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84 アンデット祭り

クレアと進むダンジョン。

だいぶ進んで15階層。


そういえば、この階層には…

ゼルケイのダンジョン15階層。


わたしたちがたどり着いたその階層は、先ほどまでの整備された通路ではなく、ボロボロになった遺跡のような様相だった。


そのところどころには、これまで通ってきた通路の残骸のようなものが見える。



「急に雰囲気が変わったけど……」


「だねぇ……もともとは綺麗に整備されてたのかな?」



これだからダンジョンはやめられない。


クレアの顔は、まるでそんな顔。


彼女は相変わらず楽しげに笑っているが、ここから先は今まで違う。


それは、わたしにでもわかっていた。



空気が重苦しく、人工的な明かりはほとんどない。


唯一、14階層までと同じ燭台がところどころに残っているくらいだ。


その明かりも全てを照らすわけではなく、はっきりとした明暗を作り出しているためか、何やら不気味さを醸し出している。




ふと、わたしの耳が物音を捉えた。


前方から、ゆっくりとこちらへ向かってくる足音が3つ。


もしかすると、ニルスとかいうCランク冒険者のパーティかもしれない。


そんな複雑な思いを抱きつつ、同じように気づいていたクレアと共に警戒心を高めて待つ。


しかし、その足取りは異様に遅い。


それに歩く感覚も不規則だ。



怪我でもしているのだろうか……。



そんな疑問に駆られながら彼らの到着を待っていると、クレアが突然、右手でスキルを放った。



「【ファイアボール(火球)】!!」



突然のことにわたしは驚いたが、スキルが着弾した瞬間、その理由をすぐに理解した。


真っ赤な炎が一気に広がって、辺りを明るく照らし出す。


ファイアボールを撃たれた者は、悲鳴を上げながら全身を真っ赤に燃やしているが、それは人間ではない。


爛れた皮膚とほとんど抜けてしまっている髪の毛。


崩れ落ちた口元から見えるのは、ほとんど抜けてしまった歯。


そして、燃えているそいつの後ろには、同じように腐り果てた人間の成れの果てがいた。



「アンデットだ!!」



クレアの言葉を皮切りに、辺りからウジャウジャと無数のアンデットたちが湧き出し始めた。


クレアはすぐさま真紅の剣を抜き、炎を纏わせる。



「噛まれたら厄介だからね!わたしが突破口を切り開くから、パルトは援護と取りこぼしの処理を!」



そう言うと、彼女は真っ直ぐに走り出した。


そして、視線の先で爆炎が轟き始める。


だが、わたしはというと、初めて見るアンデットというモンスターに対して戸惑っていた。


魔物とはいえ、元は人。


それを割り切って斬り捨てるなんて……。


そう感じてしまっていたのだ。



「パルト!!こいつらはもう人じゃないよ!!魂はどこにもない!!ただの抜け殻なんだよ!!」



わたしの様子に気づいたクレアは、アンデットたちを斬り伏せながら大きく叫ぶ。


だが、それですぐに割り切れるほど、わたしは強くない。


分かっているんだ……彼らはもはや人ではないと……。


わたしは、自分の心がまだまだ未熟であることを改めて思い知らされていた。


そんなわたしを見兼ねて、ガイドさんが口を開く。



『ここで死んでは、目的は果たせません。』



いつもとは違う毅然とした声色。


その声に、耳がピクリと反応する。



『敵の数はかなり多いです。今動かねば、クレアが押し負けます。』



そんなこと……分かってる……。



『ダビドの……師匠の仇を討つのでは?』



分かってるって……。



『ご家族の魂はどうなるのですか?』



分かってるって……!!!



焚き付けるように言葉を連ねるガイドさんに、わたしは胸のモヤモヤを振り払おうと、声を上げた。



「あぁ……!!ゾンビは嫌いだ!!」



その瞬間、魔力を解放して【駿影】を発動。


一瞬でクレアの下へと辿り着き、そのままクレアの周りにいたアンデットたちを風の刃で斬り刻む。



「パルト!ナイス!!」



そのおかげで敵との距離を得たクレアは、わたしに称賛を送ると同時に、進むべき方向へ大技を繰り出した。



「ブレイズインパクト(炎斬波)!!!」



真紅の剣から放たれたのは、巨大な炎の斬撃。


その大きさはクレアの身長の数倍にも及び、立ちはだかるアンデットを切り裂き、周りにいるアンデットを焼き払っていく。


そして、轟音とともに大きな爆発を起こせば、アンデットの群れを吹き飛ばした。


わたしたちの前に、炎が照らす道が開けていた。



「パルト!!走って!!」



クレアにそう言われて、わたしはとっさに走り出した。


クレアの後ろに続いて駆けていくその周りでは、アンデットたちの体が燃える音と呻き声が響いている。


肉が焼ける強烈な臭いが鼻をつき、嗚咽を誘う。


だが、なんとかそれを我慢して、わたしはその場を駆け抜けた。



走りながら後ろを振り向けば、体が燃えてなお、ゆっくり追いかけてくるアンデットたちの姿が見えた。


いったんは窮地を脱した……。


そう思うも、15階層はこれで安心してはいられない。



「パルト!!左側よろ!!」



そう言われて前方の左側を見ると、通路の隙間から数匹のアンデットが這い出てきている様子が確認できた。


わたしは見た瞬間、素早く抜刀してアンデットたちの首を斬り落とす。


反対側では、クレアが真紅の剣を一振りし、数体のアンデットをバラバラにしていた。



相変わらずの剛剣だ……。



そう思っているのも束の間、再び溢れ出すアンデットの群れ。



こ……こいつら!いつまで湧き出して……!



精神的に怯みかけて立ち止まりそうになる。


だが……



『立ち止まってはダメです!駆け抜けてください!』



立ち止まることを懸念したガイドさんの言葉が頭の中を飛ぶ。


それもそのはずで、斬っても斬ってもアンデットが後から湧いてくるのだ。


立ち止まれば、アンデットの波に一気に飲み込まれてしまう。


そうなれば、数分後にはわたしも奴らの一員だ。


斬っても斬っても湧いて出るアンデットたちを、クレアは炎の剣で吹き飛ばしながら走り続けている。


それを見て、わたしも奴らの首を斬り落とし続けていった。





なんとか逃げ仰せたわたしとクレアは、見つかりにくそうな横穴に逃げ込んでいた。



「はぁ……はぁ……はぁ……」


「いやぁ……さっきのあれは参ったよねぇ!」



膝に手をついて休んでわたしの前で、クレアは楽しげに笑っている。


やはり、Aランクは伊達ではないのか。


それとも、クレアがおかしいのか。


わたしとは違ってまったく息切れしていない……それどころか、なんでそんなに楽しげなのかが理解できなかった。



「とりあえず、逃げ切れたみたいだね。」


「う……うん。」


「そろそろ探索再開する?」


「う……うん。」



わたしが頷くと、クレアは嬉しそうに横穴から外へと出た。


わたしもそれに続くが、ふとクレアの背中に師匠の面影を見る。


自由奔放……自由闊達……誰にも縛られないそんなクレアの雰囲気は、鍛錬の時の師匠を思わせた。



姉弟子……それは紛れもない事実なのだ。


そう思うと、嬉しくもどこか寂しさを感じる。


わたしは大きくため息をつくと、クレアの後を追った。




少し進むと、突然大きな扉の前に出た。


それはかなりの大きさで、つい見上げてしまうほどだ。



「めちゃくちゃおっきいねぇ!!」



クレアが目を輝かせて声を上げる。


そのサイズは、サイクロプス専用なのではないかと思えるほどに大きく仰々しく、このボロボロの階層にはまったく似つかわしくなかった。


そして、なぜかそこだけにある2つの燭台には、蒼々とした炎が灯っている。



「クレア……この扉……」


「これねぇ……これはボス部屋だね!」


「ボス……部屋……?」



わたしが首を傾げると、クレアが笑う。



「この奥に……めっちゃ強い魔物がいるよ。挑戦するもしないも自由だけどね。」



笑っていたクレアの顔が、いつのまにか真面目になっていた。


そんな彼女の横顔はいつになく真剣で、その瞳には炎を宿していた。

ついにきたボス部屋。

ここってニルスたちが入っていた部屋だったような…


次回はボスへと足を踏み入れます!


今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!

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