16話 まさかの契約拒否
「次に、ユーディリアの今後の方針についてなのじゃが――」
「はいはいはいっ!! ベリアル様!! はいはいはーいっ!!」
「なんじゃフルカス? まだ何か言い足りぬのか?」
話がようやく一段落したというのに、またしても元気よく手を挙げるルカ。
これまた可愛いんだけど、変な話を蒸し返すのだけはやめて欲しいなぁ。
「むふふふぅ! 話し合いの前に、ミコト様とアンドロマリウスの契約が先なのではと思いまして! 昨日、あんなに楽しみにしていらっしゃいましたから!」
「おっ? おおおっ!! そうだ! 俺はまだ、全員と契約していないんだ!」
ごめんよ、ルカ。俺はお前の事を少しでも疑ってしまった。
君はなんて良い子なんだ。これからもずっと、そのままの君でいてくれ。
「うむうむ。ちょうど儂もその話をしようと思っておったところじゃ。ユーディリアの戦力を強化する上で、ミコトとの契約は簡単で手っ取り早いからのぅ」
昨晩は俺が疲れていた事もあり、アンドロマリウス達へのえっちなタッチ……もとい、直接契約はお預けのまま寝てしまったのである。
一晩休んで俺が元気ビンビンとなった今、この場にいないラウム達は仕方ないとしても……目の前のアンドロマリウスと契約しない理由は無い!
「さぁ、アンドロマリウス! 俺の前に紋章を曝け出しておくれ!」
ルカのおっぱい。フェニスの内股。ハルるんのお尻。
残されたアンドロマリウス達の紋章がどこにあるかはまだ分からないが、ルカ達の様に卑猥な場所にある事を切に願います!!
「うなじかな? 脇かな? おへその下辺りもそそるなぁ……ぐへへへっ」
未だ見ぬ紋章の位置を妄想しながら、俺は湧き上がる興奮に胸を膨らませる。
しかし、そんな俺の期待は……呆気なく打ち砕かれる事となってしまう。
「……主殿。大変申し訳無いのですが、契約は拒否させて頂きます」
「んっ? んんんっ!?」
「ハッキリ言って、今の主殿は私の信頼に足る功績を成されておりません。ですから、契約はできないと申し上げているのです」
心苦しそうに額に汗を浮かべながら、首を横に振るアンドロマリウス。
あれ、おかしいな? まさか、拒否されるなんて思ってなかったんだけど……?
「アンドロマリウスよ、どういうつもりじゃ? ミコトと契約を交わせば、お前の力は飛躍的に上昇するのだぞ?」
「無論、心得ております。しかし、我ら魔神にとって契約とは絶対服従の証。失礼ながら、今の主殿に自分の命と体を預けるのは憚られるのです」
「ふむ。一理あるのぅ。確かに今のミコトは、過去のソロモンには遠く及ばぬ」
至極もっともな正論に、流石のベリアルも何も言い返せないようだ。
俺だって、彼女の言っている事は当然の主張だと思うし。
「あらあら、アンタも嫌われたものねぇ? かなりショックなんじゃない?」
俺が契約できずに落ち込んでいると踏んだのか、さっきまでダルそうにしていたフェニスが俄然楽しそうに前のめりになる。
確かに、契約を拒否された事は残念に思う。だけどそれ以上に――
「……いや。これはこれでアリかもしれないな」
「はぁ……?」
ルカやハルるんのように、最初から好意を前面に押し出してくる女の子も素晴らしいが……全員がそのタイプだと、俺自身の努力が不要となってしまう。
十人十色。色々な個性、ドラマがあってこそ最高のハーレムなのだ。
好感度が足りないと言うのであれば稼げばいい。
俺はそれを成し遂げるだけの覚悟を持って、この世界に立っているんだ。
「これから存分に俺を試してくれ。絶対に、お前の期待に応えてみせるからさ」
「……そのお言葉に偽りが無ければ、いずれこの身は主殿のモノとなりましょう」
認められていないからといって、別に嫌われているわけじゃなさそうだしな。
焦らず、これからじっくりと俺の事を好きになって貰おう。
「何よこのくっさい展開。おぇーっ、ゲロ吐きそう……」
「むふー? アンドロマリウスもミコト様が好きなら、さっさと契約しちゃえばいいんですよ? あれ、私ってばおかしな事を言ってます?」
「お馬鹿なフルカスさんには分からないでしょうねぇ。まぁ、ダーリンには私だけがいれば十分ですしぃ、他の方の契約なんてどうでもいいですけどぉ」
「アンドロマリウスの主張はともかく、主たるミコトがそう決めたのならば儂はもう何も言わん。良き魔神というのは、主の意思を尊重するものじゃからな」
とかなんとか言う割には、さっきから俺の髪の毛をグイグイ引っ張っているじゃありませんか。大人っぽいんだか子供っぽいんだか、いまいち分かりにくい奴め。
「……では改めて、今からセフィロート統一に向けた今後の方針について話し合いたいのじゃが。さしあたって、まずは敵対している勢力の情報が欲しいのぅ」
セフィロートを統一する上で、欠かせない条件である72柱の魔神との契約。
それを成す為にも、まずはユーディリアを去った魔神達が作り上げたという独自の勢力……国々について知らなければならない。
どこが強く、どこが堕としやすいか。現状、戦力の整っていないユーディリアがのし上がるには、上手い立ち回りが必要不可欠となるだろう。
「でしたら、フェニックスから話を聞くのがいいんじゃないですかぁ? 現状、他勢力の中で最もユーディリアを侵攻してきているのはアリエータですしぃ」
「そうですね! フェニックスはにっくきアリエータに所属していました! ミコト様と契約したんですから、たっぷりと情報を流してください!」
敵国の情報という事で、真っ先に槍玉に挙げられるフェニス。
かつて他勢力に所属していた以上、そうなるのも仕方ないか。
「はぁ……どうせ拒否権は無いんでしょ?」
フェニスは面倒臭そうに溜め息を漏らしながらも、協力の姿勢をみせる。
契約から一晩経って、反抗的な態度も鳴りを潜めてきたようだ。
「……アタシが昨日まで所属していたのは、ユーディリアの西方に位置する聖国アリエータ。不老不死の聖女を崇める信者達によって形成された、宗教国家よ」
ポツポツと、アリエータという国の情報を語り始めるフェニス。
まだ始まったばかりではあるが、いきなり気になる単語が出てきたな。
「不老不死の……聖女?」
「聖女バエル。アンタにも分かりやすいように言うなら、序列第1位、支配者クラスの魔神バエル――とでも言えば、いいかしら?」
ああ、そういう事か。この場にいる彼女達がそうであるように、千年以上生きていても……魔神達の外見年齢は若いままだ。
一般人から見れば、魔神が不老不死だと思えても不思議じゃない。バエルという魔神は、そこを上手く利用して聖女と呼ばれるようになったのだろう。
「始まりの魔神、バエルか。よりにもよって、あの女に従っておったとは……フェニックスよ、お前も趣味が悪いのぅ」
「冗談言わないでよ。アタシだって、あんな化物に従いたくはなかったわ」
序列第1位という事は、前世の俺と最初に契約した魔神って事だよな?
ベリアルやフェニスの話からすると、かなり厄介な魔神のらしいが。
「だけどアイツは強い。そして何より……アイツはどの魔神よりも恐ろしいのよ」
バエルの事を思い出しているからか、フェニスの肩は微かに震えていた。
いや、フェニスだけじゃない。バエルの名前が出た途端に、この場にいる全員の表情に陰りが差したのがハッキリと分かる。
「バエル、か。俺のハーレムに加えるには、随分とハードルが高そうだ」
「……色んな意味で、アンタにアイツを堕とせるとは思えないけどね」
それは、恋愛的な意味と、実力的な意味でも、という話なのだろうか。
妙に含みを持たせたフェニスの言い方に、俺が片眉をつり上げた――直後。
「きゃっはははははははっ!! マジで生き返ってんじゃん!!」
食堂内に、品の無い笑い声が響き渡る。
「へっ?」
咄嗟に振り返ると、どこから姿を現したのか……窓枠の縁に腰を下ろした美少女が一人、お腹を抱えながら爆笑していた。
唐突に俺達の前に現れた来訪者。俺はその顔に、見覚えがあった。
「ハルるん? じゃない、よな?」
俺と一緒に卓を囲んでいる、お姫様のような格好をした美少女――ハルるん。
彼女と瓜二つの顔。いや、少しだけハルるんよりも幼い顔付きに見える謎の少女は……その風貌に違わない口ぶりで俺の質問に答えてくれた。
「そだよー。つぅか、ウチをそんなカスみたいな女と一緒にすんなし」
違う。顔はハルるんと同じだけど、その纏う雰囲気も、態度も、口調も。
何もかもが、彼女とは異なっている。
「そんじゃっ! 改めてソロモンちゃんにご挨拶しちゃおっかなー!」
そんな俺の困惑を気にする素振りもなく、謎の少女は窓枠から飛び降りる。
そうして食堂の床に降り立つと、彼女はそのままクルリと一回転。
短いスカートを翻し、両手の人差し指を自分の両頬に当てながら――
「やっほぉ、はじめましてぇ! 序列第39位のマルファスちゃんでぇーすっ!」
背筋がゾクッとする程に、可愛らしい自己紹介をしてみせた。
いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。
完全に堕とされそうなムーブで、露骨にフラグを立ててくる系美少女がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!




