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82 進め!ダンジョン!

今回は10階層から再び下の階層を目指します。

その先に待ち受けるものはいったい…!

10階層のセーフポイントにて、クレアと一夜を過ごしたその翌朝。


朝食を食べながら、大きな欠伸をする。


クレアに内緒で氷術スキルの鍛錬……と言っても剣に氷術を纏わせる地味なものだが、その鍛錬を遅くまで行っていたので少し寝不足だった。


幸い、テントに戻った時にはクレアは寝ていたので、バレてはいないと思うけど。




「あれ〜?寝不足?」


「う……うん、初めてのダンジョンで、こ……興奮しちゃったみたいで……」


「ふ〜ん……」



我ながら苦しい言い訳だと思うし、クレアはどことなく訝しげだ。


でも、口が裂けても氷術の鍛錬をしていたなんて言わない。


今日の戦いの場で、クレアをあっと驚かせてやろう。


そう思っていたので、わたしは誤魔化すように朝食のパンを口に詰め込んだ。




朝食を済ませた後は、一度テントに戻って今日の計画を立てることにした。


クレアはベッドに腰掛け、先ほど連絡所から貰ってきた報告書を眺めている。



「今のところ、この先は未知の階層になるねぇ。いくつかのパーティが先に潜ってるみたいだけど、まだ15階層へのセーフポイントの設置も報告されていないみたい。おそらく、15階層まで到達したパーティはまだいなさそうかなぁ。」


「……何でそんなことがわかるの?」



わたしが首を傾げて尋ねると、クレアは少し鼻を高くした。



「それはねぇ……セーフポイントは設置したらすぐ戻るが鉄則だからかなぁ。」


「そうなの……?」



さらに首を傾げると、クレアは嬉しそうに笑った。



「セーフリングを使って5階層ごとにセーフポイントを設置するっていう話、覚えてる?」


「うん……その話は聞いた。」



わたしが頷くと、クレアも満足げに頷いた。



「うんうん。でね、そのセーフポイントって、設置できたら前のセーフポイントまで戻って、連絡所に報告する義務があるんだよねぇ。」


「へぇ……そうなんだ。」



けっこう面倒くさいんだな……。


そんな本音が表情から漏れてしまったようで、クレアがそれを見てニヤリと笑った。



「今、面倒くさいと思ったでしょ?でもね、セーフポイントの設置って高額な報酬がつくんだよ。ダンジョンを先行して潜っていくから危険が伴う。だから、報酬も高い。」



クレアは指で丸を作って、がっぽりがっぽりだというジェスチャーしている。


わたしはそれを見て苦笑いを浮かべるが、クレアはそんなことはまったく気にせず説明を続ける。



「でもね、ちゃんと報告しないと他の誰かに先を越されてしまって報酬が受け取れない……なんてこともよくあるんだよね。だから、普通は設置したらすぐ戻ってくるんだよ。」



クレアの説明を聞き、わたしは納得した。


昨日説明してくれた時も、セーフポイントの設置報酬目当ての冒険者もいると言っていたし、クレアが過去に受け取った設置報酬額もそれなりのものだった。


その報酬だけでもかなりの稼ぎになり、当分は遊んで暮らせるほど。


ならば、先行している者たちが受け取らない理由はないと思う。


そして、その設置報告が今の時点でないということは、まだ15階層への到達者はいない。


クレアの意見は妥当だと思った。


とはいえ、設置を終えて戻ってきている途中ということも考えられるが……。



「その報酬……わたしたちで受け取れないかな?」



昨日から考えていたこと。


それをクレアに提案することにした。


セーフポイントの設置報酬はかなりの額だ。


それを受け取ることができれば、ミケルの母親の薬を買えるのではないかと。


クレアもわたしが言いたいことがわかったようだ。


腕を組み、悩むように目を閉じて首を傾げた後、小さくため息をついた。



「確かに、それができると確実に報酬を持って帰れるんだよね。設置報酬のことは、あの契約書に書かれていないしね。」



クレアは、最後に「間に合うかはわからないけど……」と付け加えた。


でも、わたしたちがセーフリングを設置できる可能性がないわけではないと、わたしは思う。


わたしが視線でそう訴えると、クレアは肩をすくめて笑った。



「いいよ。妹弟子がやりたいって言うなら、姉弟子としては止める理由はないしね。」



こうして、ダンジョン内での自分たちの目標が、明確に定まったのである。





テントを後にして、わたしとクレアは次の階層へと繋がる階段の前までやってきていた。


セーフポイントから100mほどの位置にその階段はあり、ここを降りれば、15階層まではほぼ休みなく進まなくてはならない。


そうは言っても、10階層までは休みらしい休みは取らずに降りてきたのだ。


今さら何ともないか……。



「パルト!準備は?」


「大丈夫……。」



クレアの言葉に、わたしは階段の先に広がる暗闇を見た。


これから先、これまで以上に強い魔物たちが現れるだろう。


一歩間違えば、致命傷を負うことも死ぬこともある極限の状況下。


だが、わたしの中に不安はない。


むしろ、これを乗り越えてさらに強くなるんだという決意の方が強かった。



クレアが歩き出したので、わたしもそれに続く。


第11階層へ……。


わたしはクレアの背中を見ながら、気を引き締め直したい。





10階層を超えると魔物の強さは格段に上がったが、クレアがいる安心感からわたしに緊張はなかった。


多少の失敗はクレアがカバーしてくれるので、思いっきり戦うことができていたのだ。


現れる魔物は、ホブゴブリンやダークウルフ、それにクリムゾンベアもいた。


でも、そんな強敵たちを難なく斬り伏せ、11階層、12階層と、わたしの初めてのダンジョン挑戦は順調に進んだ。


もちろん、まだ鍛錬の成果は見せてはいないが……。




そんな道中のこと。


少し休憩しようと考えたわたしたちが、見つけた横穴に入ると、中に2組のパーティがいた。


話を聞くと、彼らはクリムゾンベアに苦戦していて、ここに留まっていると言う。


わたしたちはそんな彼らと簡単な挨拶をして、端の方に腰を下ろす。


すると、こんな話が聞こえてきた。



「やっぱりクリムゾンベアはやべぇわ……。」


「そうだな。まぁ、奴だけなら何とかなるんだが、そこにホブゴブリンやダークウルフが加わるとなると……かなり厄介だ。」


「……だな。少し引くことも考えた方がいいかもな。」



わたしの耳が良いから聞こえるわけではない。


狭い横穴なのに、彼らが大きな声で話すから聞こえてくるのだ。


わたしもクレアも補助食料を黙々と食べながら、その会話に耳を傾けていた。


そんな折、少し気になる話が聞こえてくる。



「そういやぁ……ニルスたちはどこまで行ったんだ?」


「ニルスのパーティか……?それなら、昨日の昼ぐらいから13階層に向かったぜ。」


「へぇ……さすがはCランクだな。今頃は15階層に着いてるかもな。」



聞き捨てならない話だった。


そのニルスという冒険者たちが、もしセーフポイントを設置し終えていたら、報酬が貰えなくなってしまうではないか。


そいつらが帰る際、すれ違いざまに……斬るか……?



そんな物騒な考えが頭をよぎったが、クレアにはすぐにバレてしまった。



「ダメに決まってるでしょ。」



突然、そう言われて少し焦ったが、後から「そういうのは姉弟子の仕事。」と意味不明なことを言われて、さらに混乱してしまったことは余談である。




「先を越されちゃうかな……。」



悔しさが先行する。


せっかくミケルたちのためにと思って立てた目標が、こんな簡単に崩れてしまうのは悔しかった。



「ん……どうだろうねぇ。まぁ、焦ってもいいことないし、それなら20階層目指せばいいんだよ!」



クレアがそう言って笑うので、一瞬それもそうかと思ってしまったが、そもそも20階層の魔物がどれだけ強くなるのかと冷静に考えたら、少し不安に駆られてしまう。


クレアは大丈夫大丈夫と笑っているが……。



『焦りは禁物です。ダンジョンには外と違って逃げ道がありませんから、確実に進みましょう。』



ガイドさんにそう諭されて、わたしは気持ちを切り替えた。


とりあえず、今はまず15階層を目指すしかない。


次のことは、そこへ着いたら考えよう。


自分にそう言い聞かせると、クレアに先を急ごうと伝え、わたしたちはその場を後にした。

順調に進むダンジョン攻略。

そして、その先に待ち受けている何か。


次回は15階層へ到達…!


今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!

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