表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/134

26話 G系魔神少女現る


「……聞くまでもないと思うけど、一応確認しておこうか」


「「「……」」」


 落胆、悲愴、絶望。それらが入り混じったような表情で、ジリジリと後ずさりをしている3柱の魔神少女達に俺は問いかける。


「あの子がベリトで、いいんだよな?」


「……そ、そうです。アレこそまさしく、ベリトです」


「ほほー。やっぱりそうなのか」


 震えるルカの返答で自分の予想が正しい事を確認し、俺は改めて屋敷の屋根上に張り付く少女を見上げる。

 最初に視線が合って以来、こちらを向いたまま凍り付いたように動きを止めていたベリトだったが……再び視線が合うと、スクッとその場で立ち上がった。


「うぇーっひっひっひっ!! よくぞ、あの毒地帯を抜けてきましたわね! 今世の新たなソロモン!!」


 耳にキィーンと響きそうなハイトーンボイスで、そう声高らかに叫ぶベリト。

 独特な笑い方はともかく、その口調は外見と一致したお嬢様風なもの。

 血のように紅いドレス姿には少々度肝を抜かれたが、彼女の長い黒髪と腕や首に身に付けている金の装飾を合わせたバランスは素晴らしいと思える。


「随分と待ちましたわ!! それはもう、長い時を……あまりにも待ちすぎて、我が愛しの金を舐め回す事が日課になってしまう程に!!」


「……昔だって、暇があれば舐め回していたじゃないですか」


 異常なまでにテンションの高いベリトに反して、恐ろしく冷めた態度のルカ。

 人懐っこい彼女がこうなるとは……思っていた以上に溝は深そうだ。

 

「待ちました、か。それはつまり、俺達が来るって分かっていたって事なのか?」


「うぇーっひっひっ!! 当たり前ですの! アナタ達の目的がアスタロトだという事も、全てお見通しでしてよ!!」

 

 口元に手を当て、上品な仕草で振舞うベリト。

 そこだけ切り取れば本当に、ただの美少女にしか見えないのだけど……


「ああ、確かに俺達はアスタロトを助けに来た。でも、だからといって君と争うつもりは無いし、無用な戦いも避けたいと思ってる」


 ベリトの発言は、自分がアスタロトを拉致していると自白しているに等しい。

 いつ、何がきっかけで戦いになるか分からない緊張感を抱きつつ、俺は慎重に言葉を選びながら、ベリトに問いかけてみる。


「だからベリト、今から俺と契約して……俺のハーレムに加わらないか? これからは金だけじゃなくて、俺ともイチャイチャラブラブしよう!」


「お前の脳内には、それしかないのか……」


 なんだか頭の上から落胆の呟きが聞こえた気もするが、俺は本気だ。

 ベリトと契約すればアスタロトも救える上に、俺は美少女魔神を新たに2柱もハーレムに加えられる。ベリトも俺が絶対に幸せにするから、損をしないわけだし、


「ハーレム……イチャイチャ……うーん、で、あぁーん、ですわ」


「あれ? 思ったより好感触?」


 俺の提案を受けて、ベリトはどうしたものかと悩んでいる様子だった。

 どこか俺と近しい部分が持つからか、俺の紳士で真摯な告白に感じ取る何かがあるのかもしれない。流石はペロリストだと、褒めてあげたいくらいである。


「だけどこういうパターンって、結局は断られるのがオチ……」


「まぁ、別にイチャイチャくらいなら構いませんの」


「……じゃなかった!!」


 想像もしていなかったイエスの返事を受けて、不覚にも卒倒してしまいそうだ。

 ルカやフェニス、ハルるんの時とは違い、俺の方から契約を迫ってオーケーして貰えるなんて……こんな奇跡が、今までにあっただろうか!!


「はいはいはーい!! 私は反対でーす!!」


「反対も何も、まずありえないって話よね」


「……同盟の破棄を、バエル様に進言……すべきと判断」


 感動の涙で頬を濡らす俺とは裏腹に、ルカ達はベリトに対する不満からか、みんな揃って柔らかそうな頬をぷくーっと膨らませていた。ヴァサゴに至っては、口元に巻いたマフラーの上からでも分かる程に大きな膨らみである。


「いやいやいや。ここでベリトと契約できれば万事解決じゃん! アスタロトも助け出せるし、アリエータとも同盟組めるし、俺の嫁が増えるし……!!」


「相変わらずの色欲馬鹿ね。あの金フェチが目的も無しに、アンタとの契約を承諾するわけがないじゃない。何か裏があるに決まっているわ」


 確かに言われてみれば、ベリトが俺との契約を行う理由が思いつかない。

 俺は彼女を他の魔神少女達と共に、世界で最も幸せな女の子にしてあげるつもりなのだけど……そんな事は彼女にとっては知る由も無い話なわけで。


「なぁ、ベリト。もしかして、契約の為には何か条件とか……あるのかな?」


 フェニスの言葉に一理あると思った俺は、ベリトに直接訊ねてみる事にした。

 あれこれ考えても仕方ないし、こうするのが一番手っ取り早いからだ。


「うぇーっひっひっひっ!! 当然ですわ!! このワタクシと契約するのでしたら、それ相応の条件が必要となりましてよ!!」


「ね? 言った通りでしょ?」


 ……ベリトとフェニス、どちらも清々しい程のドヤ顔をありがとう。

 大丈夫、俺に悔いは無い。幸せな夢を、見させて貰えたのだから。


「むふがぁー!! ベリト!! ミコト様の実力を疑うとは万死に値します! ミコト様はかつてのソロモン様と同じく、偉大なお方なんですよ!!」


 一方ルカは、そんなベリトの言葉に不満を爆発させていた。

 ああ、ルカ。俺の心の傷を真っ先に癒してくれるのは、いつだって君だ。


「口先だけではなんとでも言えましてよ。ワタクシが知りたいのは、新たなソロモンがあの素敵な【金の力】を使いこなせているかどうか……ですの!」


「素敵な……金の力?」


「ええ!! この世界で最も価値がある、あの力の事ですわ!!」


 そんな力を持っていたっけと首を傾げるも、その答えはすぐに出てきた。

 俺が初めてルカと契約して、魔神装具の力を解放した時に迸った金色の雷光。

 もしかしたら、アレがベリトの言っている金の力なのだろうか?


「金を持たない凡庸な魔神でさえも、最高にして至高の輝きを持つ存在へと変化させる力……うぇひ、うぇひひひっ!! あの力さえあれば、あの子もきっと!」


 両手で自分自身を抱くようにして、ギュッと胸の膨らみを寄せ上げるベリト。

 その目はいつしかぐるぐると回っており、焦点を失っているようであった。


「うぇーひっひっ! そういうわけですのよ、新たなソロモン! ワタクシが望むだけの力をアナタがお持ちかどうか、これから試させて頂きますわ!」


 言うが早いか、ベリトは屋敷の屋根から三階部に造られたバルコニーへ飛び降りていく。その際に長い黒髪は二股に別れ、まるでGの羽みたいにはためいていた。


「試すって……まさか、これから戦いを始めるつもりなのか?」


「ごめんあそばせ、新たなソロモン。ワタクシはそこにいる下品で粗暴な方達とは違って……野蛮な争い事が大嫌いですのよ」


「「「あ?」」」

 

「ですから、アナタにはこれから試練を受けて頂きますの」


 ウィンク一つ、妖艶な愛嬌を振りまくベリトとは裏腹に……俺の隣に並ぶ美少女達が一斉に殺気を迸らせる。あまりにも怖すぎて隣を見る勇気が出てこないけど、彼女達が烈火のごとく憤怒を燃やしている事だけは理解できた。


「うぇひっ、うぇひうぇひうぇひっ。新たなソロモン、この屋敷の中にはワタクシに従う忠実なる配下達が待ち受けていますわ」


 しかしそこは流石、公爵クラスの上位魔神。

 これだけの殺意と敵意を一身に受けながらも、何食わぬ顔で話を続けていく。


「彼女達がそれぞれ出す試練を乗り越え、ワタクシの待つ最上階まで辿り着く事ができたのなら……その実力を認め、契約して差し上げましてよ!」


 屋敷の中には、ベリトに付き従う配下が存在する。

 その部分だけを聞けば、非常に厄介な事態に思えるけど……俺は今の話の中で最も重要となる単語を聞き逃してはいなかった。


「彼女達……だと!? 女の子!? それも複数!?」


「ええ! ワタクシと行動を共にする2柱の魔神ですわ!!」


 ルカ達に聞いた話から、てっきりベリトは単独でアスタロトを拉致しているものだと思い込んでいたが……なんと彼女には、2柱の仲間がいるのだという。

 この衝撃の事実に対し、俺はすかさずガッツポーズ。横の殺伐ガールズに至っては、素早く円陣を組んでヒソヒソ話を始める始末であった。


「なんだか嘘臭いわね。アイツに従う魔神なんて、この世にいる筈がないでしょ」


「千年前も金に話しかけてばかりでしたし、仲の良い友達なんていませんよね?」


「ちょっとだけ、同情。でもヴァサゴは……友達に、なりたくない」


 それとこれは、ここだけの話だが……どこかのぬいぐるみさんもポツリと一言。


「ありえんのぅ……」


 と、漏らしていた。


「さぁ、どうしますの? 引き返すなら今の内でしてよ、新たなソロモン!」


 そんな4柱の動揺も知ってか知らず、ベリトは触角のようなアホ毛をびょこびょこと揺らしながら、不敵な笑みと共に俺へと視線を飛ばしてくる。

 キリッと決めようとしているくせに、愛らしいトレードマークを見せつけるように揺らしやがって……これはもう、俺に対する求愛行動と捉えてもいいよな?


「……この屋敷にいる魔神全員、すぐに俺のハーレムに加えてやるからさ」


 頭上でズレかけているベリアルの位置を右手でギュッと直してから、俺は黄金の屋敷へと向けて……力強く一歩を踏み出す。

 そして、バルコニーからこちらを見下ろすベリトへと向けて――


「俺に紋章をまさぐられる瞬間を、そこで楽しみに待っておけよ!」


 ちょっとだけ締まらない、宣戦布告をぶつけるのであった。 


いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。

お嬢様口調の高飛車美少女がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ