13話 寝ている間にヤられてた
見渡す限り全ての景色が漆黒に塗り潰された暗闇の世界。
何も見えず、誰の気配も感じない。そんな空間に俺は立っている。
これは一体どうなっているんだ?
俺は確かあの後、無駄に豪華な寝室へと案内されて、フカフカのベッドで眠りに就いた筈なのに――
「……えますか? わた……の……聞こえ……」
霞みがかった記憶を整理していると、どこからか声が聞こえてくる。
壊れたテレビのようにノイズ混ざりの声は、聞き覚えの無い少女のものだった。
「誰だ? 俺を、呼んでいるのか?」
「…………ます。早く私を……けて、苦しい……痛い」
「お、おい!? しっかりしろって!」
暗闇の世界でどれだけ目を凝らそうとも、声の主を見つける事は叶わない。
声は近くから聞こえるのに、その距離は途方もなく離れているように感じる。
「お願い……見つけて、私を……あの方に……れる、前に……」
手探りで声の少女を見つけようとするが、俺の手は何もない虚空を切るばかり。
そうしている間に、少女の声はどんどん苦しそうに弱まり、逆に耳障りなノイズの音が勢いを増していく。
なぜだか分からないが、このままでは取り返しのつかない事になる気がする。
そんな焦燥感が、俺の胸の中を埋め尽くしていた。
「どこだ!? くそっ! 何も見えねぇ!」
「私の名前は……アス……ト……」
「ダメだ! 行くな!!」
「また、貴方様に……会いたい……」
消えてしまいそうな少女の声が途切れる直前。
俺の手が、何かを掴む。
「……ずっと、待って……います」
俺はその手を絶対に離さないように、掴む手に力を込めて――
ぷにゅんっ。
「…………んぁっ!?」
パッチリと、見開かれる両目。
視界に映るのは……煌びやかなベッドの天蓋。
「ん……んん?」
ぼんやりとした頭に手を当てながら、俺はゆっくりと上体を起こす。
えっと? ここは確か、俺の寝室だと案内されてきた部屋だ。
つまりさっきのは……ただの夢? その割にはすげぇリアルだったけど。
「ふぁぁぁっ……でも、夢なら夢で良かったかも」
寝起きの欠伸を一つして、俺は窓から溢れる朝日の眩しさに目を顰めた。
よく耳をすませば、窓の外でチュンチュンと鳴く鳥のさえずりも聞こえてくる。
これで俺の横に、裸の美少女でも寝ていれば完璧な朝チュンなのになぁ……
「まぁ、そう都合の良い話が……」
ふにゅん。ふにゅにゅ。
「……おう?」
なんだろうか?
俺の右手が、何やら凄く柔らかい物体を握り締めている。
この豪華なベッドは存分に柔らかく、布団もフカフカで気持ちよかった。
でも、俺の右手の中にあるモノはそんな次元の柔らかさではない。
柔らかくも張りのある弾力を持ち、心地よい温かさを持つコレは……!
「おっぱい……だとっ!?」
「すぅ……すぅ……むにゃ」
いた!! 俺の真横に裸の女の子が……見た事の無い美少女が!!!
寝息を立てながら、俺の右手におっぱいを揉まれている!!!
「ほ、ほわっ、ほわわわわっ……!」
髪型はサイドテールで、色はピンク。
あどけない表情の寝顔は、その持ち前の美貌によってミサイル級の破壊力を有している。布一つ纏っていないその体は全体的にほっそりとしているが、俺の右手が触れている胸はかなりのサイズ。ルカ以上、ビフロンス未満といったところだ。
「……これはとても、素晴らしいな」
とりあえず俺は、右手から溢れそうになるおっぱいを零さないように細心の注意を払って揉み揉みを続行する。ルカの時と比べると弾力が少し弱いが、掌全体を包み込もうとしてくる肉厚感が……実にベリーグッドでございます。
「んぅ、ぁん……もぅ、駄目じゃないですかぁ」
「え? あっ、ごめん!!」
胸を揉むのに夢中になりすぎていて、いつの間にか少女が目を覚ましている事に気が付かなかった。マズイ、これはいくらなんでも言い訳のしようが……
「そんな風に触られたら、また昂ぶってしまいますぅ」
「は、へぇあ?」
怒られてしまうと、俺が身構えたのも束の間。
裸の少女はゆったりと体をこちらに動かして、俺を抱きしめてきた。
「すぅぅぅっ……んんんはぁぁぁっ……この匂い、頭がクラクラしちゃう」
俺の首の後ろに腕を回し、顔を俺の胸元に押し当てながら……思いっきり息を吸う裸の少女。頭がクラクラするのはこちらの方です。
「ダーリン……ずっとお会いしたかったですぅ……」
「ダ、ダーリン? 君は、その……魔神の1柱で、いいのかな?」
頭が沸騰してしまいそうな興奮を必死で抑えつつ、俺は裸の少女に訊ねてみる。
彼女の人間離れした美貌は勿論、その頭から伸びる羊のような巻き角と、腰元から生えている悪魔の黒い尻尾がソロモンの魔神である事を証明していた。
「ええ。私は序列第38位の魔神、伯爵クラスのハルファス。この世で誰よりも貴方様を愛し、愛された――まさに運命の伴侶とも言うべき魔神! ご遠慮なく、有り余る程の愛を込めて……私の事はハルるんとお呼びくださぁい!」
俺にしがみついたまま、自己紹介を始めるハルファス……もとい、ハルるん。これはまた、初めて見るタイプの魔神少女だ。
ルカ達のようにソロモン王を慕う魔神はいたけれど、こうもあからさまに恋愛的な好意を示してくれる子はいなかっ――
「んぅー、ちゅうぅー……!」
「おわぁっ!? ちょいストップ!」
いつの間にか、俺にキスをしようと顔を近付けてきていたハルるん。
俺は咄嗟にその頬を掴み、ギリギリのところで彼女との口付けを回避した。
「むへぇっ? ほうひへほんはひひはふほ?」
「可愛い子とキスはしたいんだけど……俺、初めてだから、その、最初のキスは心が通じ合った子とロマンチックなムードの中で俺の方からしたいっていうか……」
もちもちとした頬を両手で挟んだまま、俺は自分の理想を告げる。
いくら性欲馬鹿の俺でも、流石にファーストキスくらいはこだわりたい。
こんな唐突なエロハプニング中では、情緒もへったくれも無いじゃないか!
「……些細な事を気にする奴じゃ。何回目じゃろうと、接吻に変わりは無い。男のくせに女々しい事を言うな」
「ベリアル!? お前、いたのか!?」
天蓋付きの豪華なベッドの傍らに置かれたサイドテーブルの上に、ちょこんと置かれている西洋悪魔風のぬいぐるみ――ベリアル。
彼女は俺とハルるんの抱擁を冷めた目で見つめながら、淡々と言葉を紡ぐ。
「昨晩からずっとな。お前が間抜けにも惰眠を貪っている間に、ハルるんはベッドに忍び込み……あまつさえ、契約すら済ませてしまったぞ?」
「契約を!? マジで!?」
「はぁいっ! 眠っているダーリンの右手を少し拝借してぇ……きゅふふっ。あんなに気持ち良い事ぉ……クセになっちゃいそうですぅ!」
そう言ってハルるんは、ぷりんとした可愛いお尻をこちらへ向けてくる。
その尻の右部分にある紋章には、確かに契約を示す丸い刻印が刻まれていた。
「ゴ、ゴエティア!!」
念の為に、俺はゴエティアを出現させてページをペラペラと捲ってみる。そうして順に見ていくと、確かにハルファス……ハルるんのページを見つける事ができた。
可愛らしい絵とその横のページに、これまたびっしりといろんな情報が……
「……クローズ。ああ、やっぱり本当だったのか」
ひとまずゴエティアを仕舞ってから、俺はしみじみとこの事実を受け入れる。
そうか。俺はこの子と、契約を交わしたんだな……
「なんじゃ? 契約した魔神が増えたのに、不服そうな顔じゃな?」
「いや、だって俺……寝ていたから、あのお尻に触った時の記憶が無いじゃん」
ルカの時はおっぱいの感触を。フェニスの時は内股の感触を。
彼女達の艶っぽい反応も含めて堪能したというのに、ハルるんとの契約は寝ている間にあっさりと完了。これじゃあ、素直に喜ぶわけにはいかないだろう。
「まぁっ! 私ったら気が逸るあまり、ダーリンの気持ちを蔑ろにしていたようですねぇ。もし手遅れでなければ、今からでもお好きにどうぞぉ」
「お、おおぉぉっ!?」
俺の不満を聞いたハルるんは、瞳に涙を浮かべながらベッドの上で四つん這いとなる。そのお尻が突きつけられるのは勿論、俺の眼前であった。
「さぁ、たっぷりとお仕置きしてくださぁい……」
腰から伸びる長い尻尾と共に、艶かしくフリフリと揺れる肉厚のヒップ。
水蜜桃を思わせる完璧な造形のお尻に、俺の手はおのずと伸びていく。
「ぁんっ! はぅぁっ……ぁん」
おっぱいの吸い込まれるような感触とはまた違った、ぐにっと押し返してくるような強い弾力。先程まで触れていたハルるんのおっぱいは極上の触り心地であったが、この尻もまた実に素晴らしい触り心地だと言える。
ああ、願う事ならばこのまま永遠にこのお尻に触れていたい――
「あぁぁぁぁぁぁぁっ……幸せだぁ……」
コンコンコンッ。
俺がお尻の感触を堪能していると、不意にノックの音が室内に鳴り響いた。
そして後に続くのは……今、最もこの光景を最も見られたくない女性の声。
「主殿、そろそろ起床のお時間となります」
「はぅぁっ!? ア、アンドロマリウス!?」
俺のハーレム結成に真っ向から反対する魔神少女――アンドロマリウス。
よりにもよって、彼女がこのタイミングで部屋に来るなんて!!
いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。
体を使ってダイレクトに好意をアピールしてくる系美少女がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!




