80 合成スキルの本質
今回はダンジョンを突き進むパルトとクレアの会話。
とあるスキルについて、姉弟子からのアドバイスです!
わたしたちのダンジョン攻略はその後も順調で、数時間程度で7階層へと辿り着いていた。
7階層では、ホブゴブリンやオーガなどの上位種が現れ、わたしたちの行手を阻んだが、Aランク冒険者の称号は伊達ではない。
相変わらずと言うか……クレアは現れる魔物たちをものともせずに、剛剣で吹き飛ばしていった。
そんな姿を目の前で見せられれば、わたしの方にだって気合いは入るというものだ。
クレアのように……とまではいかないが、確実に魔物たちを倒していった。
だが、7階層を進む途中で、クレアがわたしにあることを問いかけてきた。
「パルトってさ……風術と水術を使えるんだよね?」
「あ……うん。そうだけど……」
「ならさ、合成スキルは師匠に習ってない?」
そう問われて、どう答えるべきか迷ってしまう。
師匠からは、合成スキルについてちゃんと教えてもらったし、風術と水術のそれが氷術であることも習っている。
だが、わたしはこの氷術というスキルを上手く扱えてはいなかった。
師匠に教えられてから、氷術の鍛錬はずっと行ってきたし、1人になっても合間を見つけては鍛錬に励んできた。
だが、なかなか習得には至らず、歯痒さが胸に募っていくだけ……。
最近では、自分には才能がないのではないかとすら思っているくらい、その進捗は芳しくなかった。
氷術は風術と水術の同時発動、合成、そして維持を行うことで発動できるスキルだ。
しかし、この維持がとてつもなく難しい。
風術と水術を同時に発動するのは難なくできるのだが、それを1つにまとめて維持するとなると、その難易度が格段に上がるのだ。
この維持するという技術に、わたしは苦戦を強いられているわけである。
エルバやスラックとの戦いでは、気持ちの昂りによって発動させることができた。
だが、それは一時的な発動だから、維持する必要がなかっただけのことである。
だから、今まで実戦では使うことはなかった。
それが現状であり、姉弟子であるクレアにそれをどう伝えればいいのかわからなかったのだ。
『……』
珍しくガイドさんは何も言ってこないし、何かを悩んでいるような雰囲気も感じられる。
とりあえず、クレアの質問に素直に答えることにした。
「ご……合成スキルは、習った……。でも、なかなか上手くできなくて……。」
隠しても意味がないことはわかっている。
わたしは小さくため息をつくと、素直に現状を説明してみた。
すると、クレアからは意外な言葉が返ってくる。
「え……風術と水術を発動した後、それを組み合わせてるの?」
「そ……そうだけど……違うの?」
クレアは少し驚いていたが、歩きながら少しだけ何かを思案すると、再びわたしを見た。
「合成スキルに使う魔力は、体内で練るんだよ?知らなかった?」
「え……!?」
それは初耳だった。
師匠と訓練を始めた時も、そんなことは教えられていない。
その事実にわたしは動揺してしまったが、クレアは説明を続ける。
「氷術って風と水の属性因子を使うでしょ?その2つを体内で組み合わせて練るの。合成スキルは、そうやって使うのが基本だよ。」
「な……なるほど。」
動揺していたが、頭は冷静だった。
クレアの説明を聞いて、確かにそっちの方が理に適っていると感じられたからだ。
でも、風と水の属性因子を魔力操作で組み合わせて練り上げるって……けっこう難しそうだとも思った。
そんなわたしの不安に気づいたクレアは、楽しげに笑う。
「いつも使ってる風術と水術を、体外に放出する前に練るだけだよ!簡単簡単!」
にっこりと笑う姉弟子の顔を見て、わたしは彼女がAランク冒険者だということを思い出した。
あまり参考にならないんじゃないだろうか……。
そんな思いが胸に湧き上がる。
だが、そこでガイドさんが口を開く。
『その方法は一般的なやり方ですので、特に問題はないかと……』
ガイドさんにそう言われると、何だかできそうな気がしてきた。
自分はなんて単純なんだと思いつつも、わたしはとりあえずやってみようと考えた。
クレアとガイドさんが見守る中、わたしは立ち止まり、体内の風属性因子と水属性因子に集中する。
2つの因子の存在を把握した後、それらを魔力操作でゆっくりと練り上げてみた。
すると、体内で冷たい何かが生まれた気がした。
『氷の属性因子を獲得しました。』
ガイドさんが突然そう告げてきたので、驚いてしまった。
そんなわたしの行動を見て、クレアが訝しげに顔を覗き込むので、コツがわかって驚いてしまったのだと苦し紛れに誤魔化した。
クレアは「ふ〜ん……。」とだけ言っていたが、その眼は何かを怪しんでいる気がした。
しかし、氷の属性因子とはいったい何なのか……。
因子って四大原素だけしかないと思ってたんだけど……。
考えてみても、答えは出てこない。
それ以上のことは、学べていないのだから当たり前だ。
なので、そんな疑問にはやっぱりガイドさんだ。
「聖光、闇魔の因子の話はここでは割愛しますが……一般的に、世界には火水風土の4つの因子しかないと理解されているようですね。ですが、本来、属性因子は無数に存在しています。」
(え……そうなの?)
師匠からも父からも聞かされたことがない話に、わたしは内心で驚いた。
「属性因子は体内で組み合わせることで、親和性の高い新たな因子を生み出すことができます。例えば、風と水で氷の因子。これは先ほど体験されたので、理解できるかと……。
(うん……それは大丈夫。)
『……それ以外ですと、火と風で雷の因子を、水と土で木の因子を、火と土で鉄鉱因子を生み出すことが可能です。これらの因子が合成スキルの基礎となるわけです。」
ガイドさんは最後に『スラックは鉄鉱因子を持っていたようです。』と付け加えた。
そんなガイドさんの説明を聞いて、なるほどと思う反面、疑問も浮かぶ。
それなら属性を2つ持っていれば、魔力操作で誰でも合成スキルが使えるのでは?
そう思ったのだが、ガイドさんはすぐにそれを否定する。
『体内で因子を組み合わせるという技術は、かなり難易度が高いです。魔力操作の精度がかなり高くなければ、まずできません。そして、その域に達することができるのは、相当な長い年月をかけて鍛錬した者か、天才か……そのどちらかとなります。』
(ということは、わたしの魔力操作って……)
『はい。かなりの域に達しています。』
それを聞かされたわたしは、嬉しくなって笑みを溢した。
クレアが天才である意味は理解したが、わたしだって負けていないのでは?
短時間で魔力操作をその域まで達せられたのは、わたしに才能があるからでは……?
しかし、ガイドさんの冷静な一撃が放たれる。
『才能はあると思われますが、現段階でクレアと比較しない方が良いと判断します。』
ガイドさんの言葉は、わたしを冷静にさせた。
そんなことはわかってるよ……!
たまにはそういう気分に浸らせてくれたって……いいじゃん!
そう内心で叫んだが、ガイドさんは何も言ってくれなかった。
「さっきからどうしたの?パルト……」
「え……!」
クレアの指摘にギクリとする。
どうやらガイドさんとのやり取りが、表情に漏れていたようだ。
「な……何でもないよ!あは……あははは……」
笑って誤魔化したが、クレアはジト目をわたしに向けている。
完全に疑われているようだ。
さすがAランクは勘が鋭いな……。
クレアの前では、特に気をつけないと……。
そう反省した。
しかし、わたしの中で1つだけ疑問が拭えずにいる。
「でも、なんで師匠は教えてくれなかったんだろう。」
あれだけ一緒に鍛錬してきたけど、合成スキルのやり方について導入以外は何も教えてくれなかった。
もっと教えてくれてもよかったのに……。
そう考えたら、少し寂しくなる。
だが、クレアはそうは考えていないらしい。
「それは……パルト自身に気づいて欲しかったんじゃない?私にだって全部は教えてくれなかったよ。」
「そうなの……?」
クレアは小さく頷いた。
確かに、クレアは師匠からスキルの基礎しか学んでいないと言っていた。
魔力操作の方法以外、何も教わっていないと。
それなのに、彼女は強くなった。
しかも、最年少でAランクまで登り詰めたし、これからも強くなっていくだろう。
そんな彼女が優しく微笑んで言う。
「たぶん、気づくことも鍛錬のうち……そういうことなんじゃないかな?」
姉弟子の言葉は、わたしの胸に深く突き刺さった。
そうだ……。
師匠はいつでも優しく導いてくれたけど、全部は教えてくれなかった。
鍛錬の時は気づきをくれただけだ。
でも、そんな師匠ももういない。
これからは自分で気づいていくしかないし、自分で強くなるしかないのだ。
わたしは俯いていた顔を上げた。
それを見て、クレアもわたしの意思を汲み取ったように嬉しそうに笑う。
「ところで、パルトの【駿影】ってスキル……あれはいいよね!相手が何人居ようが、柔軟に対応できるし!数に囚われずに戦えるスキルはなかなか無いからね!」
クレアはわたしのスキルを褒めてくれた。
気を遣ってもらっていることは間違いない。
でも、やはり自分が編み出したスキルを褒められるのは、嬉しいものである。
「ありがとう……とりあえず、このダンジョンにいる間に、氷術を習得するね。」
わたしの決意表明を聞いて、クレアはにっこりと笑った。
属性因子とは、他にもあるんですね。
エクストラスキルの場合はどうなるんでしょうか。
それはこれからどこかで説明しますね!
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




