閑話① クレアの内なる思い
本日は、ちょっとしたクレアの思いを紹介します!
ゼルケイの街に生まれたダンジョン。
その10階層に設置されたセーフポイントに今、クレアはいる。
トゥウランの街からここまで一緒に旅をしてきたのは、パルトという兎人族少女。
彼女はトゥウランの街を救った功績者の1人と聞いていた。
トゥウランの街で、その戦い振りを見ることができなかったのは非常に残念だったが、話してみると彼女は同じ師匠から学んだ妹弟子であったことがわかった。
「……とは言っても、私は1週間程度の指導しか受けてないんだけどね。」
腰掛けていたベッドに横になり、何もない天井を眺めるクレアの頭には、ダビド師匠の顔が浮かぶ。
そんなダビド師匠からは、魔力とスキルに関する基礎の基礎しか学んでいない。
それ以外については全部独学であるため、本当なら姉弟子と名乗っていいのかもわからなかった。
でも、パルトは受け入れてくれたので、クレアはそれでいいと思っている。
「しかし、パルトってけっこう強いなぁ。」
これまでの戦い振りを思い出し、クレアはニヤリと笑った。
兎人族のくせに水術だけでなく風術まで使えるし、魔力操作とスキルの練度もかなりのものだ。
それに、魔力操作による身体強化はとても流麗で、美しいとすら感じる。
さすが、ダビド師匠に鍛えられただけのことはある。
中でも、特に注目すべきはあの【駿影】というスキルだ。
シンプルにして豪快。
兎人族ならではのステップワークを、最大限活かした移動式撹乱スキル。
魔力による身体強化で、そのスピードは格段に跳ね上がっている。
しかも、風術スキルで足場を空中に構築することで、平面だけでなく立体的機動を可能にしているのだから、実践的なスキルとしては申し分ないだろう。
「あのスキルは私には真似できないな……でも……」
クレアはパルトが羨ましかった。
自分にはない脚力を持っていて、それを活かした素早い攻撃ができる。
戦いにおいて、スピードは勝敗の明暗を分ける1つの要素になり得るため、それを持っているパルトが羨ましかったのは事実である。
だが、彼女には課題がたくさんあることも間違いない。
Aランク冒険者のクレアには、パルトのそれがはっきりと見えていた。
特に優先すべきは、攻撃の重さだろう。
まだまだ11歳で体も出来上がっていないだろうが、それにしても一撃が軽すぎる。
小型の魔物や格下ならば問題はないだろうが、大型の魔物や格上相手なら一撃では倒せない。
その理由は一目で分かった。
パルトは自分の素早さに頼り過ぎていて、踏み込みが甘いのである。
剣を振るう時に重要なのは体重移動だ。
右足の蹴りで体全体を瞬時に前へ移動させ、踏み込んだ左足裏の裏全体を同時に床に着地させる。
重心を低く保ち、膝を前に出す意識で右足を踏み込み、直後に左足を引き付けて体勢を安定させることで、強い有効打突を生み出すことができる。
これが剣術の基本だ。
もちろん、パルトができていないわけではない。
しかし、得意の足捌きを行う際の踏み込みが甘いのだと、クレアは評価していた。
「……まっ、それだけじゃないもんなぁ。課題は他にもたくさんあるしね。」
クレアは、姉弟子としてパルトをゆっくり育てていこうと考えていた。
パルト曰く、ダビド師匠は魔人族に殺されてしまった。
それには、深い悲しみと大きな怒りを感じている。
だが、それよりも何よりもパルトのことを誰が導けばいいのかと考えたら、とても不安になるのだ。
彼女はまだまだ強くなれる。
だから、そんな彼女を導く者が必要だ。
クレアはそう考えていた。
「このまま、わたし好みに……そしたら……」
クレアは枕を強く抱きしめて、ニヤニヤと笑う。
パルトを導くのは私だ。
ダビド師匠がいない今、それができるのは私しかいない。
姉弟子の私がしっかりと導いていかなければ……。
パルトを守っていかなければ……。
そう考えると、枕を抱き締める腕に力が入る。
「楽しみだなぁ……強くなったパルト。一度戦ってみようかなぁ……まだ早いかなぁ。」
パルトと闘う自分を想像して、クツクツと笑うクレア。
その笑いにはどこか狂気じみたものが浮かんでいる。
だが、そんな姉弟子の内なる狂気を……パルトは知る由もなかった。
クレアは18歳という若さで戦いの天才。
ダビドからも魔力とスキルの基礎しか学んでいません。
それでも最年少でAランクまでのし上がった理由は、天才だからというわけではなく、彼女には類稀な分析力があったからこそなのです。
本人はあまり自覚していませんが…
ちなみに、ここでは抑えていますが、クレアは相当なバトルジャンキーです笑
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




