57 予想外の出来事
公開設定を誤ってました⤵︎
すみません⤵︎
今回はワイバーンたちへと向かって駆けるクリスたちの話です!
Bランク冒険者クリス=アルグラスは、最前線に向けて駆けていた。
その視界には、すでにワイバーンの群れを捉えている。
先頭を飛ぶ一際大きなワイバーンと、その後ろに水平に隊列を組む無数のワイバーンたち。
奴らの侵攻を前線で受け止め、そして、その息の根を止めること。
それが、今回の自分の仕事であると改めて認識する。
確かに、遠距離攻撃部隊の攻撃が失敗に終わったことには、少し焦りを感じもした。
だが、だからと言って、クリスの役割が変わるわけではない。
やることは、ただひとつだけなのだ。
クリスは、自分の後ろに続く冒険者たちをチラリと見た。
彼らの顔からは十分な気合いが伝わってくる。
皆、ここで功績を上げようと躍起になっているようで、それは冒険者にとっては良い傾向と言っていいだろう。
自由に生きる冒険者にとって、名声は何よりも大切だし、そのために力を発揮できるのもまた、冒険者だからこそなのだ。
彼らの覚悟を改めて認識したクリスは、前を向くと同時に、今度は自身の胸に渦巻くある感情と向き合うことにした。
今回の仕事……ワイバーンの群れの討伐は、本来なら自分たちのパーティだけで事足りる問題だったはずだ。
30匹程度のワイバーンなどに遅れを取ることはない。
俺たちが街を救う……いや、そんな大層なことにはならないとすら思っていた。
だが、謎の魔物の存在が確認されたことで、ガルシュの考えが変わってしまった。
彼は今回の件を慎重に捉え、クリスたちだけでの討伐は見送られることとなったのだ。
もちろん、ギルドマスターであるガルシュの判断は間違いない。
ワイバーンの群れの出現に加え、Aランク冒険者の不在。
そして、謎の魔物の存在。
これだけ悪い条件が整えば、誰だって慎重にならざるを得ない。
特にAランク冒険者の不在は、ギルド全体の士気に関わるほど、その影響は大きいと言える。
現に、ギルドマスターのガルシュでさえそう感じているからこそ、今回の判断なのだ。
仕方ない……。
クリスは初めそう思っていたが、その反面ではこうも感じていた。
もう少し信頼して欲しかった……と。
確かに自分はまだBランクだが、Aランクへの昇格も間近だと自負している。
これは驕りでも何でもなく、これまでの経験の積み重ねと、ある事実による確信めいたものだった。
その事実とは、先日行われたAランク冒険者との模擬戦。
事実上の昇格試験とも言えるその試合において、クリスは十分な成果をあげていた。
それゆえの確信。
そして、自信。
クリスの中で、それらは彼の気持ちを逸らせていた。
(俺は早くAランクになるんだ……。あいつに……追いつくために……。)
頭の中に浮かんだのは、幼馴染のクレアの顔。
Aランク冒険者のクレア=デストロイの笑顔だ。
最年少で一気にAランク冒険者まで登り詰めた天才。
そんな彼女の幼い日の笑顔を思い浮かべたクリスは、思わず歯を鳴らした。
悔しさ、羨望、嫉妬……。
そのどれでもない感情が、自分の感情の表面に滲み出てくる感覚をクリスは覚えていた。
だが、今はそれについて考えている場合ではない。
クリスはすぐに気持ちを切り替えると、改めてワイバーンの群れを見た。
(……まぁいい。まずは、あいつらで証明してやればいいんだ。自分たちパーティが信頼に足るチームだということを……。)
ワイバーンたちを睨みつけ、クリスは気を引き締め直した。
ワイバーンのランクは"D"。
これは単体であれば、Dランク冒険者が倒せるレベルの魔物という意味だ。
だが、奴らが別名で飛竜と呼ばれていることからわかるように、下位互換といっても一応は竜種である。
使うスキルは、エアスラッシュ(風刃)やウィンドアロー(風矢)、ウィンドウォール(風壁)などの風術の基礎スキルが多いが、魔力の総量は他の魔物に比べればかなり多く、放つスキルの威力はそれ相応のものになる。
過去にもDランク冒険者のパーティが、ワイバーン1匹に苦渋を飲まされたことは何度もあることを、クリスはよく知っている。
なので、自身がBランクだからと言って、決して侮ってはならない魔物だと理解していた。
そんなワイバーンが、目の前に約30匹いるこの状況は、災禍級指定に相応しく、かなりの脅威であると考えていい。
(このまま行けば、まもなく奴らの攻撃圏内……)
このまま突撃を続ければ、奴らの攻撃の射程に入る。
そうなれば、必ず風術スキルの集中砲火を浴びることになるだろう。
さすがのクリスでもそれを防ぐ術はないし、そんなことをするつもりもない。
仲間の冒険者たちを無駄に死地に向かわせる気など、さらさらないわけだ。
(そうなる前に、こちらが先手を取らせてもらうぜ。)
奴らの射程圏内に入る前に、近距離からのスキルをあの群れにぶち込む。
そして、隊形が崩れたところに、まずは自分が単騎で斬り込む算段だ。
その際、できればこの群れの統率を取っていると思われる大きなワイバーンを屠る。
そうすれば、この後の戦いは簡単なものになるだろう。
クリスはそう考えていた。
(さて……そろそろ頃合いかな……。)
走りながら、クリスは目の前に迫るワイバーンたちとの距離を測る。
距離にして、残り200m程度といったところだろうか。
群れとの距離はかなり近づいており、相手もそれを感じ取ったのか、先頭のワイバーンが大きく咆哮をあげた。
(何か指示を出しているのか……?)
そう考えたが、ワイバーンたちの動きに変化は見られない。
これまでどおり、街の方角へと一直線で飛行を続けているだけだ。
確信が持てぬまま走り続けていると、クリスは別のあることに気がついた。
(飛んでいる位置が……低いな。あれなら……)
近づいてみてわかったが、奴らはかなり低空で飛行しているようだ。
今回の作戦では、土術スキルで足場を構築してもらい、飛び上がって攻撃を加える予定であったクリスだが、あの高さならそれも必要ないだろう。
もしかすると、何か策を弄してくるのかもしれないとも考えたが、今あれやこれや考えても無駄である。
そう判断して、少し後ろを走る冒険者には波状攻撃へ加わるよう合図を送った。
(奴らに一泡吹かせてやる……Aランクと互角に撃ち合った俺のスキルで……な!)
クリスはそう笑うと、同時に絶妙なタイミングで左手を大きく掲げた。
群れとの距離は、おおよそ100mくらいだろう。
それを合図に、クリスの後ろをついて来ていた冒険者たちは一斉にその場に停止。
各々のタイミングで、ワイバーンへとスキルを放ち始める。
(よし!射程ギリギリだ!先手はこちらがもらう!)
先ほどの遠距離攻撃部隊の時とは違い、正面から近距離で行うスキルの波状攻撃だ。
当然、この至近距離ではワイバーンたちに避ける術はなく、案の定、放たれたスキルたちが奴らに直撃した。
クリスはその様子を見ながら、単独でワイバーンの群れへと突撃する。
奴らが怯んだところに、最大の一撃を見舞うために。
「出力最大だぁ!」
クリスは走りながら背負う大剣の柄を握る。
すると、そこから炎が生まれて剣先まで走り抜けた。
そのまま大きく跳躍し、ワイバーンたちへと接近。
スキルの爆風で辺りは煙に包まれている。
そのせいで視界はかなり悪いが、奴らの隊形とそれぞれの位置は近くで視認できたので、だいたい把握できていた。
この先にいるのは大型のワイバーン。
そいつにスキルを撃ち込んで、さらにできる限りのワイバーンたちを屠ってみせる。
クリスの目に炎が宿った。
「ブレイズチャリオット(武炎砲火球)!!!」
そう叫ぶと同時に、クリスは炎を纏った大剣をワイバーンがいる場所に目掛けて思いっきり振るった。
激しく燃え盛る炎剣を、烈火の如く煙の先にいるであろうワイバーンへと叩きつける。
すると、その激しい衝撃波が無数の火球が生み出し、まるで火口から吐き出された噴炎のように、クリスを中心に四方八方へと放たれる。
その様子は、まるで燃える砲台のように見えた。
大剣から乱射される火球たちは、周りのワイバーンたちへ当たっていく。
クリスの周りで爆風が無数に発生していることが、その証拠だろう。
客観的に見て、この攻撃は非常に有効打であったと言える。
火属性は風属性に強い。
一振りで周りにまで攻撃を及ぼす火術スキルの範囲攻撃は、ワイバーンたちに甚大な被害をもたらした……ように思われた。
だが、クリス自身は即座に結果を理解した。
ーーー先制攻撃は失敗だ……
その理由は、クリスの目の前にある半透明な壁の存在。
それが、自身の大剣を受け止めていたからだ。
(こいつ……いつの間にシールドを展開しやがった……!?)
少し青みがかったガラスのようなそれは、確実に風属性の防御壁ではなかった。
半透明の壁の中で、コポコポと湧き上がる気泡。
燃える大剣が触れている場所から、蒸気が発生している。
その様子を見れば、誰しもが思うだろう。
それが水によって生成されたシールドであると。
クリスは周りの状況を確認することなく、一度ワイバーンの群れとの距離を取った。
スキルによる先制攻撃を仕掛けていた自分の部隊……冒険者たちがいるところまで大きく跳躍し、着地後にすぐに振り返る。
その視線の先には、想像どおりの光景が広がっていた。
「クソ野郎が……」
大型のワイバーンの周りには、ウォーターウォール……つまり水術スキルによる水の壁が生成されている。
そして、周りのワイバーンたちの周りにも、同じように水属性のシールドが張られていたのだ。
もちろん、クリスのスキルによる攻撃はすべて防がれており、ワイバーンたちには被害はない。
そして、そんなクリスの悔しさを理解したかのように、大型のワイバーンが「ギャギャギャ」と鳴いた。
クリスは、このシールドを張ったのはあの大型のワイバーンであるということをすぐに理解した。
そして、もう1つの懸念が彼の胸に湧いた。
(こいつ……人と同じような自我があるんじゃないか……?)
生き物に自我はあるが、今の反応はそれとは違い人間に近いような……。
それは推測に過ぎなかったが、クリスは自分の警戒心が自然と引き上げられていることに気づき、直感的に判断した。
この状況はまずい……と。
クリスは久々に感じる緊張感を払拭しようと、後ろにいる冒険者たちに大声で告げた。
「お前ら!!気合い入れろ!こいつらはこれまでの魔物とは違うぞ!!」
クリスの様子を案じていた冒険者たちは、少し戸惑いつつも彼の声に大きく呼応するのであった。
水術を使うワイバーン!?
クリスたちはどう戦うのか!
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




