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86 思い出す想い

ここからはフロアボス戦!

パルトとクレアは倒せるのか!

部屋全体を激しく揺らす咆哮。


もちろん、震わせるのは部屋だけではない。


体の芯にまで届くようなその咆哮を肌で受け、わたしは剣を握る拳に力を込めた。



目の前に現れた牛の頭を携えた魔物。


これまで見たこともない魔物だったが、一目見ればこいつが今まで出会ってきた他の魔物とは違うと理解できる。


放っている存在感も、こちらに向けている殺気も、その全てが規格外だった。


まぁ……クレアは平然としてるけど……。




『あれはミノタウロスと呼ばれる魔物です。』



ガイドさんの説明に、わたしは耳を傾ける。


迷宮のミノタウロス……常に飢えと怒りに支配されている魔物。


古い迷宮の奥で生まれることが多く、人肉を好み、迷宮へ迷い込んだ人間を食べることで有名らしい。


迷宮の中にいることがほとんどで、地上で出会うことはない魔物であるため、その生態はよくわかっていない。


唯一知られているのは、二足歩行の人型ではあり、知性は低く、言葉を話すことはない……ということくらいだそうだ。



『魔物ランクは、基本的にBランクに分類されます。Bランク冒険者が倒せる程度の魔物ですね。ですが、あれは……』



ガイドさんが言葉を濁した。


何か言いにくいことでもあるのだろうか。


そんな疑問を浮かべていると、タイミングよくクレアが呟いた。



「あれ……ネームドだね。たぶんだけど……」


「ネームド……?」



頭に浮かんださらなる疑問に、わたしが首を傾げていると、クレアが笑う。



「ネームドっていうのは、固有名を持つモンスターのことだね。特殊な個体で、魔力の量も強さも普通の魔物とは大違いなんだぁ。」


「よ……要するに、普通のミノタウロスとは違うってこと?」


「そう!あれの推定ランクはSランクとかじゃないかな?」


「え……Sランク!?」



わたしは言葉を失った。


Sランクの魔物ということは、Sランク冒険者が倒せる、もしくは互角の力を持つ魔物ということになる。



だから、ガイドさんは口ごもったのか……。



『……はい。少し分が悪いかと思われます。』



少しではなく、かなり部が悪いのではないだろうか。


わたしは内心でそう呟いた。


AランクのクレアとEランクのわたし。


ランクだけで見れば、絶対に勝てない状況。


だが、クレアはそうは思っていないのか……その眼には歓喜に満ちた闘志のようなものが燃えているように思えた。





「グォォォォォォォォォ!!!」



再び咆哮を上げるミノタウロス。


まるで、「これからいくぞ!」と言わんばかりの咆哮だが、それはあながち間違いではなさそうだ。


肩に担いでいた巨大な戦斧を持ち直すと、奴はこちらに向かって突進を始めたからだ。



「クレア……!」


「もちのろん!!」



返事はよくわからないが、わたしの呼びかけにクレアは剣を構えた。



「【駿影】!!!」



先手はわたしだ。


駿歩で突進してくるミノタウロスとの距離を詰め、【駿影】で撹乱。


奴はわたしの動きを見て、足を止めた。


その隙を見逃さず、一気に斬り込んで連撃をお見舞いする。


だが、その瞬間、鈍い金属音が何度も鳴り響いた。



「硬い……!!」



【駿影】の勢いで地面を滑りながら、わたしは感想を溢す。


奴が纏う鎧の硬度はかなり高いようで、わたしの斬撃はまったく通らなかった。


まるで何事もなかったかのように、こちらを見るミノタウロス。


奴の反撃の戦斧が、わたしへと襲いかかった。


大きく縦に振り翳した斧が、わたしの頭目掛けて振り下ろされる。



「ガァァァァァ!!」


「う……うわっ!!」




斧を頭に叩きつけられる寸前に、わたしは右へと飛んで回避する。


その一撃はわたしがいた場所を大きく砕き、その衝撃で辺りに地割れが走った。



「パルト……交代ね!!」



回避したわたしとスイッチするように、クレアが剣を構えてミノタウロスへと突進。


同時に、奴の足元に炎獄剣タイルロンによる斬撃を走らせた。


燃え盛る斬撃が、ミノタウロスの太ももに襲いかかると、呻き声とともに奴のの太ももから血飛沫が飛ぶ。


その反動でよろけた奴の背中に、今度はわたしがスキルを叩き込んだ。



「カマイタチ(烈風刃斬)!!!」



放たれた複数の風の斬撃が、ミノタウロスの背中を斬り刻む。


鈍い衝撃音が響き、その爆風が奴を包み込んだ。


しかし、奴の鎧の硬さは相当のようだ。


爆風が巻き上げた煙の中から、怯んだ様子もないミノタウロスが姿を現し、わたしとクレアに向かって大きな戦斧を振り下ろす。



「鎧……硬すぎるよ!!」


「……だねぇ。」



斧を軽快にかわし、わたしとクレアは奴との距離を取った。



「とりあえず……1発叩き込んでみますか!!」



クレアはそう叫ぶと、真紅の魔剣に魔力を注ぎ込む。


そして、真っ赤に燃え盛る剣を振り上げると、ミノタウロスに向けて振り抜いた。



「ブレイズインパクト(炎斬波)!!!」



真紅の剣から巨大な炎の斬撃が、ミノタウロスへと放たれた。


烈火の如く燃え盛る炎。


炎の魔力を秘めたその斬撃は、まさに魔炎と呼ぶに相応しいほど、妖しく見えた。


その斬撃がミノタウロスへと襲いかかる。



だが、その直後に、わたしたちの目の前では驚くべきことが起きた。



「グルぁ!!」



ミノタウロスは戦斧を盾代わりにして、クレアのスキルを防いだのだ。


生存本能からの反射行動……。


それは、とっさの判断だったのだろう。


大きな巨体がよろめいたのがその証拠だ。


だが、わたしたちにとっては、奴の脅威度を測るのに十分な出来事だった。



「まじかぁ……やっばぁ〜!」



さすがのクレアも驚いているが、わたしだって焦りを隠せない。


これまで頼ってきたクレアの攻撃が通らないのだから、それも仕方がないだろう……。



ん……?


仕方が……ない……?



わたしの頭に突然浮かんだ疑問は、わたし自身の思考を否定した。



何が……仕方ないんだ……。


何でクレアに……頼っているんだ……。


いつから……いつからわたしは……クレアに頼るようになったんだ……。



そんな考えが湧いてきて、自分自身に怒りを感じた。



こんなことでは、いつまで経ってもミッドウェルを殺せない……。


師匠の仇を取ることができないじゃないか……。


わたしは何のために旅をしているのか……。


それをもう一度、思い出せ……!!!


奴を……ミッドウェルを……殺すんだろ……!!!



「うわぁぁぁぁぁ!!!」



怒りとともに、わたしは練り込んだ魔力を一気に解放した。


だが、この前のように黒いオーラに飲み込まれたわけではない。


わたしの周りに発生したのは、白い氷の結晶たち。


そして、蒼い刀身に纏うは氷の魔力。



「お……氷術だね!習得したんだ!」



嬉しそうに笑うクレアにわたしは頷いた。


そして、ゆっくりと剣先をミノタウロスへと向けた。



「次はわたしが……」


「もちのろん!」



クレアの言葉の直後、わたしは強く踏み込んでミノタウロスへ突進を始めた。


わたしの動きを見て、奴は咆哮を上げる。


だが、そんなことでわたしは怯まない。


駿歩によって、瞬時にミノタウロスの目の前へと移動した。



「【乱れ狂うヘイルストーム】!!!」



その言葉を発すると同時に、奴の周りに3本の氷柱が生み出された。


そして、無作為に放たれた雹の弾丸が、ミノタウロスへと襲いかかった。



「グ……ガァァ……」



三方向から撃ち込まれる氷の礫。


その激しい衝撃に呻き声を漏らし、ミノタウロスは氷煙に飲み込まれていった。



その様子を見守りながら、空中でくるりと回転して距離を取る。


その後方で、クレアが楽しげに手を叩いていた。



『安心はできません……。まだ奴は……』



ガイドさんの声に焦りが見えるのは、奴がまだ健在だとわかっているからだろう。



『その通りです。さきほどから【アナライシス(分析)】と【アナライズ(解析)】を駆使しておりますが、いまだに奴の弱点を見つけきれません。』



さすがはSランクの魔物だね……。


ガイドさんの言葉に、わたしは別の意味で納得させられた。



『来ます……!』



辺りを覆っていた氷煙が吸い込まれるように収束し、再び辺りに吹き荒れた。


顔を打つ冷たい風。


それに負けぬように見開く瞳……その視界の先に真っ赤に双眸が見えた。


それを見つけたわたしは、ニヤリと笑った。



ーーーこいつはわたしが殺す……

クレアといることで、守られていたことに気づくパルト。本来の目的を改めて思い出しました。


さぁ、ここからパルトの反撃です!


今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!

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