33 暴力少女と天然少女
宣言通り、ゴズルに1発見舞ったパルト!
焦るリプリーですが、ゴズルの反応は…?
今回はパルトの思いが炸裂します!
「パルトさん……!なんてことを!!」
リプリーがわたしの腕を掴んで止めに入るが、わたしは止まらない。
リプリーの手を払いのけると、もう一度ゴズルの胸ぐらを掴み上げた。
「おい、ハゲ!!なんだ、その顔は!新人に負けて気力を無くしでもしたのか!?」
無気力な瞳と生気のない表情が見えた。
さっきまでわたしたちに向けていた気色の悪い顔は、いったいどこへ行ったのやら。
さらに怒りが込み上げてきたわたしは、躊躇することなくゴズルの頬を打った。
口元が切れ、真っ赤な血が滴っていく。
「やめてください!!」
わたしの暴挙を止めようと、リプリーが後方から羽交い締めにしてくるが、受付嬢の力で止まるようなわたしではない。
両腕に力を込め、さらに声を荒げてゴズルを罵倒する。
「何がDランク冒険者だ!仲間が死んだくらいで立ち止まりやがって!!聞いてんのか!?おい!」
わたしはゴズルに怒りをぶつけ続けた。
その言葉に、ゴズルの眉がピクリと動く。
そして、空虚を眺めていたゴズルの瞳が、ゆっくりとわたしへ向いた。
「……てめぇに……何がわかる……。」
睨みつけるようにわたしへ向けられた瞳。
だが、その瞳に怒りの色はなく、ただ罪悪感と喪失感が広がっている。
仲間への謝罪、新人への謝罪……
その瞳の意味を知り、さらなる怒りが噴き上がったわたしは、ゴズルの胸ぐらを強く握り締めた。
「まだそんな眼をしやがって!お前の仲間も……新人だって、覚悟を持って冒険者になったんだ!それなのに……お前は落ち込んでばかりで前を向こうともしないじゃないか!!1人残されて悲しいとか思ってんのか!?バカが!!お前の行動は死者を……冒険者の魂を冒涜しているのがわかんないの?!」
わたしは、溢れ出る思いの丈を叫んでいた。
汚い言葉……それに言葉足らずだが、冒険者に対する敬意がそこには含まれている。
ーーー冒険者には矜持がある。
昔、父に教えてもらった言葉だ。
確かに、天真爛漫で自由気ままに生きる彼らの生き様は、真面目に働く者と比べれば軽薄に見られがちではある。
だが、本来その生き様には独自の信念や哲学が詰め込まれていて、名誉や利益、あるいは冒険そのもののために、危険や試みに挑戦する不屈の精神が宿っている。
わたしは父からそう教えられたし、その時とても印象深く興味深いと感じたのだ。
だから、冒険者であるならば、その生き様に恥じない生き方をしてほしい。
ゴズルの行いや態度を見て、そんな本心が溢れ出たのかもしれない。
それに対して、ゴズルは先ほどまでとは打って変わり、瞳の奥に炎を宿していた。
「てめぇ!言わせておけば……!」
突然、ゴズルがわたしの両腕を掴んだ。
「うっさい!ハゲ!男がメソメソしやがって!」
わたしも負けじと、ゴズルの胸ぐらを掴んだ手に力を込める。
慌てるリプリーの目の前で、わたしとゴズルの取っ組み合いが始まった。
が、そのタイミングでわたしを追いかけてきたガルシュとアナスタシアが、医務室へと踏み込んできた。
「……パルト!やめなって!!」
「アナスタシア……止めないで!!こいつはもっと殴らないと気が済まない!」
「んだこらぁ!?このクソガキが!!」
アナスタシアが仲裁に入るが、わたしとゴズルは止まらず、掴み合って罵り合っている。
だが、その均衡も崩れつつあった。
ゴズルはわたしに負けないように力を込めているが、ベッドで座った状態だと力は入れにくいようだ。
わたしの方が体勢的に有利であった。
徐々にゴズルの体が、ベットに沈み始める。
ここでもう1発……根性を……
わたしが力任せにゴズルを押し倒し、もう一度頬を打とうと考えた瞬間、わたしの体は軽々と宙に浮いた。
気づけば、ガルシュがわたしの襟を掴み上げているではないか。
「はなせ……!くそっ!」
必死に抵抗を試みるが、ガルシュの手はびくともしない。
宙に浮いたわたしは、まるで赤子の如く。
クリムゾンベア以上の腕力……
ただ掴まれているだけなのに、わたしはガルシュの恐ろしさを垣間見ていた。
「お前ら……もうやめろ。」
ゆっくりと……重く響く声。
大型の魔獣を思わせる静かなる咆哮に、ジタバタとしていたわたしも脱力せざるを得ない。
人形のように軽々と持ち上げられていたわたしはゆっくりと下され、同時にガルシュの大きなため息が聞こえる。
「パルト……気が済んだか?」
「済んでない……」
わたしの回答に、ガルシュは再び大きなため息をつく。
「まったく……これ以上は勘弁してくれ。それとゴズル……」
ベッドの上で興奮気味のゴズルへ視線を向けると、ガルシュはゆっくりと近づいて奴の顔を覗き込んだ。
「後輩からの叱咤激励だったな。……何か響いたことはあったか?」
「……」
ゴズルは俯き、何も答えなかった。
ガルシュは肩をすくめると、ゆっくりとわたしたちへ振り返る。
「説明の続きを始めるから、お前たちは執務室に戻れ。」
ガルシュは怒っている……。
わたしはそう感じた。
その矛先は、わたしの暴挙に対してかもしれない。
でも、彼の眼を見たらそうは思えなかった。
怒っているけど……喜んでもいる……?
でも、それは聞くべきことではないし、今は彼の指示に従っておくべきだ。
その結論に達したわたしは、アナスタシアの後ろについて医務室を出る。
だが、ドアを出る前に静かに振り返り、わたしは被り続けていたフードを外した。
突然のわたしの行動に、ガルシュもリプリーも目を見開いて驚いている。
その眼差しはわたしの耳に向けられており、その表情は最弱種族と呼ばれている兎人族に対してのものだろう。
でも、わたしにはそんなことはどうでもよかった。
ただ、ゴズルに伝えたかったのだ。
「わたしは兎人族……世界一強くなる兎人族のパルトだ。」
それだけを言い残し、わたしは医務室を後にした。
◆
「パルトって……兎人族だったんだね。」
再び、ギルドマスターの執務室にて。
ソファに座ってガルシュを待っていると、横に座っているアナスタシアがそう笑う。
「だからなに……?」
わたしがつっけんどんに応えると、アナスタシアは少し驚いた顔をした。
バカにされるのは嫌い。
例え、兎人族が最弱と呼ばれている種族だとしても、わたし自身はその辺の魔物や冒険者よりも強いと自負している。
今回、Dランク冒険者のゴズルを倒したことが何よりの証拠だし、そもそも兎人族云々を言われるのは本当に嫌いだった。
だが、アナスタシアは違った。
「ううん。別に意味はないんだけどね。ただ、初めて会う種族だから嬉しいだけかな。」
それを聞いたら、なんだか拍子が抜けた。
というより、初めから彼女がわたしをバカにするつもりがないことなんてわかっていた。
ふと、アナスタシアの背中が目に浮かぶ。
間一髪のところで彼女に助けられた事実が想起する。
わたしは、ゴズルにトドメの一撃を刺されそうになったところを彼女に救われたんだ。
それを思い出したら、自然と悔しさが溢れてきた。
それを振り払いたくて、わたしは頭を横に何度も振ったが、チラリと横目を向ければアナスタシアはまだ笑っていた。
なんだか……調子が狂うな……。
彼女と会ってから数刻程度しか経っていないが、彼女との間にはなんとなくやりにくさを感じている。
登場からの正義感溢れる物言いや、戦いの中でわたしを庇う優しさ。
それに兎人族だからといって、蔑まないこの誠実な態度。
どれをとっても、アナスタシアは素晴らしい人格の持ち主だと言えるだろう。
逆にわたしはと言えば……
ギルドマスターへの態度の悪さもそうだが、さっきのような暴挙に及んだ性格の悪さには目も当てられない。
あのドワーフにパンをもらった時ですら、御礼を言ったかどうかも記憶が曖昧だった。
そんな彼女との差を見せつけられて胸が痛い。
調子が狂うのはそのせいなのかもしれない。
でも、感謝は伝えないと……。
わたしは大きくため息をつくと、小さく「……ありがとう。」と呟いた。
それを聞いて、アナスタシアはとても嬉しそうに笑った。
「待たせたな。」
そうこうしているうちに、ドアが開いてガルシュが執務室へと戻ってきた。
その顔は……特に読めそうな心情はなく、さっきと同じように豪快さが滲んでいる。
彼はドカッとソファに座ると、まずはわたしに目を向けた。
「パルト、さっきのは……まぁなんだ……やり過ぎではあるが、感謝する。」
深々と頭を下げるガルシュの言葉に、わたしは疑問符が浮かぶ。
アナスタシアも怒られることを覚悟していたようで、少し拍子抜けした顔。
「いや……御礼を言われるようなことは……」
状況が把握し切れず、困ってしまう。
だが、ガルシュは頭を上げると、大きく笑った。
「いや、いいんだ。お前は気にしなくていい。ゴズルの奴と少し話したんだがな……あいつ、お前さんに殴られた後から目の色が違うんだよ。前みたいに瞳の奥に炎が灯ったような……そんな感じなんだ。」
そう語るガルシュは、どこか嬉しそうだった。
「今はリプリーが見てくれてるし、あいつの取り巻きたちも来ているからな。復帰には少し時間はかかるかもしれないが、今回のことであいつは少し変われたはずだ。」
あの取り巻きたちも来ているのか。
あいつらもぶっ飛ばす対象だったんだけど……。
そんな考えが頭をよぎるが、ハッとしたわたしはそれらをすぐに振り払った。
さっき反省したはずなのに、またこれか。
本当に成長しないな……。
そう改めて反省するが、すぐに変わるのは無理だろうなと思う。
人は早々に変われやしないから。
「さて……だいぶ遠回りしちまったが、本題に戻るとするか。」
わたしが内心で反省していると、ガルシュはテーブルに置いてある書類を手に取った。
それはたぶん、受付でわたしたちが書いた書類。
2枚あるので、わたしとアナスタシアのものだろう。
「パルトは……水と風。試験でも見たな。それとアナスタシアは火……ん?予知……?」
「……!!」
ガルシュの溢した言葉を聞いて、わたしは驚愕した。
まさに寝耳に水……青天の霹靂とはこのことである。
まさか、予知能力のことを登録用紙に書いたのか!?
あり得ないでしょ!!かなりレアな能力なのに……!!
予知能力なんて力、周りに知られたら絶対に面倒なことになるじゃん!
アナスタシアって……アホな子なの!?
わたしは愕然としてしまい、思考が停止しそうになりながらもアナスタシアを叱る。
「だから、その力のことは言っちゃだめだって!!」
「で……でも、登録用紙には自分のスキルを書けって書いてあったし……。」
「だからって普通は書かないよ!そんなすごい力、周りにバレたら絶対に目をつけられるじゃん!絶対に悪用しようと考える奴らが出てくるんだから。」
「すごい……力……」
叱っているはずなのに、アナスタシアは嬉しそうに「えへへ」と小さく笑っている。
だから、そうじゃない!!
褒めてない!!
この人、やっぱり天然だ!!
わたしは額に手を当てて、天を仰いでいた。
ゴズルは立ち直れるんでしょうか。
ガルシュはそう確信しているような雰囲気ですね。
しかし、アナスタシアはやっぱり天然少女でした。予知能力なんて力、公式以外じゃ絶対にバラしちゃダメなやつやん!




