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17話 侵入者はギャル系魔神 


「序列第39位、マルファス……?」


 いきなり俺達の前に姿を現した新たな魔神少女、マルファス。

 ハルるんとそっくりな顔、同じ形状の巻き角、よく似た名前、一つ後の序列、子供じみた幼い言動。これらから導き出せる事実は、至って単純なものだ。


「もしかして、ハルるんの妹……なのか?」


 俺が窺うようにハルるんへ視線を向けると、彼女はぎこちない笑顔で首を縦に振った。もしかしなくても、姉妹仲は良好とは言えなさそうである。

 マルファスの方はさっき、姉であるハルるんをカス呼ばわりしていたし。


「ちょっとちょっとぉ、ソロモンちゃんさぁ。ウチがこぉんなに可愛いポーズ決めてんのに、シカトは無いっしょ?」


「うっ、ごめん。確かに君はすっごく可愛いよ」


 良くも悪くも、マルファスの格好と言動は異世界には似つかわしくないものだ。

 女子高生の制服に似たブラウスに、チェック柄のプリーツスカート。

 胸元を大きく開けて、スカートも超ギリギリを攻めたその服装はまさにビッチ風ギャル。元の世界だとお近付きになれなかったJKギャルに似た魔神の存在は、俺にとっては予想外の僥倖だと言えよう。

 だけど今は、そんな悠長な事を考えている場合じゃない。

 なぜなら、俺がマルファスの愛らしさを堪能している間に――


「……あ? 下位魔神の分際で、ウチらの楽しいお話を邪魔すんなし」


「抜かせ。貴様の戯言は、千年前から聞き飽きている」


「むむむ。ユーディリアの可愛い担当はこの私ですので、ご退場を願います」


 目にも止まらぬ速さでマルファスを挟んだアンドロマリウスとルカが、それぞれの武器を彼女の首筋に突き立てていたからだ。

 

「アンタは下がってなさい。ああ見えて、アイツはかなりヤバイ奴なのよ」


「ご安心くださぁい。あんな愚妹、ダーリンには指一本触れさせませんからねぇ」


 一方フェニスとハルるんは、俺を庇うように両手を広げながら、俺の前に立ち塞がってくれていた。全く動いていないのは、俺の頭上のベリアルだけだな。


「ちょいまち、ちょいまち。ウチは争うつもりなんて無いのにさぁ」


「世迷言を。戦闘狂の貴様が、我々と話し合いにでも来たというのか?」


「誰がバーサーカーだし。ウチは可愛い可愛い、子羊ちゃんだっての」


 剣と槍の切っ先を喉元に突き付けられてなお、マルファスは陽気に軽口を叩く。

 そのあまりにも狂気に満ちた態度に、俺は底知れぬ恐怖を抱いた。


「主殿、騙されてはいけません。この女は聖国アリエータに所属し、バエルに従う魔神の1柱なのですから」


「アリエータの!? じゃあ、まさかフェニスを連れ戻しに!?」


 マルファスがアリエータの魔神だと聞いて、俺はそう結論づけた。

 だが、そんな俺の推測は他ならぬマルファスによって否定される。


「うんにゃー。下位クラスの魔神に負けるような雑魚なんて、もう要らなーいって、バエル様は言ってたしー」


「……っ!」


 自身の離反に対するバエルの言葉を聞いた瞬間、明らかにフェニスの動揺が激しくなる。顔色が一気に青褪め、額には大粒の脂汗が浮かんでいた。

 それ程までに、バエルの事が恐ろしいのだろうか。


「きゃははははっ!! いいじゃん、その絶望に染まった顔!! さいっこぉ!」


 怯えるフェニスの姿を見て、心底嬉しそうにはしゃぎ始めるマルファス。

なるほど、これはみんなが敵意を向けるのも頷ける。

 彼女はとても可愛らしいが、その性根は紛れもなく……ゲスのようだ。


「……聞くに堪えん! この場で切り伏せてくれる!!」


「むふぅ! 悪い子は、私が退治してやります! お覚悟を!」


 マルファスの悪辣な振る舞いを目の当たりにして、義憤に駆られるルカとアンドロマリウス。元々敵対しているという関係も手伝い、その怒りは相当なものだ。


「うーわー、雑魚共がイキっちゃってまぁ……必死すぎてウケるんですけどぉ」


「……変わらないですねぇ、マルファス。貴女のような子が実の妹だなんて、愛しいダーリンに顔向けできなくなっちゃいますぅ」


「はぁぁっ!? ゴミクズおねぇにだけは、言われたくないんですけどぉ!?」


 ルカ達から向けられた怒りには余裕綽々といった態度のマルファスだが、姉であるハルるんの言葉には過敏な反応を見せた。

 憤怒で顔を紅潮させ、ギリギリと歯噛みする姿には並ならぬ憎しみを感じる。


「つうかさぁ、さっきからそんな態度を取っていいわけ? ウチがこの城に現れた意味、もっとちゃーんと考えた方がいいんじゃない?」


「なんだと……? まさか貴様!? ラウムとビフロンスを!?」


 敵国の魔神であるマルファスが、ユーディリア城への侵入を果たしている。

 それはつまり、警邏を担当していたラウム達を出し抜いた……あるいは、彼女達を倒してきたという事に他ならない。最悪の場合、彼女達はもう――


「ソロモンちゃんが戻ってきたからってさぁ、浮かれすぎっしょー。いつもとは違ってあの雑魚共、まるで隙だらけだったし! きゃっははははははっ!!」


「おのれ! 我らの仲間を雑魚だと侮った事、その身が朽ちる瞬間に悔いろ!!」


 大切な仲間への侮辱を受けて、遂に限界を迎えたのだろう。

 ルカとアンドロマリウスが怒りに震えながら、各々の武器を振り上げようとしたその瞬間……静止の声を上げる者がいた。


「待って。彼女の失言、ヴァサゴが謝罪する」


 彼女は一体、いつからそこにいたのか。

 背後を取られ、その存在に驚いたマルファスの時とは異なり……彼女は本当に突然、俺達の目の前に姿を現したように見えた。


「ぐぬぅっ!?」


「むふぁっ!?」


 ルカの槍とアンドロマリウスの剣。

 マルファスの首元へと迫っていた斬撃をそれぞれ片手でいなし、ルカ達の前に立ち塞がる一人の美少女。海原を思わせる深い青色の髪をなびかせた彼女は、氷のように凍てついた無表情で言葉を続ける。


「こちらに戦う意思は、無い。その証拠に、この子達も無事」

 

 少女が一歩前に踏み出ると、その後方で二つの人影が地面に突っ伏しているのが目に入った。大柄の少女と小柄の少女……もしかして!?


「ラウム!! ビフロンス!!」


 その人影の正体は、紛れもなくラウムとビフロンスだった。

 瞳を閉じたまま倒れ伏してはいるが、呼吸で胸が微かに上下している。

 恐らくは、ただ気を失っているだけなのだろう。その横顔には苦痛の色はなく、むしろ……安らかに眠っているようにさえ思えた。


「このまま、そちらへ引き渡す。ヴァサゴ達が望むのは、話し合い」


 ヴァサゴ、それが彼女の名前なのか。

 口元を紅く長いマフラーで覆い隠し、体にはダボダボの魔法使いのようなローブを身に纏っている彼女の姿は、この場の誰にも引けを取らない程に愛くるしい。

 小柄な体格に合わない服装のせいで正確には測れないものの、恐らく彼女のおっぱいは普乳サイズといったところだろう。


「ヴァサゴ……!? くぅっ!! 仲間は返して貰うぞ!!」


「ひぇっ……!? これはちょっと、予想外の展開ですよ!!」


 マルファスへの攻撃をいとも簡単に防がれたルカとアンドロマリウスだったが、次の行動は早かった。気絶して倒れているラウム達の元へ駆け寄ると、素早く抱き上げて俺達の方へと戻ってくる。

 その間、ヴァサゴは宣言通り何もせず……じっとその様子を見守っていた。


「アンドロマリウス! ルカ! ラウム達の具合は!?」


「ご安心ください、主殿。多少の外傷はありますが、命に別状は無さそうです」


「むふぅ。いつ触っても、憎たらしいくらいにムチムチな体ですよ!」


 ビフロンスを抱き抱えるルカの言葉には後ろ髪を引かれるが、今はそんな事を気にしている場合じゃないな。とりあえず、ラウム達が無事であるならそれでいい。


「助けに来るのが遅いっつぅの、腰巾着! グズ! ノロマ!!」


「……違う。ヴァサゴはヴァサゴ。腰巾着でも、グズでも、ノロマでもない」


 俺達が仲間の無事を確認する裏で、ヴァサゴは危機を救ってあげた筈のマルファスから容赦の無い罵倒を浴びせられていた。

 なんだか同情したくなってきたけど、まだ油断は禁物だ。


「随分と物腰が柔らかい子だな。あの子もヤバイ奴なのか?」


「いえ、あの子はまだ話が通じるタイプよ。ヴァサゴじゃなくて、姉の方が来ていたら……アタシ達は全滅していたかもしれないけど」


 俺がポツリと漏らした疑問にフェニスが答えてくれた。姉の方、というラウムの言葉から察するに……ヴァサゴもまた妹属性持ちであるらしい。


「ヴァサゴさんはどこかの不良妹とは違って、素直でマトモな子ですからねぇ」


「……チッ! あーあー、気分悪いー! ねぇ、出来損ないの妹! もうコイツら、ここでぶっ殺しちゃわない?」


 姉であるハルるんの呟きに青筋を立てながら、物騒な事を口走るマルファス。

 しかし、前に立つヴァサゴは首を左右に振って拒否の意を示した。


「ヴァサゴは普通。それと、彼らを殺すのは駄目。バエル様とアガレス姉様に怒られるのは……イヤ。ヴァサゴは任務を遂行、する」


 マルファスの提案を却下したヴァサゴは、俺を守ろうと立ち塞がっている魔神達越しに、視線を俺の顔へと向けてきた。


「お久しぶりです、元マスター。ヴァサゴは、序列第3位のヴァサゴ」


「これはこれは、ご丁寧にどうも。ソロモンの生まれ変わりの、根来尊です」


 互いに深々と頭を下げ合いながら、俺とヴァサゴは自己紹介を交わす。

 そこにさっきまでの張り詰めた空気は微塵も無く、妙にのほほんとした雰囲気だけが存在していた。


「我らが主の命により、ヴァサゴ達はユーディリアと同盟、結びに来ました」


「あ、そうなんだ? ユーディリアと同盟を…………はいぃ?」


 近くに寄ったから、遊びに来た。といったような感覚で、とんでもない事を言ってのけるヴァサゴ。

 そのあまりの唐突さに、この場にいる大半が唖然とするばかりだ。


いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。

ビッチ風美少女ギャル(純潔)がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!

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