14話 (布団の)中に誰もいませんよ
「おお、既に起きておられましたか。それでは、失礼致します」
ガチャッ、スタスタスタ。
俺の返事を待つ事なく部屋の扉を開き、アンドロマリウスが入室してくる。
もはや一刻の猶予も存在しない。
俺は急いで、ベッドの脇で丸まっていたシーツをハルるんの上に覆い被せた。
「おはようございます、主殿。早朝から押しかけて、申し訳ございません」
「はぁ、はぁっ……おはよう、アンドロマリウス」
「もがもがもが」
間一髪。アンドロマリウスに見つかる前に、ハルるんを隠す事ができた。
シーツの中では、俺に口元を押えられたハルるんが苦しそうに呻いているが、ここで見つかって修羅場を迎えるよりは遥かにマシな状態だろう。
「ベリアル殿もおはようございます。主殿のご就寝中、何か変わりは?」
「うむ、おはよう。昨晩は特に……騒ぎ立てる程の事は無かったぞ」
俺の慌てぶりを見て、上手く話を合わせてくれるベリアル。
彼女もまた、この場が地雷原の上にある事をよく理解しているようだ。
「左様ですか。実は昨晩、警邏より戻った筈のハルファスの姿がずっと見当たらないのです。てっきり、主殿の寝室に忍び込んだのではないかと思いまして」
「へ、へぇ……? 俺の寝室に?」
「はい。ハルファスは昔から主殿にベッタリでして。もっとも、かつての主殿はハルファス如きの稚拙な色香に惑わされなどしませんでしたが」
「むむむごぉっ」
アンドロマリウスの言葉に、シーツ内のハルるんがモゾモゾと反応する。
反論の声を上げたいのだろうが、ここでそれを許すわけにはいかない。
彼女には悪いけど、このまま大人しくしていて貰わねば。
「まぁ、この場にいないのなら構いません。それよりも主殿。本日より、このお召し物にお着替えくださいますよう、お願い申し上げます」
シーツの中で蠢くハルるんに気付く事なく、アンドロマリウスは手に持っていた白い布を広げ始める。
それはよく見るとただの布ではなく、ファンタジーの魔道士が身に付けるようなローブだった。形状もさる事ながら、胸の辺りに記された紋章が実に格好良い。
「これは、千年前に主殿がお召しになられていた魔術ローブです。強力な防御魔術が編み込まれておりますので、御身を守る鎧のような役割も果たすでしょう」
ほほう。文字通り魔術のローブなのか。
通りで千年前の衣服なのに、新品みたいに綺麗だと思った。
「ありがとう。ちょうど着替えが欲しかったところなんだ」
昨晩、フェニスにTシャツを渡してからずっと肌着姿だったからな。
ちゃんとした服に着替えられるのは、単純に嬉しい。
「じゃあ、早速受け取……あひぃっ!?」
アンドロマリウスからローブを受け取ろうと、俺はシーツの中から右手を出そうとする。しかし、その右手の指が突然……湿った何かににゅるりと包まれる。
「あひぃ? どうかしたのですか?」
「あ、いや!? ちょっと、寝違えたかな? あははは……」
訝しがるアンドロマリウスにバレないように、素早くシーツの中を覗き込む。
するとそこでは、淫靡な表情を浮かべたハルるんが、俺の指をおしゃぶりのようにチュパチュパと咥えしゃぶっている光景が広がっていた。
「あむぁ……じゅっ、ちゅぅー」
ちょっとしたいたずら心なのか、それともアンドロマリウスに対する嫉妬心か。
どちらにせよ、彼女のこの行動は……色んな意味で、よろしくない。
「ん? 主殿、なぜこんなにもシーツの中が膨らんでいるのでしょうか?」
ヤバイ。今の行動で、ベッドに注意を引きつけてしまった。
どうしたものかと狼狽えていると、隣にいたベリアルが俺の代わりに口を開く。
「……アンドロマリウス。これはほれ、男の生理現象というモノじゃ。ミコトもまだまだ若い男。朝は斯様に逸物が滾ってしまうのも仕方なかろう」
いや、いやいやいや! いくらなんでも、それは通用しねぇよベリアル!
いくらエロい事に初心そうなアンドロマリウスといえども、こんな見え見えの嘘に騙されるわけが……
「こ、これが主殿の!? しかし、これ程のサイズになるものなのですか!?」
こんもりと膨らんだ俺の下腹部辺りを見つめ、ゴクリと生唾を飲むアンドロマリウス。この子の純情ぶりは、俺の想像の斜め上を行っていたようだ。
「こほん……分かりました。そのような状態では、着替えがままならないのも詮無き事。このローブはこちらのテーブルに置いておきます」
咳払いを一つ。頬を染めたアンドロマリウスは、納得したように頷く。
いつか訪れるだろう本番を前に、俺の息子のハードルが上がってしまった事は悲しいけど……これでなんとか、この場は乗り切れそうだ。
「では主殿、その……おちん……ちん、が収まりましたら、このローブにお着替えになられて食堂へ起こしくださいませ」
「おっ、おう……了解。もう少ししたら、向かうよ」
堅物系真面目美人が顔を赤らめ、恥ずかしそうにおちんちんと口にする。携帯を失くしたせいで、この素晴らしいシチュを録画できない事が実に悔やまれるぜ。
「では、これで失礼致します。あ、それと主殿……」
ローブを机に置き、扉の方へ向かっていたアンドロマリウスが立ち止まり、再度俺の方へ振り返る。その顔はなぜか、先程よりも朱に染まっているように見えた。
「な、何かな?」
もしかして、ハルるんの存在がバレてしまったのでは?
そう焦る俺の内心とは裏腹に、俺の指に吸い付いている唇の力は強くなる。
どうなる? 頼む、このまま気付かずに外へ――
「……昨晩は、大変失礼な事を言ってしまいました。主殿の品性はともかく、その人間性は王の器に足りうるものだと……今の私は信じております」
「えっ?」
「言いたかった事はそれだけです」
言うだけ言って、足早に俺の寝室から出て行ってしまうアンドロマリウス。
なんとなくだけど、あの子が朝早くから俺を訪ねてきた本当の理由は、その一言を言う為であったような気がする。
「ふぃー……間一髪だったぁ」
一歩間違えれば、アンドロマリウスにデレてもらうどころか逆に怒らせていたかもしれない。その危機を脱した安堵感から、俺は大きな息を吐き漏らす。
「ぷはぁっ! もぅ、ダーリン……意地悪なんですからぁ」
「ああ、ごめん。だけどほら、あそこで君が見つかるわけにもいかないし」
俺が手を放した事で解放されたハルるんが、シーツの中から頭を出してくる。
口調は拗ねているようだが、表情はニヤニヤとしていて嬉しそうだ。
「……やれやれ。くだらぬ隠蔽工作に付き合わせおって」
「そう言うなよ。もしもバレていたら、お前にも飛び火していたと思うぞ」
貴方という方が付いていながら、何という体たらくですか!?
そんな風に声を荒らげるアンドロマリウスの姿は、容易に想像が付く。
まず間違いなく、ベリアルも糾弾される事になっていただろう。
「アンドロマリウスさんは、いつも怒ってばかりですからねぇ。その点私は、ダーリンの事だけをずっと、ずぅぅぅっと考えていたんですよぉ?」
だからもっと自分を甘やかせと言わんばかりに、全裸で肌を密着させてくるハルるん。スベスベな柔肌が、俺の体の至る所に擦りつけられてとても気持ちいい。
こんなにも可愛くてえっちな子からの誘惑……童貞の俺には刺激が強すぎる。
「待ち望んでいた事の筈なのに……なんだか、調子狂っちまうな」
このまま飛びかかり、ハルるんのエロエロなボディを堪能したいという欲望を必死に抑えて……俺は彼女の頬に手を当てる。
するとハルるんはくすぐったそうにしながら、その手に頬ずりをしてきた。
「きゅふふ。暖かい手……ダーリンの手は千年前から変わりませんねぇ」
「そうなのか? こんな手でも、気に入って貰えたなら光栄だ」
本当はもっと過激な事をヤりたいんだけど、それはまた当分先のお楽しみだ。
脱童貞に対する俺の拘りというのもあるが、今はまず、ユーディリアの民達……あの子供達との約束をちゃんと果たさないといけないからな。
「…………ふむ」
しかし、しかしだ。このまま、彼女の熱いアプローチを流すのも気が引ける。
ユーディリアの再興を優先して考える事にしたとはいえ、完璧なハーレム作成もまた俺の目標。ここで、ハルるんを傷付けるような事はしたくない。
となれば、もう少しくらいは彼女の美尻を堪能しても問題は無かろうて。
「きゅふっ、きゅふふふっ! 分かっていますよぉ、ダーリン」
そんな俺の考えを察したかのように、ハルるんは再びベッドの上で四つん這いとなる。ウネウネとご機嫌そうに尻尾を動かし、大事な場所をその先端で覆い隠しながら……彼女は俺の前に白桃のような美尻を突き出してくれた。
「あぁん、早くぅ……私のお尻をいじめてくださぁい」
フリフリフリフリ。小刻みに揺れるお尻が、俺の理性の壁を崩壊させていく。
……限界だ! もう一度俺はこの尻を揉む! 誰が来ようとも関係ねぇ!!
「行くぞ!! ハルる――」
俺は滾る息子の期待に答えるように、まっすぐにその手を伸ばした……が。
「主殿、一つ言い忘れておりました」
ガチャリという金属音と共に開かれる扉。
そしてその奥から姿を見せて、室内に入ってきたのは勿論……あの子。
「ハルファスを見かけたら、私が捜していたと伝……えっ?」
目と目が合う。扉の前で呆然と立ち尽くすアンドロマリウスと、四つん這いのハルるんの尻に触れようとしている俺の視線は見事に交錯していた。
「はぁ……やれやれ。詰めが甘いというのか、間抜けというのか」
隣からは呆れ果てた様子で溜息を漏らすベリアルの声が聞こえる。諦めを含んだその口ぶりは、もうフォローする気は無いぞという強い意思が感じられた。
「あ、あ、主殿ぉっ!? こ、これは一体どういう事なのですか!?」
「は、ははっ……いやぁ……」
まさに絶体絶命。どう取り繕っても言い逃れのできない状況に追い詰められながらも、俺は最後の悪あがきとして――
「とっても良いお尻だよな、これ」
「あぁんっ!! ダァーリィィィィンッ!!」
ペチィーンッと、白く透き通る美尻に平手をぶつけてみるのであった。
いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。
澄ましているくせにエロい事に興味深々な優等生キャラがお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!




