25話 うん、アリだね
「じゃあ話を戻すけどさ。敵が少数だとしたら、どんな作戦が良いかな?」
「そうね。ベリトに見つかると色んな意味で面倒になりそうだし、ここはササッと忍び込んで、アスタロトを見つけたらすぐに脱出するべきだと思うわ」
「忍び込む……か。とは言っても、どこから忍び込めばいいやら」
フェニスの提案を聞いて、俺は改めて眩い黄金の屋敷を見定めてみる。
金で作られている事を除けば、オシャレな三階建ての屋敷。
中世時代の貴族が住んでいそうな造形、とでも言えば分かりやすいか。
「窓は全て、塞がれている、ようですね」
ヴァサゴが呟いた通り、屋敷の窓枠には全て鉄格子ならぬ金格子が嵌められているので、窓から忍び込む事は難しそうだ。潜入を諦めて正面の入口を使うか、屋敷の裏手に回り、目立たない入口を探すしか……
「むっふー!! あんな格子くらい、私のクトゥアスタムなら!」
侵入方法について俺が頭を抱えていると……ルカがその右手に黒槍を出現させて、鼻息を荒くして意気込んでいた。
万物を貫く力を持つ魔神装具を使い、窓を格子ごと壊すつもりのようだ。
「このお馬鹿。そんな事したら、大きい音がしてバレちゃうでしょ」
そんなルカの頬を、両手でムニムニと摘むフェニス。
さっき俺が諌めた事を気にしているのか、その語気はいつもより柔らかい。
「ひゃあ、ほうふふんへふは?」
「ここはアタシに任せなさい。あんな趣味の悪い屋敷、すぐに溶かしてあげるわ」
フェニスはルカの疑問に答えると同時に、フェニスは背中の翼を広げた。
なるほど。炎で金を溶かすだけなら、大きな物音は立たない。
金の融点は確か1000℃ぐらいだったと思うし、魔神であるフェニスの炎の力を使えば屋敷の壁に穴を開ける事は可能だろう。
「じゃあ、早速――」
「ちょっと待った。その前に、他に何か方法が無いか考えてみよう」
手のひらの上に炎の球体を浮かべるルカの腕を握り、俺はその手を下ろさせる。
フェニスは俺が触れた瞬間にビクンッと体を震わせたが、俺と目が合うと顔を林檎のように赤くしながら不満の声を漏らす。
「どうして止めるのよ!? 折角、アンタの役に立とうとしてあげてるのに!」
「いや、だってさ。この屋敷に穴を開けたら、ベリトが悲しむだろ?」
今は敵対していようとも、ベリトはいずれ俺のハーレムの一員となる子だ。
そんな子が大切にしているモノを傷付ける事は、なるべく避けたい。
「……薄々分かってはいたけど、アンタって本当に救いようの無い馬鹿ね」
「この状況で、敵を気遣うなんて、正気とは……思えません」
「むふぁぁぁっ!! ミコト様に対して、なんたる言い草ですかっ!!」
「まぁまぁ、不満が出るのは俺にも分かっていたから」
予想通り、フェニスとヴァサゴは俺の決断に否定的だ。俺の為に怒ってくれたルカの気持ちは嬉しいけど、彼女達の言い分の方が正しいのは間違いない。
「甘すぎるのよ、ミコト。アンタはまだ、魔神というものを分かっていないわ」
「ん? どういう意味だ?」
「あの子はアンタが考えているようなマトモさは持ち合わせていないの。金となれば見境なく、ヨダレを垂らしてベロベロと舐め回すような変態なんだから」
眉間に大きな皺を寄せて、不満げに吐き捨てるフェニス。
その言葉には、隣に並んでいるルカとヴァサゴも同意するように頷いていた。
「うーん。話だけだと、なんとも言えないなぁ」
俺が元の世界にいた頃には、実際にそんな子と出会う機会は無かった。
だから俺自身も、そんな子と出会った時にどう感じるかは分からないのだ。
「せめて、一目でいいから会ってみたいんだけど……」
話の流れから、ふと、そんな感じで。
なんとなく、眼前に立ち塞がる黄金の屋敷をチラリと見上げた――その時である。
「…………んんっ?」
カサカサカサカサッ。
人間誰しもが、人生において一度は聞いた事がある不快な音。
「アレは……なんだ?」
台所、あるいはトイレで。
俊敏な動きで逃げ回り、時にはその漆黒の羽を羽ばたかせて飛来する……生物界の中でもぶっちぎりの嫌われ者――通称G。
その悪魔に酷似した巨大な何かが、黄金の屋敷の屋根を素早く動き回っている。
「うぇひ……」
よく見ればそれは、黒く長い髪の毛が長円状に広がっており、触角のように逆立ったアホ毛がピンッと二本ほど伸びているだけのようだ。
それはつまり、誰かが、あの屋根の上を這いずり回っている事を意味していた。
「うぇひっ、うぇひうぇひうぇひ………美しすぎましてよぉ!!」
高い気品を感じさせる清らかな声質とは裏腹に、驚く程に下品な声色で喋る屋根上の謎の人物。長い髪と声からして、女性である事は間違いないのだが……
「あぁぁぁ、ワタクシの黄金! 愛しい黄金……うぇひひひひっ!!」
距離が離れていても、こちらまで聞こえてくるピチャピチャという水音。
シャカシャカと前後左右に動く頭と、その水音から……彼女が、あそこで何を行っているのかは容易に理解できる。
「ペ、ペロリストだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うぇひうぇひうぇひぃ……うぇひ?」
驚愕と興奮のあまり、思わず俺が大声を上げてしまったせいだろう。
Gに似た少女は、その動きを止めて……くるりと、こちらを振り向いた。
「うぇ…………ひ?」
黒髪の少女と俺の視線がぶつかり合う。
長いまつげと切れ長の蒼い瞳に加え、スッキリとした高い鼻に桜色の唇。
今までに出会った魔神少女達の中で、最も大人びた顔立ちをした彼女は……これまた前例に漏れず、最高の美を携えている。
「……えっと。とりあえず、その……なんだ」
色々な感情が脳内を駆け回り、何を口にすればいいのか分からない。
しかし、たった一つだけ。
俺の中でハッキリとしている事があったので、それだけは言葉にしようと思う。
「俺は断然……!!」
金となれば見境なく、ヨダレを垂らしベロベロと舐め回すような変態。
流石の俺も今回ばかりは、いくら美少女が相手でも厳しいと思ったが……
「アリだー!!」
どうやら俺もまた、美少女となれば見境のない変態だったようだ。
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