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明かされた正体(2)

 Game Geek 4公開実況イベント当日。


 この日はいつもの収録とは違う。会場には観客がいて、その前での公開実況。編集はできない一発勝負。緊張感はあるけど、嫌いじゃない。

 むしろこの空気が、いつもの自分を少しだけ超えさせてくれる気がする。



 開演前、ステージ袖では四宮がいつも以上にテンション高くうるさいくらいはしゃいでいた。こいつはこれが通常運転。

 井口さんは黙って舞台の方を睨んで腕を組んでいて——でも、彼は本番にはめっぽう強いのを俺たちは知っている。

 齊藤さんは今日も冷静に、台本を確認しながらも、裏方スタッフにも笑顔を返している。司会進行も任せて安心、まさに“できる男”だ。


 自分の役目はいつもと変わらない。いつも通り、絶妙なタイミングでのツッコミ、全体の空気を見てバランスのとれたトークだ。

 

「そろそろ本番です」


 スタッフの声に、無言で3人と視線を交わし、ステージへと向かった。


***


 本番が始まった。観客の声援が飛び交い、会場は大盛り上がり。


 大画面でのゲーム大会。


 四宮のハイテンションに客席が沸き、井口さんの天然発言で笑いが爆発する。齊藤さんの冷静な進行も抜群で、流れるようにイベントが進んでいく。女性観客からの黄色い歓声が飛ぶ。俺も場を盛り上げながら、皆の発言に突っ込み、テンポよく掛け合いを続けていた。


「そろそろイベント発生フラグが立つタイミングだよな。たぶんこの先で何かが——」


「うっわ、来た来た来た!!! 音やばい、音やばい、ちょっと!! 羊くん前いって!!!」


「ねー、俺まだそっち進んでないんだけど、みんなどこー? 左? 左ってゲームの左? それとも今の俺の左?」


「ぐっちさん、今、そこ気にする? 早く来て! ってか俺、何で先頭? え、ちょ、これフラグ、立った瞬間に回収!? 回収スピード、Amazonの即日配送超えてきたんだが!?」


 ずっと一緒にやってきたからこそ、お互いに「今」欲しいコメントが、感覚的にわかる。

 やっぱり、こいつらはサイコーだわ。



 最後のコーナーは「観客参加型・人狼」。

 俺らGG4の4人が会場の四方のステージに散り、それぞれ観客とチームになって人狼を推理していく形式。自分のチームの観客たちに札を上げてもらい、4人のうち誰が人狼かを当ててもらう。


 俺も担当するステージ区画に移動して、マイクでメンバーと話しながら、ふと、観客席に目を向けた。


 その瞬間——



 視界が、ぶれた。



 心臓が、音を立てて跳ねた。



 ……目が合った、気がした。



 そこにいたのは


 ……月平、菜緒……さん



 距離にして約3メートル。驚いたように目をまん丸にして、真っ直ぐこちらを見ている。そして、その隣には……ナースステーションで彼女と話していた、あの男性医師。


「……なん…で……」


 一瞬で周りの音が遠ざかっていくような錯覚。口の中が一気にカラカラになって、自分がどこにいるのか、わからなくなった。



 その時

「羊くーん、なんか音声来てないよー?」

 四宮の声がマイク越しに響いて我に帰った。


(やっべ……、とにかく集中しないと)


「……あ、悪い悪い。観客さんの札見るのに集中しちゃってさ」


 声がかすれそうになったのを咳払いでなんとか取り繕い、イベントは無事進行していく。


 だが、心のどこかで焦りが消えなかった。彼女の視線が、こちらを見る瞳が、ずっと胸の奥に突き刺さっていた。

 その後、もう2度と観客席の方にしっかりと目を向けることができなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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