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67 Claire au café.(クレア オ カフェ)

突然、パルトの前に現れたAランク冒険者のクレア。


そんな2人の一幕です!

わたしの目の前には今、紅茶とケーキが並んでいる。


そして、その先でわたしのことを嬉しそうに見つめている赤毛の冒険者がいる。



彼女の名は、クレア=デストロイ。


トゥウランの街が誇るAランク冒険者である。


ギルドでガルシュと話していたところ、突然クレアが入ってきて、わたしをここへ連れてきた。


いや……あれは拉致されたという方が正しいだろう。


その時のことを思い出し、わたしは彼女が正真正銘Aランク冒険者であると思い知らされた。



(あんな怪力で掴まれたら……逃げられない……)




彼女曰く、ここはトゥウランの街でスイーツなる食べ物が食べられる唯一の店らしい。


そこまで一気に駆けてきた彼女は、店へ入ると担いでいたわたしを席に座らせて今に至るわけだが。



「ささ!遠慮なく食べてね!」



彼女は笑いながら、たくさんのケーキを勧めてくる。


だが、そんな彼女の意図がわからず、わたしは少々困っていた。


ガイドさんもなぜかダンマリを決め込んでいるから、彼女にどう対応していいかわからず、単純な疑問をぶつけてみた。



「あ……あの……なぜわたしが……?」


「ん……?ケーキ、嫌いだった?」



お皿の上のケーキを、フォークで一口大に切り分けて、自分の口元へ優しく運ぶクレア。


美味しそうに頬張るその姿は、まさに女の子。


とてもAランク冒険者とは思えない。



「いえ……というか、食べたことないので……。」


「え……!ケーキ食べたことないの!?それなら、食べるべきだよ!!」



わたしが本音を告げると、クレアは目を丸くして驚いた。



「帝都にアマトっていう菓子職人が居てね。ものすごく美味しいお菓子を作るらしいの。この"ケーキ"っていうのも、彼が考案したらしくて……食べたらその凄さがわかるよ!」



クレアは目を輝かせて、わたしの前にあるケーキの皿を押して勧めてくる。


ものすごい勢いで勧められたわたしは、その勢いに飲まれてフォークを手に取ると、一口だけゆっくりとケーキを口に運ぶ。


その瞬間、わたしの意識は天へと召された。



鼻を抜けていく甘い香り。


舌の上で溶けていく柔らかな食感。


中に入っているフルーツもしっかりと存在感を示しており、そのアクセントが堪らなく至福……。



「はぁ……」


「どう……?美味しい……?」



その質問にわたしが無言で頷くと、クレアは嬉しそうに微笑んだ。




「ところでさ……パルトちゃんって、どこから来たの?」


「どこ……?」



一瞬、質問の意図がわからなくなり、ケーキを口に運ぼうとしていた手が止まる。



「そう!兎人族って、大抵は森に住んでるでしょ?帝国内にも自然はかなり多くあるけど、どこから来たのかなぁ〜って思ってさ。」



にっこりと笑うクレア。


そんな彼女に対して、わたしは答えるべきかどうか悩んだ。


普通、兎人族は自分たちの集落の場所は明かさない。


理由は簡単で、危険を回避するためだ。


兎人族は知ってのとおり、世の中では最弱種族として知られているから、奴隷狩りや盗賊などに狙われやすい。


過去にも、わたしたちの集落は盗賊に襲われたことがあり、場所を変えざるを得なかったことがあった。


しかし、わたしの場合、隠しても意味はもうない。


故郷はすでにないのだから。


あのクソ野郎のせいで……。



「帝国領の北側にある森から……でも、わたしの集落はもうない……」



それを聞いたクレアは、わたしの言葉の意味を理解したらしい。


眉を寄せ、悲しげな表情を浮かべている。



「そっか……悪いこと聞いちゃったね。」


「いえ……大丈夫です。」



クレアは申し訳なさそうに頭を下げると、話題を変える。



「ならさ……戦い方は誰に習ったの?独学?」



それもある意味、わたしにとってはあまり聞かれたくない質問だった。


だって、スキルや戦い方を教えてくれた師匠は、もうこの世には居ないのだから。


だが、隠すことでもないだろうとも思った。



「師匠に習いました。魔力操作などの基礎から全部……」


「へぇ……お師匠がいるんだ。実はわたしも少しだけだったけど、基礎を教えてくれた人がいるんだよ。それがきっかけで、ここまで強くなれたから本当に感謝してる。」


「Aランク冒険者の師匠……それは興味あります。」



クレアは、ここ数年で一気にAランクまで駆け上がったと聞く。


そんな天才を教えた人物とは……かなり興味がある。


わたしも早く強くならねばならない。


ミッドウェルを殺すという目標があるから、早く強くなれるならそれに越したことはない。


だから、クレアの師匠に会ってみたい。


単純にそう思ったのだ。



「そう……?でもさ、本当に少しだけなんだよね。その人がこの街に滞在していた1週間だけ。その間にわたしも魔力操作とかの基礎を学んだんだけど、それからその人が何処にいるのかはわからなくて……。」



寂しそうな顔をするクレアだが、わたしは内心で驚愕していた。



その人物を師匠と呼ぶかは別として、1週間だけ……それも基礎を習っただけ!?


それだけで、数年でAランク冒険者に登り詰めた……?


規格外にも程がある……!!



実際には開けてはいないが、開いた心の口が塞がらなかった。



わたしは数ヶ月かけて基礎を学んだのに、クレアは1週間だけと言う。


神さまは不公平だ。


この世に非凡と平凡をお創りになるんだから……。


もちろん、クレアは相当な努力をしたに……違いない。


いや、絶対にそうであって欲しい……。


そうでなかったら、わたしは……



いろんな想いが頭を巡り、何だか虚しくなってきた。


天才と話すなんて、凡人にとってこれほど辛い苦行はない。


そんなことを考えながら、ケーキで心の平静をなんとか保っていると、クレアがぼそりと呟いた。



「もう一回、ツヴェルクさんに聞いてみようかな……。」



その真意がなんとなく気になったが、それよりもわたしの中ではショックが大き過ぎて、クレアの言葉の先を追求する気にはなれない。


わたしは心を落ち着かせようと、紅茶を手にした。





クレアから解放されたのは、それから数時間後だった。


ケーキを食べ終えた後、謎の黒ずくめたちの件などについて、わたしはクレアからずっと質問攻めにあっていた。


彼女はガルシュからいろいろと聞いているようで、黒ずくめたちの暗躍、洗脳されたワイバーンの群れ、そして子爵家の謀略など、根掘り葉掘り……。


どうしてそんなことを聞くのかと尋ねてみたところ、クレアは今回の戦いに加わりたかったのだそうだ。


だが、ギリギリ間に合わなかったので、話だけでも聞きたい。


そんな理由で、わたしは拉致られたのである。



もともと、クレアはガルシュから特別な依頼を受け、別の街へ行っていたそうだ。


だから、間に合わない。


ガルシュも伝令は送っていたそうだが、確実に間に合う距離ではないため、頭数には入れていなかったそうだ。


だが、クレア自身は伝令が届く前に、風の噂でトゥウランの街の危険を知った。


そして、その内容に興味を持った彼女は、受けていた依頼を速攻で片付けて急いで戻ることを決意する。


だが、急いで戻ってみれば、ワイバーンは全て死んでおり、唯一戦えたのは街で子供とおっさんを襲っていた1匹のみ。


だから、クレアはとても不満でいるらしい。


わたしは甚だ疑問だったので、クレアになぜそうまでして帰ってきたのかと聞いてみた。


すると、クレア曰く「群れたワイバーンなんて、なかなかお目にかかれないもん。」と言っていて、わたしにはまるで意味不明だった。



そもそもだが、クレアが行っていた街はトゥウランの街から西に数10キロほど離れており、普通は走って帰って来れる距離じゃない。


なのに、クレアは走って帰ってきた。


ただ戦いたいためだけに、何週間もかかる距離をたった数日で……。


もはや、天才というより化け物。


そして、戦闘狂……。


これでまだ19歳と言うのだから、本当に末恐ろしいと思った。



……とまぁ、これがクレアに対するわたしの感想となったことは、言うまでもないだろう。



わたしは気を取り直して、アナスタシアが待っていると思われる宿へと向かう。



早く帰って休みたい……。


そうだ……2人で温泉に入りに行こう……。



そんな些細な楽しみを心に忍ばせて、帰路を急ぐ。



だが、宿へ帰り着くと、わたしはすぐに1枚の手紙を受け取ることとなった。


それは、アナスタシアからの謝罪の手紙。


故郷へ帰ること。


短い間、楽しかったという御礼。


それだけを綴った手紙と少しのお金だけ残して、アナスタシアは姿を消したのだった。

アナスタシアは一体何処へ行ってしまったのか。

次回は第二章となるトゥウラン編の幕間です!


今回もご愛読いただき、ありがとうございました。

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