいんだ!」
俺を抱きしめている光の少女の美しい横顔が、一瞬だけ俺の目に映る。
俺は、初めて見る筈の彼女が誰であるのか……なぜか手に取るように分かった。
「良い顔になったな。これでもう安心じゃ」
ああ、そっか。
ずっと俺の傍にいてくれるって、約束してくれたもんな。
ありがとう、俺もお前との約束を守ってみせるよ。
だから、さっさとこんな場所からは……
「いい加減、出て行かねぇとな!」
俺は立ち上がり、漏れ出す光へと向かって駆け出していく。
もう、俺の胸に恐怖は無かった。
俺は俺の夢を叶える為に、前へ進み続ける。
その為の一歩はアイツと出会った時に――踏み出しているんだから。
「むふぁーっ! みぃぃぃこぉぉぉとぉぉぉさぁぁぁまぁぁぁぁぁっ!!」
「わっ!? ルカ!?」
俺が光の中に身を投じる事で、曇天の空が晴れるように開かれた視界。
その視界にまず映ったのは、涙で顔をグシャグシャにしながら俺を抱きしめているルカの姿であった。
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