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CARRIER〜異世界最速の運び屋〜  作者: コロタン
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第11話 変装

 俺とクーリエは、くしゃみをするミュールを気遣い、街に移動する事にした。

 距離があるため、新たに車を用意して貰ったのだが、インプレッサではかなり音が五月蝿いため、今回は別の車にした。

 用意して貰ったのは、音が静かな4WD、三菱のアウトランダーPHEVだ。

 勿論充電もして貰っている。

 カタログを見ただけで乗るのは初めてだが、なかなか楽しくて鼻歌交じりになってしまう。

 アウトランダーPHEVは、菅野がファミリーカーとして検討していた車だ。

 友人を思い出すと寂しくなるが、今はこの車を楽しもう。


 「うわぁ・・・さっきまでのと違って快適ですね!

 なんか形も違うし、広くて静かです!!」


 ミュールは後部座席で転がりながら、しきりに内装を弄っている。


 「これは電気の力でモーターを回して走ってるから、静かなのはそのおかげだよ。

 さっきの車はエンジンで動かしてたんだけど、それ以上に、速く走るための車だったから余計な物を取り除いて軽くしてたんだ。

 そのせいで静音性は皆無だったんだよ」


 「へぇ、色んなのがあるんですねぇ・・・。

 ところで、エンジンとかモーターって何ですか?」


 ミュールは、座席の間から身を乗り出す。


 「ミュール、危ないですよ?まぁ、初めて見る便利な物にワクワクする気持ちは解りますよ!

 私も昴さんの世界に行った時は、あまりにもこちらと違い過ぎて、驚きと感動を隠しきれませんでしたからね」


 「良いなぁ・・・どんな世界だったんですか?」


 俺はエンジンとモーターの違いについて説明しようとしたが、ミュールはスピーカーから聞こえてくるクーリエの話に食いついてしまい、機を逸してしまった。


 「そうですね・・・一言で言うなら驚嘆ですね。

 この自動車と言う乗り物もそうですが、飛行機と言って、空を飛ぶ巨大な鋼鉄の鳥のような乗り物もありました。

 それに、こちらの世界よりも広くて、何十倍もの人々が暮らす世界でした・・・。

 国の数も多く、昴さんの住んでいた国も含めて、先進国は国民の暮らしや、生活に用いられている技術がこの世界の水準を遥かに上回っていました」


 クーリエはうっとりとした声音で喋っている。


 「昴さんは、そんな凄い世界からこんな何もない世界にやってきて不自由を感じないんですか?」


 「ミュールさん、それをクーリエさんの前で聞くのはどうかと思うよ?

 流石に、この世界を管理してる神様の前でそれは・・・」


 俺は何気なく聞いてきたミュールに苦笑まじりに諭した。

 スピーカーからしくしくと寂しげな泣き声が聞こえる。


 「あぁっ!申し訳ありませんクーリエ様!!」


 「いえ、良いのです・・・事実ですからね。

 私の力が至らないばかりに・・・」


 (あーぁ、すねちゃったよ・・・やっぱり、元人間なだけあってところどころ人間臭いなこの神様)


 「ところでクーリエ様、いくつかお願いがあるんですけど・・・」


 見かねた俺は話題を切り替える。

 別にこの空気が嫌になったとかではなく、実際に、街に着く前にお願いしたい事があったのだ。


 「何でしょう?何かと至らない私ですが、私に出来る事なら何でもおっしゃってください・・・」


 「クーリエ様、本当にごめんなさい・・・」


 ミュールは肩を落として小さくなる。


 「ふふっ、冗談ですよミュール。

 それで昴さん、お願いとは何でしょうか?」


 ミュールが反省しているのを見たクーリエは、俺に話を振った。


 「まず、当面の資金を貸してくださいませんか?

 拠点をどこにするかはまだ決まってませんが、車で寝泊まり流石にキツイですから。

 あと、折角洗って貰ったのに申し訳ないですが、俺とミュールさんの服が必要です。

 俺の服は目立ちますし、ミュールさんは追っ手に覚えられています。

 このままだと、見つけてくださいって言ってるようなものですからね」


 俺は、今思いつくだけの最低限必要な物を伝えた。


 「わかりました・・・それらに関しては、街に着く前に用意しましょう」


 「あと、これはミュールさんにお願いなんだけど・・・」


 俺はルームミラー越しにミュールを見る。

 ミュールは首を傾げている。


 「何でしょう?」


 「髪を上げるか切るかして、化粧をして貰えないかな?」


 俺がそう言うと、ミュールの時が止まった。

 まさかクーリエの仕業ではないだろう。


 「な、何故でしょうか・・・。

 私、人の目を見て話すのが苦手で、こうやってないと恥ずかしくて顔も見られません!」


 正気に戻ったミュールは、力一杯拒否する。


 「追っ手に気付かれないためだよ・・・。

 君の背格好は奴等に割れてる。

 そのままだと、さっき言ったように奴等にバレてしまう・・・流石に俺もそんなリスクは負いたくない。

 この提案が飲めないなら、俺は今後君を守る事は出来ないよ?」


 「でも・・・」


 ミュールは俯いて答えに困っている。


 「ミュール、私も昴さんの意見に賛成です・・・。

 昴さんには、無理を言って来てもらっています。

 出来れば、昴さんにも危険な目にあって欲しくないのです」


 クーリエはミュールを諭す。

 ミュールはまだ決めかねているようだったが、しばらく小さな声で自問自答を繰り返し、ゆっくりと顔を上げた。


 「わかりました・・・でも、私がお化粧してもそんなに変わらないと思いますよ?」


 「ありがとうございますミュール!

 安心してください、私が立派な淑女にして差し上げます!」


 クーリエは、待ってましたと言わんばかりにテンションが上がる。

 もしかすると、ただミュールに化粧をしたかっただけなのかもしれない。

 まぁ、正直俺も興味があるから、敢えて何も言わない。


 「あ、クーリエさんって神様ですから有名人ですよね?」


 「そうですね、それが何か?」


 「だったら、一緒に居ると目立ちますから、クーリエさんも変装して貰えます?

 出来れば男装が良いですね・・・男1人女2人より、男2人女1人の方が目立たないと思います」


 「わ、私もですか!?」


 クーリエは慌てて聞き返して来た。


 「そりゃそうですよ・・・ミュールさんにだけ変装をさせるのも酷でしょう?」


 「な、なら昴さんも・・・!」


 「あ、俺は変装しなくて大丈夫です。

 奴等に顔バレしてませんからね!」


 「そ、そんなぁ・・・」


 スピーカーから、クーリエは泣きそうな声が聞こえる。


 「まぁ取り敢えず、街の近くまで着いたら森の中ででも着替えましょう!」


 スピーカーから聞こえてくるクーリエの愚痴を無視し、俺は車を走らせた。







 「さて、この辺で良いですかね?」


 『はい・・・』


 返事がハモったクーリエとミュールは明らかに元気が無い。


 「2人共早く!車見られたら不味いでしょ?」


 俺は2人にそう言って先に森に入った。


 「はぁ・・・では、まずお2人の服をご用意します。

 服は車を造る時の様にお2人の身体に合うように作成しますので、着替える必要はありません。

 では、そのまま動かないでくださいね・・・」


 クーリエが乗り気じゃない表情で俺とミュールに指示を出すと、辺りが一瞬だけ光に包まれ、光が治ると俺達の服が変わっていた。

 貴族の服装ほど煌びやかではないが、清潔感のある服装だ。


 「これで大丈夫です・・・」


 聞き慣れない男性の声が聞こえる。

 俺はクーリエの居た場所を見て驚く。

 歳の頃は10代後半くらいの美少年が立っていた。

 俺と同じような服装だが、かなり決まって見える。


 「まさか、クーリエさんですか?」


 「そうです、私がクーリエです・・・」


 (変なおじさんみたいな答え方だな・・・)


 美少年クーリエは不本意そうな表情でため息をつく。


 「ではミュール、貴女にお化粧を施しますね」


 クーリエがミュールに歩み寄る。

 俺はそれを目で追い、ミュールを見て驚愕した。

 胸の所が大きく開けた淡い朱色のドレスだ。

 俺とクーリエとは違い、少しだけ豪華な装飾が施されている。

 まさか追っ手も、あの地味な格好の女の子がこんなお洒落な格好をしているとは思わないだろう。

 それよりも、俺の視線を釘付けにしているのはミュールのデカメロンだ・・・。


 (改めて見ても凄いな・・・ちょっと走ると溢れ出るんじゃないか?)


 俺はもっと見ていたかったが、目線を上に動かした。

 あまり見ていると気付かれてしまい、またあらぬ疑いを持たれてしまう・・・まぁ、疑いじゃなくて事実だが。


 「では、まず髪型から・・・」


 クーリエは、ミュールの髪に触れて前髪を上げる。


 「おぉ・・・」


 俺はミュールの素顔を見て感嘆の声を漏らした。

 眉は細く、目は少しタレ気味だが、ぱっちり二重で瞳は吸い込まれそうな青色だ。

 薄くそばかすはあるが、それがまた愛嬌があって可愛らしい。

 はっきり言って好みだ・・・これであのデカメロンなのだから、俺の中でミュールの株が急上昇中だ。

 

 「どうです、私が言った通りでしょう?」


 クーリエは、ミュールの素顔に見惚れている俺を見てクスクスと小さく笑う。


 「えぇ・・・正直ビックリですよ!」


 「は、恥ずかしいのであまり見ないでください・・・」


 ミュールは頬を赤らめる。

 クーリエに髪をセットして貰っているため、顔をそらせず非常に恥ずかしそうだ・・・だが、そこが良い!


 「いやいや、可愛いと思うよ?前髪で顔を隠してるなんて勿体無いよ!

 このままでも、追っ手にはバレないと思うよ」


 俺が褒めると、ミュールはさらに頬を染めた。


 (うーん・・・良い反応するなぁ)


 「さて、次はお化粧です!気合いを入れて頑張りますよ!!」


 クーリエは、ミュールの髪のセットを終え、ミュールの前にしゃがんだ。

 ミュールの髪は高く結われ、細いうなじがかなり色っぽい。


 「さて、これでどうでしょう?

 ミュールは元が良いので、清楚感を出してみました!

 ミュールは元々ぱっちり二重ですからアイラインは小さめで、そばかすはチャームポイントとして残すため、頬紅は敢えて薄めにしました。 

 口紅はドレスに合わせて淡い朱色です!

 どうです昴さん!可愛いでしょう!?」


 (凄え、女って怖いわ・・・化粧ひとつでこんなに変わるのか!?)


 俺は見惚れて声が出なかった。


 「ふふっ、お気に召したようですね!」


 「えぇ、もう大満足ですよ・・・」


 クーリエは俺をからかうように笑っている。


 「どうなったんです?私変じゃないですか!?」


 ミュールは俺達の様子を見て不安そうにしている。


 「はい、鏡で確認してみて下さい」


 クーリエは手鏡を手渡し、ミュールの反応を伺う。


 「これが・・・私ですか?」


 「えぇ、貴女です・・・どうです?」


 「私の地味な顔でも、お化粧次第でこんなに変わるんですね・・・」


 ミュールは鏡をまじまじと見ながら呟く。

 相当自分に自信が無いようだ。


 「いや、本当にも可愛いと思うよ・・・。

 これじゃあ、俺が地味過ぎて逆に目立ちそう」


 俺は項垂れて苦笑した。

 取り敢えず変装は終わったため、俺達は森を出る。

 街までは徒歩で15分、ミュールを助けた場所からはかなり離れている。

 流石に、追っ手も短時間でここまで移動しているとは思わないだろう。

 しばらくは大丈夫だと信じ、俺達は街に向かって歩き出した。

 


 

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