羊という男【Side;GG4】
月と羊前日譚続きです
★Ren(齊藤 蓮)の場合
日辻智士。ゲーム実況者「羊」。
落ち着いていて、観察眼は鋭い。会話のテンポとセンスは俺たちの中でも群を抜いている。
特にリスナーとのやり取り、拾うコメントの選び方、言葉の選定。たぶん彼は“盛り上げる”よりも“響かせる”力に長けてるんだと思う。俺が舵を取るなら、彼は船の重心を担うような存在だ。
でもまあ、プライベートは……読めない。
たまに恋愛の話になると「いや、そういうのは別に」みたいな顔をするんだけど、ある時「あぁ、ちょっと前、別れました」って言ってたりする。付き合ってたの!? ってなる。
たぶん、悪気とか冷たさじゃない。
羊くんは“好き”にも“距離”にも、とても慎重な人間なんだと思う。自分の境界を乗り越えられることに、とても敏感で、臆病なんだ。
だからきっと、誰かがその境界をちゃんと越えてくれるのを、待ってる。
そのことを、本人はたぶん……まだ自覚してない。
★セイ(四宮 清史朗)の場合
羊くんはさ~、一言で言うと“奥に感情しまい込みすぎ芸人”だよな。
いや、実況してる時はあんなにバシバシすらすら喋るのに! って思うかもしんないけど、オフになると「おまえ今どこに心置いてきた?」ってくらい、反応薄いときある。
でもなぁ……わかるんよ。
俺、気づいちゃったんだよね。羊くん、昔、ちょっとだけ付き合ってた子と別れた後、1人で水族館行ってて。その時、なんかほっとしたような顔してたの、見逃さなかったからな。
ぼーっと1人で魚とか見てた羊くんを見て、思ったんだ。
羊くんって、多分、“自分の場所”を侵されたくないタイプなんだよな。自分の世界とか、価値観とか、すごく大事にしてる。
でもさ、ああいう奴が本気の恋したら、たぶんとんでもないよ?
自分の感情にめちゃくちゃ振り回されて、今までの“常識”とか“距離感”とか、全部ぐちゃぐちゃにされて。ワタワタする羊くんとか見られるのかな。想像つかねー。
……その時は、俺が一番最初に茶化してやるって決めてんだよね!! 覚悟しとけよ!!
★ぐっち(井口 大樹)の場合
羊くんは、俺たちの中で一番“合理的”な人。
その時に、必要なことだけ言うタイプ。俺みたいに思ったこと、何でもすぐ言っちゃうタイプとは、真逆かもしれないな。
でも、俺も娘が生まれてから気づいたんだけど……羊くんって“守りたいもの”に対しては、たぶん、すごく本気になる人だと思う。
以前、俺が家庭のことでバタついてて、配信に出られないかもしれないって話をしたとき、「今は家庭優先でしょ」って、真顔で一言だけ言ってくれたことがあった。何気ない一言だけど、すごく嬉しかった。
ある日、娘に読んであげた絵本に、羊と山羊が出てきた。平地で、家族や恋人と身を寄せ合って、ぬくぬくと過ごしている『羊』。崖の上で、気高く、孤高に、1人でいる『山羊』。羊くんはそんな山“羊”の方に、その姿が重なったんだ。
恋愛は……うーん。正直、羊くんが誰かと長く続いた話、聞いたことないんだよね。
きっと彼にとって、誰かと一緒にいるってことは、“侵入される”ことで、“信頼を預ける”ことなんだと思う。
だからこそ、いつか本気で“この人を守りたい”って思える誰かに出会えたら、羊くんは変わると思う。山羊じゃなくて、もふもふで、ふわふわの羊になるんじゃないかって。
それを俺は、ちょっと楽しみにしてる。
……まあ、俺の娘が羊くんに恋するような年になったら、全力で止めるけどね(笑)
★おまけ;とある収録後の雑談で
セイ:「なあ、羊くんって今彼女いんの?」
羊:「いない。いらない。」
Ren:「即答だな……」
ぐっち:「あれ、でもさ、前付き合ってた子、けっこう仲良かったって言ってたじゃん?」
羊:「うん。……でもまあ、俺に“深入り”するの、向こうが先に疲れたっぽい」
セイ:「あーもうそれだよそれ! 羊くんの“壁”、分厚すぎるの!」
Ren:「……壁っていうか、柵だよな。鍵付きの」
ぐっち:「でも、いつか鍵持ってくる人、現れるよ。ピッキングじゃない、正規の鍵でさ」
羊:「……それは、どうかな」
セイ:「ふはは、震えて待て! 羊! “人生の強制イベント”ってやつがそのうちくるからな!」
Ren:「期待してるよ、俺は」
ぐっち:「俺も。きっと羊くんを受け入れてくれる人、見つかるよ。」
羊:「……何すか、そのプレッシャー」
(でも、いつか、どこかで。そんな未来が、来るような気もしていた)
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
このepをもって“月と羊〜その声に恋をしていた〜”は完結となります。
拙いところ、ご都合主義展開もあったかと思いますが、ここまで、智士と菜緒を見守っていただき、ありがとうございました!
(続編、書こうかな…と悩み中です)




