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CARRIER〜異世界最速の運び屋〜  作者: コロタン
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第10話 クーリエの視た未来

 「人に手料理を振る舞うなんて数百年ぶりでしたが、お口に合いましたか?」


 俺とミュールは、クーリエが洗濯してくれた服を着て戻ると、ちょっとした夕食まで用意がされていた。

 女神様に炊事洗濯をさせる大それた人間が、この世界にどれだけいるだろうか?


 「美味しかったです・・・!何と言うか、私が自分で作るより遥かに!ははは・・・数百年のブランクがあるクーリエ様の方がお料理上手だなんてショックです・・・」


 ミュールは徐々にテンションが下がり、彼女の周りの空気がどんよりとして行くのがわかる。


 「わ、私は貴女よりも長生きしていますから、経験の差ですよ!気にしてはいけません!貴女はこれからきっと上手になりますよ!!

 それで、昴さんはどうでしたか?向こうの料理と比べてお気に召しましたか?」


 クーリエは慌ててミュールを慰め、少し恥ずかしそうに俺に聞いてきた。

 献立は、木ノ実と野草のスープとキノコの串焼きだった。

 正直、素材が限られていたため、味はかなり薄かったが、結構美味しかった。

 ちゃんと調味料などが揃っていれば、かなり良いんじゃないだろうか?


 「少し薄味でしたけど、美味しかったですよ!俺は料理を出来ないんで、ありがたいです!」


 「昴さんはお料理出来ないんですか?」


 「壊滅的にダメですね・・・俺が作ったら、ダークマターが出来ますよ」


 「ダ、ダークマターですか・・・まさか昴さんがその様な能力をお持ちとは・・・」


 (あれ?何か信じてる・・・?)


 クーリエは何かを考え込むように、小さな声で呟いている。


 「クーリエさん、ダークマターってのは物の例えで、食べられない位黒焦げで不味い物が出来上がるって事ですよ・・・」


 「へっ?え、あぁ・・・冗談でしたか。

 まさかと思ってしまいました・・・」


 クーリエは自分が勘違いしていたことに気付き、ホッと胸を撫で下ろした。


 「あの、ちょっと良いですか?

 何故クーリエ様と昴さんが私なんかを助けてくれたのか、そろそろ教えていただけませんか?」


 俺達の様子を黙って見ていたミュールは、手を挙げて遠慮がちに質問してきた。

 彼女も落ち着いたようだし、そろそろ良い頃合いだろう。

 俺もミュールが何故命を狙われていたかなど、色々と聞きたい事がある。


 「そうですね・・・わかりました、お話ししましょう。

 ミュール、貴女は私の持つ能力について知っていますか?」


 「えっと・・・すみません、天候を操れる事以外は知りません」


 「別に謝る事ではありません。

 私はこの世界の管理者です・・・今、この世界の何処で何が起こっているのかは大抵解ります。

 南で川が干上がれば雨を降らせ、北で吹雪が続けば止める事も可能です。

 ですが、私はそれを見て判断しているのではありません・・・実際は世界の声を聞いているのです。

 私は、その世界の声により、貴女の危機を知りました。

 私には、天候操作や世界の声を聞く以外にも、いくつかの能力があります。

 その中でも、私が特に重要視している能力が未来視です。

 世界の声で知る事が出来るのは現在の情報だけです・・・ですが、未来視ではこれから何が起きるのかを事前に知る事が出来ます。

 ただ、未来視にはいくつかの問題があります・・・自分の能力でありながら、断片的な未来しか見えない上、いつ発動するのかが分からないのです・・・。

 先ほど、世界の声を聞いて貴女の危機を知ったと言いましたね?

 私は、その直前に未来を見たのです・・・そこには、貴女を始め、幾人かの人物が写っていました。

 そして、貴女の子供が世界を救うのに必要な存在である事を知りました。

 私は急いで貴女を捜し、間一髪の所で時を止め、貴女を救おうと思いました・・・ですが、私の見た未来の映像には、不可解な物が写っていたのを思い出したのです。

 今まで見た事もない、鋼で出来た乗り物・・・貴女が先ほど魔獣と呼んでいた物です。

 私はすぐにそれがどういう物で、何処にあるのかを調べ、貴女を救うにはその乗り物が必要だと判断し、すぐに異世界に向かいました。

 未来視の中で、その乗り物を操縦していた昴さんを迎えに行くためです。

 昴さんには無理を言ってお越し頂きましたが、彼のおかげで無事に貴女を救う事が出来ました。

 これが貴女を救った理由と、それに至った経緯です・・・」


 俺は、クーリエの説明を黙って聞きながらミュールを見た。

 ミュールは目が点になっている。

 まぁ、その気持ちは解らないでもないが。


 「えっと・・・まだ話をうまく理解出来ていないんですが、私の子供が世界を救うって聞こえたんですが・・・」


 しばらく思考停止していたミュールはやっと話が飲み込めて来たのか、半信半疑といった表情でクーリエに尋ねる。


 「えぇ、その通りです」


 ミュールはクーリエの言葉を聞いて、俯きながら震えている。

 何かあったのだろうか?


 「やっ・・・」


 小さな声だったが、何かを言おうとしている。

 俺とクーリエは2人揃って首を傾げた。


 「やったー!天国のお父さんお母さん聞きましたか!?私結婚出来るらしいですよ!!これで来世に期待する心配は無くなりました!!クーリエ様、お相手はどんな方ですか?イケメンですか?優しいですか?私を生涯愛してくれますか!?」


 ミュールは、爆発したかの様に急にテンションが上がった。

 クーリエの両肩を掴み、ガクガクと揺さぶる。

 クーリエの首が飛んでいきそうな勢いだ。


 「ミュ、ミュール・・・落ち着いて下さい!く、首がもげそうです・・・!!」


 「はっ!?申し訳ありませんでした!!」


 クーリエの言葉に正気を取り戻したミュールは、慌ててクーリエを解放した。


 「いえ・・・喜んでいただけて良かったです。

 ですが、先ほどお伝えしたように、未来視は断片的にしか見えないため、お相手についてはまだわかりません・・・ただ、私の見た未来の貴女は、とても幸せそうでしたよ。

 未来視で見たからと言って、確実にその未来が訪れるとは限りません・・・ちょっとした事で未来が変わってしまう事もあるのです。

 私は自分が見た未来を現実に出来るように努力いたします・・・。

 ミュール、貴女も協力してくださいますか?」


 「もちろんです!幸せな未来のためですから!!」


 クーリエとミュールは、互いの手を取って誓い合う。

 

 「結局、重要視するのはそこなのね・・・。

 まぁ、ミュールさんがそれで良いなら何も言わないけど」


 俺は肩を竦めて小さく呟いたが、その直後凄まじい殺気に身慄いした。

 ミュールが、前髪の隙間から俺を睨んでいたのだ。


 「昴さん・・・命の恩人である貴方には感謝していますが、その発言は許せません!

 私は地味な見た目ですが、それでも女の子なんです!身を焦がすような熱い恋愛に興味もありますし、結婚にだって憧れています!!愛する人との間に子供を産んで、幸せな家庭を築きたいという願いをそんな軽い言葉で否定するのはやめて下さい!!」


 今度は俺に掴み掛かって来たミュールは、食い付かんばかりの勢いでまくし立てる。


 「ごめんごめん!悪かったよ・・・!!

 夢は人それぞれだもんな・・・馬鹿にされたら怒るのも無理ないよな!

 謝るから許して!俺の首が飛んでも、ジャ○おじさんやバ○子さんが新しい顔を用意してくれる訳じゃないんだ!死んじゃうんだ!!」


 「最後のが誰かは知りませんが、許してあげます!」


 俺の謝罪を受け入れてくれたミュールは、鼻息荒く俺から離れた。

 

 「あぁ首が痛い・・・てかさ、結局何でミュールさんは殺されそうになってたの?俺はそれが知りたいんだけど・・・」


 俺が首を叩きながら質問すると、クーリエが苦笑しながら頷いた。


 「それもご説明しましょう・・・。

 今私達が居るのは、フェラーリと言う、この世界で最も歴史が古く大きな国です」


 俺は今居る国の名前を聞いて吹き出してしまった。

 他の国の名前も気になる・・・。

 クーリエは首を傾げて俺を見ている。


 「すみません・・・この国の名前が、向こうの世界の自動車メーカーと同じだったので」


 「そうでしたか・・・話を続けてもよろしいですか?」


 「お願いします・・・」


 俺は笑いを堪え、クーリエに続きを促した。


 「この国には、国王の他に、それに準ずる権力を持つ者が4人居ります。

 国家防衛を司る軍事、国の財源を司る財務、他国との交渉などを司る外務、法を司る司法の4つがこの国では重要視されているのですが、この4つの職務に就いている家系こそが国を動かしていると言っても過言ではありません。

 今回ミュールを狙っていたのは、国の財源を司る職務に就いているマグラーと言う大臣です。

 ミュールは、そのマグラーの不正の現場を目撃したと誤解され、命を狙われました。

 マグラーという男は、まだ36歳と言う若さでその重職に就き、その手腕は歴代の財務大臣の中でも他の追随を許さないものと言われています。

 実際、彼が財務大臣になってからと言うもの、この国の経済は右肩上がりです。

 それだけなら良かったのですが、このマグラーと言う大臣は裏で色々と悪事を働いていまして・・・。

 自分に仇なす者は容赦無く貶め、自分の息のかかった商家などを優遇し、そこからの賄賂を受けとったり、国の財源を着服するなど様々な悪事を行なっていますが、証拠を一切残さないため、処罰する事も出来ない状況です。

 国としても、マグラーの悪事を暴くより、このままにしていた方が国が潤うので、見て見ぬ振りをしています・・・」


 どこの世界にもこういう悪徳政治家は居るらしい。


 「でもそいつをそのままにしとくと、もしミュールさんが無事だとバレた時、また追っ手が来ますよね?」


 「えぇ・・・本来ならすぐにでもマグラーを止めたいところなのですが、正直私もどうしたものかと考えあぐねている状況です・・・」


 クーリエは項垂れてため息をつく。


 「やっぱり証拠が無いから裁けないんですか?」


 「いえ、そうでは無いのですが・・・」


 どうにも歯切れが悪い。

 他に何か問題があるのだろうか?


 「実は、マグラーの子孫も私の未来視に出て来たのです・・・。

 マグラーの子孫は、やがて来る悪神復活の折、その潤沢な資金でミュールの子供を支える役割りを担っています。

 もしマグラーの罪を暴いて彼が処罰された場合、お家取り潰しになってしまっては、未来が変わってしまう可能性があるのです・・・」


 (マグラーを止めなければミュールが危ないし、逆にマグラーを裁けばミュールの子供が危ない・・・あれ、これって詰んでね?)


 俺はクーリエの話を聞いて頭を抱える。

 マグラーを止めた上で、彼の家を守らなければならないのだ・・・車を走らせるしか能の無い俺には難解すぎる問題だ。


 「くしゅん・・・!」


 俺とクーリエが唸りながら考えていると、ミュールがくしゃみをした。


 「やっぱり夜は冷えますね・・・。

 クーリエさん、今後のためにも拠点を置いた方が良いんじゃないですか?

 正直、すぐに答えは出ないと思いますし、何よりこのままじゃミュールさんが風邪を引いちゃいます」


 「そうですね・・・では、ここから1時間ほど進んだ先に街がありますので、ひとまずそこを拠点にしましょう」


 ミュールは寒がりながら小さく「すみません」と呟き、もう一度くしゃみをした。

 


 

 

 

 


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