209 機械オンチ
意外なことに、天さんは機械オンチだ。
男のくせに、とか言うと今時色々と問題があるので言わないけど、パソコンもスマホも最低限必要な機能しか使わない、というか使えない。
なんていうか、自信がないからって感じ。1人でもちゃんとやれるんだろうけど、不安だから敢えてやらない。まぁ、よく言えば慎重なんだよね。
対照的なのがあたしで、“なんとなくこんな感じ”で、ひょいひょい動いちゃう。
あたしは、“謝ってすむ話”だったら、気軽に動く。どうせ完璧になんてできないってわかってるし、踏み出さなきゃ前に進まないこともわかってるから。
ただ、“失敗できないこと”については、異様に臆病になる。
失敗したらえらいことになるってわかっていることについては、失敗を恐れるのだ。内心的に、はっきりくっきり差が出る。
そんなあたしには、パソコンでの作業は割とやりやすい。“1つ前の状態に戻す”ができるのは、本当にありがたい。
対人関係って、一度ミスると取り返しが付かないことも多いから、とっても怖い。
あたしなんか口調がきついから、うっかりすると相手の心をえぐるようなことも言っちゃうらしい。
“らしい”っていうのは、自分ではわからないことが多いから。
以前、不義理というかいい加減なことをした人に「ちょっとキツいこと言うけど」と前置きしてキツいこと言ったら、脇から「そんなきついこと言わなくてもいいじゃない!」とか「正しいことを言っても、相手を傷付けたらそれは間違ったことになる」とか責められた。
じゃあ、“正しくないことをして人を傷付けた人”は責められなくていいの?
あたしは、やっぱり人の気持ちがわからない。
コミュ障なのは、他人の価値観とのすりあわせが下手なせいかもしれない。
ウルトラマンの改造とかは、“やってみてダメだったら、別の方法を考えればいい”と思ってるから、ずんずん進むことができる。
でも、ウルトラマンのUSBメモリで目とカラータイマーを光らせようと思った時は、タネにできるUSBメモリを1個ダメにした後、あと1個しかないタネを潰すのが怖くてかなり二の足を踏んだっけ。
天さんは、基本、完璧主義者で、ミスをしたくない人だから、用心深いんだよね。
翼は完璧主義者じゃないけど、天さんに似てミスを怖がるタイプ。
プラモなんかも、最初からキッチリ作ろうとする。
工学系に進んだんだから、失敗を恐れない大胆さは身につけた方がいいと思うけど。
ああいうのは、トライ&エラーの世界だからね。あたしの方がよっぽど“らしい”じゃん。
改造技術は、ちょっとずつ進歩してるぞ♡
イケイケゴーゴーのあたしと、石橋を叩いて渡る天さんは、いいコンビなんだと思う。
しっかり者のくせに天然ボケな天さんは、つけいる隙がある分。あたしとうまくいってるのかもしれない。
翼が幼稚園の頃、体調が悪くなって、あたしが家でついてる必要上、天さんにスーパーへ買い物に行ってもらったことがある。
どういう理由だったか覚えてないけど、天さんの車が使えなくて、あたしの車で行ってもらった。
そしたら、天さんから、車が動かなくなったって電話があった。
「確認するけど、ブレーキは踏んでからキー回してるよね?」
あたしの車はオートマだから、ブレーキを踏まないとキーは回らない。
「踏んでる」
「エンジン掛かってないように見えて、走れたりもするんだけど」
ハイブリッドだから、始動しててもエンジンが回っていないこともある。
独身時代、友達に運転させたら、エンジン音がしないからと何度もキーを回されたことがある。
「そもそもキーが回らない」
冬場だったし、すわバッテリー上がりか!? なんて思って、とりあえず駆けつけた。
翼を置いていくわけにはいかないし、暖かくして背負い、3km先のスーパーまで走る。
駐車場で、天さんからキーを受け取り、運転席に座ってキーを回すと、あっさりエンジンが掛かった。どういうこと?
ともかく、せっかくエンジンが掛かったので、天さんと翼を乗せて家へと帰ることにした。バッテリーの表示を見ても、充電量に問題はなさそうなのに、なんで掛からなかったんだろう?
帰り道で色々話を聞いてると、天さんは、アクセルを踏みながらキーを回そうとしていたことがわかった。そりゃ、掛からないよ。
「なんでアクセル踏むかなぁ?」
「俺、マニュアルしか運転したことないからさ」
「ていうか、出掛ける時にはエンジン掛けられたよね?」
「そうだよな。なんでだ?」
「訊きたいのは、あたしだよ!」
この時のことは、今でも笑い話にしてる。
その後、天さんのインプレッサも代替わりしてオートマになった。
あたしの車も代替わりして、キーレスエントリーになった。相変わらずハイブリッドだ。
あたしは、トヨタのハイブリッドが好きだ。
モーターだけで走ってる時の感覚が独特だから。
燃料電池車とか電気自動車も欲しいけど、値段の面でどうにもならないから、ハイブリッドを買っている。
あれで通勤していると、ルートによっては30km/ℓとかいくのだ。しかも、遠出をすれば、さらに伸びる。
福島に出掛けた時は、実燃費で33km/ℓいった。
今のところ、実燃費で35km/ℓが最高だったかな?
そんなわけで、長距離の移動には、天さんのインプレッサじゃなくてあたしのアクアを使う。
翼のアパートに届け物がてら出掛けた時、あたしがプリンタのセッティングに手間取ったので、天さんと翼だけで買い物に行ってもらうことにした。
2人が部屋を出て少しして、セッティングが終わったから、まだ出発してないようならあたしも行こうかと思い、翼に電話してみた。
天さんはシート位置の調整に時間が掛かる人だから、間に合うかもしれないと思ったので。
「翼、今どこ? もう出ちゃった?」
「まだ駐車場」
「こっち目処付いたから、お母さんも行くよ。鍵掛けに来て」
「わかった」
? なんだろう、2人して笑ってる? 「留守番してるね~~~」とか言ってたあたしが、やっぱり行くって言ったからかな?
出発してなかった理由は、天さんがエンジンを掛けられなかったからだった…。
「ブレーキ踏まなきゃエンジン掛かんないに決まってるでしょ! 天さんだって、今はオートマ乗ってんじゃん」
「インプレッサは、ブレーキ踏まなくてもエンジン掛かるんだよ。シフトレバー動かす時に踏むんだ」
「まさかオートマの常識を知らない人がいるとは…」
道理で2人して笑ってたわけだよ。




