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102話 逆プロポーズ

 中立を謳う国ヴァルゴルがレオアードによって制圧され、俺達は囚われのエルフや魔神達を救うべく――必死に潜入工作を行ってきた。

 それにより、ヴァルゴルを統治していた魔神達のみならず、奴隷としてレオアード本国へ移送されそうになっていた大勢のエルフ達も救い出せた。

 しかもその中で、敵の戦力の多くをヴァルゴル大森林の外へ追い出し、公爵クラスの上位魔神……エリゴスをも退けられたのだ。


「というわけで、なんとかここまで戻ってこられたよ」


 エリゴスとの闘いを終えた俺達は、カイムの道案内によって合流地点であるヴァルゴルの牧場へと到着した。

 するとそこには既に、前もって救出していたムルムル達と……後から合流したと思われるハルるんと、大勢のエルフ達の姿があった。


「あぁんっ!! ダーリンダーリンダーリィンッ!! 寂しかったですぅっ!」


「おわっと! ハルるん、お前もよくやってくれたな」


 合流早々に、喜色満面で俺の胸の中に飛び込んでくるハルるん。彼女を優しく抱き止めた俺は、彼女の望みに応えるようにぎゅっと抱擁をしてあげる。

 相変わらずのムチムチ豊満ボディの感触は、なんとも抱き心地が素晴らしい。


「エリゴスを退けるとは……これが、ソロモン王の生まれ変わりなのですね」


「ぎょぇっ、ぎょぇっ、このソロモン様も強いのだわ……! この人に従っていればボティ達は大丈夫なのだわっ!! そうに違いないのだわぁぁぁぁ!!」


「おお、盟友よ!! あの強大な悪を打ち破るとは、流石は我が友!!」


 ムルムル達は俺達がエリゴスをヴァルゴルの外へ追い出した話を聞いて、驚いている様子だったが……俺は別に、大した事はしていないんだよな。


「俺の力じゃないよ。ここにいる、フロンのお陰さ」


「がぅぅっ!! ご主人様のお陰ですよ!!」


 俺が褒めると、そうじゃないと否定するフロン。

 再び、幻影面で顔を覆ってしまっているせいで表情は見えないけど……こうして会話が成り立つようになった事は、やっぱり嬉しい。 


「まぁ、ビフロンスさぁん。普通にお話しできるようになったんですねぇ?」


「がぅがぅがーっ!! ご主人様が、お力をくださったんです!!」


「きゅふふふっ、やっぱりダーリンは凄いですぅ! あぁっ、私にも愛を注ぎ込んでくださぁいっ!」


「どうどう、ちょっと落ち着いてくれ。まだまだ、安心できる状況でもないし」


 人質達の救出は成功したが、未だにレオアード侵攻軍のトップ……支配者クラスの魔神バラムはヴァルゴルの中央に居座ったままだからな。

 すっかり興奮しきったハルるんを引き剥がしつつ、俺はムルムルへと向き直る。

 

「ハルるんが連れてきたエルフ達の拘束も、ラウムが外してくれているし……これで全員、ユーディリアへと逃げる事ができるよ」


「ええ、そのようですね」


 ムルムルは少し離れた位置で鍵開け作業を行っているラウムを見つめながら、コクリと頷く。

 その表情からは確かな安堵と、それに加えて……僅かな焦りが感じられた。

 

「……不満そうじゃな、ムルムルよ」


「いえ、ベリアル。別にそういうわけではないのです。聞けば、現在のユーディリ

アには十分な食料だけではなく、空いている建物も沢山あるそうですし」


 内心を見透かしたようなベリアルの言葉を、落ち着いて否定するムルムル。

 明らかに、何か思うところがある反応だけど……


「小生達の受け入れは可能なのだろう? それに、他にも大勢の旧友達と会えるのは、今から楽しみで仕方ない!!」


「ぎょぇっ、ぎょぇぇぇぇ……で、でも! アンドロマリウスは怖いのだわ! それに、意地悪なフェニックスもいるなんて……ぎょえええええっ!!」


「というかぁ、またあの長い道を歩くのが億劫かもぉ……ふひぃ」


 隣のアロケル、ボティ、カイムは相変わらずといった感じだ。

 というか、アンマリーとフェニスも千年前からイメージ変わらないのな。


「なぁ、ムルムル。俺達に気を遣う必要なんてないんだぞ? 何か言いたい事があるなら、遠慮なく言ってくれよ」


「……ソロモン王。いえ、本当に大した事ではないのですよ」


「それなら、ますます聞かせて欲しいな。信頼関係を築く為には、まず小さな事からコツコツと始めるべきだろ?」


 なおも言いしぶるムルムルに、俺はしつこく食い下がる。

 するとムルムルは、困ったようにはにかみながら……ふぅっと一息を吐いてから、その口を重々しく開いた。


「そこまでおっしゃるのなら、仕方ないですね。これがただのワガママであるという事は承知しているのですが……お話し致しましょう」


「ああ。可愛い女の子のワガママなら、大歓迎だよ」


 俺がそう返すと、ムルムルはぷいっと視線を逸らす。

 どうやら彼女は、こういうストレートな物言いに弱いようだ。


「……このヴァルゴルの土地は長年に渡って、我々の生活を守ってくれました。この場所のように牧場を作り、命を育んできたのです」


 ムルムルは周囲を見渡し、まるでそれらの光景を慈しむようにして……優しげな声色で言葉を続ける。


「我々がユーディリアへ亡命すれば、安全は保証されるでしょう。しかしそれは、我々が生きてきたこの土地を見捨てるという行為に他なりません」


「なるほど。ムルムルは、それが嫌なのか」


「はい。しかし、最も大切なモノは民達の命です。それを守る為なら、いくら辛くても……森を見捨てるべきなのでしょうね」


「ああっ、友よ!! 小生も君と同じように辛いさ!!」


「ぎょぎょえぇ、ぎょえ、ぎょぇぇ……生きる為には仕方ないのだわ、ボティはまだ死にたくないのだわぁ……」


「…………っ」


 生きる為に、長年暮らしてきた土地を捨てる。

 数年生きてきた土地を移り住むのにも、結構抵抗があったりするもんだからな。

 千年近くもこの森で生活していた彼女達の辛さは、きっと俺なんかで推し量る事すらもできないのだろう。


「申し訳ございません、ソロモン王。折角、こうして助けて頂き……亡命を受け入れてくださるというのに、こんな泣き言ばかり」


「いいや、俺は嬉しいよ。君達の素直な気持ちを、聞かせて貰えたんだから」


 これは勿論、本心からの言葉だ。

 理不尽なワガママならまだしも、こういったワガママなら……男として、聞き届ける義務があると俺は思う。


「ごめん。俺に力があれば、今すぐにでもバラムを倒せたかもしれないのに」


「ダーリン!! 何をおっしゃるんですかぁっ!!」


「がぅぅぅ!! ご主人様は頑張っていますよ!!」


「ありがとう。でも、これが事実だから」


 俺は慰めてくれるハルるんとフロンに笑みを返すと、次はムルムル達に向けて真剣な眼差しを向ける。


「今の俺には、君達を逃がす事しかできない。でも、いつかきっと今よりももっともっと強くなって――この森を取り返してみせる」


「ソロモン王……」


「だから、俺を信じて付いてきてくれないか? 絶対に後悔はさせない」


 一言一言、一文字一文字に、俺は力を込める。

 この言葉が、その場限りの説得にならないように。

 俺と彼女達を結ぶ。確かな絆となるように――


「ふっ、ふふっ。そう、ですか。それなら、安心ですね」


 そんな俺の思いが、彼女達にも伝わったのか。


「盟友よ!! 小生は盟友を信じている!! この呪われし魔眼に誓って!!」


「ぎょ……っぅぅ、泣き言は、言わないのだわ。ソロモン様を、いいえ……アナタの力を信じたいのだわっ!!」


 彼女達は笑って、気取って、キリッと、俺の言葉を受け入れてくれる。

 ああ、ちくしょう。みんな揃って本当に可愛いな……うん。


「ふひぃ、ミコトっちの口説き文句は強烈かもぉ」


 ムルムル達が俺の提案を受け入れてくれたというのに、なぜかカイムだけが唇を尖らせた険しい表情で……のそのそと、俺の前に歩みを進めてくる。


「カイム?」


「……ムルムル、ごめん。さっきの言葉を聞いて、決めたかも!」


 そして、後ろのムルムルに一言謝罪の言葉を告げると……


「え? カイム、アナタまさか――?」


「ミコトっち!! 一度しか言わないから、よく聞いて欲しいかも!!」


 カイムは履いていた靴を脱ぎ捨て、その足の裏をずいっと突き出す。

 そこには、彼女が魔神であるという証――紋章が刻まれていて。


「ボクちゃん!! ミコトっちのお嫁さんになるっ!!」


「えええっ!?」


 俺はなぜだか唐突に、逆プロポーズを受けてしまうのであった。

いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。

美少女に告白されてみたいという方は是非、ブクマやポイント評価などお願い致します!

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