276 苦闘! 梓VS蜘蛛の巣
夜、天さんがぼそりと言った。
「梓、玄関脇にでっかい蜘蛛の巣あって、でっっかい蜘蛛がいるんだよ」
“でっっかい”って、メッチャ強調してる。
「どんだけでかいのよ?」
「こんくらい」
天さんは、親指と人差し指で、先っちょが触れないくらいの丸を作ってみせた。
や、その丸、直径5cmくらいあるよね?
そんなでっかい蜘蛛? 女郎蜘蛛?
「そんな大きいわけ?」
「大きい」
ん~、嘘を吐いてるようには見えないけど、天さん虫嫌いだからなぁ。
おおげさに言ってない?
まぁいいや、なんか撤去しろっていいそうな雰囲気だねぇ。
「みっともないし、あれ取って。
明日の朝でいいから」
…まぁ、予想どおりの反応ではあるね。
「…覚えてたらね」
「お前、絶対忘れるだろ」
天さん、絶対明日の朝念押すよね。
あたし、虫が平気なわけじゃないんだよ? 天さんより強いってだけで。
翌朝。
ちゃあんと天さんは念を押してきた。
「蜘蛛の巣、よろしくな」
うん、ちゃあんと忘れてたよ。
「ういうい」
紙ゴミ出しがてら外に出て、玄関脇を見る。
わ、ホントに4cmくらいあるよ。
あれ、どうしよう。
さすがに素手は無理だし、棒じゃあのサイズの蜘蛛には逃げられそう。
手元には、畳んだ段ボール。
しょうがない。
段ボールを広く持って、面で巣ごと蜘蛛を捕る。
そのまま道路の向こうの桜並木まで…
あ、逃げられた。
道路を渡り切る前に、蜘蛛がすすすっと段ボール上から逃げていった。
道路の上に落ちたところまでは見えたけど、その後は追いかけられなかった──というか、目で追いきれないほどの速さで走って逃げてった。
まぁ、玄関脇から退去してもらうという当初の目的は果たしたんだから、いっか。
紙ゴミを出して戻ると、天さんが
「どこに捨ててきた?」
って訊いてきた。
うん、あたしが蜘蛛殺さないってわかってるんだよね。
どうしよう、道路で逃げられたなんて言いたくないなぁ。
「あっち」
って道路の方を指差したら、
「あっちってなんだよ。
川に捨てたとかじゃないのか?
小学生じゃないんだから『あっち』はないだろう」
と返してきた。
うん、そう言うと思った。
言い訳すると面倒なので、「あっち~」と言いながら、子供っぽく天さんの背中にひっつく。
「小学生じゃねえって」とか言いながら振り払われたけど、話はうやむやになった。
こういう時って、普段の行いがものを言うよね♡
夜。
「また蜘蛛の巣貼ってた。同じ蜘蛛だと思う」
が~ん。
その後、3回にわたる物理的説得により、無事蜘蛛はお引っ越ししました。




