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109話 おーおー、好き勝手やりなさる


「はぁっ、はぁっ……!! 怖かったぁ……!」


(あぁぁんっ!! ダーリン!! あのバラムを手玉に取っていますねぇ!!)


 手玉だって? 冗談じゃない。

 これはたまたま、俺の作戦が奇跡的に上手くいっただけだ。

 もしも盾が作れなかったら、盾が一撃で破壊されていたら、煙幕が効かずに捕まっていたら。

 どれか一つでも失敗した時点で、俺は殺されていた。


「ちくしょう!! やってくれたなぁ、ミコトクン!!」


 煙幕による煙が晴れて、俺の姿を見失ったバラムが怒りの声を荒らげている。

 トゲ盾で傷だらけになった筈の右手は既に再生が始まっているようで、血に濡れてはいるものの、今は痛々しい傷跡は消えてなくなっていた。


「いくらオレでも、今のはちょーっとイラっときたぜ?」


 木の陰から隠れて様子を窺ってみると、バラムは両腕を右へ左へと強く振り回す事で突風を巻き起こしている。

 あんな風に風を起こされたら、煙幕なんてすぐに剥がされるだろうな。

 要するに、もうあんな小細工はやめろという警告のつもりらしい。


(ダーリン、念の為に煙幕玉をもっと作っておきますかぁ?)


「いや、もう必要無いかな。多分、二度目は通じないだろうし」


 煙幕はもう使わないが、煙幕がこちらの選択肢にある事は印象付けられた。

 それでバラムがほんの少しでも警戒して、動きを鈍らせてくれれば儲け物だ。


(でも、あんなに怒ったバラムさんの鎧を真正面からぶっ壊すなんて難しいと思いますぅ。そうなると、紋章に触れて契約する事も難しくなりますよぉ?)


「そっちに関しても作戦があるんだ。というわけでハルるん。今から俺が考える武器の創造サポートを頼む」


 テルムチェラの能力にまだ慣れていない俺では、クオリティの高い武器を作り上げる事は困難だからな。

 ある程度イメージを固めたら、その細部などの造形出力はハルるんに任せた方が格段にクオリティアップするだろう。


「どこに隠れやがった!? いい加減に出てきやがれっ!!」


 俺がハルるんと打ち合わせしている間に、バラムが周囲の木々をなぎ倒し始めたようで……とんでもない爆音と衝撃がこちらまで届いてくる。

 腕をひと振りしただけで大木を数本まとめて吹き飛ばすなんて、やはり正面からまともにぶつかり合う事はやめておいた方が懸命か。


「どうだハルるん? 作れそうか?」


「少し難しいですけどぉ、なんとか形にはできましたよぉ」


 俺が脳内イメージで共有した武器を、ハルるんがテルムチェラの能力で次々と生み出していく。結構アバウトなイメージだったけど、流石は武器の申し子なだけあって、かなりのクオリティで再現してくれている。


「でもぉ、この程度の武器はバラムさんに効果が無いと思うんですけど……こんなに沢山作ってどうするんですかぁ?」


「まぁまぁ、モノは試しって事さ――ゴエティア」


 俺はハルるんが大量に生み出してくれたその武器をローブのポケットにしまうと、右手に魔本ゴエティアを出現させる。

 武器作成担当のハルるんの出番は、とりあえずここまでだ。


(え? もう私の憑依を解除しちゃうんですかぁ!?)


「ああ。そのつもりだけど」


(ダ、ダメですよぉ! この場所で憑依を解いたらぁ、ダーリンが無防備になってしまいますぅ!! それにぃ、憑依から解放された私が戦うわけには……!)


 この場で憑依を解除して、ハルるんがバラムと戦うのは、彼女と交わした戦いのルールを破る事になる。

 かといって、憑依を解除した俺が一人だけでバラムに勝つなんて絶対に不可能。

 他の子を憑依しようにも、ラウム達はかなり離れた位置にいるからな。

 ハルるんがこうして取り乱してしまうのも頷ける。


「大丈夫だよ。なんとなくだけど、上手くいく気がするんだ」


(そ、そうなんですかぁ? ダーリンが言うならぁ、信じますけどぉ……)


 しかしそれでも、俺はハルるんの憑依解除を選ぶ。

 下手をすれば詰みかねない一手だが、こうする事がバラムに勝つ唯一の方法なのだと……なぜか俺の頭の中に浮かんでくるんだ。


「じゃあ、ハルるん。後は俺の勝利を祈っていてくれ……クローズ」


(うぅぅっ、ダーリンの体の中から離れるのは嫌ですけどぉ……)

 

 俺が呪文を唱えると、ハルるんは名残惜しそうに俺の体の中から消えてしまう。

そしてこの後、本来ならば憑依解除されたハルるんが俺のすぐ傍に現れる筈なのだが……その姿はどこにも見当たらない。


「……やっぱり、そうか」


 俺がさっきハルるんを憑依した時に抱いた違和感。

 ハルるんと一体化するのではなくて、その憑依した場所からハルるんという存在を一時的に自分の体の中に引き入れたような感覚。

 

「今頃ハルるんは、ラウム達のところに戻っていると……思う」


 多分だけど、魔神憑依が変わりつつあるんだ。

 憑依した魔神を解放する時に、俺の傍に出現させるか、憑依した時にいた場所に帰すのかを……任意で選べるようになっている。

 

「ベリアルとの修行の成果なのか。それとも、契約した魔神が増えたからなのか」


 いずれにせよ、ゴエティアを使った魔神憑依が進化しているのは事実。

 そしてそれは、解除だけではなく――憑依する時も同じように。


「それじゃあ、第二ラウンドを始めますか」


 俺は気を引き締め直すと、ゴエティアを強く握り締めながら……念じる。

 次に憑依する魔神は――あの子だ。


「オープン。魔神ビフロンス、汝の力を我が物とせよ」


 瞳を閉じて、頭にフロンの姿を思い浮かべながら呪文を唱える。

 すると、ゴエティアで開いていたフロンのページがほのかに輝きを放ち始め、そこから出てきた光の粒子が……俺の体の中へと入ってきた。


「やぁ、フロン。急に呼んで、悪かったな」


(がぅっ!? ご主人様!? あれ? どうして!?)


 俺が予想した通り、離れた位置にいるフロンを憑依する事に成功した。

 こりゃ凄い。今まで以上に、魔神憑依の幅が広がったって事になるぞ。


「みぃぃぃこぉぉぉとぉぉぉくぅぅぅんっ!! どこだぁーっ!!」


(がうぁっ!? バラムが凄い剣幕で暴れていますよ!!)


「あははは、隠れる時にちょっと怒らせちゃってさ」


 元々、森の中でも拓けた場所であったが、今やバラムの森林伐採によって周囲一帯は更地になろうとしている。

 ここが見つかるのも時間の問題だ。早く次の手を打たないと。


「フロン。早速で悪いんだけど、ひと仕事頼まれてくれないか。幻影を作り出すのも、その道のプロに任せた方が良さそうだし」


(がぅーっ!! 了解しました!! お呼び頂いたからには頑張ります!)


 エリゴスを撃退した時と同じく、幻影のコントロールはフロンに任せる事に。

 そして俺は、ハルるんに作って貰ったこの武器を使って――


「さぁ、ボチボチ反撃といこうか」


「がうっ!!」


 持てる力の全てで、バラムを倒すとしよう。


いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。

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