53 やるべきこと④
再びエルバとの再会。
でも、他にも敵の姿があるようです。
パルトたちはどう戦うのでしょうか!
頬を切る風が加速度的に強くなっていく。
本当は落下しているはずなのに、上下逆さまに感じるのは、わたしが地面を目指してスピードを上げている矛盾からだろうか。
ぐんぐんと近づいてくるエルバたちを確認して、わたしは後ろにいるアナスタシアへと指示を出す。
「アナスタシア!このまま、黒い魔物にに向けて軌道を変えるよ!わたしは……エルバに……!」
その言葉に、アナスタシアはこくりと頷いた。
幸い、奴らはまだ気づいていない。
このまま飛び掛かり、先手を打てば勝機はあるはずだ。
わたしはアナスタシアとタイミングを合わせ、二手に分かれるようにそれぞれの軌道を変えた。
アナスタシアは黒い魔物へ、わたしはエルバに向かってそれぞれが剣を抜く。
そして……
「はぁぁぁぁ!!!」
「やぁぁぁぁ!!!」
掛け声もタイミングがばっちりだった。
わたしたちに気づいたエルバたちが、驚いた顔を浮かべているが、わたしとアナスタシアは構うことなく、それぞれの相手に向けて剣を振り抜いた。
くらぇぇぇぇ!!!
エルバに向けて放った袈裟斬り。
それは確実に彼女の肩を捉えていた。
だが、ここで予想外の出来事がわたしを襲う。
ガキンッという鈍い音がして、わたしの手に強い衝撃が走ったのだ。
もちろん、エルバに一撃を見舞えたという手応えはない。
その代わり、両手に走る衝撃が痛みと痺れへと変わっていった。
な……なに…が……!?
疑問と驚愕が襲いかかるが、それはすぐに解決した。
わたしの剣の前には、いつのまにか鋼鉄の盾が立ちはだかっていたからだ。
た……盾……!?
いつのまに……!!
アナスタシアは……!?
咄嗟にアナスタシアへと視線を向ければ、彼女の剣もまた、わたしと同じように鋼鉄の盾に阻まれている。
装備者はいない……宙に浮いているその盾に。
「カカカ……不意打ちとは、なかなかやるじゃんか!」
不意に小馬鹿にするような声がした。
そちらを見ると、口元に笑みを浮かべる黒ずくめの男がいる。
背は小振りで線も細い。
もちろん、外套を纏い、深く被ったフードのせいで正体はよくわからないが、どうやらこの鋼鉄の盾はこの男のスキルのようであった。
いったん、わたしは剣を引いてエルバたちと距離を取る。
アナスタシアも同じように距離を取って、わたしの側まで下がってきた。
「うっひ〜!焦った焦ったぁ〜!!」
「ったく……もうちょっと周りに気を配れよなぁ。特に、そいつの方にはよぉ〜。」
黒い魔物の上でふざけた仕草で笑うエルバと、それに呆れている黒ずくめの男。
男は黒い魔物を指差して、「こいつはちゃんと守れ。」とエルバを叱っている。
それを見て、2人の関係性が垣間見れた気がした。
エルバはともかくとして、男の方は少しまともなのかな……。
わたしがそんなことを考えていると、アナスタシアが突然吠えて驚いた。
「お前……お前は魔人族なのか!?」
「あん……?」
アナスタシアから怒りの矛先を向けられた男は、少し不満げに口元を歪ませた。
「なんだ……お前?俺が魔人族だったら何なんだ?」
「うるさい!質問に答えろ……!」
「おいおい……それが人にものを聞く態度かよ。」
「アハぁ〜!スラック、怒鳴られてんじゃん!」
「……お前が1番うるさいな……。」
話の腰を折るようにエルバが大笑いしているが、それは完全に場違いの笑いだった。
そのせいで男はかなり不機嫌になっており、その矛先がわたしたちに向き始めている。
「お前ら……この前、エルバと遊んだ奴らだよなぁ。」
苛立った様子で問いかけてくる男に、わたしが返そうとすると、再びエルバが横槍を入れて笑う。
「そうそう!あっちがパルトでねぇ、そっちがぁ……ん……あれ?名前は何だっけ?」
「……お前は本当に……ちっ……」
エルバのせいで、男の怒りがどんどん増していく気がする。
これ……まずいかも……。
そんなわたしの予感は的中した。
『攻撃がきます!!』
「アナスタシア!!」
ガイドさんの警告を聞き、咄嗟にアナスタシアへと声をかける。
それとほぼ同時に、男から波状に放たれた土の散弾がわたしに襲いかかった。
「パルト……!!」
すぐに反応したのは、アナスタシアだった。
彼女は剣を納めてわたしの前に立つと、背負っていた長い槍を手に持って魔力を込め、自分の前で高速で回転させた。
「へぇ……やるじゃん。」
高速回転する槍で、無数の礫を叩き落としたアナスタシアの技に、男は少し感心しているようだ。
ちょっとした感嘆を漏らしている。
「大丈夫……?」
「う……うん……ありがとう。」
わたしの安否を気遣ってくれるアナスタシアだが、振り向くことはない。
手に持った長い槍の切先を向けて、男をジッと睨みつけているようだ。
彼女の背中は、いつもと違う雰囲気を纏っている。
アナスタシア……やっぱりおかしい。
魔人族って聞いた瞬間から……。
彼女も魔人族と因縁があるのかな……。
かく言うわたしも魔人族とは因縁がある。
そう……師匠を殺したミッドウェルも魔人族だった。
なんだかいつもと違う彼女の様子を見ていると、わたしは少し不安になった。
「スラック、防がれてんじゃん!!」
今の攻防を見ていて、エルバがクスクスと笑っている。
それに対して、男は怒りを露わにする。
「うるせえ!お前らはさっさと離れてやがれ!それと、今回は俺のもんだからな!」
すると、エルバがそれに反論。
「え……!なんでよ!せっかくパルトちゃんが来てくれたのに!わたしもやるよ!!」
「バカを言うな!そいつのお守りはどうすんだ!ボスの命令だぞ!?」
「う……それは……」
珍しくエルバが怯んだことにも驚いたが、それよりもある言葉がわたしには気になった。
ボス……やっぱりこいつらって……
今の会話から考えれば、こいつらは何かの組織の構成員ということになる。
(ガイドさん……何か知ってる?)
『いえ……山賊、盗賊、海賊、教団など、この世界にはいくつか暗躍している組織がありますが、彼らのような存在は初めて確認しました。』
さすがに、ガイドさんもわからないらしい。
まぁ、それは仕方ないとしても、暗躍って……。
世界には、そんな物騒な団体がいくつもあるのか……。
世の中、物騒なことばかりだなと改めて感じさせられる。
「今回は俺だ。わかったな……。」
わたしの思考とは関係なく、男とエルバの中で結論が出たようだ。
エルバは渋々といった感じで、黒い魔物と離れていく。
その様子を見て、わたしは内心で安堵していた。
まずは、この男が相手をしてくれるらしい。
全員でまとめて来られたら、さすがにわたしたちも捌き切れないだろうから、それには大賛成だ。
もともと、相手の戦力を削いで有利に戦うための奇襲だったんだし……。
だが、たとえ男を撃破できても、次はエルバが出てくるはずだ。
彼女の強さを知っている身としては、できる限り温存したまま男を倒したい。
でも、果たしてそんなに上手くいくかどうか……。
『非常に厳しい状況です。』
(だよね……。)
ガイドさんの言葉に、わたしは気を引き締め直した。
「さぁて、場も整ったなぁ。」
男は嬉しげに笑った。
「そっちの金髪の女……お前、人族だな。俺が魔人族だと思うか……?」
先ほどまでの怒りはどこへやら。
男はケタケタとバカにするように笑い、アナスタシアを指差して言う。
「お前が魔人族なら……殺すだけだ。」
アナスタシアの表情は見えないが、かなり苛立っている。
槍を握る手に力が入っていることは、後ろからでも確認できた。
「いいねぇ……!殺す……か。なら、やってみろよ!!」
男はそう笑うと同時に、土術による武器生成を行うと、斧を片手にアナスタシアへと飛び掛かった。
対するアナスタシアは、男の接近を確認すると素早く後退。
そこからスムーズな足運びで体勢を整え、すぐさま直突きを放った。
男はその直突きを体を捻りながらかわすと、なおも突進して攻撃を仕掛けようとする。
だが、アナスタシアは冷静だ。
しならせた穂先で、男に槍での払いを見舞った。
その払いを既んでのところで防御した男だが、空中では踏ん張りが効くはずもなく、大きく吹き飛ばされた。
槍は間合いが命である。
その長い間合いを活かした刺突を主軸に、敵の攻撃をかわし、崩れた隙を狙うことが槍での戦い方の基本だ。
最大の強みであるリーチを活かし、常に敵との距離を適切に保ちながら、敵の有効間合いの外から攻撃する。
それが重要なんだと、師匠から教わったことを思い出していたが、アナスタシアはその基本を忠実に再現していると言っていい。
それほどまでに洗練された槍術。
今の一瞬の攻防で、わたしはそれを理解させられた。
一方で、払い飛ばされた男は力を受け流すようにくるくると回転して、少し離れたところに着地する。
「槍使いか……。なかなか厄介だな。」
厄介だと言うが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「魔人族は……全部殺す……。」
対するアナスタシアは、槍を構え直しながらそう溢した。
「金髪少女!いいねぇ!やっちゃえやっちゃえぇ〜!」
離れたところで、エルバがアナスタシアを応援している。
わたしは意味がわからなかったが、男も同じように感じたのだろう。
「うるさい!黙ってろ!」とエルバを一喝している。
だが、エルバには反省の色は見えなかった。
「けっ……やる気が削がれるぜ……まぁいい。おいお前、名前を教えろよ。」
斧を肩に載せ、男はアナスタシアに問うたが、もちろんアナスタシアがそれに答えることはない。
「黙れ……魔人族に言う名はない。」
「ふ〜ん……まぁ、いいんだがよぉ。」
フラれた男は特に気にした様子もなく、逆に笑みを深めた。
「なら、次は2人同時だな!」
その瞬間、男の姿は消えた。
と同時に、わたしの目の前に姿を現した男が斧を振るう。
「……!!」
驚く間もなく、わたしは剣で斧を受け止めた。
と思えば、今度はアナスタシアの背後に現れた男は、その背中目掛けて斧を振るった。
「く……!」
辛うじて前転により回避したアナスタシアは、振り向き様に刺突を放ったが、すでに男の姿はそこにはいない。
「おっせぇなぁ!!」
再びわたしの真横に現れて斧を振るう男は、とても楽しげに笑っていた。
わたしがそれを防ぐと、再びアナスタシアの下へ。
わたし、アナスタシア、わたし……
男は完全に遊んでいる。
攻撃する順番は決まっているので、カウンターを仕掛けようとも考えたが、現れる場所はランダムだ。
現れる場所の予測がしにくく、全てが後手に回り、わたしとアナスタシアは防戦一方となってしまっていた。
これじゃジリ貧……リスク承知でカウンターを……!
そう考えたわたしが、肉を斬らせようと思ったところで、先にキレたのはアナスタシアだった。
「大人しくしていれば、調子に乗るな!!」
怒りが溢れるように、彼女の体全体を炎のオーラが包み込む。
そして……
「炎槍・乱槍炎舞!!!」
咆哮とともに、男に向かって無数の炎の槍の雨が降り注いだ。
魔人族に対して、怒りの感情を露わにするアナスタシア。
彼女の過去にはいったい何があったのでしょうか。
今回もご愛読いただき、ありがとうございます
【重要】年末年始の更新について
年末は12/26まで更新します。12/27〜1/4は、申し訳ありませんが、更新をお休みする予定です。
できれば、これまで投稿した話の改稿も行いたいと思います。
年末年始ですので、皆様も充実した休日をお過ごしください。




