異世界に立つ
本日二話更新。こちら二話目となります。
結局、俺は翌朝まで寝込んでしまった。無理もしたし疲れもあった。戦後処理がいろいろあったのに。責任者としては失格だろう。反省。
幸いなことに、こういった状況を取り仕切ることができるベテランがたくさんいた。貴族として一番位が高いエドヴァルド殿の指揮の元、一通の対処が行われた。
飛行船は、一度グルージャの町へ戻ったとの事。やはり浮いているのは燃料がかかるらしい。ついでに、事の次第を伝えるべくアロンソ男爵の部下が便乗していった。また明日、皆の迎えの為にこちらに来るという話だ。
またもぶっ壊れたバリケードは現在解体中。まあ、コボルトたちが張り切っているから再建にそれほど時間はかからないだろう。
撃破された殺戮機械はいつも通りダンジョンが食った。……内部で一体どのような処理が行われているのだろうか。
そして。グランドコアから記憶の代わりに支払われた特別報酬だが。
「お、おお……!」
おれは、その場に立って存分に朝日を浴びていた。外、だ。俺は、この世界に来て初めてダンジョンの外に立っていた。
これが、特別報酬。ダンジョンの支配領域の拡張。ダンジョンが洞窟の外まで広がったため、俺もそこまでは出ることができるというわけだ。
強い、森の香り。空気の質。肌をなでる風。それそのものは同じだが、しかしやはり故郷とは違う。ここは異国、異郷、異世界なのだ。
気が付けば、走っていた。ダンジョンの中では訓練や命がけで何度も走った。ただ走り出したくて、そうする。地球にいた頃に、そんな衝動にかられたことはあっただろうか。
俺の後ろを、ただ俺に付いていきたいという気持ちだけでコボルトたちが走っている。黒毛のコボルトがすっ転び、即座に四つ足で猛ダッシュをかける。
「あっはっは!」
すがすがしい。笑う。息が苦しくても、笑う。何と気持ちのいい事だろう。なるべく入り口まで来て陽光を浴びることはしていた。それでもやはり、外に出られないというのは心を縛っていたのだろう。なので俺は気持ちの赴くままにまっすぐ走って、
「はっはっはっ……はぶっ!?」
支配領域の端、移動限界の壁に叩きつけられた。さらに。
「わんわんきゃんっ!?」
「あだだだだだ!?」
車は急に止まれない。走ってるコボルトも同じ。玉突き衝突で、壁とコボルトに挟み込まれる結果となった。地味に痛く、かつ危ない事故だった。
「ミヤマ様!?」
ロザリー殿が、羽根を羽ばたかせ舞い降りてくる。文字通りのひとっ飛びというわけだ。二着目三着目がクロード殿とダニエル君。モンスターの身体能力すごいね。
「いやあ、お恥ずかしい所を」
「お気を付けください。病み上がりなのですから」
ロザリー殿に手を引かれて立ち上がる。コボルトたちに怪我は……無いようだな。なお、黒毛のヤツは俺を追い越して森に突っ込んだ。
「しかし、ここまでが新しいダンジョンか。結構広いな」
「最初の町を建設するには、十分な広さかと」
息も切らせずやってきたクロード殿が、またとんでもない話をしてくれる。
「町……は、流石に気が早くないですか? そもそも住人もいませんし」
「いや、ダンジョンにとっては町も迎撃設備のひとつだ。近々には無理でも、計画の準備をし始めて損はないだろう。住民などは、いくらでも集められる。ブラントーム伯爵家の面々が目の色変えるだろうさ」
するっとやってきたハルヒコ殿が、話をつなげてくる。そちらをむけば、ロザリー殿とご家族がそっと目をそらした。……ああ、殺到するんですね。分かります。
「まあ、最初は測量。地面の調査。排水路や道をどのようにするか。壁はどこ、家は何処と計画する所から。そしてそれはダンジョンマスターではなく設計士の仕事ですから。ナツオ殿はどんと構えていればよろしいかと」
で、最後をいつの間にか到着していたエドヴァルド殿が締める。……これは、やらないとは言えない雰囲気だぞぅ。
「はいはい、皆さま気が早すぎるというものですよ。ナツオ様はまだダンジョンを始めたばかりだというのに。そうやって貴族の都合ばかり押し付けていると、後々こじれると思いますが?」
そこに、助け舟を出してくれたのはイルマさんだった。彼女の言葉に、貴族の皆様方はバツの悪い顔をなさる。
「……申し訳ありませんナツオ様。先走りすぎました」
「いいえ。まあ、そういった事も後々はやっていかなきゃならないという話ですよね。ええ、肝に銘じておきます。でも、今は迷路の完成とキャンプ計画を成功させることに注力したいと考えていまして」
ダンジョンを見やる。入り口から、ぞろぞろとモンスターたちがやってくる。コボルト、ゴーレム、そしてラミア。……あーあ、まだ体が辛いだろうに無理しちゃって。母親に支えられ、我らがガーディアンもやってくる。
さらにはお客人。アロンソ男爵と冒険者達。これからは、彼らとの付き合いもある。さらに忙しくなるだろう。
外から見るダンジョン。その岩山はかなりの大きさだ。この中に俺の、俺たちのダンジョンがある。多くの人に求められる場所だ。それは、俺にとっても。
「よし、それじゃあ今日も始めていきましょうか」
気持ちを、また新たにして。俺はダンジョンマスターとしてやっていく。
お付き合いいただきありがとうございました。第二巻分、終了でございます。
また、書き溜めに入らせていただきます。年末までには間に合わせたい……年始になっちゃうかなぁ。
それでは、また。




