中野支配
武田という主を失った中野は誰が支配しるのか
「うわああああああああああー」
真田繁子はユーベルトートの死を知って絶叫して泣き崩れた。
「取り乱すな!」
厳しく真田信子が叱責するが繁子はその場に突っ伏して泣くのをやめない。
「連れてゆけ、会議の邪魔だ」
信子の命令で繁子は中野ブロードウエイの中にある会議室から兵士たちによって引きずりだされていった。
「して、今後いかがなされるおつもりか」
中野在住の曼荼羅会の古株である室賀正子が信子に問いただす。
ここはこの、真田信子にご一任いただけないでしょうか。
「承服しかねる!この中野はそもそも武田義子様が配下、我ら曼荼羅会が仕切ってきた場所。それを下北沢の外様につべこべいわれる筋合いはない」
「されど、我ら真田氏は武田晴子様より深い信頼を得て……」
「武田はもうない!中野はそもそも曼荼羅会のもの。我らが指揮をとって当然のことである」
「それはごもっとも」
矢沢頼安が横から口をさしはさんだ。
「中野は本来曼荼羅会のもの。いつから真田殿のものになったのか」
「だまらっしゃい!」
真田信子は厳しく叱責する。
「勘違いされるな、武田家無き今、我らはすべて同等のはずでしょう!」
矢沢が信子にくってかかる。
「待たれよ、矢沢殿、落ち着かれよ」
壷谷が矢沢の前に立ちふさがる。そして猿飛、霧隠が矢沢の両手を押さえる。
「ええい、離せ、不愉快じゃ!」
矢沢は猿飛、霧隠の手を振り払い、その場を退出しようとする。
「待たれよ、今後の決議はどうなされるか!」
真田信子が怒鳴る。
「あとの票決は室賀正子殿にお任せする。私の1票は室賀殿がお使いくさされ」
そう言って矢沢は立ち去っていった。
「まったく」
真田信子は首を横に振った。
「では、我ら中野の者たちの首領をここに集まった者の投票で決めよう。ついては、立候補する者、そして、首領になったならばどこにつくか、それを述べていただきたい」
「無論、この室賀正子が立候補いたす」
「ほかには?」
その場にいる衆人、誰も目を伏せて手を上げなかった。
「ならば、私も立候補する。この真田信子と室賀殿で投票をいたす。よろしいかな」
皆々無言で頷く。
「では、私から言わせていただく。ここは祭童軍につくべきである。松平は先の池袋の戦いで我らとは遺恨あり、下につけば何をしてくるかわからぬ」
「私は松平のつくべきと思う。なんといっても関東は松平の独壇場。はやいうちについていたほうがよい。池袋の件は、松平の将兵を多く殺した真田ならまだしも、我ら曼荼羅会は武田義子様の頃より松平配下の武黒衆とは入魂の間柄。私が中野の首領となれば何の問題もない」
「ほう、真田だけ切り捨てればよいと仰せか」
「そうは言っておらぬ、印象操作はやめられよ」
「では、投票をはじめるとしましょう」
投票の結果、僅差で真田信子が勝った。
真田信子が中野の執務室に入る。そこでは矢沢頼安が待っていた。
「おめでとうございます。ご主人様」
矢沢頼安は深々と頭をさげる。
「うむ、して室賀は何と言っておる」
「はい、よそ者の真田が中野の主だなどと許せぬと愚痴っておりました」
「そうか、このさい、室賀に我らへの不平分子を糾合し、一気に叩き潰す好機だ。しばらく泳がせておけ
「はい」
「して、客人は?」
「はい、先ほどからお待ちです」
「入っていただくように」
「はい」
矢沢頼安は一旦執務室の外に出てLEE・ナオトラをつれて入ってきた。
「ハーイ!久しぶりだねー!」
「ユーベルトート様の伝手で以前より入魂のLEE様が松平の家臣に入られたことは実にめでたい。将来、松平と祭童が潰し合いになったときに、どちらが滅びても、どちらかが助ける盟約。これほど心強いものはない」
「そうだねー、でも、そのためには私も松平家中で発言権を持たなければならないね。そのためには軍事力がいるよ」
「心得た。祭童軍に滅ぼされた武田の敗残兵を多数かくまってはいるが、その者らの多くは武田を滅ぼした祭童軍には入りたくないと言っておる。どうか松平配下のLEE様の下で使ってやってほしい。祭童軍に滅ぼされた都庁軍の将であったLEE様の下でなら、あの者たちも喜んで働くことでしょう」
「ありがたいね、世の中はギブ&テイク。モノの道理がわかっているから信子は信頼できるね」
「いえいえ、お互い様です。またこちらで何かあったときはよしなに」
「まかしとけよー!」
LEEは笑顔で胸を張った。
それぞれの思惑が交差する。




