復活の森蛮人
血祭。それは帝都地下街の闘技場に置いて、ルール無用情け無用、何でもありの大騒ぎの事を指す。武器あり魔法あり奇跡あり道具あり援軍なし。自分が身に着けたあらゆるものを総動員し、相手から勝利をもぎ取る殴り合い。
正直ここまで何でもありだと、逆に見世物としては成り立たないのではないか? と俺は思ったのだが。
「参加者にはショーマンであることも求められるので、しょっぱい戦いすると選手以外から袋叩きにされます」
と我がガーディアンが答えてくれた。言うほど何でもありでもないようだ。お客さんが見るものだからね。しょうがないね。
さてそんな血生臭いお祭りだが、やります! というだけで開催されるものではない。こいつをぶっ倒したい! と思わせるような、ランドマーク的選手が必要不可欠なんだとか。そしてもちろん、それを興行として成立させられる人物も不可欠だ。
幸いなことに、それができる人物とコンタクトが取れた。
「まあまあ、お久しぶり! んんん~~~!!! あいっかわらずいい香りねぇエラノールちゃん!」
「ひぃ……マダムも、お元気そうで」
思いっきり鼻を鳴らしながら、エラノールをかぎまくっているのはとてもふくよかなオークの女性。指輪にネックレスにと宝石をじゃらじゃらつけているし、化粧もこれでもかと塗りたくっている。
異種族の年齢を見分けるのは未だに苦手だが、それなりに年配であることは分かる。彼女こそマダム・フルッタ。地下闘技場の顔役の一人、らしい。バザルトさん達の伝手であり、かつてエラノールが世話になった相手でもあるとの事。
俺たちは、彼女の事務所も併設されている地下闘技場に来ていた。アポイントメント無しの訪問で最初は渋られたが、侍エルフの臭いを嗅ぎつけたマダムによりあっさりと面会が叶った。
俺はとりあえず、ポワンさんに視線を送った。
「ああ、うん。まあその、エルフの香りが好きなのはオークとしては一般的な性癖だから。ただまあ最近はさすがに、あそこまでやるのはエチケット違反であることは間違いない。が、マダムは手は出さないのであれでも十分淑女だ」
「あれで……?」
ふんすふんす、と嗅ぎまくってるぞ。エラノール涙目だぞ。
「エラノールちゃんのためなら、幾らでも盛り上げてあげるから安心して頂戴ねぇ! そうそう、もちろん新し~い衣装も用意してあるから!」
「マダム。どうかもう、あの過激な衣装だけは……」
「だ・め・よ! 女は見られて美しくなるのよ! 私のように! ……ちょっと! エラノールちゃんの衣装持ってきてちょうだい!」
ばしんばしん、と大きな手を叩けばマッシブオークたちがマネキンを何体も持ってくる。当然それに衣装が着せられているのだが……。
「紐! ほぼ紐じゃないですか! ふんどしだってまだ慎み深いですよ!?」
「安心して! 魔法のおかげで絶対ポロリはしないから!」
「そういう問題じゃないっ! ミヤマ様! お願いします何とか言ってください!」
「ええ……」
このカオスな衣装の数々にコメントしろというの? でも、うん。こんな紐水着を着せて仕事させるのはパワハラだからなぁ……。とりあえず無難な奴で。
「マダム。自分としてはあえて前面を隠して、背中はばっちり見せているこの水着が良いかなと思うのですが」
「あら! 貴方分かってるわね! そうよエラノールちゃんは背中がセクシーなの!」
「あと、前を貞淑に隠すからこそ背中の大胆さが際立つのではないかと愚考するのですが」
「いいわねー! そう、そういうコメントを待ってたの! 流石はエラノールちゃんのマスターさん! 見る目があるわぁ!」
「ミヤマ様……そういうフォローをしていただきたいわけではなかったのですが……」
「すまん。これが精一杯。あと、興行主さんへのサービスも大事だから。全部終わったらヤルヴェンパー温泉に休暇にいっていいから」
しおれるエラノールへのフォローは、またあとでするとして。彼女にばかり負担をかけるわけにはいかないので、もう一人の準備もしてもらわなくては。
「ミーティア。お前衣装はどうする?」
「ああん? これじゃダメかい?」
いつものビキニアーマーを引っ張りながら、ラミアは気楽に言ってのける。
「ダメよ! ショーは特別な物! 衣装だってキラキラしてなきゃ! そんなやぼったい鎧なんて論外よ!」
「アタシ、あんまり着るの好きじゃないんだけどねえ……いっそ裸じゃだめかい?」
「良い訳ないだろうが」
地下街、そして帝国にわいせつ物陳列罪があるかはさておいて。サカリの付いた猿が飛び込んできても困るじゃないか。
「ボディペイント……いえ、やっぱ駄目ね。うん、ここはエラノールちゃんとの対比のために、大人しめでいってみましょう。ただしハイレグで」
マダムがノリノリでミーティアの衣装も決定する。そうこうしているうちに、地下闘技場は続々と人が集まってくる。テンション高くはしゃいでいたが、すぐさま人を集められたのは流石の実力だ。
「それにしても、帝都は本当に人種のるつぼだなあ」
ヒト、エルフ、ドワーフなどは当然として。獣人、鳥人、虫人、魚人、ケンタウロス、ハーピィ、リザードマン。その他ヒト型から完全に離れたモンスターの皆さんもいらっしゃる。熱気は順調に高まっている。
……はたして、うまくショーになるのだろうか。ショーに誘われて強者は来てくれるのだろうか。そんな俺の心配など、時の流れに何ら影響を与えない。あっという間に開始時刻となった。
会場内の照明は落ちて、代わりにリングの上にスポットライトが当たる。中央に立つのは今日のレフリー。狸の獣人は、高らかにアナウンスを始める。
『お集りの勇猛なる蛮人の皆様! 長らくお待たせしました! 今宵、唐突かつ偶然にも! かつてこの場を沸かせた勇者が返ってまいりました! そう! 飛び跳ねる姿は天使のごとし! 攻撃を加える姿は悪魔のごとし! 数々の強敵をリングに沈めた、美しき猛獣! フォレストーーーッ! バーーーサーーーカーーー!』
レフリーの呼びかけと同時に、新たなスポットライトがオンになる。そこに照らし出されるのは、マスクをかぶったエルフの少女。ふるふると羞恥に震えながら、それでもけなげに拳を掲げる。
会場が震えるほどの歓声が上がる。いやあ、人気だなあエラノール。まってたぜとか、おかえりとか、愛してるとか。……あと、卑猥な叫びもたくさん。お前ら、エルダンさんとエンナさんいなくてよかったな。いたら死んでたぞ。
『地下より消えていた彼女は、強さを磨いて帰ってきた! そしてなんと! 今回は相方まで引き連れてやってきた! ご紹介しよう! 艶やかなる毒蛇! ジャングルーーーッ! ビューーーティーーー!』
さらにスポットライトオン。現れたのは、体のラインをこれでもかと際立たせる、フィットした薄手のスーツに身を包んだラミア。こちらも、揃えるためにマスクをかぶったミーティアである。
いやあ、卑猥な歓声が増える増える。ミーティアもサービスして投げキッスはするわ、身体をくねらせるわ。会場は大盛り上がり。酒を買い求める声もあちこちから聞こえてくる。わかる。俺も仕事じゃなきゃ飲んでた。
『この輝く二輪の華を散らせる猛者は現れるのか!? さあ、まずは第一戦! 対戦相手はーーーこいつらだーーー!』
……うん。そうなんだ。この戦い、負けたらそういう事になるって話なんだ。俺としてはクッソ反対したんだけどね。盛り上がるからって、興行主だけじゃなくエラノール達にまで説得された。
万が一負けた場合は、たとえこの場で袋叩きになろうとも彼女たちを救いに乗り出す腹積もりだ。たぶん、命はないだろうが。ダンマス失格であろうとも、認められない事はある。
レフリーのコールで、更なるスポットライト。金髪赤眼の優男と、筋肉そのものといったトロルが照らし出される。この二人はマスクしていない。
『ご存じ! 地下闘技場の常連! ナイトデュークと、ボルケーノだああああ!』
歓声三割。残りは極めて下品な野次が観客から叫ばれる。思いっきり、そういうシーンをご期待のようだ。本当、ご両親いなくてよかったな……。ここが俺のダンジョンじゃなくてよかったな……。
と、ここでナイトデュークらしき赤眼がレフリーからマイクを受け取った。
『久しぶりだな、フォレストバーサーカー! かつてと同じように、清らかな乙女のままで何よりだ! 香りで分かる!』
会場、大盛り上がり。男も女も猿のように歓声を上げる。
「てめえコラァ! セクハラしてんじゃねえぞ! ダンジョンこいやすりつぶしてやらぁ!」
「ミヤマ様、抑えて、抑えて!」
ヨルマに止められるが、叫ばずにはいられなかった。家のエラノールになんて事いいやがる! と、その当人が相手からマイクを奪い取った。
『相変わらず、紳士気取りですねこの変態吸血鬼。あれだけ股間を念入りに砕いてやりましたが、懲りていないとは驚きです。宣言しましょう。股から血を流してリングを去るのは、今回もあなただと』
大爆笑する会場。わー……言うなあエラノール。俺、ちょっと股間がヒュっとした。うん、絶対エンナさんには伝えられない。ゲラ笑いしているミーティアにもしっかり口止めしておかなきゃ。
そして、マイクを返されたレフリーが中央に立つ。スポットライトは消えて、リング全体が照らされた。
『それでは! 今宵最初の試合! 無制限一本勝負! 試合開始ーーーっ!』
コングが高らかに鳴らされる! 最初にリングに立ったのはミーティア、じゃなくてジャングルビューティーとボルケーノ。トロルが雄たけびを上げながら突進する。対するラミアは地を這うように低姿勢で進む。そしてそのまま相手の両足にタックル。さらに。
「「「おおおーーー!」」」
観客の驚愕の声に会場が包まれる。なんとジャングルビューティーは、トロルの巨体を下から持ち上げたのだ。二メートルを超える身長に、全身の筋肉。百キロどころではない体重を、細腕で持ち上げて見せたのだから驚きも当然だ。
彼女に言わせれば、腕の力はそれほどでもないらしい。あくまで、彼女に言わせればの話だが。だって、ドワーフ用のウォーハンマー軽々とぶん回せる娘だし。
本人の自己申告によれば、パワーの秘密は下半身。蛇部分の筋肉と血と骨の重量があれば、色々無茶ができるとの事。そしてそれは今、マットの上で実践されている。
「せーのっ!」
持ち上げられたボルケーノの巨体が、マットに叩きつけられる。トロルは高い再生力を持つ種族である。ちょっとやそっとの怪我などものともしない。だが、この衝撃は効いたようだ。
「いえーい!」
元気よくガッツポーズして会場にアピール。豊満な胸も健康的に揺れる。会場大盛り上がり。酒を買い求める声もさらに増える。ああ、飲みたい。いや、いかんいかん。
と、そこで衝撃から立ち直ったボルケーノが頭を振りつつ立ち上がる。
「やってくれたなあ! ええ!?」
「さっさと立ち上がっておくれよ。退屈しちまうじゃないのさ!」
「抜かせやぁぁぁ!」
トロル、今度は上体を低くしながら猛ダッシュ。次は下を取らせないぞという構えだ。しかし、ジャングルビューティーの技はまだまだたくさんある。転ぶようにマットに手を突き、そこに倒立。蛇体が大きく天を突き、そのままボルケーノに倒れこむ。ラミア浴びせ蹴りがさく裂した。
「ごああ!?」
頭と背を強かに打ち据えられ、たまらずトロルは膝をつく。……分厚い皮膚と筋肉。本来ならば打撃技など彼には効果ないのだろう。しかし、ビューティーの攻撃はどれも重い。強烈な衝撃が、彼に想像以上のダメージを与えているのだ。
「何を間抜けを晒しているかっ!」
と、ここでコーナーからナイトデュークが飛び出してきた。二人がかりで彼女を押さえるつもりだろう。当然、それを黙って見ている相方ではない。颯爽と、木刀片手にリングに躍り出る。
「……っていうかさ。普通に木刀使ってるけどいいのかな?」
「たかが木刀でガタガタ言うようなやつは、リングの上に上がる資格はねぇな!」
バザルトさんの力強いコメントである。そうかー、おっかない世界だなー。そんな話をしている間も、リングの戦況は動く。
「我が夜に、包まれるがいい乙女よ!」
吸血鬼は、己の身体を黒い霧に変化させた。瞬く間に広がり、リングを覆う。観客からはブーイングが放たれる。リングが見づらくなるものね。わかるよ。ビューティーはボルケーノと両手を合わせてパワー比べ中。バーサーカーは木刀を正眼に構えて、リング中央に立つ。
霧が渦巻く。いつ実体化するかわからない。反応できなければ、吸血鬼の暴力が襲い掛かる。華奢な彼女では一発でダウンもありうる。油断できない時間が過ぎていく。俺は手に汗握っているが、隣のヨルマは涼しい顔。
「長引きはしませんよ」
「そうなの? 引っ張った方がデュークの有利でしょ?」
「これはショーです。あんまりしょっぱい事やっていると、場外から聖水やら銀武器やら浄化の奇跡が飛んできます」
「厳しい……」
次の瞬間、どよめきと歓声が同時に沸き上がる。実体化した吸血鬼が、バーサーカーに襲い掛かった!
「シャァッ!」
上空から飛び掛かる吸血鬼。しかし覆面エルフは見事に対応。狙いすました突きが……容赦なく股間を狙うっ!
「浅はかっ!」
なんと、吸血鬼はそれを読んでいた! 突き出された木刀を、両手でつかんだのだ。変形だが、白刃取りといえなくもない。真剣じゃないけど。
「狙ってくると分かっていれば、このような芸当もできるというも……のっ!?」
デュークの両手から、血があふれた。それは一瞬ですぐに止まったが、その手にすでに木刀はない。一瞬の早業で、抜き取ったのだ。血は、その摩擦で手のひらが切れたのだろう。
「己の能力に自信を持ちすぎだ。気がゆるめば、吸血鬼の怪力と言えど抗いようは……あるっ!」
素早く正確に、木刀が一閃される。狙ったのは空中に浮いていたが故に狙いやすかった、吸血鬼の向う脛。いわゆる弁慶の泣き所である。
「!!??」
デューク、声も出ずに悶絶する。再生力が高くても、人体急所を撃たれたことによる激痛は別である。動きが止まった吸血鬼に、影が差す。何事かと見上げた彼の視線の先には、相方の広い背中があった。
「動くんじゃないよ、狙いが外れるからねぇ!」
ブレーンバスター。相手の首を抱え、背中からマットに叩き付ける技である。それを事もあろうに、浮いていた吸血鬼目がけて放ったのだ。巨漢のトロルを。つくづく、我がダンジョンのラミアの怪力ぶりはすさまじい。
「「ぎゃばぁ!?」」
哀れ。吸血鬼は霧に変化する時間もなく、トロルは受け身を取る事も出来ず。もつれ合ってマットに叩き付けられる結果となった。
「ホールド!」
「あいよぉ!」
阿吽の呼吸。ジャングルビューティーは全身を使ってトロルを拘束する。蛇体に巻き付かれ、がんじがらめになったあげく押さえつけられる。ボルケーノとてやられっぱなしではない。全身の筋肉を隆起してそれに抗おうとする。怪力対怪力。
デュークはカットに入ろとするも、そこは覆面エルフに邪魔される。
「ワンッ! トゥーッ! ス……」
「おおおおりゃあああああ!」
ボルケーノが全身の力を使ってとった行動、それは転がる事だった。全身への締め付けからは逃れられなかったようだが、ただ転がる分には障害は少なかったのだろう。そのままロープに接触。レフリーからブレイクを言い渡され、二人は離れる。
「決まった、と思ったんだけどなぁ」
「連中もザコではありません。簡単には負けませんね」
パートナーはリングの外に戻り、マットの上には二人だけ。相手側は変化なし。こちら側はフォレストバーサーカーがリングイン。
「今日こそそのほそっこい首をへし折ってやるぜ!」
「悪いが、そろそろ退場してもらうぞ。次の試合が詰まっている」
「ほざけやぁぁぁ!」
激怒したボルケーノが両手の拳を固めて怒涛のラッシュ。ただのパンチと思うなかれ。腕の長さも筋肉の量も、骨の硬さも血の量も。何もかもがヒトのそれを凌駕する。ゾウやサイが突撃してきているようなものだ。一発でもまともに貰えば、致命傷になりうる。それがトロルという種族なのだ。
その攻撃を、空を舞う木の葉のように避けていく。避ける、という表現は正しくないのかもしれない。攻撃が始まった時点で、絶対に当たらない場所に移動している。完全に、相手の攻撃範囲を読み切っている。だからこそ、あの爆発じみた猛攻に対して無事でいられるのだ。
しかも。
「シッ!」
「あいだっ!? このぉ!」
合間を縫って、攻撃を加えていく。胸と腹。どちらもただ突いているわけではない。人体急所を狙っている。事実、攻撃をもらった後は苦し気で動きが鈍っている。それだけで済んでいるのは流石のタフネスと言わざるを得ないが。
しかし、それでも。地下闘技場の常連は伊達ではなかった。ついに覆面エルフは、自軍のコーナーに追い込まれてしまった。背後には相方がいるが、交代のために動こうものなら即座にハンマーじみた拳が振り下ろされるだろう。
「へ、へへへ。てこずらせやがって……」
「ずいぶん消耗したようだな。何よりだ」
「何をいって……っ?」
その時、不自然にトロルの動きが止まった。タッチ交代したジャングルビューティーがフォールの為に飛び掛かっても、トロルは止まったままだ。
この時になって、俺はやっと何が起きたか理解した。
「あ、そうか。ミーティアの魔眼か」
「体力を消耗させ、かつ自分に注意を向けさせることで金縛りにかかりやすくしたんでしょうね」
「うっへえ、えげつねぇなあ……」
今度ばかりは、抗えない。慌てて飛び出してきたナイトデュークは、木刀によって止められる。
「ワンッ! トゥーッ! スリーッ!」
スリーカウント。試合終了の鐘が鳴り響く。第一試合は、見事にうちの二人が勝利してくれた。引きずり降ろされる対戦相手。同時に、新たな二人組がリングに飛び込んでくる。
今度は女性の二人組だった。ビューティーに負けず劣らずの色香を放つ大人の女と、別種の艶やかさを持つ少女。特徴的なのは角、尻尾、そして肌の色だ。大人の方は赤い肌、少女の方は青い肌。角は節くれだっていて……いつぞや見た、悪魔を思い出させた。
『続いての対戦相手はー……地獄の血族! 触れるものを凍り付かせる魔性、ネーヴェ! そして、今宵も延焼御用心、フィアンマ! この二人がリングインだーーー!』
レフリーのマイクパフォーマンスに、会場は大盛り上がり。新たにリングに上がった二人も、観客に答えて色気を振りまいている。
「ちなみに小さい方が姉、大きい方が妹です」
「あ、そうなんだ。……ちなみに、あのお二人は強い感じ?」
「この闘技場に顔を出す連中のなかでも、上位だな。……おっと、マスター様。そろそろいい感じだぜ?」
促されてそちらを見れば、控室へと下がっていく凸凹コンビの姿。よし、と俺は席を立つ。興行の成功は、強者を呼び込むため。何故呼ぶかといえば、ダンジョン奪還の戦力確保のため。どうやって確保するかといえば……普通に声をかけてスカウトするのだ、俺が。
というわけで、ここからは俺の仕事である。第二試合のコングが聞こえたが、それを見ることはできない。彼女たちは自分の仕事をこなしてくれている。俺もするべきことをしなくてはいけない。
控室の扉をノックする。
「お疲れのところ申し訳ありません。私、ダンジョンマスターのミヤマと申す者ですが少々お時間をいただけませんでしょうか……」




