31話 お前に勝つ事じゃない
「あや? あややややや!? ソ、ソロモン氏!? この手前めは、アナタが卑怯な手を使わない、誠実なお方だと信じておりましたとも!! ですから早く、手前めの頭を焼こうとするフェニックス氏や、手前めのお腹を貫こうとするフルカス氏や、チョークスリーパーで首を絞めてくるヴァサゴ氏を止め……ぐぇっ!?」
「どういうつもりよ、ミコト! まさか本気でコイツと勝負するわけ!?」
「そのまさかだよ。俺は、ドレアの紋章の位置を当ててみせる」
少し理不尽にも思える勝負方法を提案してきたドレアを、3柱の魔神少女達がマジでけちょんけちょんにする五秒前。
俺は紙一重で彼女達の凶行を引き止め、その勝負を受ける事を承諾した。
「……同意しかねます。実力でねじ伏せるのが、一番……確実、です」
「確実だけど、最善のやり方じゃないだろ? アスタロトが向こうの手に内にあるって事を、忘れちゃ駄目じゃないか」
それに加えて、乱暴な方法で契約なんてしたら、ドレアは勿論……ベリトからも嫌われてしまう可能性がある。俺としては、それも避けたいのだ。
「むふぅ、確かにミコト様のおっしゃる通りですね!」
「チッ……命拾いしたわね」
「あーやぁー、助かりました! やはり、新たなソロモン氏はお優しい方なのですね。しかしだからといって、試練を甘くするような事はございません。あなた様にはしっかりと、手前めの紋章を見つけ出して頂きます!」
殺伐ガールズ(再結成)の包囲網から解放された安堵感からか、咥えた飴を口内で転がしながら笑みを浮かべるドレア。さて、ここからが本盤というわけだが。
「……ねぇミコト。どう考えても無理だと思うわ。たった三回だけの質問じゃ、当てずっぽうで候補を絞りでもしない限り、完全な特定は不可能でしょ?」
「だろうな」
「はぁ? じゃあなんで勝負を受けるのよ!?」
フェニスが怒るのも当然だ。
どう足掻いても、三回の質問だけで全身の中から一箇所を特定する事は難しい。
当てずっぽうで当てる事も可能かもしれないが、それで正解を導き出したとしても、ドレアは俺の事を認めてくれないだろう。
「うーん。どうすれば、紋章の位置を見つける事ができるんでしょう?」
「いや、俺達が自力でドレアの紋章を見つける事はできないと思うぞ」
「むふ? どうしてですか?」
「どうしても何も、このゲームで紋章の位置を答えるのは俺じゃなくて……そこにいるドレア自身だからさ」
「「「「!?」」」」
この場にいる全員が一斉に、驚愕に染まった視線をぶつけてくる。
ルカ、フェニス、ヴァサゴは当然の反応。だが、明らかに様子がおかしいのは、驚愕の中に明らかな動揺の色を滲ませている……彼女だ。
「……あややや? 何を、おっしゃっているのでしょう?」
「ん? 俺、何かおかしい事を言ったか?」
一度気が付いてしまえば、呆れる程に単純なロジック。
パズルのピースのように一つずつ、俺の中で推測が繋がり始めていく。
「あ、あやっ!?」
確信は未だに無いが、だからと言って他に良い考えがあるわけでもない。俺は自分の導き出した答えを信じ、ドレアの元へ向かって一歩を踏み出して行った。
「すっかり騙されていたよ。いや、そこは流石と言うべきなのかな?」
「あやぁ……あややや……っ!!」
ドレアとの距離を少しずつ詰めていき、片方が手を伸ばせば届く程の位置にまで近づいたところで……ドレアはあからさまに狼狽を始める。
この姿を見て、俺は自分の仮説が正しいという事に確信を持てた。
まず間違いなく、彼女は――
「ねぇ、ミコト。どういう事よ? アタシ達にも分かるように説明して」
「おっと、悪い。今から順序立てて話すよ」
痺れを切らした様子のフェニスが、じれったそうに訊ねてくる。
俺はそんな彼女のモヤモヤを晴らす為に、説明を始める事にした。
「そもそも、口の勝負でドレアは絶対に負けない。だから、彼女が自分に有利に勝負を提示した時点で……俺達には、力ずくでの突破しか方法が無くなる。他の勝負方法をこちらが提案しても、最後にはドレアに言いくるめられちまうだろうし」
「そうですね。ですから、ここは私がクトゥアスタムでグサッと!!」
「……だけどよく考えてみれば、この流れは妙なんだ。だってドレアは、わざわざ自分がボコボコにされるように……俺達を言葉巧みに誘導した事になっちまう」
槍を構えて意気込むルカの姿に苦笑しつつ、俺は説明を続ける。
この時点で、ヴァサゴとフェニスの両名はハッと何かに気付いた様子だった。
「でも、ドレアにとって俺達の実力行使が損であるように、俺達もドレアの心象を悪くするし……最悪ベリトを怒らせるかもしれないって、損をするよな」
「お互いが損……? それはつまり、引き分け?」
「そういう事。ドレアの能力は絶対に負けはしないけど、相手と引き分けてしまうという可能性も残されてしまうんだ」
その事に気付かずに、彼女の力を悪用し続けていれば、いつか必ず相手と共に自分自身にも大きな不幸を呼び込む事になる。
そういった点も恐らく、ドレアの能力を使いこなす為に必要な知識なのだろう。
「つまりこの試練は、この事に俺が気付くかどうかを試していたんだと思う。ドレアの能力をしっかり理解して、自分の勝ちじゃなく……互いの勝利、引き分けというゴールを目指せるかどうかを」
そうだろ? という確認の思いを込めた視線を、俺は目の前のドレアにぶつけてみる。すると、先程までの饒舌が嘘のように口数がめっきり減ってしまったドレアは、ビクンッと大きく体を震わせながら目を逸らした。
もはや誤魔化そうともしない辺り、彼女はもう観念したのかもしれない。
だが、だからといってこのままだと話が先に進まないので――
「さぁ、ドレア。今から、一つ目の質問に答えて貰うぞ」
「あやっ、ややややぁ……!」
俺は遂に、ドレアが提案した紋章当てゲーム……回答者に与えられた三回の質問の権利を、行使する事にした。
その最初の質問は勿論、最も確認すべき重要な事だ。
「俺が取るべき行動は、お前に勝つ事じゃない。お前と一緒に勝つ事なのか?」
「うっ……くぅっ。イ、イエス……ですよ」
更に一歩、グイっと距離を詰めながら質問してみると、ドレアは頬を紅潮させながらコクリと頷く。どうやら、俺の推理は間違っていなかったらしい。
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