29話 過程や方法など、どうでもよいのか?
「あやぁっちゃぁぁぁ!! ちゃっちゃぁ!! あづっ、あはぁっ! これは流石に洒落になっていませんってばフェニックス氏!! フェニックス氏ぃっ!!」
「…………」
一昔前のバラエティ番組のようなワードを、ドレアが口走った数秒後。
何も言わず無表情で火球を放ち続けるフェニスと、足元を焦がされながら逃げ回るドレアの姿がそこにあった。
「フェニス! ステイ! ステーイ!」
「……ちぃっ。しょうがないわね」
「あやぁ、あやぁ……じ、じぬがどおもいまじだよぉ……ひっ、うひひっ」
しばらくフェニスに弄ばれていたドレアだったが、あまりにも絶叫しすぎた為か声がガラガラになっている。しかし、それだけ痛めつけられた割に、どこか現状を楽しんでいるように見えるのは……気のせいだろうか?
「あー……ドレア。凄い声になってるけど、大丈夫?」
「ふぅ、ふぅ……あややや! いえいえ、この程度なら飴を舐めればすぐに治りますので、お気遣いなど不要でございます。というわけで、少々失礼致しますね」
そう言ってドレアはポケットから先端が丸く、持ち手となる棒が刺さったタイプの青い飴玉を取り出し……ぱくんと口に咥えた。更にそれをコロコロと口の中で転がし、その甘さに目を細めて幸せそうに頷いている。
「むーふぅーっ!! ミコト様!! アレは飴ですよ! 飴なんです!!」
「飴が欲しいのか? でもアレはドレアの物だし、ルカには今度買ってあげるよ」
ドレアが飴を咥えるのを見て、興奮気味に鼻息を荒くするルカ。
この世界のどこに飴が売っているのかは知らないが、いつかはルカの為にも飴玉を調達しないといけないな。そう俺が思っていると……
「……違います。あの飴は、アンドレアルフスの……魔神装具」
「え!? そうだったの!?」
「むふぅー!! やった!! ミコト様が私に飴を買ってくださいます!!」
俺の勘違いを、すかさず指摘してくるヴァサゴと、飴を買って貰える約束を取り付けられて嬉しそうに跳ね回るルカ。まぁ、喜んでくれたならいいか。
「能力はさっき説明した通り、【口論や議論において絶対に負けない】能力よ。ここからは、アイツの言葉に惑わされないように気を引き締める事ね」
どの口が言うのだろう、とツッコミたいがそれもまたグッと堪える。
もはやフェニスの中で、先程ドレアに言いくるめられた事実は消えてなくなっているのだろうから。
「あやややや、なんだか手前めが悪女のような物言いでございますね。ただ手前めは、喉に癒しを与えるべく、この弁立飴フォテムキャンディを舐めただけなのですが。なにせ手前めは、飴を舐めずとも弁が立ちますゆえ……」
「二度は言わないわ。さっきのふざけた発言の説明を、二節以内でしなさい」
でないと燃やし尽くすわよ、と炎の両翼を展開して威嚇を行うフェニス。
ノーブラTシャツビキニというエロチックな格好とは裏腹に、その迫力はとても凄まじい。でも、そういうところも個性的で、可愛らしいと思います。
「あややぁー!?」
「はい、一節目」
うん。可愛いらしいけど、それ以上に怖いです。
「手前めの体のどこに紋章があるのかどうか、ソロモン氏が見つける事ができれば二階へと進んで頂けます!!」
「俺が、ドレアの紋章の場所を見つける?」
俺の前世であるというソロモンに使えた72柱の魔神達。
彼女達にはそれぞれ、体のどこかに紋章が刻まれており、俺が指輪を付けた指で触れると強制的に契約を交わす事が可能となる。
つまりドレアは、そんな紋章の位置をクイズとして出題しようというわけだ。。
「あややや、そうです! 数多の魔神と契約してきたソロモン氏であれば、魔神が持つ紋章の位置を言い当てる事くらい容易いでしょう?」
「うーん。そうは言っても、俺にそんな能力は無いし」
前世の俺には可能だったのかもしれないが、生憎と今の俺はただの一般人。
ソロモンの指輪の力で魔神の女の子達と契約は交わせるけど、その為に必要な紋章の位置を知る力なんて持っていないのだ。
「あや!? そうだったのですか!?」
「うん。だから、この勝負は受けられないというか……勝算がまるで無いんだ」
俺に紋章を見つけ出す力が無い事を知ると、ドレアは口元に手を当てて何かを考え込み……やがて、ポツリと一言呟いた。
「……いえいえ、それでしたら特別サービスを差し上げましょう」
「特別サービス?」
「はい。ソロモン氏にはこれから手前めに対し、イエスかノーで答えられる質問を三回行って頂きます。その権利を上手く利用して紋章の位置を見つけ出す事ができれば、手前めの全てをソロモン氏に差し上げます」
なるほど。その三回の質問でヒントを得て、上手い事情報を引き出していけば、当てずっぽうで紋章の位置を答えるよりは遥かに正答率が上がる。
これならば、なんとかイケるか?
俺がドレアの提案を受けるかどうか、決断を決めかねていた……その時。
「はぁ!? 冗談じゃないわ! 大体、そんなくだらないクイズでミコトの何を試すって言うのよ!」
怒鳴るように物言いを挟んだのは、鬼のように怖い顔のフェニス。よほど鬱憤が溜まっていたのか、背中の炎はいつにも増して激しく燃え盛っていた。
「あーやーやー、色々と試せますよ。そもそも、アスタロト氏を本気で助けようと言うのであれば……魔神の持つ紋章の位置を特定できる力が必須となるのです。ヒントも貰って不可能な程度なら、今すぐ引き返す事をオススメしますよ?」
一方のドレアは、その砕けた態度とは裏腹に……表情はまさに真剣そのもの。
とても嘘を言っているようには見えないし、ふざけている素振りも無い。
どうやら彼女は本気で、俺がアスタロトを救う為にはこの試練を乗り越える事が必要だと思っている。きっと、それだけは間違いないのだろう。
「……ミコト様、私は馬鹿なのでよく分からないんですけど。これって、何かの罠だったりするんじゃないでしょうか!!」
「俺もそれを疑っているんだけど、よく分からないんだよ」
ドレアはさっき、自分の能力を使いこなせる人物であるかどうかを確かめたいと口にしていた。それならば【口論で自分を言い負かしてみろ】とか、そういった課題が出されるのが普通だと思う。
はいかいいえで答えられる質問三回だけで、紋章の位置を当てる?
そんなの、彼女の【議論や口論で絶対に負けない】能力とは何も関係が……
「それに、仮に受けたとしても……こっちが不利な事に変わりはないし」
いくら三回の質問が許されているとはいえ、その質問はイエスかノーで答えられる内容に限られるので、どこに紋章がありますか? とは訊ねられない。
ある程度候補を絞っていく事が出来たとしても、全身の部位の中から一箇所を言い当てるのは、運に頼らざるを得なくなってしまうだろう。
「こんな勝負、受けなくても……無理やり、倒してしまえばいい」
「そうよ! アタシの時みたいに、倒してから契約した方が確実でしょ!」
当然、ヴァサゴとフェニスは勝負そのものに否定的。
こちらの数が多い事と、相手が戦いに長けていない事を考慮し、凄まじく脳筋な提案を行ってくる。いや、ある意味これはこれで賢いとも言えるけども。
「あやぁーっ!? そういう事しちゃいます!? そんな勝ち方をしても、後味が良くないモノを残しますし!! 過程や方法にはもっとこだわるべきだと手前めは思いますよ!? 元は仲間じゃないですかぁ、穏便に行きましょう!!」
「……俺も、そうしたいんだけどさ」
アスタロトの救出が掛かっていなければ、というのが俺の本音だ。勝算の無いままにこの試練を受けてしまっては、彼女の救出が遠のいてしまうからな。
だから絶対に、この試練を失敗するわけにはいかない。
誤った選択をしないよう、慎重に考える必要がある。
いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。
ブチキレて無言で攻撃魔法を放ち続ける系美少女がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!




